売掛金で節税対策ができるのでしょうか?ここでは、売掛金で適切な節税対策を実現するための手法について詳しく解説します。売掛金は、将来的に金銭として受け取れる流動資産ですが、回収不能となることもあります。
売掛金が回収不能となったときに節税効果を高めるためのポイント、健全な売掛金を活用した節税手法についても紹介します。税務上の利点を最大限に活用した対策を、自社の節税対策に役立ててみてください。
目次
売掛金が回収できないときの節税戦略の重要性
売掛金は、商品やサービスを販売した代金を後払いで回収する権利のことです。売上が発生した時点で売掛金として計上し、入金確認後に売掛金の消込処理を行います。
売掛金を適切に回収できれば、資金繰りへの影響は少ないはずです。しかし、売掛金の回収が困難となったときは適切な節税対策を行うことにより、経営への悪影響を軽減できます。ここでは、売掛金が回収困難となった場合の節税対策の重要性について詳しく解説します。
節税対策の重要性
売掛金が回収困難となったとき、その負担を軽減するために節税対策が重要な役割を果たします。特に中小企業にとって、売掛金は流動資産の大きな部分を占めることが多く、その回収は企業のキャッシュフローに直結するほどです。
場合によっては、回収困難な売掛金が企業の利益を圧迫します。適切な対策を行わなければ、さらに税負担が重くのしかかり、資金繰りに悪影響が出ることもあるのです。そこで、未回収の売掛金を適切に処理することで、税負担を減らし、資金繰りへの影響を抑えます。
回収不可能とみなす具体的なサイン
売掛金が回収不可能と判断されるのは、通常、債務者が破産した場合や、長期間にわたって連絡が取れない場合などです。また、債務者が継続的に財務困難を抱えているとき、法的措置をとっても回収が見込めないときも、回収不能だとみなしたほうがいいでしょう。
回収できない売掛金をそのまま放置するのではなく、早めに適切な対策をとることで、できる限り資金繰りへの影響を抑えましょう。
売掛金の回収不能が現実化したときの対策
売掛金の回収が困難となった場合、一定の条件を満たすことによって貸倒損失、貸倒引当金(損金)にできるため、節税につながります。ここでは、貸倒れの種類と対策について詳しく紹介します。
貸倒引当金の適用対象法人
貸倒引当金を計上できるのは、全ての企業ではなく、原則として以下の条件を満たす企業です。
- 資本金(期末)が1億円以下の法人
- 公益法人または協同組合など
- 人格のない社団など
- 銀行や保険会社に準ずる法人
- リース取引などに関する金銭債権を有する法人
中小企業は貸倒引当金による損失処理が可能ですが、原則として大企業は回収不能となった売掛金を貸倒引当金に計上できません。また、上記の条件に当てはまる中小企業でも、大企業の完全子会社の場合は、引当金を計上できないことに注意が必要です。
次に、損金として計上できる貸倒れの種類について紹介します。
1.法律上の貸倒れ
債務者に対する債権の全部、もしくは一部が回収不能となった状態です。会社更生法や民事再生法など、裁判所による認可決定により債権が消滅したと認められた場合などが該当します。債権が消滅している場合、回収不能となった売掛金は損金算入できます。
認可決定を経た債権消滅は、損金扱いです。そのため、法律上の貸倒れは、自社で貸倒引当金の処理をしていなくても申告時に所得を減額できます。また、申告時に貸倒引当金の処理を忘れていた場合は、「更正の請求」が可能です。
2.事実上の貸倒れ
法律上で債権の回収が不可能と認可されなくても、資産状況や支払能力から債権の全額回収が不可能と判断された状態です。債権の回収が事実上不可能であるための要件を満たさない場合、すぐに損金処理できないことに注意が必要です。
また、債権者の財産を差し押さえることで、未払金の支払いが可能となる場合は、損金にできません。他にも、債権者に担保物がある場合も、担保物を処理しなければ損金計上は不可能です。
事実上の貸倒れは、法律上の貸倒れのように自動的に損金扱いとならないため、損金計上を忘れないようにしましょう。損金処理を失念してしまうと、その後の事業年度において損金算入が認められないことに注意が必要です。
3.形式上の貸倒れ
事実上の貸倒れと似ていますが、より明確な条件で経費扱いできる可能性が高いのが形式上の貸倒れです。形式上の貸倒れは以下の2つのケースが該当します。
①債務者との継続的な取引が停止して1年以上経過している
継続的な取引を行っていたということが条件であるため、不動産取引のように単発を前提とした取引は、回収不能となった売掛金を損金にする条件に該当しません。
しかし、今後も取引を継続する予定があったものの、結果的に単発の取引となってしまった場合は、回収不能となった売掛金を損金扱いできます。
1年以上取引がない状態であることが損金計上の条件であるため、売上はもちろん一部入金があった場合は、損金計上できません。また、債務者にお金を貸していた場合、貸付金の回収不能は損金として扱えないことに注意が必要です。
形式上の貸倒れを損金処理をするときは、1円や10円のように「備忘価額(びぼうかがく)」を設定してください。
②売掛金の回収が出張旅費・日当等の実費に満たない程度の金額で、催促をしても入金がない場合
売掛金の督促をしても弁済がなかった日の会計年度に、貸倒損失として処理します。
形式上の貸倒れも、事実上の貸倒れと同様に、損金への計上が貸倒損失として認められる条件です。処理を失念すると、その後の事業年度でも損金算入できないことに注意しましょう。
早急な損金計上が難しいときの対策
資金繰りへの影響を考慮し、回収不能な売掛金をできるだけ早く経費として計上したいこともあるでしょう。しかし、取引先の倒産により、売掛金が回収不能となった場合、すぐに損金計上できない場合があります。
それは、債務者である取引先が倒産または完全に回収できないということが確定できなければ経費処理できないというルールがあるからです。
損金計上を急ぐときは、回収の見込みがない売掛金を放棄することで、経費として計上できます。倒産した取引先の残された財産から、未払いの費用がある取引先に対する配当を得るために裁判が行われるのが一般的です。しかし、こういった裁判は長期化するケースが多く、しかも、どれだけの配当を得られるかの検討もつきません。
未回収の売掛金を経費にできなければ、税金の負担が重くなり資金繰りに影響が出ることがあるため、早めに売掛金を放棄して経費計上することで納税額を減らします。売掛金を放棄するには、内容証明などで売掛金を放棄する旨を書類で残します。また、節税効果を得るためには、内容証明などの書類を期末までに提出することがポイントです。
しかし、得られる見込みがある配当を放棄することから、売掛金の放棄をするなら十分な検証が必要です。そこで、放棄しても経営や財務に問題がない売掛金であるかを、しっかりと判断することが大切です。早急に経費に計上するか、配当の結果を待つかの判断が難しいときは、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
回収不能な売掛金でお困りでしたら、ぜひ「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください
貸倒引当金の計上方法
売掛金に対して貸倒引当金を計上するためには、適切な方法で会計処理します。ここでは、貸倒引当金の主な計上方法について詳しく紹介します。
洗替法
貸借対照表において各勘定科目の残高を、適正な金額に更新する手法で、過去に多く用いられた計上方法です。前期末に計上した貸倒引当金を戻し入れて、一時的に貸倒引当金をなくし、改めて当期に貸倒引当金として計上します。
前期の貸倒引当金が40万円、今期の貸倒れ引当金が60万円とした場合の仕訳を例として紹介します。
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金 | 400,000 | 貸倒引当金戻入 | 400,000 |
貸倒引当金繰入 | 600,000 | 貸倒引当金 | 600,000 |
差額補充法
貸倒引当金の計上にあたって不足している額を繰り入れる方法で、最近主流の計上方法です。洗替法と同様(前期の貸倒引当金40万円、今期の貸倒引当金60万円)の条件を例に、以下のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金繰入 | 200,000 | 貸倒引当金 | 200,000 |
回収不能な売掛金に対する大企業の対策
大企業では原則として貸倒引当金の計上が不可能ですが、貸倒れが確実となった場合は、貸倒損失として経費計上が可能です。貸倒れが確定した場合は、売掛金が回収不能となった時期が含まれる事業年度に「貸倒損失」として計上することで、損金算入が可能です。
ただし、中小企業などと同様に、貸倒損失を損金計上するためには一定の要件が定められています。
回収リスクで判断する売掛金対策
売掛金の回収リスクに応じて、適切な節税対策をとることで税金の負担を減らせる可能性があります。ここでは、売掛金の回収リスクに合わせた対策を紹介します。
回収期限到来前の売掛金
売掛金の回収が問題なく見込まれる場合でも、貸倒引当金の計上を行うことで節税効果が高まります。企業を取り巻く環境は常に変化しているため、確実に売掛金を回収できるとは限らないからです。貸倒引当金の繰入限度額を決める方法を以下に解説します。
貸倒実績率
過去3年間の貸倒損失発生額に基づいて、貸倒実積率によって繰り入れ限度額を算定します。貸倒実績率は、以下の計算式で求めます。
貸倒実績率(%)= 過去3年間の貸倒損失の額 ÷ 一定時点での債権残高 |
法定繰入率
業種ごとに定められた法定繰入率で、繰入限度額を定める方法もあります。以下の計算式で法定繰入率を算出します。
繰入限度額=期末一括評価債権の帳簿価額×法定繰入率 |
法定繰入率と貸倒実績率でそれぞれ繰入限度額を算出した場合、高い方の繰入限度額を採用できます。ただし、繰入限度額を用いて貸倒損失を計上できるのは、中小企業など一定の要件を満たす法人です。
売掛金の回収リスクが高い場合
売掛金の回収が困難となる可能性が高い場合、貸倒実績率や法定繰入率による計算ではなく、個々の債権ごとに財務状況を把握したうえでの貸倒引当金の計上が望ましいです。回収リスクが高い売掛金については、「個別評価金銭債権」と定義されているため、取引先に応じて貸倒引当金の限度額が異なります。
個別評価金銭債権について、税法上での明確なルールがありません。そこで、売掛金の未回収が発生する可能性が高い取引先の財務や経営状況を考慮して、適切な繰入額を算定するなど、実質的な判断が求められます。
売掛金の回収リスクに応じた貸倒引当金の計上が難しい場合は、税理士に相談することで適切なアドバイスをもらえるはずです。
貸倒引当金の計上に不安があるなら、ぜひ「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください
売掛金の損失を最小限に抑えるための対策
売掛金の計上額が多くても、適切に回収できなければ資金不足が起こるリスクが高まります。そこで、売掛金による適切な節税対策を実現し、厳密に売掛金を回収するための対策を紹介します。
売掛金台帳の作成と管理
売掛金を正しく管理することが、売掛金関連のトラブル防止や効果的な節税対策につながるため、売掛金台帳を作成しましょう。取引先ごとに売掛金台帳を作成することで、売掛金の発生や回収状況の適切な管理を可能にします。
取引先から売上が発生するたびに売掛金台帳に記帳し、入金があったときは入金データを記帳します。会計ソフトには、事前登録をしておくと、請求書データを入力するだけで売掛金台帳に自動的に転記される機能があるため、記帳漏れやミスの予防に効果的です。
会計ソフトを使うと、経理処理の業務効率化だけでなく、適切な売掛金管理につながるため、積極的な活用を検討してみましょう。
売上債権の回転期間と回転率のチェック
売掛金や受取手形のような売上債権は、資産として計上されるものの、回収不能に陥るリスクを持っています。そこで、売上債権の回収リスクを定期的に判断することで、適切な対策につなげましょう。
回転期間と回転率を参考に、売上債権の回収リスクを判断する方法があります。回転期間とは、売掛金が発生してから実際に代金を回収するまでにかかる期間のことで、以下の計算式で求めます。
売上債権(売掛金 + 受取手形) ÷ (売上 ÷ 365) = 回転期間(日) 売上債権(売掛金 + 受取手形) ÷ (売上 ÷ 12) = 回転期間(月) |
回転期間によって、サービスや商品の代金がスムーズに回収されているかを確認でき、回転期間が短いほど取引先の経営が安定していると判断できます。
売掛金の回転率とは、売掛金の回収の効率性を把握するための指標で、以下の計算式で求めます。
売上(年間) ÷ 売上債権(年平均) = 回転率 |
回転率が低い場合は、代金の回収に時間を要しており、取引先の経営や財務状況に問題がある可能性が考えらます。売掛金の回収リスクを適切に判断するためにも、売上債権の回転時期と回転率を定期的にチェックしましょう。
取引先の信用調査
新規の取引先、経営や財務状況の悪化が心配される既存の取引先に対して、信用調査を行うこともリスク対策の一つです。信用調査で取引先の経営や財務状況を把握できると、今後の取引や適切な対応を検討するときの参考になるからです。
信用調査によって取引に懸念が生じた場合、たとえば掛け取引ではなく、商品やサービスの引き渡し時に、代金の一部もしくは全額を支払ってもらうように交渉するなど、適切な対応を検討できます。
取引先の財務や経営状況はその都度変わる可能性が高いです。定期的に信用調査を行う、もしくはこれまでと状況が変わったときに調査をすることで、状況に応じた対策を検討できます。
売掛金を節税対策に活用するポイントと注意点
売掛金などを対象として貸倒引当金を計上することは、経費扱いとなり法人税などの減税効果が期待できます。ただし、適切な方法でなければ、期待できる節税効果は得にくくなることに注意が必要です。
対象となる債権を確認する
貸倒引当金は、事業の経費として認められていますが、売掛金を含めて対象となる債権は限られています。
- 売掛金
- 未収の譲渡代金、加工料、請負金、手数料など
- 貸付金
- 未収の損害賠償金で益金として算入されたもの
原則、事業において必要とされる金銭の債権が損金計上の対象です。貸倒引当金の対象とならない債権は、経費として計上できないため注意してください。
貸倒引当金の設定額に要注意
貸倒引当金の設定額によっては、節税効果が薄れる可能性があることに注意が必要です。貸倒引当金は毎年計上するのが一般的ですが、貸倒損失が発生しなかった場合は、戻入の処理を行います。
戻入の額が予想よりも大きかった場合、収益が増えて納税額が増えることがあります。節税対策として、貸倒引当金をできるだけ多く計上しようとすると、その影響が翌期以降に出る可能性が高いです。リスク対策と減税効果を両立するためには、貸倒引当金として適切な額を計上することが大切です。
貸倒引当金を含めて、適切な節税対策を実現するためには、税金の専門家である税理士に相談することをおすすめします。
売掛金の適切な管理と引当金の計上で節税につなげよう
売掛金は回収不能となるリスクがある売上債権です。回収リスクに備える、回収不能となった場合の対策として、貸倒引当金や貸倒損失を適切に計上することで資金繰りや経営への影響を抑えます。
貸倒引当金や貸倒損失を計上するためには、取引先の状況に応じた適切な額を設定することが大切です。また、日頃から売掛金を適切に管理し、リスクに備えておくことも経営の安定化や節税対策につながります。
自社の財務や経営状況に合わせた売掛金の管理と節税対策を実現するためにも、税理士のアドバイスを参考にしましょう。