損益分岐点比率とは、実際の売上高を100%と設定したときに、損益分岐点売上高の割合を測定した指標です。損益分岐点比率が低ければ低いほど、赤字に強く経営状況が良いと判断できます。ただし、損益分岐点比率は業種によっても異なるので、業種ごとの比較や前年、前々年と比較することも大切です。損益分岐点比率を改善するには、固定費や変動費の削減、売上増加などを目指すのが良いでしょう。この記事では、損益分岐点比率とは何か、計算方法や改善する方法を紹介します。
目次
損益分岐点比率とは
損益分岐点比率とは、実際の売上高を100%と設定したときに、損益分岐点売上高の割合を測定した指標です。損益分岐点売上高とは、利益がプラスにもマイナスにもならない売上高を指します。
益分岐点比率が低ければ低いほど赤字に強いとされ、一般的には損益分岐点比率が70%以下だと経営状況が健全であると判断されます。ただし、損益分岐点比率は業種や業態、企業規模によっても変わるので、損益分岐点比率のみで経営状況を判断することはできません。次の章で、損益分岐点比率の計算方法について詳しく見ていきましょう。
安全余裕率との違い
損益分岐点比率と同様に、経営の安全性や余裕を見るための指標に「安全余裕率」があります。安全余裕率とは、実際の売上高が損益分岐点に対してどれくらい余裕があるかを示した指標です。
損益分岐点比率は低ければ低いほど赤字に強いのに対し、安全余裕率は高ければ高いほど、赤字に強く経営に余裕があると分析できます。安全余裕率は「(売上高-損益分岐点売上高)÷売上高×100」で計算可能です。なお、損益分岐点比率と安全余裕率は合計すると、必ず100%になります。
損益分岐点比率の計算方法
損益分岐点比率は「損益分岐点売上高÷売上高×100」で計算可能です。損益分岐点売上高は「固定費÷限界利益率」で計算できます。限界利益とは商品やサービスを販売したときに得られる利益であり、損益分岐点比率の計算方法をまとめると、下記のようになります。
- 損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷売上高×100
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
- 限界利益率=限界利益÷売上高×100
- 限界利益=売上高-変動費
たとえば、下記の条件の損益分岐点比率を計算してみましょう。
【条件】
- 変動費:1,500万円
- 固定費:1,000万円
- 売上高:3,000万円
【計算結果】
- 限界利益=3,000万円-1,500万円=1,500万円
- 限界利益率=1,500万円÷3,000万円×100=50%
- 損益分岐点売上高=1,000万円÷50%=2,000万円
- 損益分岐点比率=2,000万円÷3,000万円×100=約7%
損益分岐点比率の目安
損益分岐点比率を計算すれば、その企業がどれだけ赤字に強いかを分析できます。損益分岐点比率の目安は、下記の通りです。
損益分岐点比率 | 赤字への強さ |
70%以下 | 事業は良好であり、黒字確保に支障がない |
70~90% | 平均的な水準である ただし、環境変動が起きると赤字になる恐れがある |
90%以上 | 赤字になる恐れがあるので、すぐに状況を改善する必要がある |
100%以上 | 現時点で損失が発生している 倒産を防ぐため、赤字および資金繰りを改善しなければならない |
ただし、損益分岐点比率は業種ごとに大きく異なります。業種によって固定費や売上原価に大きな差が生じるからです。
下記の表は、業種別の損益分岐点比率を示したものです。
業種 | 損益分岐点比率の平均 |
宿泊業、飲食サービス業 | 97.5% |
運輸業、郵便業 | 91.1% |
情報通信業 | 88.5% |
小売業 | 88.4% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 85.2% |
製造業 | 85.1% |
全産業(除く金融保険業) | 85.1% |
卸売業 | 80.9% |
建設業 | 78.2% |
出典:「第1節 中小企業の財務基盤・収益構造と財務分析の重要性」中小企業庁
上記のように、損益分岐点比率は業種ごとに大きく異なるため、自社の損益分岐点比率を分析、改善するためには同業種と比較しましょう。また、自社の損益分岐点比率がどのように推移しているか分析するために、前年や前々年の損益分岐点比率と比較してみるのも良いでしょう。
損益分岐点比率を改善する方法
自社の損益分岐点比率を計算した結果、数値が悪かった場合は赤字を防ぐために経営状況を改善させましょう。損益分岐点比率を改善する方法には、固定費および変動費の削減、売上を増やすなどがあります。それぞれ詳しく解説していきます。
固定費を削減する
損益分岐点比率は、固定費の削減によって改善できます。固定費が下がれば損益分岐点が下がるため、損益分岐点比率も下がりやすくなるからです。企業が固定費を削減する方法は、主に下記の通りです。
- 労務管理システムを導入する
- パートやアルバイト、派遣などを活用する
- 業務のIT化を進める
- 電気やガスの契約内容を見直す
- 固定電話を廃止する
- 業務用携帯電話の契約内容を見直す
- 消耗品費を品目別に把握する
- ペーパーレス化を推進する
- 一定額を超える消耗品費の購入は上長の許可制にする
- 広告掲載後に費用対効果を確認、分析する
- ターゲットに合った広告を活用する
- 効果が出ない広告は停止も検討する
- 家賃が安い地域に事務所を移転する
- リモートワークを推進する
- 設備購入時にコストや生産性をシミュレーションする
固定費の削減は、一度行えば削減効果が持続するので、変動費の削減よりも先に行うのが良いでしょう。ただし、過度な固定費の削減は業務効率が低下する、従業員の反発を招く恐れもあるので慎重に行う必要があります。
変動費を削減する
固定費の削減がある程度完了したら、変動費を削減していきましょう。売上に対して変動費が高すぎるとどうしても損益分岐点比率が上がってしまいます。変動費を減らす方法は、主に下記の通りです。
- 仕入先の見直し、交渉により単価を下げる
- 現金仕入れや支払サイトの短縮を交渉し、単価を下げる
- 過剰在庫を削減する
- 値引きや返品を減らす
企業の場合、変動費を削減すると商品やサービスの質低下に直結する、従業員の負担が大きくなるなどの恐れもあります。そのため、固定費の削減同様に変動費の削減を行う際にも慎重に進めなければなりません。
売上を増加させる
固定費や変動費の削減が難しい、完了したのであれば、売上高を増やす企業努力を行いましょう。売上を増やすには、下記の方法があります。
- 商品やサービスの単価を上げる
- 顧客単価を上げる
- 販売数を増やす
ただし、売上を増やすと変動費もどうしても上がってしまいます。売上を増やしていく過程で変動費と固定費のバランス、費用の削減について分析していきましょう。
経営状況の分析・改善を税理士に相談しよう
損益分岐点比率とは、実際の売上高を100%と設定したときに、損益分岐点売上高の割合を測定した指標です。損益分岐点比率が低ければ低いほど、赤字に強いとされ一般的には70%を下回ると、経営状態が良好であると判断されます。
ただし、損益分岐点比率は業種ごとに平均が異なるため、同業種と比較することや過去数年間の損益分岐点比率の推移を比較することも大切です。また、損益分岐点比率は経営状況の分析に使用できるだけでなく、利益目標を達成するための売上高を計算する際にも使用できます。
損益分岐点比率を計算した結果、自社の経営状況に問題があるとわかった場合は、固定費や変動費の削減、売上増加により改善していく必要があります。
経営状況の分析や改善については、経営者自身で解決するのではなく、財務諸表の分析やコンサルティングに強みを持つ税理士に相談するのもおすすめです。小谷野税理士法人は、経営支援に関するオンライン面談を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。