医療法人化とは、病院を経営する事業主を個人から法人にすることです。現在個人事業主として病院を経営している方の中には、医療法人化を検討している方も多いのではないでしょうか。今回の記事では、医療法人化のメリット・デメリットをテーマに解説します。ぜひ検討の際の参考にしてください。
目次
医療法人化とは?
医療法人化(医療法人成り)とは、病院を経営する事業者を「個人」から「法人」にすることです。
個人病院が個人事業主であるのに対して、医療法人は法人です。業態そのものが異なるため、所得税や退職金、各種保険など様々な点について違いがあります。
お金の問題ももちろん重要ですが、最大のポイントは「分院の設立ができるかどうか」です。
個人事業主には分院の設立ができませんが、医療法人なら可能です。そのため、将来的に事業を拡大したいと考えている場合は法人化が必須です。
ただし、医療法人化にはいくつか注意点もあります。
検討している方は、ぜひ本記事でメリット・デメリットをよく比較した上で判断することをおすすめします。
個人事業主と法人の違い
病院経営は個人事業主と法人でメリットが異なります。主な違いは下記の通りです。
個人事業主 | 医療法人 | |
所得税 | 超過累進税率 | 法人税によって一定の税額 |
院長の給与の控除 | なし | あり |
退職金 | なし | あり |
生命保険 |
|
|
社会保険 (健康保険・厚生年金) | 全額自己負担 | 健康保険・厚生年金の半分を法人に負担させ損金に算入できる |
分院の設立 | できない | できる |
その中でも経営上特に大きなポイントになるのは、所得税と分院の設立です。次段からはそれらを含む医療法人化のメリットについて解説します。
医療法人化のメリット
医療法人化の6つのメリットについて解説します。
個人よりも節税効果が高い
個人事業主と医療法人は、所得税にかかる税率が大きく異なります。
個人事業主には、超過累進税率によって計算された税金が課せられます。税率は所得金額に応じて5%から45%まで大きな幅があります。
【個人事業主の所得税】
課税される所得金額
税率
控除額
1,000円 から 1,949,000円まで
5%
0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで
10%
97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで
20%
427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで
23%
636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで
33%
1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで
40%
2,796,000円
40,000,000円 以上
45%
4,796,000円
それに加えて、同じ課税所得に対して住民税も10%かかります。
そのため、もし所得が1,800万円以上の場合は、合計50%を税金として支払わなければなりません。
一方、医療法人化した場合の税率は下記の通りです。
【医療法人の税率表】
区分 | 税率 |
800万円以下の部分 | 15% |
800万円超の部分 | 23.2% |
※資本金等1億円以下の中小法人の場合
医療法人の場合、税率は800万以下か超かの2種類に分かれます。
税率は最大でも23.2%のため、所得が1,800万円以上の場合は、住民税を合わせても約31%に抑えられます。
参考:超過累進税率とは|総務省
複数の医療施設を経営できる
複数の医療施設を経営したいと考えている場合は、医療法人化が必須です。
個人事業主の場合は、原則として1ヵ所のみでの経営しか許可されていません。
そのため、将来的に分院の設立や介護事業施設などの事業展開を視野に入れている場合は、法人化する必要があります。
融資を受けやすくなる
医療法人は、個人事業主よりも社会的信用性が高い業態です。そのため、金融機関からの融資を受けやすくなることもメリットです。
医療法人化のためには、多くの書類を準備し、厳格な審査に合格する必要があります。
したがって、医療法人化している病院は「細かい財務や管理業務をしっかり行っている」と見なされるため、融資の審査が通りやすくなるのです。
優秀な人材を確保しやすくなる
上段とも関係していますが、社会的信用性の向上は採用時のメリットにもなります。応募者が増えるため、優秀な人材を確保しやすくなるのです。
さらに、分院をはじめとする事業展開を行っている場合は、優秀な人材のライフステージやキャリアにフレキシブルに対応できます。
そういった人材がベテランとして長く勤務することで、若手も採用しやすくなります。また、地域住民からの高評価にも繋がるため、重要なポイントです。
事業承継・相続がしやすくなる
日本社会全体で課題となっている事業承継問題は、医療業界にもあります。そのため、少しでも簡単に事業承継や相続を行えることが求められます。
医療法人の場合は、この事業承継等をする際のタスクや負担が少ないことがメリットです。
【医療法人の場合】
- 理事長を変更すれば完了する。
【個人事業主の場合】
- 管理者及び開設者を変更する。
- 賃貸借契約や医療設備等の名義も変更する。
- 譲渡する場合は一度廃院届を提出し、新院長が引き継いだ上で新たに開設届を提出する。
- 雇用契約や保健所等への許認可などが引き継がれないため、再度締結や申請が必要になる。
- 親族への贈与・相続の場合、次の院長に対して贈与税・相続税がかかる。
上記のように、事業承継と相続にかかるタスクがまるで異なります。そのため、将来親族に継承する予定の方は、事前に法人化することをおすすめします。
退職金を受け取れる
個人事業主の場合は、退職金が受け取れません。万が一の場合や事業承継の際にも退職金がないことは、個人事業主のデメリットの一つです。
それに対して、医療法人の場合は本人や遺族が退職金を受け取ることができます。
退職時 | 死亡退職時 | |
受取人 | 本人 | 遺族 |
内訳 | 退職慰労金 最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率(3倍程度) 特別功労金 特別功労者には退職金の30%を超えない範囲で特別功労金を加算 | 死亡退職金 最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率(3倍程度) 特別功労金 特別功労者には退職金の30%を超えない範囲で特別功労金を加算 弔慰金 業務上の死亡の場合:最終報酬月額×36カ月 業務外の死亡の場合:最終報酬月額×6カ月 |
退職所得は、一般的な給与所得よりも税率が優遇されています。
さらに、適正額の範囲内の場合は、支払った法人側も全額経費にできるため、節税にも効果的です。
参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
医療法人化のデメリット
医療法人化には、通常業務の負担となるようなデメリットもあります。法人化した後にも必要な業務もあるため、よく比較した上で判断しましょう。
設立のスケジュールが決まっている
会社の法人化とは異なり、医療法人化は手続きの期間を自由に選べないことがデメリットです。
都道府県によって、申請受付のスケジュールが決められています。
例えば、2024年(令和6年)の東京都における医療法人化申請の受付期間は、下記の通りです。
【第1回】令和6年8月19日~8月23日まで
【第2回】令和7年3月13日~3月19日まで
申請から認可書の交付が行われるまでには半年以上かかります。
また、説明会や代表者に対してのヒアリング、医療審議会への諮問・答申なども行われるため、かなりの時間と手間を取られることになります。
参考:医療法人設立、解散、合併認可等に係る年間スケジュール(令和6年度)|東京都保健医療局
法人化の手続きが煩雑
医療法人化にあたっては、大量の書類を準備する必要があります。千葉県の場合は、合計30種類の提出が義務付けられています。
- 医療法人設立認可申請書
- 定款
- 設立当初の財産目録
- 設立財産目録の明細書
- 設立時の負債内訳書 など
出典:医療法人の設立|千葉県
法人化によって、開業医個人と法人の財産を分けることになります。そのため、財務状況について確認するための書類を多く作成する必要があります。
通常の医療業務の傍ら、こういった書類作成を行うのはかなり厳しいものがあります。医療の法人化に関しては、税理士などに書類作成を代行してもらうことをおすすめします。
管理業務が増加する
医療法人化は、認可を受けた後にも管理業務が増える点も考慮する必要があります。
毎会計年度終了後3ヵ月以内に、事業報告書等を都道府県知事に提出することが義務付けられています。
また、医療法人の役員は2年以上続けられないと医療法で定められています。そのため、再任する場合は、2年ごとに役員変更登記が必要です。
参考:事業報告書等(様式の一部改正)(令和5年9月29日更新)|東京都保健医療局
医療法人化は代行がおすすめ
医療法人化には、節税や退職金といった金銭的なメリットが多くあります。また金銭面だけでなく、分院の設立や事業継承など経営戦略上においても必要な場合もあります。
とはいえ、通常業務に加えてこれらの法人化のための手続きを行うのは、かなり難しいことが一般的です。また、そもそも自身の病院に法人化が必要なのかどうか迷っている方もいるでしょう。
そのため、医療法人化のタイミングについては、一度税理士に相談してみることをおすすめします。法人化の手続きや、法人化した後の管理業務も一貫して依頼できるとなお良いでしょう。