賃上げ促進税制は税額控除率を上乗せすることが可能であるため、活用次第では節税に有利です。しかし、比較的に新しい税制であることから、正確に把握されていない場合や、変更点を知らずに過ごしている可能性もあります。
賃上げ促進税制は近年になって所得拡大促進税制から改正され、また、最近も強化のために変更が加えられています。積極的に活用できるよう、ここでは特に中小企業向けの賃上げ税制に着目し、その内容を説明します。
目次
賃上げ促進税制とは?基本を分かりやすく説明
賃上げ促進税制は、前年度より給与などの支給額を増加させた中小企業などが、その増加額の一部を税額控除できる制度です。
対象期間は、2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度であり、青色申告を行っている企業などに適用されます。
また、2022年の改正によって施行されたこの賃上げ促進税制は、2024年に強化され、適用対象や受けられる要件も変更されました。
賃上げ促進税制の適用を考えている場合には、変更点などにも注意し、理解を深める必要があります。
中小企業向け賃上げ促進税制の適用対象
中小企業向け賃上げ促進税制は、法人も個人事業主も対象ですが、それぞれ資本金や出資金、従業員数によって適用される範囲が定められています。
どのような法人や個人事業主を対象としている制度か、それぞれの場合について説明します。
法人の場合は資本金か出資金が1億円以下、もしくは従業員数が1,000人以下
法人の場合、中小企業向け賃上げ促進税制の適用対象は、資本金か出資金が1億円以下、もしくは資本又は出資を有しない法人のうち常時雇用している従業員数が1,000人以下であると定められています。
しかし、これには例外があり、たとえ資本金か出資金が1億円以下であっても、同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受けるている場合や、2つ以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける場合には除外されます。
大規模法人とは次のような会社が該当します。
【大規模法人】
- 資本金か出資金が1億円超の法人
- 資本もしくは出資を保有しない法人のうち常時雇用している従業員数が1,000人超の法人か大法人(資本金か出資金が5億円以上)による完全な支配関係がある法人
- 中小企業投資育成株式会社を除く
賃上げ促進税制の対象となるためには、事業年度が終了する時点で要件を満たしている必要があります。
同時に、税制の対象からはずれないように、大規模法人から受けている出資の割合に注意しなくてはなりません。
個人事業主の場合は従業員数が1,000人以下
青色申告を行っていれば、法人ではない個人事業主であっても、常時雇用している従業員が1,000人以下の場合に賃上げ促進税制を適用可能です。
また、賃上げ促進税制の適用を受けるには、その年の12月31日までに要件を満たしている必要があります。
協同組合も適用対象
協同組合は出資によって事業を運営する非営利組織であり法人です。そのため青色申告が可能で、中小企業向け賃上げ促進税制の適用対象でもあります。
協同組合に含まれる次のような組合は、賃上げ促進税制を活用できます。
【協同組合などに含まれる組合】
- 農業協同組合
- 農業協同組合連合会
- 中小企業等協同組合
- 出資組合である商工組合および商工組合連合会
- 内航海運組合
- 内航海運組合連合会
- 出資組合である生活衛生同業組合
- 漁業協同組合
- 漁業協同組合連合会
- 水産加工業協同組合
- 水産加工業協同組合連合会
- 森林組合ならびに森林組合連合会
ただし、中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受けるためには、事業年度が終了する時点で、上記の組合として成立要件を満たしている必要があります。
組合として成立要件は、2人以上の組合員がいることや、全員が出資し共同事業を行うことに合意している場合です。
中小企業向け賃上げ促進税制には必須要件と上乗せ要件がある
中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件には、必須要件と上乗せ要件がそれぞれ2つ用意されています。各要件の内容を確認してみましょう。
給与などの支給額が前年度と比べ1.5%以上、もしくは2.5%以上増えた場合
賃上げ促進税制の必須要件として定められているのが、全雇用者の給与支給額が前年度と比べて1.5%以上増えた場合と、2.5%以上増えた場合です。
この必須要件では、給与が1.5%以上増えた場合には増加分の金額から15%を、2.5%以上増えた場合には30%を税額控除できます。
教育訓練費が前年度と比べ5%以上増えた場合は上乗せ
従業員の教育訓練費が前年度と比べて5%以上増えた場合は、賃上げ促進税制により税額控除率をさらに10%上乗せ可能です。
ただし、賃上げ促進税制の対象となる教育訓練費には範囲が定められているため、確認が必要です。
対象となる教育訓練は、法人もしくは個人の国内雇用者に対するものと限定されており、法人役員や個人事業主本人、まだ入社していない内定者などは含まれません。
また、教育訓練費に含まれる費用の範囲も定められています。具体的には、外部の講師に対する報酬金、外部の施設を使用する際の利用料金、社外に研修を委託した際の費用、社外の研修に参加した際の費用などです。
自社で従業員を講師として行った研修には適用されないため注意しましょう。
子育てとの両立・女性活躍支援の認定により上乗せ
子育てとの両立・女性活躍支援の認定の有無は、賃上げ促進税制において新設された上乗せ要件です。くるみん以上、もしくはえるぼし二段階目以上の認定を保有していると、税額控除率が5%上乗せされます。
くるみんとは、子育てサポート企業の基準を満たした事業者であると、厚生労働省が認定しているマークです。くるみん・プラチナくるみん・トライくるみんなどの段階に分かれています。
えるぼしは、女性の活躍を推進する取り組みが優良であるなど、女性活躍推進事業主であることを厚生労働省が認定したマークです。えるぼしには1段階目から3段階目までのマークがあります。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて |厚生労働省
全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制との違い
賃上げ促進税制には中小企業向けだけでなく全企業向けがあり、2024年には新たに中堅企業向けも設置されました。
それぞれ中小企業向けの場合とはどのような違いがあるのかに着目し、適用対象や税制を受けられる要件を紹介します。
全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制とは?
全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制の適用を受けるためには青色申告を行っていることが前提です。
また、対象期間は2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度であり、基本は中小企業向けと同様です。
全企業向け・中堅企業向けと中小企業向けの賃上げ促進税制とでは、適用対象と受けられる要件、特に従業員数や税額控除率に違いがあります。
ただし、全企業向け・中堅企業向けであっても、対象や要件に合えば中小企業でも活用できるため、賃上げ促進税制の活用を考えているのなら比較が必要です。
全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制の適用対象
全企業向け賃上げ促進税制の適用対象とされるのは、全企業と個人事業主です。中堅企業向けの賃上げ促進税制は、従業員数2,000人以下の企業、もしくは個人事業主が活用可能です。
ただし、中堅企業向けの税制では、その企業と支配関係にあるほかの企業との従業員数が合計1万人超の場合に対象外とされます。
全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制を受けられる要件
全企業向けの場合、継続雇用者への給与支給額が前年度と比べ3%以上~7%以上と、それぞれの増加に応じ、税額を10%~25%まで控除可能です。
中堅企業向けの賃上げ促進税制では、継続雇用者の給与支給額が前年度と比べ3%以上で税額控除率は10%に、4%以上の給与額アップで25%が税額控除されます。
また、全企業向け・中堅企業向けともに、教育訓練費が前年度と比べ10%以上増えた場合には、税額控除率5%の上乗せ要件適用があります。
子育てとの両立・女性活躍支援の認定による要件では、全企業向けの場合、プラチナくるみんかプラチナえるぼしの認定で税額控除率5%が上乗せされます。
中堅企業向の場合は、プラチナくるみんかえるぼし三段階目以上で、やはり税額控除率5%が追加されます。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて |厚生労働省
賃上げ促進税制へと改正・強化によって変更された点
中小企業などを対象とした賃上げ促進税制は、2022年4月に改正され、2024年にはさらなる強化が行われました。
所得拡大促進税制から2022年の賃上げ促進税制への改正、そして2024年の賃上げ促進税制の強化について、変更点を確かめてみましょう。
税額控除率を最大45%に引き上げ
所得拡大促進税制の場合、上乗せ要件を含めた税額控除率は最大25%でした。それが、2022年に賃上げ促進税制へと改正されたことにより、税額控除率は40%へ、2024年の強化によって中小企業向け賃上げ促進税制の税額控除率は最大45%へと引き上げられています。
また、2024年の強化によって、以前は1種類の通常要件が2種類の必須要件に増え、より適用されやすくなりました。
教育訓練費明細書の添付義務を保存義務に変更
所得拡大促進税制の場合、上乗せ要件の教育訓練費を適用するためには明細書を添付する必要がありました。
しかし、賃上げ促進税制に改正されてからは、法人の税務申告の際、添付ではなく保存することで適用可能に変更されました。
経営力向上要件の廃止と、子育てとの両立・女性活躍支援の上乗せ要件の新設置
所得拡大促進税制の適用に必要だった経営力向上の証明は、2022年の改正で廃止されています。
また、2024年の賃上げ促進税制の強化によって、「給与などの支給額が前年度比で2.5%以上増加による税額控除の上乗せ」は、必須要件へと変更されています。
そして、同2024年には、子育てとの両立・女性活躍支援の上乗せ要件が新たに加わっています。
子育てとの両立・女性活躍支援の上乗せ要件は、子育てサポート企業の基準を満たした事業者に許可されるくるみんマークや、女性活躍推進事業主であると厚生労働省が認定したえるぼしマークの取得によって控除率が追加されます。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて |厚生労働省
賃上げ促進税制の適用については税理士にお任せください
賃上げ促進税制は、上乗せ要件を活用することで控除率を増加可能なため、高い節税効果を期待できます。
中小企業にとっても必ず活用をしたい控除の1つではないでしょうか。
しかし、ここまで説明してきたように、賃上げ促進税制には適用対象や受けられる要件が事細かに定められています。
また、数年の間に改正や強化が行われているため、常に最新の税制に目を向ける必要があります。
賃上げ促進税制の適用を考えるならば、税理士など税の専門家によるサポートを受けることが適切です。
小谷野税理士法人では、法人や個人を問わず、会計や税務の相談・代行サービスに対応しています。
青色申告など、賃上げ促進税制を受けるための準備にもお役立てください。