会社の名前を変更したい場合、さまざまな手続きが必要になります。しかし、実際にどこでどのような手続きが必要になるのか知らないケースが多いのではないでしょうか?今回は社名変更の手続きや、必要な書類、届け先について詳しく解説します。また、社名変更時の注意点や社名変更にかかる費用も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
社名変更の手続き全体の流れ
社名変更を行う場合、いくつかの手続きが必要です。手続き全体の流れは以下の通りです。
- 株主総会で定款変更の決議を行う
- 法務局で変更登記申請を行う
- 税務署への異動届出書の提出
- 都道府県税事務所と市町村への法人異動届の提出
- 労働基準監督署への労働保険名称、所在地等変更届の提出
- 年金事務所への健康保険・厚生年金保険適用事業所名称/所在地変更(訂正)届の提出
- ハローワークに雇用保険事業主事業所各種変更届の提出
- その他必要機関での手続き
以下よりそれぞれ詳しく解説します。
株主総会で定款変更の決議を行う
社名変更を実施する場合、株主総会を開いて特別決議による定款変更の決議を行います。
株主総会とは、株主が集まり企業の経営方針や業績に関する質問や提言を行い、企業がその説明や回答を受けるための会議のことです。
また特別決議とは、株主総会で議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権における3分の2以上の賛成を必要とする決議のことです(会社法第309条2項)。
なお、決議内容の詳細を記載した議事録の作成と、議事録を会社の本店で10年間保管する必要があり、議事録の作成や保管が行われなかった場合、100万円以下の過料が課せられる場合があります(会社法第318条)。
作成する議事録の主な記載内容は次の通りです。
- 株主総会の開催日、時間、会場
- 株主総会の議長
- 議事録の作成日
法務局で変更登記申請を行う
特別決議が得られたら、変更登記申請を行います。
変更登記とは、登記簿に記載された内容を変更するための手続きです。
社名を変更する場合は、商号(社名)変更登記を先に行わなければなりません。なぜなら、その後の手続きで登記簿謄本の提出が必要になるためです。
変更登記の申請先は、会社(本社)の所在地を管轄する法務局です。申請期限は、株主総会での特別決議を行った翌日から2週間以内となります。
なお、変更登記の申請には次の書類の提出が必要です。
- 変更登記申請書
- 新しい社名の印鑑届書
- 代表者の印鑑証明書
- 株主総会の議事録
- 株主リスト
変更登記には新しい社名の印鑑届書が必要になるため、変更登記申請までに新社名の印鑑の作成と届出を済ませておく必要があります。
変更登記申請が完了したら、新しい情報が反映された登記簿謄本の写しを複数部用意します。
税務署への異動届出書の提出
変更登記申請の次は、税務署への異動届出書(異動事項に関する届出)の提出が必要です。
異動届出書の提出先は会社(本社)所在地を管轄している税務署です。e-Taxを利用したオンライン申請も可能です。
なお、異動届の内容確認のために新しい定款の写しの提示が必要になる場合があります。そのため、定款の変更後には移動届出書を提出するようにしましょう。
都道府県税事務所と市町村への法人異動届の提出
都道府県税事務所と市区町村に法人異動届出書の提出を行います。
法人異動届とは、社名変更を行った際に地方税の納税地の都道府県税務署に提出する届出書です。
提出先は異動前の納税地の都道府県税事務所(所轄の税務署長)、提出期限は決まっていませんが、できるだけ速やかな提出が求められます。
提出方法はe-Taxでの提出、提出先への持参もしくは送付での提出のいずれかとなります。
なお、異動事項の確認のため、定款のコピーの確認が求められることがあります。
労働基準監督署への労働保険名称・所在地等変更届の提出
労働基準監督署にて労働保険名称・所在地等変更届の申請手続きが必要です。
労働保険名称・所在地等変更届とは、労働保険が成立している事業者の社名や住所などを変更する際に提出する書類のことです。
提出先は一元適用事業所(農林水産業などの一次産業と建設業)の場合は、事業所を管轄する労働基準監督署になります。二元適用事業所(その他の業種)では、労災保険は労働基準監督署、雇用保険は公共職業安定所(ハローワーク)になります。
提出期限は、変更登記があった日の翌日から10日以内、法人が社名変更する場合は登記簿謄本の写しの添付が必要です。
届出書は労働基準監督署で入手可能なほか、e-GOVを利用すればオンラインでの申請も可能です。
年金事務所への健康保険・厚生年金保険適用事業所名称/所在地変更(訂正)届の提出
年金事務所に健康保険・厚生年金保険適用事業所名称/所在地変更(訂正)届の提出が必要です。
健康保険・厚生年金保険適用事業所名称/所在地変更(訂正)届とは、事業所の所在地または名称に変更があった場合に提出する届出です。
提出先は事業所の所在地を管轄する年金事務所、提出方法は電子申請、郵送、窓口への持参のいずれかとなります。提出期限は、名称変更が行われた日から5日以内です。
法人事業所が名称変更する場合、添付書類として登記簿謄本の写しが必要です。
ハローワークに雇用保険事業主事業所各種変更届の提出
ハローワークに雇用保険事業無事業者各種変更届を提出します。
雇用保険事業無事業者各種変更届とは、雇用保険を設定している事業所の登録内容に変更があった場合に提出する書類です。
事業所が雇用保険の被保険者を1人でも雇用した場合、その事業は雇用保険の適用事業所となり、社名変更があった場合はこの手続きが必要になります。
提出先は事業所を管轄するハローワーク、提出期限は社名変更を行った日の翌日から10日以内です。
提出方法は、窓口での提出、郵送(切手貼付の返送用封筒の同封が必要)、電子申請のいずれかでの提出が可能です。
雇用保険事業無事業者各種変更届を提出する際には、あわせて以下の書類も添付する必要があります。
- 適用事業所台帳
- 法人登記簿謄本
- 労働保険名称・所在地等変更届の写し
その他必要機関での手続き
これまでに解説した公的機関への手続きのほかに、取引先や変更前の社名を登録している民間サービスでの名称変更手続きが必要です。
社名変更に伴う手続きの一例としては、主に以下のものがあります。
- 銀行口座の名義変更
- 法人名義のクレジットカードの名義変更
- 各種保険の名義変更
- 不動産の賃貸借契約の名義変更
- 公共料金の契約者名義変更
- 通信会社の契約者名義変更
- 社用車の名義変更
- 取引先、契約先への商号変更通知
- 許認可の商号変更
- 契約書の名義変更
- 名刺、ロゴ、ホームページ、伝票などの社名・商号変更
上記の手続きは、それぞれ必要な書類や変更の期限などが異なるため、事前に確認して準備しておきましょう。
社名変更時に気を付けるべきポイント
社名変更にはさまざまな手続きが必要になります。
それぞれの手続きにおいて気を付けるべきポイントを詳しく解説します。
期日内に変更登記および各種届出を完了させる
社名変更を行う場合は、期日内に変更登記やその他の届出を完了させましょう。
変更登記は株主総会での特別議決を得た日の翌日から2週間以内に申請するルールです。期限を過ぎた場合は、ペナルティとして裁判所から100万円の過料を課せられる恐れがあります。
また、許認可の名義変更手続きを行わなかった場合、始末書の提出が求められる場合もあります。
必要な手続きの期限については事前に確認の上、期限内に申請を済ませるようにしましょう。
法務局での法人実印の改印
社名変更を行った後は、法人実印の改変が必要です。
法人実印とは、印鑑登録をした法人の印鑑で、会社実印とも呼ばれます。実印として法的な効力を持ち、公的機関への提出書類や重要な契約書類などに押印される際に使用されます。
法人実印の変更は法的に定められてはいないものの、使用する機会が多い印鑑であるほか、登記登録や契約書の効力に影響が出る場合があります。社名変更のタイミングで改印した方が良いでしょう。
法人実印を改印手続きは、会社(本社)所在地を管轄する法務局です。提出が求められる書類は次の通りです。
- 印鑑・印鑑カード廃止届書
- 印鑑(改印)届書
- 印鑑カード交付申請書
- 印鑑提出者本人の印鑑証明書
提出期限は特に定められていませんが、できるだけ早く改印手続きを済ませた方がいいでしょう。
商号調査を行い同一社名がないことを確認
社名を変更する場合、使用できる社名なのか調査しなければなりません。
同一住所で同じ社名は使用できないというルールがあるためです。
この調査を商号調査といい、同じ樹所に同じ商号が使われたり、他の会社と混同したりする商号を避けるために行われます。
使用できない社名では登記ができないほか、商号の使用停止や損害賠償を請求される恐れがあるため注意が必要です。
商号調査は法務局の商号調査簿を閲覧したり、インターネットで登記情報を調べたりして行います。
会社のWebサイトやロゴマークもあわせて変更
社名変更を行う場合は、会社のWebサイトやロゴマークの変更も必要です。
Webサイトやロゴマークの変更は、デザインから始める必要があるため時間がかかります。また、社名変更に伴いWebサイトのリニューアルを検討している場合は、さらに時間が必要になります。
社名変更を行う際はできるだけ早く取り掛かりましょう。
取引先への通知や契約の変更
社名変更の際は、取引先への通知も必要です。
取引上での影響が大きいケースもあるため、Webサイトやメールだけではなく、書面で挨拶状を送付し通知するのがマナーです。
社名変更の挨拶文を送るタイミングは、社名変更をするおよそ1ヵ月くらい前を目安とすると良いでしょう。
また、通知と合わせて契約書の変更も行いましょう。
契約書の様式に記載されている社名やロゴを変更して、社名変更後の契約に備える必要があります。
なお、社名を変更する前から締結している取引企業との契約については再契約をする必要はありません。法律では権利義務や契約は、商号(社名)ではなく法人格に帰属する仕組みとなっており、旧社名にて締結した契約書の効力が継続することになるためです。
ただし、契約内容の覚書に商号変更時に再契約が必要と記載されている場合は、新しい社名での再契約が必要になります。
銀行口座の変更
社名変更を行う場合、解説している銀行口座の名義変更も必要になります。
社名変更による届出事項の変更手続きには、主に次の書類や印鑑が必要です。
- 履歴事項証明書
- 会社実印の印鑑証明書
- 法人口座の通帳
- 銀行実印
- 銀行届出印
なお、履歴事項証明書は変更登記申請を行ってから1~2週間程度かかります。すぐに取得できるものではないため、スケジュールに余裕を持たせて手続きを行いましょう。
社名変更にかかる費用
社名変更を行う場合、次の費用が発生します。
内容 | 費用の目安 |
登録免許税 | 3万円程度 |
代表取締役本人の印鑑証明書 | 300円程度 |
履歴事項証明書 | 600円(1通) |
社名変更後の印鑑証明書 | 450円(1通) |
社名変更後の会社実印の作成費用と各種書類の作成費用 | 1万円以上 |
なお、社名変更手続きを司法書士などの専門家に依頼した場合、上記の費用に加えて2~4万円程度の諸費用がかかります。
社名変更手続きは専門家に相談を
今回は社名変更の手続きや必要書類、届出先について解説しました。
社名変更を行うには、株主総会での特別決議が必要になるほか、さまざまな機関にて手続きを行う必要があります。手続きには時間や手間がかかるため、専門家に手続きの代行を依頼するのがおすすめです。