役員報酬は、額面が増えても税金や社会保険料の負担により、手取りが増えないのが課題の1つです。手取りを増やすのであれば、社会保険料の仕組みについて理解し、非課税制度などを活用しながら負担を減らすことで解決できる場合があります。この記事では、役員報酬の手取りを増やすための節税テクニックと注意点について解説します。
目次
役員報酬の手取りが減る2つの要因

役員報酬の額面金額と手取り額に差が生じる背景としては、主に2つの要因が存在します。具体的には「社会保険料」と「税金(所得税・住民税)」です。ここでは、手取りを増やすために押さえておきたい各要素の仕組みについて解説します。
社会保険料|報酬額に応じて負担が増える
社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料で構成されており、役員報酬から天引きされます。各種保険料は報酬月額を基に決定される「標準報酬月額」と呼ばれる区分に基づいて計算され、報酬が高くなるほど標準報酬月額も上がる仕組みです。
| 役員報酬額(ひと月あたり) | 健康保険料 | 健康保険料 | 厚生年金保険料 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 介護保険第2号被保険者に該当しない(9.91%) | 介護保険第2号被保険者に該当する(11.50%*1) | 一般・坑内員・船員(18.30%*2) | ||||
| 全額 | 自己負担額 | 全額 | 自己負担額 | 全額 | 自己負担額 | |
| 30万円 | 29,730円 | 14,865円 | 34,500円 | 17,250円 | 54,900円 | 27,450円 |
| 50万円 | 49,550円 | 24,775円 | 57,500円 | 28,750円 | 91,500円 | 45,750円 |
参考:令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
*1 介護保険第2号被保険者のなかで40~64歳までの方の場合は、健康保険料率(9.91%)に介護保険料率(1.59%)が加算されます。
*2 厚生年金保険料率は、基金ごとに定められている免除保険料率(2.4~5.0%)を免除した率になります
社会保険料について理解しないまま役員報酬を決めていた場合、知らず知らずのうちに手取りを減らしている可能性があります。役員報酬には一定のランニングコストがかかることを考慮し、払い続けられる金額を設定することをおすすめします。
参考:令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
所得税と個人住民税|所得に連動して決まる
社会保険料と並んで手取りを減らす要因として所得税と住民税もあります。所得税は、役員報酬から給与所得控除や各種所得控除を差し引いた後の課税所得に対して課されるものです。課税所得金額に対する詳しい税率は下表の通りです。
| 課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000~194万9,000円まで | 5% | 0円 |
| 195万~329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
| 330万~694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
| 695万~899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
| 900万~1,799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万~3,999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
一方の個人住民税は「均等割」と「所得割」の2つで構成され、東京都であれば下表のような仕組みとなっています。
| 均等割(年額) | 所得割 |
|---|---|
・特別区民税3,000円 ・都民税1,000円 ・森林環境税1,000円 | ・前年の所得金額を基礎として計算される ・以下の計算方法を用いて算出される (所得金額 – 所得控除額) × 税率(特別区民税6%・都民税4%) = 所得割額 |
均等割については、所得にかかわらず一定額が年額として計算されますが、所得割は前年の所得金額を基に計算される仕組みです。つまり、前年度の役員報酬が高いほど所得割額が増えるため、次年度の手取りが減ることになります。
役員報酬の手取りを増やす場合には、社会保険料をはじめ、所得税や個人住民税の仕組みを押さえることが大切と言えるでしょう。なお、社会保険料や所得税などを参考にしながら自社に適切な役員報酬を決め直したい方は、こちらからお気軽にご相談ください。
役員報酬の手取りを増やす方法①~各種制度の利用・社会保険料の軽減~

役員報酬の額面を直接変更する方法以外にも、社会保険料の算定対象とならない制度を活用することで手取りを増やすことができます。ここではまず、各種制度の利用と社会保険料の軽減に焦点を当てた方法について解説します。
パターン1:通勤手当を非課税限度額まで支給する
役員報酬の一部を通勤手当として支給することで、所得税の負担を軽減できます。通勤手当は、所得税法で定められた非課税限度額内であれば非課税となります。具体的には、公共交通機関利用の場合であれば月額15万円が上限です。
パターン2:役員社宅制度で家賃負担を会社の経費にする
役員社宅制度の利用によって手取りを増やすことも可能です。役員社宅制度は、会社が契約した物件を役員に貸し出し、役員から一定額の家賃を受け取る制度です。役員は、会社に支払う家賃(家主に支払う家賃の50%)を負担するだけで住居を確保できます。
例えば、個人契約で10万円の家賃を払っている方が社宅制度を利用した場合です。自己負担を50,000円に抑えられれば、単純計算で50,000円分の可処分所得が増えることになります。会社にとっても、支払家賃と役員から受け取る家賃の差額を福利厚生費として経費計上できるメリットがあります。
なお、経費として認められるためには賃料相当額を計算し、役員から徴収する家賃が賃料相当額以上であるなどの条件がある点に注意しましょう。
パターン3:出張旅費規程を整備して日当を非課税で受け取る
出張が多い役員であれば、出張旅費規程の整備によって手取りを増やすことも可能です。出張旅費規程に基づいて支給される出張日当は、社会通念上相当と認められる金額であれば非課税所得とみなされます。そのため所得税や住民税がかからないほか、社会保険料の算定対象からも外れます。
会社にとっては経費として計上でき、役員は非課税で受け取れることから、双方にメリットがあるのは魅力的な方法と言えるでしょう。
パターン4:福利厚生を充実させて現物支給を活用する
食事補助や人間ドックの費用負担という形で福利厚生を提供する方法も手取りを増やす方法の1つです。各費用は一定の要件を満たすことで給与として課税されず、会社の福利厚生費として経費処理できます。役員が個人負担していた支出を会社が肩代わりする形になるため、個人の可処分所得が増加する仕組みです。どの制度が自社にとって最適か、導入による効果をシミュレーションした上で検討を進めると良いでしょう。
パターン5:所得控除・税額控除を利用する
各種所得控除と税額控除の利用も有効です。役員報酬にかかる所得税には、以下の控除を適用できる場合があります。
- 医療費控除
- セルフメディケーション税制
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
役員報酬を改めて決定する際は、所得税に適用可能な控除について調べることをおすすめします。自社役員に支給する役員報酬において、適用できる控除について知りたい方は、こちらからお気軽にお問い合わせください。
役員報酬的手取りを増やす方法②|将来に備えながら節税効果を得る
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員が事業を辞めたり退職したりした際にかかる生活費などの資金を準備できる共済制度です。税制上のメリットとしては、月々の掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として、その年の課税対象となる所得から控除される点です。
小規模企業共済に加入することで、所得税および住民税の負担が軽減されます。将来、共済金を受け取る際も退職所得扱いまたは公的年金等の雑所得扱いとなるため、税制上の優遇措置を受けることが可能です。
他にもある!役員報酬の手取りを増やす方法③
小規模企業共済への加入や、各種控除の活用以外にも、役員報酬の手取りを増やすことができます。具体的には下記の通りです。
パターン1:家族を役員にして所得税率の上昇を抑える
配偶者や自身の子どもなどを役員に就任させ、勤務実態に応じた役員報酬を支払うことで所得の分散が図れます。例えば、1人の役員が2,000万円の報酬を得る場合と、本人1,200万円・配偶者800万円と分けて受け取る場合です。世帯全体で納税しなければならない所得税額は、後者の方が低く収まります。
ただし適用にあたっては、対象となる家族が役員として相応の職務に従事している実態が必要です。名目だけの役員であったり、働きに見合わない高額な報酬だったりする場合は、税務調査で否認されるリスクがあるので注意しましょう。
パターン2:生命保険に加入して会社の経費で退職金準備をする
会社の経費を使い、生命保険に加入する方法もあります。契約者を会社に、被保険者を役員にして、保険料の一部または全額を損金計上することで、法人税の負担を抑えつつ退職金原資を積み立てられます。直接、手取りを増やすものではありませんが、会社の資金で将来の資産形成ができる点はメリットです。退職時に解約し、解約返戻金を退職金として支給すれば、役員は税制上優遇された退職所得として受け取れます。
役員報酬の手取りを増やす際に知っておくべき注意点

役員報酬に関する節税策や手取りを増やすための各種施策は、法人税法などのルールに則って慎重に進める必要があります。ここでは役員報酬の手取りを増やす際に知っておくべき注意点について解説します。
役員報酬の金額変更は事業年度開始から3ヶ月以内が原則
法人税法上、役員報酬を損金として計上するためには、原則として「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。毎月同額の給与を支給するというルールで、事業年度の途中で恣意的に報酬額を変更して利益を操作することを防ぐ目的です。
役員報酬の金額を改定できるタイミングは、原則、事業年度開始の日から3ヶ月以内です。なお、必要な手続きを経ずに増額・減額した場合、増額・減額した部分が損金と認められないので注意しましょう。
不相当に高額な役員報酬は損金として認められないリスクがある
役員報酬の金額は、役員の職務内容や会社の収益状況などを総合的に勘案して、妥当な範囲内で決定しましょう。各要素から見て不相当に高額であると税務調査で判断された場合、その高額とされた部分の金額は損金として認められません。損金不算入となった場合、会社はその金額に対して法人税を課されます。
また、役員個人も所得税を納めているため、二重課税になる可能性がある点に注意しましょう。
会社の資金繰りを圧迫しないよう適切な報酬額を設定する
役員報酬は、会社にとって毎月発生する固定費の1つであり、金額が高いと会社のキャッシュフローに影響を及ぼします。手取りを増やすという役員個人の希望だけを優先すると、納税資金の不足や運転資金の枯渇を招き、経営そのものが頓挫しかねません。会社の持続的な成長に必要な内部留保や将来への投資資金を確保し、無理のない範囲で報酬額を決定しましょう。
まとめ
役員報酬の手取り額を増やすためには、税金と社会保険料の仕組みを深く理解することが起点となります。報酬額の変更だけでなく、通勤手当や社宅制度などの方法を取り入れることで、負担を抑えながら実質的な可処分所得を高められます。
本記事で解説した方法を実行する際は、専門知識を有する会計士と相談しながら慎重に判断することが大切です。速やかに会計士・税理士に相談したい方は、小谷野税理士法人までお問い合わせください。










