開業準備の一つとして重要になるのが「許認可」です。許認可をとらなければ営業を開始できない事業も少なくありません。今回の記事では、許認可の種類や必要となる業種、それに申請方法について解説します。また、許認可をとらない際に発生するリスクについても同時に紹介しているので、ぜひ目を通してみてください。
目次
許認可とは
「許認可」とは、「許可」と「認可」を1つにした言葉です。主に、法律で禁止されている行為を、事業のためにできるようにする手続きを指します。
具体的な例としては、車の運転や食品の製造・販売、危険物の取り扱いなどがあります。
一部の事業は、国に定められている許認可をとることで初めて営業できるようになります。
許認可をとるためには、行政機関に届出や申請などを行う必要があります。その際の申請先は、国務大臣や都道府県知事、それに保健所など、事業内容によって異なります。
ちなみに許認可をとらずに事業を行うと、法律違反と見なされて営業停止命令や刑事罰を受けることもあります。
開業前には必ずご自分の事業に必要な許認可をとっておきましょう。
許認可の種類
許認可は全部で5種類あります。
ここでは、それぞれの内容や申請時の注意点などについて解説します。
届出
届出とは、開業前に事業内容を行政機関へ通知する手続きのことです。事業内容が違法ではなく、記入事項に不備がなければ基本的には受理されます。
行政機関の審査がないので、届出自体はすぐに完了します。
登録
登録は、行政機関へ書類を提出し名簿に登録してもらう手続きのことです。登録を行うことで、正式に事業を始められる準備が整います。
業種によっては書類の提出のほか、試験の合格や実地調査などが必要な場合もあります。
登録制の事業には、旅館やホテルを経営するための「ホテル業」や、ガソリンスタンドを経営するための「揮発油販売業」などがあります。
認可
認可とは、行政機関が事業者に対して「法令で定められた要件を満たしている」と認める手続きのことです。事業者が申請し、行政機関が確認することによって受けられます。
認可はとっていなくても行える事業もあります。その点が登録とは異なります。
たとえば、私立学校や警備業などは認可が必須ですが、保育園は認可を受けていなくても事業を行うことができます。
ですが、認可を取得したほうが補助金や助成金を受けられる可能性が高くなるので、認可を受けることが一般的です。
認可を受けるためには、行政機関による確認が必要になります。届出や登録よりも日数がかかるので注意しましょう。
許可
許可は、公共のために法令で禁止されていることを事業で行う場合に必要になります。
たとえば、料理を提供する飲食店は「飲食店営業許可」、薬を販売する薬局は「薬局開設許可」の許可をとることで、ようやく開業できるようになるのです。
許可をとるためには、行政機関に申請して審査に合格する必要があります。そのため、届出や登録よりも時間がかかることが一般的です。
審査期間も比較的長いので、時間に余裕を持って準備しておきましょう。
免許
免許は、特定の資格を持つ人がその業務を行える要件を満たしていると、行政機関に認めてもらう手続きのことです。それによって事業を始められるようになります。
免許を申請する際には、あらかじめ許認可に必要な資格を持っていることが必須条件です。主な業種には、美容師や看護師などがあります。
許認可が必要な業種
許認可はさまざまな事業で必要になります。
ここでは特に使われることが多い許認可をピックアップして、業種や種類、申請先を紹介します。
下記の表は、業種ごとに必要な許認可をまとめたものです。
しかし、すべての許認可が載っているわけではありません。ご自分の業種ではどういった許認可が必要かを開業前に必ず確認しておきましょう。
【国務大臣・都道府県知事に申請する事業】
業種 | 必要な許認可 | 種類 | 申請先 |
一般土木建築工事業 | 建設業 | 許可 | 国土交通大臣または 都道府県知事 |
設備工事業 | 電気工事業 | 登録 | 経済産業大臣または 都道府県知事 |
化学工業 | 医薬品・医薬部外品・化粧品製造販売業 | 許可 | 厚生労働大臣または 都道府県知事 |
医薬品・医薬部外品・化粧品製造業 | 許可 | 厚生労働大臣または 都道府県知事 | |
不動産代理業・仲介業 | 宅地建物取引業 | 免許 | 国土交通大臣または 都道府県知事 |
道路旅客運送業 | 一般旅客自動車運送事業 | 許可 | 国土交通大臣 |
特定旅客自動車運送事業 | 許可 | 国土交通大臣 | |
道路貨物運送業 | 一般貨物自動車運送事業 | 許可 | 国土交通大臣 |
特定貨物自動車運送事業 | 許可 | 国土交通大臣 | |
職業紹介業 | 有料職業紹介事業 | 許可 | 厚生労働大臣 |
労働者派遣業 | 労働者派遣事業 | 許可 | 厚生労働大臣 |
燃料小売業 | 揮発油販売業 | 登録 | 経済産業大臣 |
旅館、ホテル | 旅館業 | 許可 | 都道府県知事 |
公衆浴場業 | 浴場業 | 許可 | 都道府県知事 |
病院、一般診療所 助産・看護業 | 病院、診療所、助産所 | 許可 | 都道府県知事 |
医薬品・化粧品小売業 | 薬局 | 許可 | 都道府県知事 |
廃棄物処理業 | 一般廃棄物処理業 | 許可 | 市町村長 |
産業廃棄物処理業 | 許可 | 都道府県知事 |
【保健所に申請する事業】
業種 | 必要な許認可 | 種類 | 申請先 |
食堂、レストラン 持ち帰り・配達飲食サービス業 | 飲食業 | 許可 | 保健所長 |
食料品製造業 | 食料品製造業 | 許可 | 保健所長 |
各種食料品小売業 | 食料品販売業 | 許可 | 保健所長 |
美容業 | 美容業 | 届出 | 保健所長 |
理容業 | 理容業 | 届出 | 保健所長 |
【その他の機関に申請する事業】
業種 | 必要な許認可 | 種類 | 申請先 |
飲料・たばこ・飼料製造業 | 酒類製造業 | 免許 | 税務署長 |
酒小売業 | 酒類販売業 | 免許 | 税務署長 |
他に分類されない卸売業 | 古物営業 | 許可 | 都道府県 公安委員会 |
出典:日本標準産業分類|総務省
許認可の申請方法
許認可の申請方法について、「国務大臣・都道府県知事に申請する場合」「保健所に申請する場合」の2つに分けて解説します。
国務大臣・都道府県知事に申請する場合
許認可を、国務大臣や都道府県知事に申請する際のおおまかな流れについて解説します。
申請内容や方法は業種によって異なるので、ここでは建設業許可を例にして申請方法を紹介します。
<建設業の場合>
(1)許可申請書及び添付書類の作成 (2)許可申請手数料の納入(必要になる場合) (3)申請書類・確認書類の提出 |
(1)許可申請書及び添付書類の作成
建設業の許可を申請する際には、許可行政庁に「許可申請書及び添付書類」を提出する必要があります。
法定書類で発行日が記してある場合は、3か月以内のものを提出しましょう。
建設業に限らず、許認可にはとても多くの書類が必要になることが一般的です。「行政の手引き」には一覧表がついているので、よく照らし合わせながら準備することをおすすめします。
(2)許可申請手数料の納入(必要になる場合)
許認可の申請には、手数料の納入が必要になることもあります。手数料は業種や許可区分によって異なります。
たとえば、建設業の許可の申請手数料は下記の通りです。図表はそのうちの一部なので、注意してください。
<許可申請手数料等一覧>
申請区分 | 大臣許可 | 知事許可 | ||||
一般又は特定の一方のみを申請する場合 | 一般と特定の両方を申請する場合 | 一般又は特定の一方のみを申請する場合 | 一 般と特定の 両方を申請する場合 | |||
免許税 | 収入印紙 | 免許税 | 収入印紙 | 収入証紙 | ||
1新規 | 15万円 | - | 30万円 | - | 9万円 | 18万円 |
2許可換え新規 | 15万円 | - | 30万円 | - | 9万円 | 18万円 |
3般・特新規 | 15万円 | - | - | - | 9万円 | - |
新規で国土交通大臣に申請する場合は15万円、都道府県知事の場合は9万円となっています。
どちらに申請するのかは「営業所の数」によって異なります。
営業所を1つの都道府県だけに置く場合は「知事許可」、2つ以上の都道府県に置く場合には「大臣許可」が必要になります。
ちなみにどちらの許可でも営業する地域に制限はありません。
(3)申請書類・確認書類の提出
申請書類は、原則郵送で関東地方整備局へ提出します。受理後に申請内容の審査が始まりますが、その際申請内容に関する照会や補正などが行われることもあります。
申請から許可等の処分がなされるまでには、一般的に約90日ほどかかります。余裕を持って取り組んでおくことをおすすめします。
保健所に申請する場合
保健所での許可申請も業種によって異なります。ここでは、特に事業を始められる方が多い業種の飲食店の「営業許可」を例に解説します。
<飲食店の場合>
(1)保健所での事前相談 (2)営業許可申請・手数料納入 (3)保健所による施設の審査 |
(1)保健所での事前相談
営業許可に限らず、保健所が管轄となっている事業の場合、許認可をとるために施設の審査があることが一般的です。
そのため、まずは保健所へ行き、どのような設備の施設であれば審査に合格できるのかを詳しく確認しておきましょう。
(2)営業許可申請・手数料納入
次に営業許可の書類を作成して、申請手数料を納入します。
手数料は地域によって異なりますが、新規で取得する場合は16,000円~19,000円程度が一般的です。
営業許可にも、たくさんの書類や記入事項が必要になります。申請準備にあまり時間を取られてしまう場合は、専門家に代行を依頼するのもおすすめです。
(3)保健所による施設の審査
最後に保健所による施設の検査が行われます。合格の場合は、約1週間程度で「営業許可証」が交付され、営業できるようになります。
営業許可の申請から交付までは約1ヶ月が目安です。
出典:営業許可申請・届出等に関する様式、記載要領及び添付書類の取扱いについ て」の一部改正について|厚生労働省
許認可をとらないリスク
許認可が必要な事業にもかかわらず、許認可をとらずに事業を行うと、法令違反と見なされてペナルティが発生する場合があります。
主なリスクは、下記の3点です。
営業停止命令・刑事罰
許認可をとらずに営業する「無許可営業」は、営業停止命令や刑事罰などを受けることがあります。ペナルティの具体的な内容は事業によって異なります。
たとえば飲食店を無許可で営業した場合は、「食品衛生法第52条1項(無許可営業)」の違反となり、2年以下の懲役または200万円以下の罰金となります。
もし、許認可があることを知らなかったとしても法令違反には変わりありません。ご自分の事業に本当に許認可が必要ないのかどうか、よく調べておくことをおすすめします。
不安な場合は、行政機関や専門家に確認してもよいでしょう。
金融機関から融資を受けられない
金融機関から融資を受ける際は、許認可を確認されることが一般的です。
許認可が必要になる事業にもかかわらず許認可をとっていないと、金融機関からの融資がかなり難しくなります。
金融機関から事業のための融資を受ける場合は、事業で得た利益の中から返済を行うことになります。そのため、許認可をとっていないと事業を始められないと見なされてしまうのです。
受注できる金額に制限がある
業種によっては、許認可をとっていないと受注金額に制限がかかるケースがあります。
たとえば、建設業の場合は「軽微な建設工事」のみを請け負うのであれば、建設業の許可がなくても営業できます。
ですが、工事1件の請負金額が消費税込みで500万円未満の工事のみに限られます。
許認可がないと、大きな仕事を受注できないうえに取引先の信頼を失う可能性もあります。
許認可は専門家への依頼もおすすめ
本記事で解説したとおり、許認可を受けるための申請準備には時間がかかるものもあります。そのため、なかなか開業準備に集中できない方もいるかもしれません。
そういう場合は、専門家への依頼もおすすめです。
また、ご自分の事業には許認可が必要ないのかどうか、ぜひ一度専門家に相談してみるのもよいでしょう。会社設立の実績数が多い「小谷野税理士法人」へのご相談も、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。