株式市場や上場企業についてどのくらい知っていますか?株式市場は、企業や個人が株式を売買する場所です。上場企業とは、株式市場で自社の株式を売買できるようにした企業のことです。上場企業は、非上場企業と比べて、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?この記事では、上場企業とは何か、上場するメリットやデメリット、上場するかどうかの判断のポイントについて分かりやすく解説します。上場企業に関心がある方や上場するか迷っている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
上場企業とは?
上場企業とは、株式会社の中でも、自社の株式を株式市場で売買できるようにした企業のことです。株式市場とは、企業や個人が株式を売買する場所のことで、日本には東京証券取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所の4つがあります。株式市場には、さまざまな種類の市場があり、上場するためにはそれぞれの市場の基準を満たす必要があります。
上場するためには、証券取引所に申請し、審査を受けなければなりません。審査では、会社の規模・業績・経営状況・財務内容・株主構成などがチェックされます。審査に合格すれば、上場料という費用を支払うことによって、株式市場で自社の株式を売買できるようになります。
上場企業の種類
上場企業は、上場する市場によって種類が分かれます。日本には、東京証券取引所、名古屋証券取引所、札幌証券取引所、福岡証券取引所の4つの証券取引所がありますが、その中でも東京証券取引所に上場している企業が最も多く、約9割を占めています。
東京証券取引所には、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場・TOKYO PRO Marketの4つの市場があります。それぞれの市場の特徴と上場基準を以下に紹介します。
プライム市場
プライム市場は、東京証券取引所のメインの市場の一つで、最も規模が大きく流動性が高い市場です。プライム市場に上場する企業は、高いガバナンス基準を備えており、多くの機関投資家や個人投資家による活発な売買が期待されます。
プライム市場に上場するためには、厳しい審査基準をクリアする必要があります。たとえば、流通株式時価総額が100億円以上、純資産が50億円以上、最近2年間の利益合計が25億円以上などの条件があります。
プライム市場には、トヨタ自動車やソニーグループ、キーエンスやリクルートホールディングスなどの有名な大企業が上場しています。
スタンダード市場
スタンダード市場は、東京証券取引所のメインの市場の一つで、国内向けの企業が多く上場している市場です。スタンダード市場に上場する企業は、上場企業として十分な流動性が維持されており、日本経済の中核を担っています。
スタンダード市場に上場するためには、プライム市場ほどではないものの、それなりの審査基準をクリアする必要があります。たとえば、流通株式時価総額が10億円以上、純資産が正であること、最近1年間の利益合計が1億円以上などの条件があります。
スタンダード市場には、日本オラクルや日本マクドナルドホールディングス、新生銀行やアコムなどの中堅企業が上場しています。
グロース市場
グロース市場は、これからの成長が見込まれるベンチャー企業や、創業後まもない新興企業向けの市場です。グロース市場に上場する企業は、高い成長可能性を実現するための事業計画が求められます。
グロース市場に上場するためには、形式基準は比較的緩やかですが、実質基準は厳しくなっています。たとえば、流通株式時価総額が5億円以上、流通株式比率が25%以上などの条件があります。
グロース市場には、ビジョナルやフリー、JTOWERやそーせいグループなどの新興企業が上場しています。
TOKYO PRO Market
TOKYO PRO Marketは、2009年に開設された「プロ向け」の市場です。TOKYO PRO Marketに上場する企業は、プロの投資家に対して高度な情報提供やガバナンスを行うことができます。
TOKYO PRO Marketに上場するためには、形式基準はほとんどありませんが、実質基準は非常に厳しくなっています。
たとえば、事業の継続性や成長性、財務内容や経営体制などが評価されます。TOKYO PRO Marketには、日本郵政や東京電力ホールディングス、日本航空などの大手企業が上場しています。
上場するメリット
上場企業になると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、上場する4つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
資金調達がしやすくなる
上場企業になると、株式市場で自社の株式を売買できるようになります。これにより、株式を売って資金を調達できます。資金調達とは、事業を拡大したり、新しい事業を始めたりするために必要なお金を集めることです。資金調達の方法は、株式のほかにも、銀行からお金を借りる(借入)や、社債や債券などの証券を発行する(債務)などがあります。
株式で資金調達するメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 返済の義務がない
- 金利の負担がない
- 株主からのアドバイスやネットワークを得られる
株式で資金調達する場合、株主になった人たちは、株式の価値が上がることや、配当という利益の分配を期待します。しかし、株主にはお金を返す義務や、金利を払う義務はありません。そのため、資金調達のコストが低く抑えられます。
また、株主には自社の業界や事業に詳しい人や、さまざまな分野の専門家や経営者などがいることも多く、そのような株主からは経営に関するアドバイスや、ビジネスのパートナーとなるネットワークを得ることも期待できます。
信用力や知名度が高まる
上場企業になると、社会的な信用力や知名度が高まります。上場企業は、証券取引所の厳しい審査をクリアした企業であることが認められます。また、株式市場で自社の株式の価格や取引量などが公開されるため、多くの人に自社の存在や業績を知ってもらえるでしょう。
信用力や知名度が高まるメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 顧客や取引先との信頼関係が強化される
- 優秀な人材の採用や定着がしやすくなる
- 銀行などの金融機関からの借入がしやすくなる
信用力や知名度が高まると、顧客や取引先からの信頼や評価が高まります。これにより、商品やサービスの販売や、新たな取引の獲得などがしやすくなります。
また、優秀な人材にとっても、上場企業は魅力的な就職先や転職先となるでしょう。これにより、採用や定着がしやすくなると考えられます。
さらに、銀行などの金融機関からの借入もしやすくなることも大きなメリットです。上場企業は財務内容や経営状況が透明化されているため、金融機関からの信用が高く、審査が通りやすい上に、金利も低くなる傾向にあります。
企業価値を客観的に評価できる
上場企業になると、企業価値を客観的に評価できるようになります。企業価値とは、企業が持つ資産や収益力などの総合的な評価のことです。企業価値を客観的に評価する方法の一つは、株式の価格を使うことです。
株式の価格は、株式市場での需給や企業の業績や将来性などの要因によって変動します。株式の価格に株式の発行数を掛けると、時価総額という指標が得られます。時価総額とは、企業の株式の市場価値の合計のことです。時価総額は、企業価値の一つの目安となります。
企業価値を客観的に評価できるメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 経営の効率化や改善が促される
- 企業の成長や戦略の判断材料になる
- 企業の買収や合併の価格決定に役立つ
企業価値を客観的に評価できると、経営陣は、株式市場の評価に応えるために、経営の効率化や改善に努めることが期待できます。これにより、企業の競争力や収益力が高まる可能性があります。
また、企業の成長や戦略の判断材料になります。企業は、自社の企業価値と他社や業界の企業価値を比較して、自社の強みや弱み、市場の動向やニーズなどを分析できます。
さらに、企業の買収や合併の価格決定にも役立ちます。企業の買収や合併とは、企業が他の企業の株式や資産を買い取って、自社の一部にすることです。企業の買収や合併の価格決定には、企業価値の評価が重要な要素となります。
株式を報酬やインセンティブに活用できる
上場企業になると、株式を報酬やインセンティブに活用できるようになります。報酬とは、従業員や役員に支払われる給料や賞与のことです。インセンティブとは、従業員や役員の業績や貢献に応じて支払われる報奨金や株式オプションのことです。株式オプションとは、一定期間内に一定価格で株式を購入できる権利のことを指します。
株式を報酬やインセンティブに活用するメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 従業員や役員のモチベーションや士気が高まる
- 人件費の節約やキャッシュフローの改善ができる
- 株主との利害の一致や経営の安定化が図れる
株式を報酬やインセンティブに活用すると、従業員や役員は、自分たちの業績や貢献が株式の価値に反映されると感じます。これにより、自社の株式に対する関心や愛着が高まり、モチベーションや士気が高まります。
また、現金で支払う必要がなくなるため、人件費の節約やキャッシュフローの改善ができます。従業員や役員も株主となるため、株主との利害の一致や経営の安定化を図れることもメリットと言えるでしょう。
上場するデメリット
上場企業には魅力的なメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。ここでは、上場する4つのデメリットについて詳しく解説します。
情報開示の義務が増える
上場企業になると、情報開示の義務が増えます。情報開示とは、企業が自社の財務内容や経営状況などの情報を公開することです。情報開示の目的は、株主や投資家などのステークホルダーに対して、企業の透明性や信頼性を高めることです。
情報開示の義務が増えるデメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 情報開示にかかる時間やコストがかかる
- 情報開示によって競合他社に有利な情報が漏れる
- 情報開示によって株式市場の反応が変わる
情報開示には、定期的に行うものと臨時的に行うものがあります。定期的に行う情報開示には、四半期報告書や有価証券報告書などがあります。臨時的に行う情報開示には、重要事項の発生や業績予想の修正などがあります。
情報開示には、時間やコストがかかります。また、情報開示によって、競合他社に自社の弱点や戦略などの有利な情報が漏れる可能性も考えられるでしょう。さらに、情報開示によって株式市場の反応も変わるかもしれません。株式市場の反応は、情報の内容やタイミングによって、良くも悪くもなります。
株式市場の影響を受ける
上場企業になると、株式市場の影響を受けます。株式市場の影響とは、株式の価格や取引量などが企業の経営や財務に影響を与えることです。
株式市場の影響を受けるデメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 株式の価格が下がると、企業価値が低下する
- 株式の価格が下がると、資金調達が困難になる
- 株式の価格が下がると、株主からの不満やクレームが増える
株式の価格は、株式市場での需給や、企業の業績や将来性などの要因によって変動します。株式の価格が下がると、企業価値(企業が持つ資産や収益力などの総合的な評価)が低下します。
企業価値が低下すると、企業の信用力や競争力が低下し、資金調達が困難になります。資金調達が困難になると、事業の拡大や新規事業の立ち上げなどができなくなります。
さらに、株式の価格が下がると株主からの不満やクレームが増えます。株主は自分たちが持つ株式の価値が下がることや、配当が減ることに不満を感じます。株主からの不満やクレームが増えると、経営陣に対する圧力や介入が増える可能性も高まります。
株主からの圧力や介入を受ける
上場企業になると、株主からの圧力や介入を受ける可能性があります。株主からの圧力や介入とは、株主が自分たちの利益や意見を通すために、経営陣に対して要求や提案を行うことです。
株主からの圧力や介入を受けるデメリットは、以下のような点が挙げられます。
- 経営の自由度が低下する
- 株主の信頼や支持を失う可能性がある
- 経営陣の対立や混乱が生じる
株主の要求や提案に応えるために、自分たちが考える最善の経営判断を妨げられる可能性があります。株主は自分たちの期待する業績や配当を求めたり、自分たちの望む経営方針や戦略を提案したりする権利が与えられるからです。
また、株主の要求や提案が無視されたり反対されたりすると、経営陣に対して不信感や不満を抱かれるかもしれません。株主の信頼や支持を失うと、株式の売却や議決権の行使などで、経営陣に対して不利な影響を受けるでしょう。
さらに、経営陣の中で株主の要求や提案に賛成する者と反対する者が分かれることも想定されます。経営陣の対立や混乱は、経営の統一性や効率性を損なうだけでなく、株主や社員などのステークホルダーに対しても不安や不信を与えることになります。
上場にかかる費用がかかる
上場企業になると、上場にかかる費用がかかります。上場にかかる費用には、上場準備や上場申請、上場後の維持管理などに必要な費用があります。
上場にかかる費用に関して、以下のような点に注意する必要があります。
- 上場準備には専門家に対する報酬や、上場申請書類の印刷費用などがかかる
- 上場申請には証券取引所に対する上場審査料や新規上場料、証券会社に対する成功報酬などがかかる
- 上場後には証券取引所に対する年間上場料や、情報開示や株式事務代行の費用などがかかる
上場準備には、監査法人や証券会社などの専門家に対する報酬や、上場申請書類の印刷費用などがかかります。これらの費用は年間500万円から数千万円程度で、会社の規模や状況によって変動します。
上場申請には、証券取引所に対する上場審査料や新規上場料、証券会社に対する成功報酬などがかかります。これらの費用は上場先の市場によって異なりますが、数百万円から数千万円程度が目安です。
上場後には、証券取引所に対する年間上場料や、情報開示や株式事務代行の費用などがかかります。これらの費用は規模の小さい中堅企業でも年間5000万円から1億円はかかるとされます。
上場するかどうかの判断のポイント
上場するかどうかは、企業にとって重要な経営判断の一つです。上場することには、多くのメリットがありますが、デメリットも無視できません。
上場するかどうかは、企業の経営方針や事業戦略によって異なりますが、上場のメリットとデメリットのバランスを考慮することが重要です。ここでは、上場するかどうかの判断のポイントについて解説します。
上場の目的と目標を明確にする
上場することには、さまざまな目的や目標があります。たとえば、以下の5つが挙げられます。
- 資金調達を行って、事業の拡大や新規事業の開発を行う
- 信用力や知名度を高めて、顧客や取引先との関係を強化する
- 人材獲得や育成において、株式を報酬やインセンティブに活用する
- 企業価値を客観的に評価して、経営の効率化や改善を促す
- 企業の買収や合併の価格決定に役立てる
上場することには、これらの目的や目標がありますが、それらはすべて実現できるとは限りません。上場することによって、デメリットやリスクも発生します。上場することで、目的や目標を達成できるかどうかを検討することが必要です。上場の目的や目標を明確にすることで、上場の意義や必要性を判断できます。
上場によって得られる効果とコストを見積もる
上場することには、効果とコストがあります。効果とは上場によって得られるメリットや利益のことで、コストとは上場によって発生するデメリットや負担のことです。
効果とコストを見積もることで、上場のメリットとデメリットのバランスを把握できます。効果とコストを見積もるためには、以下のような点に注意するとよいでしょう。
- 短期的なものと長期的なものに分けて考える
- 定量的なものと定性的なものに分けて考える
- 自社だけでなく、ステークホルダーにも及ぶことを考える
効果とコストを見積もることで、上場のリターンとリスクを評価できるでしょう。
上場後の経営環境や市場動向を分析する
上場すると、経営環境や市場動向に影響を受けます。経営環境とは、自社の内部や外部に存在する経営に関する要因のことで、市場動向とは、株式市場の状況や動きのことです。
上場後の経営環境や市場動向を分析することで、上場の適切なタイミングや市場を見極めやすくなります。上場後の経営環境や市場動向を分析するためには、以下のような点に注意するとよいでしょう。
- 経営環境は、自社の強みや弱み、機会や脅威に分けて考える
- 市場動向は、自社の業界やセクター、競合他社や顧客の動きに注目する
- 経営環境や市場動向は、変化に対応できるように柔軟に対応する
経営環境や市場動向を分析することで、上場の成功に必要な条件を探れます。
上場に向けて必要な準備や対策を計画する
上場には、多くの準備や対策が必要です。上場に向けて必要な準備や対策としては、以下のものが該当します。
- 上場申請や審査
- 上場料やコンサルティング費などの費用
- 有価証券報告書や株主総会などの情報開示
- 株式の価格や取引量などの株式市場の管理
- 株主や投資家などステークホルダーとのコミュニケーション
上場に向けて必要な準備や対策を計画することで、上場のプロセスをスムーズに進められ、上場の目的を達成することにもつながります。
上場のタイミングや市場を選択する
上場するには、適切なタイミングや市場の選択が重要です。タイミングとは、上場申請や上場日など上場に関する時期のことで、市場とは、上場する証券取引所や市場のことです。
上場の適切なタイミングや市場を選択することで、上場の効果やコストを最大化できます。上場のタイミングや市場を選択するためには、以下のような点に注意するとよいでしょう。
- タイミングは、自社の業績や成長性、株式市場の状況や需要などを考慮する
- 市場は、自社の規模や特徴、上場基準や費用、流動性や知名度などを考慮する
- タイミングや市場は、主幹事証券会社や証券取引所と相談して決める
上場のタイミングや市場を選択することで、上場の成功に必要な戦略を立てられます。
上場を検討するなら専門家のサポートも有効
この記事では、上場企業とは何か、上場するメリットやデメリット、上場するかどうかの判断のポイントについて解説しました。
上場に関する決断は、企業の将来に大きな影響を与えるものです。そのため、上場に関する知識や情報だけではなく、専門的なアドバイスやサポートを受けることも有効です。
特に、上場には税務上のさまざまな問題や対策があります。上場によって発生する税金や節税の方法などを知ることは、上場の効果やコストを最適化することにつながります。税務に関する専門家である税理士に相談することは、上場に向けての準備や対策に欠かせません。
税理士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 上場に関する税務の知識や情報を得ることができる
- 上場によって発生する税金や節税の方法を計画することができる
- 上場に関する税務の手続きや申告を代行してもらうことができる
税理士に相談することは、上場のメリットとデメリットのバランスを考慮することに役立ちます。上場に興味がある方は、私たち「小谷野税理士法人」へお気軽にご相談ください。