経費を適切に計上することで、確定申告の際には所得税を抑え、節税を行えます。
とはいえ、どんな支出でも経費として認められるわけではありません。また、全額が経費として認められる場合と、支出の一部のみを経費として計上できる場合があります。
副業の場合はどんな支出が経費として認められるのか、その確定申告書はどのように書くべきか、ここではわかりやすく説明します。
目次
副業で経費と認められるのはいくらまでが上限?
副業にかかる経費を正確に計上していないと、本来であれば控除されるはずの税金まで余計に支払うことになりかねません。
確定申告する際には、どのような支出が経費として認められるのか事前に確認をしておきましょう。
経費計上に上限はない?
経費には上限が定められていないため、経費が収入を上回り、所得が赤字となる場合もあります。ただし、このときの経費は副業のために支払ったものに限られています。
確定申告書や帳簿に記入する際は、経費として計上できるかどうかをしっかり把握したうえで計上する必要があります。
支出の全額を経費として認められるもの
副業のために購入した備品など、その支出の全額を経費として計上可能なものをリストアップしてみましょう。
ただし、購入金額が10万円以上で、1年以上にわたって使い続けられるものは固定資産と見なされます。
その場合は減価償却費に該当するため、それぞれの法定耐用年数ごとに費用を分割し、計上する必要があります。
- 広告料(チラシ、ネット広告など)
- 飲食代(打ち合わせ、接待など)
- 筆記用具
- 書籍
- パソコン
- カメラ
- 事務机・事務椅子 など
上記の中では、パソコン・カメラ・事務机・事務椅子が減価償却費に該当します。
サーバー用を除くパソコンは耐用年数が4年、カメラは5年、事務机と事務椅子は金属製の場合の耐用年数が15年、それ以外の素材は8年です。
そのほかの減価償却費の耐用年数は、国税庁の耐用年数表で確認できます。
支出の一部を経費として認められるもの
自宅で副業を行っている場合、家賃や水道光熱費などから、副業で使用した一部を経費として計上可能です。
このように業務とプライベートにかかった支出を分けて計算することを、家事按分と言います。
家事按分の計算や割合については後述にて詳しい説明をしています。家事按分で支出の一部を経費として計上できるものは次の通りです。
- 家賃
- 水道光熱費
- 通信費(電話料金・インターネット使用料)
- 自動車のガソリン代 など
ただし、これらの支出の一部を経費として認められるためには、副業で何時間使用しているか、どの程度のスペースを使っているかなど、合理的な理由が必要です。
また、業種によってはこれら以外にも、費用として一部、もしくは全額が経費として認められるものが数多くあります。
経費として認められないもの
経費では、副業と無関係なプライベートの支出は認められていません。
例えば副業の打ち合わせのために使う洋服やバッグなどは、副業だけでなくプライベートでも使用する可能性があるため、経費からは除外される場合がほとんどです。
また、所得税や住民税などの税金、年金・健康保険料による支出も経費として認められていません。
副業で確定申告が必要な所得はいくらから?
給与を支給されている会社員は、企業などが年末調整を行っているため、原則的に確定申告をする必要ありません。
しかし、副業による収入を得ている場合は、その金額によっては確定申告の義務が生じます。その金額とはいくらなのか、どのような申告方法があるのかを説明します。
副業の確定申告は経費を除く所得20万以上が目安
所得とは収入から必要経費を差し引いた金額です。
その所得について国税庁では、給与所得のある会社員の場合でも、給与や退職金以外の所得額合計が20万円を超えている場合には確定申告が必要であるとしています。
逆を言えば、雑所得の場合でも、副業で得た所得が20万円に達していなければ確定申告は不要です。
しかし、後述しますが、義務がなくても確定申告を行うことで、節税のメリットを得られるケースもあります。
参考:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
青色申告か白色申告かで節税効果には違いがある
確定申告は青色申告で行うか、白色申告で行うかを選べます。青色申告は青色申告特別控除を受けられることからも、節税という面においてはメリットがあります。
青色申告では所得金額から10万円の控除を受けられます。また、対象が事業所得・不動産所得のいずれかであり、複式簿記という簿記の知識が求められる複雑な帳簿付けを行うと、控除は55万円に上がります。
上記に加え、電子帳簿保存やe-Taxを行うことで、控除はさらに引き上げられて65万円が所得金額から差し引かれます。
青色申告特別控除の適用を受けると所得税が軽減されるばかりではなく、住民税や国民健康保険料も抑えられます。
ただし、青色申告では青色申告承認申請書を確定申告前に提出している必要があります。一方の白色申告には税制上のメリットがないため、青色申告のような節税効果は期待できません。
その代わりに白色申告では、簿記の知識がなくても作成可能な簡易簿記(単式簿記)という帳簿付けが認められています。必要書類も青色申告より少なく、事前の届け出も不要という比較的にシンプルな確定申告を行えます。
収入より経費が多い場合でも確定申告すれば節税になる
会社員が副業をしており、年末調整済みの給与所得以外の雑所得などが20万円以下の場合、確定申告は不要です。仮に、経費よりも収入が下回っている「赤字」の場合でも確定申告は必要ありません。
実際、副業規模であっても、パソコンやプリンターなど、業務で使っていた機器の破損などが重なり、収入よりも経費が上回るケースがあるため、経費のほうが高い事例は珍しくありません。
しかし、たとえ収入が経費によってマイナスになっていた場合でも、確定申告を行うことで節税につなげられます。事業所得や不動産所得ならば、その赤字を給与所得の黒字で相殺できる損益通算が可能です。
青色申告ならば、赤字を翌年以降3年にわたり所得から控除される繰越控除の適用できます。また、確定申告をすることで、赤字の場合は国民健康保険料の軽減措置を受けられる可能性があります。
副業で経費計上が可能な3種の所得
副業で経費の計上が認められているのは、事業所得・雑所得・不動産所得の3種類です。
不動産所得ももちろん名称通り不動産に関わる所得ではあるのですが、すべての不動産が含まれているわけではありません。
所得名のイメージだけで確定申告してしまわないように、どういった所得であるかをきちんと確認してみてください。
事業所得
事業所得は、農業・漁業・小売業・卸売業・製造業、そしてサービス業などの事業で収入を得ている場合を指します。
個人事業主やフリーランスが、その事業を本業として行っているならば、大半が事業所得として確定申告を行っています。
しかし、副業の場合には、確定申告をする際に事業所得で申告すべきか、それとも雑所得を選ぶべきかを迷うことも多いのではないでしょうか。
国税庁では、この線引きに対し、事業所得として認められる場合を、記帳や帳簿書類を保存していること、一般的に営利性・継続性、そして企画遂行性を有している業務であるとしています。
つまり副業であっても要件をクリアしていれば、節税という観点からすると雑所得よりも有利な事業所得としての確定申告が可能です。
ただし、税務署から営利性・継続性・企画遂行性がないなどの指摘を受けた際には、雑所得へと修正を求められる可能性もあります。
雑所得
雑所得の「雑」には「色々」という意味があります。
税法で所得は給与・事業・不動産・退職・譲渡・利子・配当・一時・山林・雑の10種類に分けられていますが、雑所得とはほかのどの所得にも当てはまらない所得を言います。また、雑所得は、さらに公的年金等・業務・その他の3つに分類されています。
公的年金は国から給付される年金を指し、民間の保険会社による個人年金は公的年金ではなくその他に該当します。そして、副業の場合は一般的に、雑所得の業務、もしくはその他の項目に所得を記入して申告を行います。
不動産所得
不動産所得とは、建物や土地などの不動産を貸付けた際に得られる所得です。アパートやマンションなどの家賃収入もこの不動産所得に該当します。
しかし、建物や土地を売却した際に得られる利益は、不動産所得に該当しないので注意しましょう。建物や土地の売却によって得られた収入は譲渡所得に当てはまります。
確定申告における副業の経費の書き方
確定申告の際、副業の経費は、それぞれの所得の種類によって記載方法など異なる場合があります。
ここでは、副業が経費を計上できる事業所得・雑所得・不動産所得の3つについて、それぞれ経費の書き方を説明します。
また、経費として計上可能な自宅の家賃や水道光熱費の家事按分についても確認しましょう。
家事按分の割合と計算方法
自宅が仕事場を兼ねている場合、家事按分をし、副業で使用した分の家賃や水道光熱費などを経費として計上可能です。
家事按分できるものとしては、家賃・水道光熱費のほか、通信費や、ガソリン代や駐車場代など、業務のために使用した自動車に関連する費用も該当します。
ただし、その業務で使用した分を導き出すための具体的な割合や計算式は、法律によって定められているわけではありません。
そのため家事按分を行う際には、業務で使用しているスペースや時間を考慮して算出します。
例えば、自宅全体の面積のうち、業務で使用している部屋やスペースの面積の割合を求めれば、その分を家賃から軽費として計上可能です。
自宅全体の面積に占める業務用スペースの割合が30%であれば、その30%が経費です。
水道光熱費や通信費なども、業務で使用した分を時間単位で計算し、経費計上できます。
また、副業での使用時間から算出する場合、24時間のうち、自宅で副業を6時間行っている場合は、水道光熱費や通信費の25%が経費です。
事業所得の経費の記入方法
個人事業主やフリーランスなど、その仕事を本業としている場合は、事業所得として確定申告しているケースが多いです。
事業所得を確定申告する際、青色申告の場合は青色申告決算書を、白色申告の場合には収支内訳書をまず作成します。
この青色申告決算書や収支内訳書に経費を記入し、収入から経費を差し引いて所得を算出します。
次に確定申告書を用意し、第二表から住所氏名、社会保険料控除や生命保険料控除などの必要事項を記入していきます。
そして、第一表の収入金額等の欄、一番上の事業の項目へと自身の収入額を書き入れます。このとき、事業が農業以外であれば営業等(ア)へと収入金額を記載します。
区分は、事業所得の場合、上の表の1~5の中より、記帳や帳簿の保存状態に該当する数字を選んで書き加えます。
次に所得金額等の欄のやはり一番上、事業・営業等の欄に収入から必要経費を差し引いた金額を記します。
雑所得の経費の記入方法
雑所得の場合、収入金額によって領収書の保存・収支内訳書の作成・帳簿の作成、それぞれの義務が発生します。
その年の前々年分の業務に関して、雑所得の収入金額が300万円超から1,000万円以下の場合には、領収書・請求書などの現金預金取引等関係書類の保存が義務付けされています。
さらに、1,000万円超の場合には、現金預金取引等関係書類の保存に加え、収支内訳書を作成しなくてなりません。また、300万円以下であれば、現金預金取引等関係書類の保存や収支内訳書の作成は不要です。
確定申告する際には第一表、収入金額等の雑所得の欄へと、サービスの提供によって収入を得た場合は業務の項目に、FXや暗号資産取引はその他の項目へと金額を記入します。
区分の欄は記入する必要ありません。
そして、同じく第二表の所得金額等の雑所得の欄に、収入から必要経費を差し引いた所得を業務、もしくはその他の項目へと記載します。
不動産所得の経費の記入方法
不動産所得の場合も、確定申告する際は事業所得同様に、青色申告の場合は青色申告決算書が、白色申告の場合は収支内訳書の作成が必要です。
不動産によって得た収入は、収入金額等の不動産(ウ)の欄に記します。
区分1は、日本の不動産の場合には記入不要です。区分2は事業所得と同じ表より、1~5の中で、記帳や帳簿の保存状態に当てはまる数字を記載します。
次に所得金額等の不動産(3)の欄に不動産で得た所得額を、つまり青色申告決算書や白色申告で算出した、収入から経費を差し引いた金額を記入します。
副業の経費を計上する際の注意点
経費計上は正確に行う必要があるため、さまざまな点に注意を払わなくてはなりません。
ミスしやすい点を事前に把握し、慎重に取り扱っていきましょう。副業で経費計上する際、どんな点に気を付けるべきかを説明します。
領収書は5年間保管
副業の収入が300万円以上あり、確定申告が白色申告の場合、経費計上をした領収書は5年保管しておかなくてはなりません。
帳簿にしっかりと記載し、領収書と関連づけておくことで、税務署から確認などがあっても目的の領収書をすぐに見つけられます。
また、雑所得ではなく事業所得として青色申告していた場合、領収書は7年間保管する必要があります。
参考:個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について|国税庁
経費計上は金銭が動いたタイミングで行う
経費を計上する際は、実際に資産から金銭が動いたタイミングで帳簿に記入します。
例えばクレジットカード決済の場合、買い物をした月ではなく、銀行などから引き落としの行われた月で経費計上をします。クレジットカードで購入した際には経費計上のタイミングに気をつけましょう。
領収書を紛失したら再発行
経費計上をした領収書を紛失した際は、可能な限り再発行してもらいましょう。前述したように、副業の経費として計上した場合、その領収書には5~7年の保管が義務付けられています。
しかし、領収書の再発行には法律上の義務がなく、二重請求などのリスクもあることから、拒否される可能性もあります。領収書が再発行されなければ、支払いの証明が必要です。
例えば、レシート・請求書・納品書・メール、そしてクレジットカードの明細書などがそれに該当します。また、出金伝票も証明に利用できます。
出金伝票とは、自動販売機での買い物や、ご祝儀や香典といった、そもそも領収書が発行されない場合に作成する伝票のことです。
支払先と日付、金額などを記載しているものがあれば、領収書を紛失した際に、支払いの証明として利用できます。ただし、これらも所轄の税務署によっては認められない可能性もあります。
確定申告を始め、副業の経費の扱いにお悩みの方は税理士へ
本業だけでなく副業を持っていると時間を効率良く使う必要があります。しかし、確定申告や副業の経費計上を自分で行うとなると、税の知識が必要になったり、年に1度のために慣れないことも多かったりと、長い時間を費やしかねません。
また、確定申告にしても経費計上にしても、正確に行う必要があります。本業と副業をスムーズに進めるために、確定申告や経費の減価償却費の計算などは税のプロである税理士にお任せください。