タックスヘイブンと呼ばれる軽課税国を利用し、国際的な租税回避を行おうとする会社が後を絶ちません。タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、そういった租税回避を防止するために設けられた制度です。本記事では、タックスヘイブン対策税制の仕組みや適用の要件などについて解説します。海外でのビジネスを視野に入れている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
タックスヘイブン対策税制とは
近年、税負担が軽い国や地域を利用し、不当に租税回避を行う行為が国際的に問題視されています。
タックスヘイブン対策税制とは、その租税回避を防止するための策です。
タックスヘイブンとは、無課税あるいは税負担が大幅に軽い国や地域のことです。
これらのエリアに外国子会社を設立して資産を移転し、本来親会社のある国に納めるべき税金を抑えることが狙いです。
このような租税回避を規制するために、現地で実際的な事業を行っている様子がないと見なされた場合にはタックスヘイブン対策税制が適用されます。
タックスヘイブン対策税制が適用された場合、外国子会社の所得はすべて親会社の所得に合算されます。そして親会社の国の法人税が課されます。
例えば、タックスヘイブンに外国子会社があり、日本に親会社がある場合は、両方の所得を足して日本の法人税が課されることになります。
ただし、タックスヘイブン対策税制はあくまでも租税回避の規制策です。そのため、その地で実体のある事業を行っている外国子会社は免除されます。
タックスヘイブンにあたる国・地域
タックスヘイブン(TAX HAVEN)とは、所得や資産などに課される税金がなかったり、他国に比べて大幅に低かったりする国や地域のことです。
税金の負担を他国よりも低くすることによって、海外の会社を呼び込む戦略の一つです。
これらのエリアを利用した租税回避が問題視されてはいるものの、諸外国が軽課税にすること自体が違法なわけではありません。誤解しやすい部分なので注意しましょう。
タックスヘイブンは現在40前後あると言われています。代表的なエリアは下記の通りです。
【タックスヘイブンの国・地域】
- ケイマン諸島
- ヴァージン諸島
- マーシャル諸島
- デラウェア州
- モナコ
- ルクセンブルク
- シンガポール
- 香港
など
日本は2017年(平成29年)の税制改正によって、タックスヘイブン対策税制の対象が拡大しました。
税制改正は随時行われており、その都度適用範囲や基準などが変更されます。以前の税制では許可されていても、改正以後には租税回避だと疑われることもあります。
海外で事業を行いたいと考えている方は、国際税務に詳しい専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
タックスヘイブン対策税制の適用の有無
自身の事業にタックスヘイブン対策税制が適用されるかどうかは、国税庁が公開しているチャートで確認できます。
引用:7 内国法人の外国関係会社に係る所得 の課税の特例の見直し|国税庁
【タックスヘイブン対策税制の適用範囲】
外国関係会社の区分 | 租税負担割合 | |||
20%未満 | 20%以上かつ 27%未満 | 27%以上 | ||
特定外国関係会社 | 会社単位の合算課税 | 会社単位の合算課税 | 適用免除 | |
特定外国関係会社以外 | 経済活動基準を満たさない | 会社単位の合算課税 | 適用免除 | |
経済活動基準をすべて満たす | 特定所得:有 受動的所得の合算課税 | 適用免除 | ||
特定所得:無※ 適用免除 | ― |
※厳密には特定所得がない場合や、あっても2,000万円以下もしくは所得の5%以下の場合です。
上記の2つの図表にある「会社単位の合算課税」が、タックスヘイブン対策税制の対象です。対象となるのは、特定外国関係会社と経済活動基準を満たさない会社です。
後ほど詳しく解説しますが、特定外国関係会社とはペーパーカンパニー、キャッシュボックス、ブラックリストカンパニーのことです。これらの会社は、租税負担割合が27%以上になると適用が免除されます。
一方、特定外国関係会社以外の場合は租税負担が20%以上になると免除されます。20%未満の場合、経済活動基準をどれだけ満たしているかによってどのような課税になるのかが決まります。
特定外国関係会社とは
特定外国関係会社とは、ペーパーカンパニー、キャッシュボックス、ブラックリストカンパニーのことを指します。
特定外国関係会社は、時に事業に実体がないと見なされたり、タックスヘイブンで事業を行う必要性がないと見なされたりします。そのため、租税回避が目的であると捉えられ、タックスヘイブン対策税制が適用されます。
租税負担割合が27%以下の場合、外国子会社と日本の親会社の所得が合算されて、日本の法人税が課せられます。租税負担割合は27%以上になると適用が免除されます。
ちなみに、特定外国関係会社にタックスヘイブン対策税制が適用されるかどうかのボーダーラインは以前は30%以下でした。27%に改正されて適用開始したのは2024年(令和6年)4月1日以後です。
タックスヘイブン対策税制はルールが細かく、その上改正もされています。たとえ意図していなくても、認識不足が原因で租税回避と見なされてしまうケースも考えられます。
最新情報を正確に把握するには、専門家への相談も視野に入れることをおすすめします。
出典:7 内国法人の外国関係会社に係る所得 の課税の特例の見直し|国税庁
ペーパーカンパニー
ペーパーカンパニーとは、法人として登記していても、実際的な事業が行われていない会社のことです。法的な定義や名称は定められていません。
ペーパーカンパニーの設立自体は違法ではありません。それを利用して脱税や犯罪などを行う行為が違法と見なされます。誤解する方が多い部分なので注意しましょう。
以下のどちらにも該当しない外国関係会社のことをペーパーカンパニーと言います。
- 主な事業を行うために必要な事務所、店舗、工場その他の固定施設を有している(実体基準)
- その本店所在地国で、事業の管理、管理、支配、運営を自ら行っている(管理支配基準)
上記のように、施設面・経営面どちらの観点から見ても、本店所在地国で実体のある事業を行っている形跡がない会社のことです。
なお、実体基準と管理支配基準については後ほど詳しく解説します。
キャッシュボックス
キャッシュボックスとは、総資産に対して受動的所得の占める割合が高い会社のことです。具体的には下記に該当する外国子会社のことを指します。
- 配当・利子・使用料などの受動的所得が、総資産の30%超である
- 有価証券・貸付金・無形固定資産などの資産が、総資産の50%超である
多額な資金はあるものの、実際的なビジネスを行っている様子のない外国子会社は租税回避と見なされます。
ブラックリストカンパニー
ブラックリストカンパニーとは、租税に関する情報交換といった国際的な取組みに非協力的な国・地域に所在する外国関係会社のことです。
経済活動基準
特定外国関係会社以外の外国子会社は、租税負担が20%未満の場合、会社単位の合算課税か受動的所得の合算課税のどちらかが適用されます。判定するための基準となっているのが経済活動基準です。
経済活動基準は全部で4要件あります。
- 事業基準
- 実体基準
- 管理支配基準
- 次のいずれかの基準
- 所在地国基準
- 非関連者基準
上記のすべてを満たしている場合は、現地で実体のある事業活動を行っていると認められます。この場合には、受動的所得の合算課税が適用されます。
一方、1つでも満たさない要件がある場合は、会社単位の合算課税が適用されます。
ここでは各基準について詳しく解説します。
1.事業基準
事業基準とは、外国子会社のその主たる事業が、下記の内容に該当していないかどうかを判定する基準です。
- 株式(出資を含む)または債権の保有
- 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式もしくはこれらに準じるものの提供
- 著作権、出版権および著作隣接権などの提供
- 船舶または航空機の貸付け
※いくつか例外はあります。
これらの事業は、他国に外国子会社を設立しなくても日本で営むことができます。そのエリアで事業を行う十分な理由(経済合理性)がない場合は、タックスヘイブン対策税制の対象となります。
参考:我が国タックス・ヘイブン税制と租税条約の関係-租税条約締結国に所在する子会社への参加に起因する所得に対するタックス・ヘイブン課税の適用の可否-|国税庁
2.実体基準
実体基準とは、外国子会社が本店所在地国にその主たる事業を行うために必要な事務所、店舗、工場その他の固定施設を有しているかどうかを判定する基準です。
実体基準では、事業にふさわしい設備や広さを兼ね備えているかどうかがポイントとなります。また、その施設が業種や業態に適しているかについても確認されます。
それによって、外国子会社が本店所在地国で実体のある事業を行っているかどうかを判断するのです。
3.管理支配基準
管理支配基準とは、外国子会社が本店所在地国でその主たる事業の管理、支配および運営を自ら行っているかどうかを判定する基準です。
管理支配基準は下記の内容を総合的に検討します。
- 株主総会および取締役会等の開催場所
- 役員としての職務執行場所
- 会計帳簿の作成および保管等が行われている場所
- その他の状況
例えば、常勤役員が日本におり、遠隔で外国子会社の経営管理を行っている場合は、管理支配基準を満たしているとは言えません。
管理支配基準によって、その外国子会社には経営的にも機能的にも実体が備わっているかどうかを確認します。
4-1.所在地国基準
所在地国基準とは、外国子会社が本店所在地国でその主たる事業を行っているどうかを判定する基準です。
例えば製造業の場合、製造業務の半分以上をその地で行っているかどうかが要件となります。それによって、外国子会社がそのエリアで事業を行う経済合理性があると判断されます。
4-2.非関連者基準
非関連者基準とは、外国子会社のその主たる事業が、主に関連会社以外の第三者との間で行われているかどうかを判定する基準です。
この基準は卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、物品賃貸業のいずれかの事業の場合に適用されます。
上記の事業は、事業活動の範囲がグローバルであることが一般的です。そのため、事業活動の経済合理性を非関連者との取引量によって判定します。
国際税務の専門家へご相談を
タックスヘイブン対策税制は常に見直しが行われています。今後も改正される可能性は十分あるでしょう。本記事でも解説した通り、特定外国関係会社にタックスヘイブン対策税制が適用される租税負担割合は現在27%以上です。
ですが、大々的な公表がされているわけではないため、専門家以外はあまり知らないのではないでしょうか。
タックスヘイブン対策税制はただでさえルールが複雑です。事業を行いながら税務改正を確認するのは困難なため、専門家に一任することもおすすめです。
海外でのビジネスを視野に入れている方は、ぜひ国際税務の専門家も在籍する小谷野税理士法人にご相談ください。