会社の設立時に法務局へ提出した会社登記の内容は、経営していく中で変更が生じることがあります。役員や商号、目的など変更内容はさまざまです。こうした変更が起こった場合、登記内容を変更する「変更登記」という手続きを行います。変更登記は自分で行うべきか悩んでいる経営者の方もいるのではないでしょうか。ここでは、変更登記の費用や手続き方法、自分で手続きをできるのかどうかという点について解説します。
目次
変更登記の必要性と期限について
変更登記とは、登記事項に変更があった場合に内容の変更を届け出る手続きです。
会社の設立時には、設立する会社の名称や所在地、目的などを登記申請します。登記申請の手続きは「会社登記」や「法人登記」と呼ばれ、商業登記法によって義務付けられている手続きです。
まずは、変更登記の必要性や期限について解説します。
変更登記の期限
会社設立時に申請した登記内容に変更があれば、変更登記しなければなりません。このことは、会社法第915条1項に下記のように規定されています。
「会社において第911条第3項各号又は前3条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければならない」
第911条第3項各号と前3条各号は、株式会社と特分会社(合同会社や合資会社など)の設立時の登記申請を指します。
こうした法人は、登記内容に変更が生じた場合には2週間以内に変更登記を行わなければならないことが法律で定められています。
変更登記の必要性
変更登記は法律で定められた義務です。期間内に手続きをしなければ過料として100万円以下の罰金が科せられます。手続きを放置した期間が長ければ長いほど過料も上がるため、期間内に手続きを行わなければなりません。
この過料は会社ではなく代表取締役個人に科されます。そのため、会社の経費で捻出することはできず、代表取締役個人が支払う必要があります。
ただし、登記変更が遅れたことに正当な理由がある場合は、異議申し立てが可能です。
変更登記が必要なケースと費用
変更登記では、手続きの際に「登録免許税」として費用が発生します。
ここでは、登記変更が必要なケースと費用について紹介します。なお、複数の内容変更が必要な場合は、まとめて変更登記の手続きが可能です。
役員の変更
会社を継続していれば、役員の変更が発生します。代表取締役や監査役などの役員に変更が生じた場合には、変更登記が必要です。
役員の変更は、就任や辞任、退任、解任などによって発生します。役員の任期が満期を迎えたものの同じ人物が継続して役員に就く「重任」の場合でも変更登記が必要になるため注意が必要です。
また、役員が結婚や離婚によって名字が変わるような場合や、自宅の引っ越しで住所が変わるような場合にも変更登記の手続きを行います。
役員の変更登記を行う際に発生する登録免許税は、会社の資本金の額によって異なります。
- 資本金が1億円以下の場合:1万円
- 資本金が1億円を超える場合:3万円
上記は変更1件ごとの金額になるため、変更内容が複数ある場合は内容の件数に応じて費用が変わります。
住所の変更
登記されている会社が移転などで住所変更があった場合、変更登記が必要です。この場合、移転先での営業を開始した日から2週間以内が手続きの期限です。
会社の定款には本店の所在地を記載しますが、所在地を市町村までしか決めておらず、その範囲内で移動する場合には定款の住所変更は不要です。一方で、番地まで決まっている場合には定款の変更が必要です。定款の変更は、臨時株主総会で決議を行います。
また、本社の住所変更だけではなく、支店の設置や廃止の際にも登記変更が必要です。この場合は本店の変更登記とは異なり、期限が3週間以内です。
住所変更による変更登記は、1件につき3万円の登録免許税が発生します。
事業目的の変更
会社は事業目的を登記し、その目的に沿った事業しか行えません。
新しいビジネスを始める場合、登記した目的に沿うものであれば変更登記は必要ありませんが、目的とは異なるビジネスの場合は変更登記が必要です。同様に、これまで扱ってきたビジネスをやめる場合も事業目的が変更されるため、手続きが必要になります。
事業目的を変更する場合には、株式会社ならば株主総会での特別決議、合同会社では社員全員の同意が必要です。そして、それぞれの同意書や議事録などを添付して申請します。
事業目的の変更による変更登記は、1件につき3万円の登録免許税が発生します。
商号の変更
商号の変更とは、登記されている会社の名称(社名)の変更です。商号も会社の定款に記載されているため、事業目的の変更と同様に株式総会による決議が必要です。
商号を変更すれば税務署や市役所、労働基準監督署などさまざまな機関への手続きが必要になるため、変更登記も忘れないように注意しなければなりません。
商号変更による変更登記は、1件につき3万円の登録免許税が発生します。
株式分割
株式分割とは、すでに発行されている株式をいくつかに分割し、株式の数を増やすことを指します。たとえば、1株を2株に分割して増やせば全体の株式数が増えることになり、その代わりに1株あたりの株価が下がります。
株式分割をすれば、投資家の株式購入のチャンスが増えるため株主数の増加が期待できることや、市場区分の昇格を狙えるなどのメリットがあるため、株式分割を行う会社も少なくありません。
株式の発行総数も登記事項にあるため、株式を分割する際には変更登記が必要です。株式分割の際には、発行できる株式総数を超えないようにしなければなりません。
株式分割による変更登記の免許税は、分割する株式の比率や株式数に関わらず一律3万円です。
資本金の変更
会社を経営していれば、資本金の増額や減額が起こることもあります。会社の設立時に資本金額も登記しているため、増額でも減額でも金額に変更がある場合には、変更登記が必要です。
資本金を増額した場合の登録免許税は、以下の2パターンのどちらかが採用されます。
- 増資金額の1000分の7
- 増資金額の1000分の7で算定した金額が3万円未満の場合は3万円
また、資本金が減額した場合には、3万円の登録免許税が発生します。
会社の資本金に関する詳しい内容は、以下の記事で解説しています。
参考:【税理士監修】会社設立時の資本金とは?その意義や設定方法と法的な注意点を解説
合併・組織の変更
合併や会社分割などによる組織変更が起こった際にも変更登記が必要です。
ただし、吸収合併によって存続する会社と消滅する会社では変更登記の内容が異なります。2週間以内という期限は同じですが、提出する書類が異なるため注意が必要です。
合併・組織変更によって存続する会社の登録免許税は、以下の該当するものが採用されます。
- 増資金額の1000分の5
- 増資金額の1000分の5で算定した金額が3万円未満の場合は3万円
一方で、消滅する会社の変更時の登録免許税は一律で3万円です。
変更登記の手続きの流れ
変更登記の手続きをスムーズに行うには、余裕を持って準備することが大切です。変更登記の手続きの流れを知り、変更登記に向けた準備を行いましょう。
変更登記の手続きは複数ありますが、大まかな流れは以下の通りに共通しています。
必要書類を準備する
変更登記の手続きでは、法務局へ申請書を提出します。まずは必要となる書類を集めることから始めましょう。
登記変更は複数の種類がありますが、どの登記変更の場合も申請書は必要です。申請書以外には、株主総会の議事録も多くの申請で必要です。
必要書類に関しては、法務局のホームページより変更登記の種類に応じたものを準備してください。なお、申請書はホームページより書式がダウンロード可能です。
法務局へ提出する
変更登記の申請書は、法務局へ提出します。提出方法は、窓口申請・郵送・オンライン申請の3種類です。
窓口や郵送で申請する場合、申請者と代表者が異なる場合は委任状が必要になります。
また、オンライン申請する際には、申請用ソフトや電子署名などが必要です。あらかじめ準備しておきましょう。
審査後に完了
申請書類を提出すれば、審査が行われます。審査にかかる期間は1~2週間が目安ですが、法務局ごとに完了期間は異なります。登記完了の連絡はこないため、審査が終了したか確認したい場合は電話で問合せてください。
書類に不備があった場合は法務局から連絡があり、再度書類の提出が必要です。
変更登記は自分でできるのか?
変更登記の手続きは決められた書類の提出などが必要ですが、手続き自体は資格のある専門家が行わなければならないなどのルールはありません。そのため、経営者自身が手続きをすることは可能です。
ただし、変更登記を自分ですることにはメリットもデメリットもあります。メリットとデメリットの内容をそれぞれ理解し、手続きの進め方について検討してみてください。
変更登記を自分でするメリット
変更登記の手続きをする方法は、「自分で行う」もしくは「専門家へ依頼する」のどちらかです。専門家へ依頼すれば費用が発生するため、自分で変更登記の手続きをすれば費用を抑えられる点はメリットでしょう。
知識が必要になる部分もありますが、手間を惜しまなければ法務局の窓口へ相談しながら自分で手続きをすることも可能です。
変更登記を自分でするデメリット
変更登記には登記申請書や株主総会議事録など必要書類を集め、作成しなければなりません。内容によっては専門的な知識も必要になり、多くの時間を要します。この手間や時間がかかるという点がデメリットです。
また、変更登記の申請期間は基本的に2週間と短いため、間に合うように余裕を持って準備を進めなければなりません。書類に不備があれば再提出が必要になり、申請期間を過ぎてしまう可能性があります。そうなると、罰金など余計な費用が発生することになり、自分で手続きを進めて費用を抑えた意味がなくなってしまいます。
変更登記は専門家に依頼できる
変更登記は自分でも行えますが、専門家に依頼することも可能です。専門家に依頼することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
専門家に依頼するメリット
専門家に依頼すれば、変更登記の手続きの書類集めや作成を行う手間を省けることが大きなメリットです。自分の時間を削って書類を準備することや、法務局へ出向く必要はなく、事業へ集中することができます。
また、専門家なので書類に不備がないように準備をすることが可能です。変更登記は申請期間が短いため、専門家に依頼すればスムーズかつ滞りなく手続きを進められることもメリットといえます。
変更登記の手続きは余裕を持って準備しましょう
ここでは、変更登記の必要なケースや費用、手続きの流れなどについて解説しました。
変更登記は自分でも手続きを行えますが、原則2週間という短い期間内で書類集めから作成、提出までを行わなければなりません。内容によっては変更登記以外にもさまざまな手続きなどが必要になることもあり、経営者自身で手続きをすれば手一杯になってしまう可能性もあります。
会社を経営していくにあたって事業の拡大や縮小、合併などさまざまな変化が起こり、その度に変更登記は必要です。
司法書士と連携している税理士へ依頼していれば変更登記を任せることができるだけではなく、節税のアドバイスや確定申告などのサポートも受けられます。
小谷野税理士法人では豊富な知識と経験を持つ税理士が在籍し、提携司法書士による登記関係にとどまらず、確定申告などさまざまな税務サポートにも対応をしています。まずはお問合せフォームよりお気軽にお問合せください。