個人事業主として活動する上で、年収1,000万円は1つの目標となる数字でしょう。しかし、会社員と異なり、売上がそのまま収入になるわけではありません。経費や税金などが差し引かれ、実際の手取り額は想像以上に小さくなるケースも考えられます。この記事では、年収1,000万円の個人事業主の手取り額目安や、支払う税金の種類を解説します。
目次
年収1,000万円の個人事業主の手取り額の目安は?

社会保険料・税金の合計負担が約250万円〜350万円程度になるため、経費を含めない手取り額は概ね650万円〜750万円が目安です。
例えば、年収1,000万円から経費100万円を差し引くと所得は900万円です。ここから所得税・住民税・個人事業税、さらに国民健康保険・国民年金などの社会保険料が差し引かれます。
青色申告特別控除やiDeCo、小規模企業共済などの節税策をどれだけ活用するかで、最終的な手取り額は変動します。経費を適切に計上し、各種控除を漏れなく適用すれば、手取り額を750万円に近づけることも可能です。
参考:個人事業主・フリーランスの手取りシミュレーション|年収や手取りの計算方法
年収1,000万円の個人事業主が納める4つの税金

年収1,000万円の個人事業主は、売上から経費を差し引いた所得に対して、複数の税金を納める義務があります。主に負担する税金は、所得税・住民税・個人事業税・消費税(課税売上高が1,000万円を超えた場合)の4種類です。
ここでは、それぞれ計算方法や納付のタイミングについてまとめました。
所得税:課税所得に応じて税率が変動
所得税は、1年間の総所得から経費や各種所得控除を差し引いた「課税所得」に対して課される税金です。日本は累進課税制度を採用しているため、所得が増えるほど高い税率が適用されます。
年収1,000万円の個人事業主の場合、経費や控除額によりますが「課税所得695万円から899万9,000円以下」の範囲に該当する場合の税率は23%です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
青色申告を行うことで適用される最大65万円の青色申告特別控除や、社会保険料控除、生命保険料控除などを最大限に活用し、課税所得を圧縮することが節税の基本です。
1年間(1月1日〜12月31日)の所得に対する所得税を、翌年3月15日までに納付します。
住民税:前年の所得に応じて課税
住民税は、前年の所得を基準として都道府県と市区町村に納める地方税で、2つの要素から構成されています。
- 所得割:所得に応じて課税(多くの自治体で10%)
- 均等割:所得に関わらず一定額
例えば所得が800万円の場合、課税所得に対して一律10%が課されるため、例えば課税所得800万円の場合は約80万円です。個人事業主は所得が増えると住民税も増加するため、税負担が大きくなった段階で法人化を検討するのも一つです。
毎年6月頃に送付される納税通知書に基づき、一括または年4回の分割で納付します。
個人事業税:法律で定められた70の事業が対象
個人事業税は、地方税法で定められた70の「法定業種」に該当する個人事業主に対して課される地方税です。ITエンジニアやデザイナー、コンサルタントといった多くの業種が対象となりますが、文筆業や翻訳業などは非課税です。
課税額は「年間の所得−290万円(事業主控除)」に対して課税され、税率は業種ごとに3%〜5%の範囲で設定されています。そのため、控除後の所得が0円以下であれば、個人事業税は発生しません。
個人事業税は年1回、8月頃に都道府県から送付される納税通知書に基づき、指定された期限までに納付します。
消費税:課税売上高1,000万円超で納税義務
消費税は、基準期間である前々年の課税売上高が1,000万円を超えた場合に納税義務が発生します。通常は、売上が初めて1,000万円を超えた場合でも、実際に消費税を納めるのは2年後からです。
2023年10月開始のインボイス制度により、売上1,000万円以下でも取引先との関係上、課税事業者に該当するケースも増えています。
納税額の計算方法は2種類です。
- 本則課税:預かった消費税と支払った消費税の差額で計算
- 簡易課税制度:業種ごとの「みなし仕入率」を用いて簡略化
事業の規模や業種に応じて選択肢が変わるため、事前の検討が必要です。消費税は事業年度末の翌年3月31日までに申告・納付するのが原則で、課税事業者はこの期限までに前年度分の消費税をまとめて納めます。
年収1,000万円の個人事業主が支払う社会保険料

個人事業主は、税金に加えて「国民健康保険」と「国民年金」2種類の社会保険料も全額自己負担で納付する必要があります。会社員のように事業主と折半ではないため、手取りに大きく影響する重要な支出項目です。
ただし、支払った社会保険料は、全額が所得控除の対象(社会保険料控除)となるため、結果的に所得税や住民税の節税につながるメリットもあります。ここでは、国民健康保険と国民年金について詳しくまとめました。
国民健康保険料:自治体ごとに計算方法が異なる
国民健康保険料は、以下の要素を組み合わせて計算されます。
- 所得割:前年の所得に基づいて計算される
- 均等割:加入者一人ごとに一定額が課される
国民健康保険料は、市区町村ごとに計算方法や料率、賦課限度額(上限額)が異なるため、全国一律ではありません。所得が高くなるほど負担も大きくなり、特に高所得者の場合は年間保険料が上限額に達するケースもあります。
例えば、東京都新宿区が公開している資料によると、医療分・後期高齢者支援金分・介護分を合計した賦課限度額は最大106万円とされています。
正確な保険料を把握するには、お住まいの自治体の公式ウェブサイトでシミュレーションを行う、または役所の担当窓口に直接問い合わせるのが確実です。
国民年金保険料:所得に関わらず一律
国民年金保険料は、所得額にかかわらず20歳以上60歳未満の全ての被保険者に対して一律の金額が設定されています。
保険料は毎年見直されており、令和6年度(2024年4月分から2025年3月分まで)の保険料は月額16,980円です。年額に換算すると203,760円の負担となります。
前納制度を利用すると割引が適用されるため、資金に余裕があれば活用を検討するとよいでしょう。また、将来の年金受給額を増やしたい場合は「国民年金基金」や「付加年金」などの制度に任意で加入することも可能です。
年収1,000万円の個人事業主と会社員の手取り額はなぜ異なる?
同じ年収1,000万円であっても、個人事業主と会社員では手取り額が異なります。一般的に、同じ年収1,000万円でも会社員の方が手取り額は多くなる傾向があります。
社会保険料を会社が半分負担してくれる点や、給与所得控除といった仕組みによって、会社員の税・社会保険負担が個人事業主よりも抑えられやすいためです。ただし、個人事業主は経費を多く計上できるため、業種や支出の状況によっては手取りが逆転するケースもあります。
ここでは、同じ年収でも個人事業主と会社員で手取り額が変わる主な理由を解説します。
社会保険料の負担方法が異なるため
会社員が加入する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の保険料は、会社と従業員が50%ずつ負担する労使折半が原則です。給与明細から天引きされている金額と同額を、会社が支払っているのです。
年収1,000万円の会社員の場合、会社負担分は年間で数十万円規模に達することもあり、実質的な手取り額を押し上げる要因となります。見えにくいコストを会社が負担している点は、会社員のメリットと言えるでしょう。
経費(控除)の計算方法が異なるため
個人事業主は、事業に必要な支出を幅広く「経費」として計上できます。経費が多くかかる業種であれば、課税所得を大きく抑えられるため、結果的に会社員より手取りが多くなるケースもあります。
一方、会社員は経費を自由に計上できない代わりに、収入に応じて一定額が自動で差し引かれる「給与所得控除」が適用されます。年収1,000万円の場合、控除額は195万円と非常に大きく、経費が少ない個人事業主よりも課税所得が低くなることもあります。
このように、同じ年収1,000万円でも、どちらの手取りが多くなるかは一概には言えず、「どの程度経費(控除)を使えるか」によって大きく左右されるのが特徴です。
また、個人事業主の場合は、事業内容によって個人事業税が課されるかどうかや、どの控除を適用できるかといった条件によっても手取り額は大きく変わるため注意が必要です。
所得800万円超えなら法人化(法人成り)の検討を
個人事業主として事業が安定し年間所得が800万円を超えてくると、法人化(法人成り)を検討するメリットが大きくなります。個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税制度であるのに対し、法人税の税率は一定の範囲で固定されているためです。
そのため、所得が特定の水準を超えると、法人を設立して法人税を納める方が税負担を軽減できる可能性が高まります。この分岐点は事業内容にもよりますが、一般的には所得800万円〜1,000万円程度とされています。
法人化による税負担軽減のメリット
法人化の最大のメリットは税負担が軽減できる点です。
- 個人事業主の所得税率:最大45%
- 法人税率:年間所得800万円超の部分で23.2%、所得800万円以下の部分で15%(資本金1億円以下の中小法人の場合)
上記のように最大税率が法人の方が低く設定されています。さらに、以下のようなメリットも挙げられます。
- 自身への給与を役員報酬として経費にでき、給与所得控除が適用可能
- 家族を役員にして所得を分散できる
- 赤字を最大10年間繰り越せる(個人事業主は3年)
これらにより、同じ売上でも法人化することで課税所得を調整しやすくなり、長期的に税負担を軽減しやすくなります。
法人化で発生する設立コストや事務負担のデメリット
法人化には税務上のメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在します。
- 株式会社設立の場合、約20万円〜25万円程度の初期費用が必要(定款認証や登記手続きなど)
- 赤字でも法人住民税の均等割(最低年間約70,000円)が必ず発生
- 社会保険への加入が義務化され、会社負担分が増加
- 会計・税務が複雑化し、税理士費用などのランニングコストが発生
とはいえ、所得が一定水準を超えてきたら、法人化は有力な選択肢の一つです。税負担の軽減だけでなく、社会的な信用力の向上など個人事業主では得られない恩恵が増えるでしょう。
まとめ
年収1,000万円の個人事業主の手取り額は、経費の使い方や各種控除の活用状況によりますが、約650万円〜750万円が目安と言えます。手取り額を最大化するには、所得税・住民税・個人事業税などの税金や、国民健康保険料・国民年金といった社会保険料の仕組みを正確に理解する必要があります。
また、事業が安定し年間所得が800万円を超える水準になれば、税負担の軽減や社会的信用の向上といった観点から、法人化検討すべき段階に入ると言えるでしょう。






