日本で事業を開始するにあたり、必要となることが多いのが法人格の取得です。しかし、法人格は数が多く名称も似ているため、どれが自分の事業に合っているのか悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。本記事では、主な法人格7種類の特徴やその取得方法について解説します。それぞれ条件やリスクなどが異なるため、ぜひ違いを押さえておきましょう。
目次
私法人と公法人の違い
日本では「個人(自然人)」だけではなく「法人」にも権利や義務が与えられることが法令で定められています。そのため法人でも契約の主体になれるのです。
法人は公法人と私法人の2つに分類されます。ここではそれぞれの種類について解説します。
出典:民法第34条|e-GOV
公法人
公法人とは、国や地方自治体といった公的な事業を行う法人のことです。政府や自治体が運営しています。
私法人との最大の違いは、公権力の行使の権限を有していることです。主な公権力の行使の例には、強制的な処分や制限などがありますが、私法人にその権限はありません。
公法人は公的な事業を行うことが目的であるため、法令によってこのように公権力の行使が認められているのです。
参考:国の行政機関以外の法人に「公権力の行使」の権限が付与されている例|厚生労働省
【地方公共団体】
地方公共団体とは、都道府県や市町村を統括する行政機関のことです。主に地域の住民の暮らしに携わる業務を担っています。
地方公共団体には、普通地方公共団体と特別地方公共団体の2種類があります。
【独立行政法人】
独立行政法人とは、国の各省庁が担当する事務や事業の一部を担当する法人のことです。
各省庁から事業の一部を切り離すことによって、効率や透明性を高めたり、業務の質を向上させたりすることが目的です。
主な法人としては、国立公文書館、国立科学博物館、統計センター、国際協力機構などがあります。2024年(令和6年)4月現在、日本国内に全部で87法人あります。
【特殊法人】
特殊法人とは、法令によって設立や業務内容などが規定されている法人のことです。国の監督下で経営されているものの、できる限りの自主性が認められている点が特徴です。
主な法人には、日本放送協会(NHK)や日本年金機構などがあります。
参考:特殊法人|総務省
私法人
私法人とは、公法人とは異なり、個人や人の集まりによって設立された組織のことです。いずれも個人の申請によって設立することが可能です。
私法人は、利益を分配するかそうでないかによって、営利法人と非営利法人に分かれます。
【営利法人】
営利法人とは、事業によって得た利益を構成員に分配することを目的としています。構成員とは、法人を構成する人のことで、主に社員や株主などを指します。
営利法人には、株式会社をはじめとする4種類の法人があります。それぞれの特徴や申請方法などについては後ほど詳しく解説します。
【非営利法人】
非営利法人とは、利益を構成員へ分配することを目的にしていない法人のことです。事業で得た利益は、主に事業の拡大や社会貢献などのために利用します。
なお、非営利団体が行わないのは利益の分配であって、利益を作ること自体は何の問題ありません。誤解する方が多い部分なので注意しましょう。
法人の特徴と設立方法
法人には様々な種類があります。ここでは、私法人の中でも特に設立することの多い7種類の法人について解説します。
【法人の種類】
公法人 | 私法人 | |
営利法人 | 非営利法人 | |
地方公共団体 独立行政法人 特殊法人 など | 株式会社 合同会社 合資会社 合名会社 | NPO法人 一般社団法人 一般財団法人 など |
営利法人
営利法人には株式会社をはじめとする合計4種類の法人格があります。ここでは、それぞれの特徴や登記までの流れについて解説します。
株式会社
株式会社とは、株式を発行して出資者(株主)から資金を集め、それによって経営を行う法人のことです。
日本の会社は約90%以上がこの株式会社で占められています。
株式会社は有限責任です。
有限責任とは、出資者が自身の出資額の分に対してのみ責任を負うことです。会社全体の債務に対する責任はありません。
仮に会社が倒産しても債務を返済する必要がないからこそ、多数の出資者から多額の資金調達ができるのです。
【株式会社の設立方法】
- 基本事項の決定
- 定款の作成
- 公証役場で定款の認証を受ける
- 出資金の払込み
- 登記申請
株式会社は資本金が1円でも設立できることがメリットの一つです。
ですが、それ以外に登録免許税や定款用の認証手数料、定款用の収入印紙代などは別途必要です。実際の設立には、およそ25万円前後かかることが一般的です。
参考:有限責任と無限責任について教えてください。|J-Net21
合同会社(LLC)
合同会社(LLC)の最大の特徴は、出資者と経営者が同じであるということです。
株式会社の場合は、出資者と経営者の役割がそれぞれ異なります。それに対して、合同会社は出資者と経営者がイコールなのです。
【合同会社の設立方法】
- 基本事項の決定
- 定款の作成
- 会社の印章を注文する
- 出資
- 登記申請
合同会社の設立手続きは、株式会社と少し似ていますが、実際はそれよりも簡単です。最大の違いは定款の認証が必要ないことです。登記までには1週間ほどかかります。
合同会社も株式会社と同じように資本金1円から設立できます。ですが、登録免許税などが安いため、合計金額は10万円程度に抑えられます。
合資会社
合資会社とは、無限責任社員と有限責任社員の両方で構成される法人のことです。そのため2名以上いないと設立はできません。合資会社の無限会社社員は、原則的に経営に関わる必要があります。
その一方で、仮に倒産した場合は会社の負債総額を支払わなければなりません。合資会社の無限会社社員を検討している方は、そのデメリットの大きさも十分に考慮する必要があるでしょう。
一方、有限責任社員は株式会社の出資者と同じく出資額の範囲内のみの責任になります。また、原則的に経営には関わりません。
【合資会社の設立方法】
- 基本事項の決定
- 出資金の準備
- 定款の作成
- 登記申請
合名会社
合名会社とは、無期限責任社員のみで構成される法人のことです。そのため、倒産などによって負債が生じた際には、債権者に対して負債総額を返済する必要があります。
合資会社は非常にリスクが高いため、近年は株式会社や合同会社のほうが選ばれやすい傾向にあります。
【合名会社の設立方法】
- 基本事項の決定
- 出資金の準備
- 業務執行社員・代表社員の選任
- 定款の作成
- 登記申請
合名会社は資本金0円でも設立可能なことがメリットの一つです。ただし、定款には無限責任社員を記載する必要があります。
非営利法人
以下より、非営利法人であるNPO法人や一般社団法人などの法人格について解説します。
NPO法人(特定非営利活動法人)
NPO法人(特定非営利活動法人)とは、特定非営利活動促進法に基づいて法人格を取得した法人のことです。福祉や教育・文化、まちづくりといった様々な分野で、多様化するニーズに応える役割があります。
NPO法人は法人格を持つことによって、NPO団体自身の名義で契約締結や土地の登記などを行えるようになります。
【NPO法人の設立方法】
- 基本事項の決定
- 申請書類の提出
- 公告および書類の縦覧
- 認証・不認証の決定
- 登記申請
引用:認証制度について|内閣府
NPO法人は認証制です。所轄庁に申請書類を提出し、最終的な登記まで3ヵ月以上かかることが一般的です。
営利法人に比べると審査期間がかなり長いため、前もって準備したり専門家に依頼したりすることをおすすめします。
参考:認証制度について|内閣府
一般社団法人
一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に規定されている手続きに則って設立した法人のことです。
「社団」には「一定の目的を持った人の集まり」という意味があるため、1名では設立できません。設立させる際には2名以上の社員が必要です。
一般社団法人で使われる「社員」は、広く一般的に使われる「従業員」とは意味が異なります。
一般社団法人の社員は、重要事項を議決する「社員総会」に出席したり、議決権を行使できたりすることが特徴です。
そのため、株主会社における「株主」に近い役割と言えるでしょう。
【一般社団法人の設立方法】
- 定款の作成
- 公証役場で定款の認証を受ける
- 設立時理事の選任
- 設立時理事による設立手続きの調査
- 登記申請
一般社団法人は資金や財産がなくても設立できることや、設立までにかかる期間が4週間程度と比較的短いことがメリットです。
一般財団法人
一般財団法人も「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」を根拠にした法人のことです。
一般社団法人と異なるのは、一般財団法人はその財産に法人格が与えられることです。そのため、設立の条件として300万円以上の財産を拠出する必要があります。
また、設立時の最低人数も多く、合計7名以上必要です。理事3名、評議員3名、監事1名となっており兼任はできません。さらに理事会と評議員会の設置も求められます。
【一般財団法人の設立方法】
- 定款の作成
- 公証役場で定款の認証を受ける
- 設立者が財産300万円以上の拠出を履行する
- 理事・評議員・監事の選任
- 理事・評議員・監事による設立手続きの調査
- 登記申請
一般財団法人の設立には、財産や人数、それに理事会など設立にあたって準備すべきことがたくさんあります。それにもかかわらずインターネットにはそれほど情報がありません。
一般財団法人の設立をお考えの方は、専門家への依頼を検討することをおすすめします。
専門家への依頼もおすすめ
法人格はそれぞれ、メリットやリスク、設立方法やそれにかかる期間、申請費用などが大きく異なります。そのため、ご自分の事業に合った法人を選択できているかどうかが、効率的な法人設立のポイントとも言えるでしょう。
法人格の取得には法令も関連するため、専門家にアドバイスや申請代行などを依頼するのもおすすめです。判断に迷ったら、ぜひ一度小谷野税理士法人へ相談してみてはいかがでしょうか。