夫婦で起業を考えた際に、個人事業主で起業するか法人として起業するか迷うという人や「どっちが得なんだろう?」と考える人も多いでしょう。今回は夫婦で起業する際の、メリットとデメリット、離婚した際にはどうなるのか、節税効果が高い事業形態について紹介します。
目次
夫婦で起業する3つのパターン
夫婦で起業する方法は主に3つあります。それぞれ、3つのパターンの特徴を紹介していきますので参考にしてみてください。
それぞれが個人事業主として起業
夫婦で異なる事業を手がけ、2人でビジネスを展開しつつも夫婦それぞれが個人事業主になるといった方法があります。
具体的な例としては、ブログやYouTube、アフィリエイトサイトの運営といったWeb関係の仕事です。
Web関係の仕事は情報収集が必要であったり、ブログやアフィリエイトサイトの運営の場合は文章を作成したり、YouTubeの場合は、動画の撮影や編集をする必要があります。
これらの業務を分担し、それぞれが個人事業主になることで、夫婦で行う仕事以外の仕事も受注でき、共倒れするのを防ぐこともできます。
しかし、それぞれが個人事業主になった場合は、それぞれ確定申告が必要になります。その分の手間が、発生するということを覚えておきましょう。
片方が個人事業主として起業
夫婦で起業をする際に始めやすいパターンとして、夫婦のどちらかがまず個人事業主になる方法があります。このパターンの場合、まず始めに夫婦のどちらかが個人事業主として起業し、配偶者を雇用します。雇用者となっている配偶者の会計帳簿は必要ありません。
そのため、確定申告の作業は一人分で済むというメリットもあります。
また、事業を手掛ける家族の報酬は青色申告者の所得分から控除可能な青色事業専従者給与や、生計を共にする親族の給与支払い時に、一部を経費にできる事業専従者控除という制度を利用することで節税につなげることも可能です。
片方が法人となって起業
夫婦のどちらかが法人を設立し、配偶者を役員や従業員として雇用するというパターンもあります。
会社を設立する際の手続きは個人事業主よりも大変になってしまいますが、より高い節税効果が得られる可能性が高くなります。
しかし、初めての起業で法人を設立することはリスクも大きいので注意が必要です。事業が失敗する可能性も含め、小規模なビジネスのスタートがおすすめです。個人事業主から起業し、事業の成長次第で法人化するといったステップアップも検討するとよいでしょう。
夫婦で起業するメリット
夫婦で起業した方が良いといったメリットも多くあります。夫婦で起業した際のメリットについてみていきましょう。
レスポンス良く意思疎通ができる
夫婦で起業する際の一番のメリットは、家族で過ごす時間が増えるという点です。
サラリーマンとして働いている場合、勤務先が家から離れていたり、業種によっては出勤や退勤の都合で家族との時間が取れない場合も多いでしょう。
しかし、夫婦で起業した場合は自宅で仕事をすることも可能な業種もあり、自由度が高いので家族との時間も増えるでしょう。
また、仕事をする上での困りごとや悩み、相談もしやすく、早いレスポンスでの意思疎通が可能です。相手が配偶者である場合、気軽に報告、連絡、相談ができるでしょう。
節税効果を見込める
会社の場合、従業員である配偶者の給与を支払い所得の分散することで、一定の節税効果を得ることができます。
また、個人事業主の場合も配偶者を事業専従者にすることで所得分散が可能です。
※配偶者を事業専従者にする場合は、年齢や働き方などの条件を事前に税務署に届け出る必要があります。
夫婦で起業するデメリット
夫婦での起業にはメリットも多いですが、デメリットもあるので知っておく必要があります。夫婦で起業する際に、知っておいた方がいいデメリットについてみていきましょう。
共倒れになる危険性がある
夫婦で起業した場合、収入は事業から得られる売上からのみとなります。そのため、事業が立ちいかなくなってしまった場合は、夫婦で共倒れになってしまう可能性もあります。
共倒れを未然に防ぐ対策としては
- 何かあった時のために貯金を多めに用意する
- 副業をするなど本業以外からの収入源を確保しておく
などがあり、事前に様々なパターンを想定し対策しておくことも大切です。
また、起業後にはクレジットカードやローンの審査が通りにくくなる場合もあります。
できれは起業前に用意しておいた方が安心できるでしょう。
福利厚生が受けられない
夫婦で起業した場合は、サラリーマンではなくなるので、福利厚生や社会保険といったサラリーマン時代に受けていた恩恵が得られなくなります。
福利厚生の具体的な例では、会社負担の健康診断や、家族旅行の際に利用していた宿泊施設の割引などが受けられなくなります。
また、サラリーマンは規定休日や有給休暇がありますが、起業した場合は決まった休暇はありません。
仕事の自由度は高いですが、「仕事がなくなってしまうかもしれない恐怖」を感じる人も多く、休むことができないという人がいるのも事実です。
離婚した場合はどうなる?
夫婦で起業を考えている人の中には「離婚した際にどうなってしまうのか」について気になるという人も多いでしょう。ここでは起業した夫婦が離婚してしまった場合について解説します。
事業継続であれば問題なし
夫婦で起業後に離婚してしまった場合でも、共同経営を続けることは特に問題はありません。離婚に伴い名字を旧姓に戻すといった場合には、法務局で「氏の変更」の登記を申請する必要があります。
役員の辞任・解任は手続きが必要
夫婦で会社経営を行なっている場合に多いのは、夫婦のどちらかが社長で、もう一方が役員というケースです。
この場合に、離婚後に役員を続けるかどうか問題になる可能性があります。夫婦仲の悪化が原因の離婚の際、離婚後も同じ職場で働くことは当事者も居心地が悪い場合もあり、ほかの社員へ影響を与えてしまう可能性も懸念されます。
しかしながら、役員の辞任や解任は経営者が配偶者を勝手に解任することはできません。
役員が辞任したり解任される際には、法律で定められた手続きが必要です。
株式会社の場合は、基本的に株主総会で「役員の解任」を普通決議で行います。
経営者が普通決議の要件を満たす決議権を有していた場合は、解任することができます。
しかし、解任の際には正当な理由が必要で、特段ない場合には役員が会社に損害賠償を求めることが認められています。
正当な理由に「離婚」は含まれませんので、夫婦でしっかりと話し合い解決する必要があるといえるでしょう。
財産分与は会社の資産に含まれない
離婚の際の、財産分与は夫婦が結婚生活で築いた資産を清算し分割し財産分与が行われます。しかし家族経営の会社の場合は、会社の財産と夫婦の財産が曖昧になっているケースも多くあります。
原則として、個人の財産と会社の財産は区別して考えます。そのため、法人化している場合の会社名義の資産は、離婚の際に財産分与の対象にはなりません。
しかし、会社名義の家や車を夫婦の共有財産として使用しているといった場合には、その家や車は財産分与の対象となる可能性があります。
また、夫婦のどちらか一方の名義で会社を保有している株式が、夫婦が結婚後に協力し合い築いた財産である場合は、財産分与の対象になる可能性があります。
具体的な財産分与の対象は個人での判断が難しいものも多いです。また、非上場会社の株式評価の計算方法は種類も多く複雑です。できれば早い段階で弁護士や税理士に相談してみましょう。
節税効果の高い事業形態を選ぼう
夫婦で起業した場合、事業形態によっては高い節税効果が期待できます。
以下より、それぞれの事業形態ごとの節税方法や効果について紹介します。
個人事業主として節税する場合
夫婦それぞれが個人事業主であった場合に、夫婦の所得金額を合算し節税対策をすることができます。
所得金額に対する税金の計算は個人単位で行います。そのため、夫婦それぞれの税率を下げることが節税対策の基本であるといえます。所得金額に対する税率は下記の通りです。
- 所得税 5%から45%までの7段階
- 住民税 一律10%
- 事業税 対象業種ごとに3%から5%
所得控除の節税効果は税率に比例します。夫婦の生活における扶養控除や、社会保険料控除といった所得控除を、税率の高い方に適用するのも節税対策のポイントです。
例えば、16歳以上の子どもを扶養している場合には、税率の高い人の方の扶養に入れた方が納税額を減らせます。しかし、社会保険料控除の場合は、実際に負担した人が対象となる所得控除です。負担していない人に所得控除を適用するといった、夫婦の間で利益操作することはできません。
また、個人事業主が青色申告者の場合は、青色事業専従給与を必要経費として計上できます。青色事業専従者の給与は必要経費に算入でき、その分を個人事業主の所得税や住民税を減らすことができます。
しかし、青色事業専業者にとっては給与所得となるため、青色事業専業者は配偶者控除や配偶者別控除、扶養控除の対象にできません。配偶者を青色事業専業者にするか否かは、専門家や税理士に相談しましょう。
法人化して節税する場合
個人事業主の場合は、所得額が増えると税率も上がる累進課税制度が適用されています。
しかし、法人の場合は所得額800万円を基準に税率はほぼ一定です。
そのため、所得額が800万円よりも大幅に増える場合は、法人化する方が節税できるでしょう。
また、合同会社という事業形態も節税になる可能性があります。その理由は下記の通りです。
合同会社が節税になる理由
- 法人税が適用される
- 個人事業主よりも、経費として取り扱えるものが増える
- 事業主への役員報酬に給与所得控除が適用される
- 家族を従業員にした際、給与を経費にしやすい
- 設立後の2年間は消費税を免除できる可能性がある
- 相続税や贈与税が大幅に抑えられる
合同会社にすることによるメリットは大きいですが、お金の流れや扱い方は少なからず影響がでます。どの事業形態が合っているか、よく夫婦で話し合うことが大切です。
夫婦での起業は節税対策がカギ
夫婦で起業するということは、サラリーマン時代以上に収入や税金に対してシビアになる必要があります。
今まで就労先で行っていた源泉徴収や確定申告も、自身で行わなければいけません。また、所得税や消費税に加え、業種によってはさまざまな税金の納付を行う必要もあります。
それだけに、どれだけ効果的な節税対策を知って実践できるかが、夫婦での起業における事業成功のカギとなるでしょう。
夫婦で起業する場合の手続きや税金・節税について不安な方や不明点がある方は、小谷野税理士法人にご相談ください。