法人を設立して「一人社長」となった場合、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入は義務です。社会保険料は役員報酬の額に応じて決まり、資金繰りにも影響します。この記事では、役員報酬の金額別に一人社長が支払う社会保険料の目安をシミュレーション付きで紹介します。あわせて、自分で計算する方法や、社会保険未加入のリスク、国民健康保険との違い・メリットも解説します。ぜひ最後までお読みください。
目次
一人社長でも社会保険への加入は法律上の義務

法人を設立した場合、たとえ従業員が自分一人だけでも、健康保険・厚生年金保険への加入は法律で義務付けられています。
法人は、健康保険法および厚生年金保険法において「強制適用事業所」とされており、事業主の意思にかかわらず、社会保険の適用対象となるからです。
そのため、法人を設立した場合は、速やかに所轄の年金事務所で社会保険の新規適用手続きを行う必要があります。
参考:健康保険法|厚生労働省
【役員報酬額別】一人社長の社会保険料シミュレーション

役員報酬の金額によって、社会保険料の負担額は大きく異なります。
ここでは、役員報酬額ごとの社会保険料をシミュレーションしますので、金額の違いを見ていきましょう。
本シミュレーションは、以下の条件に基づいて計算しています。
- 事業所所在地:東京都
- 役員本人の年齢:40歳未満(介護保険の第2号被保険者には該当しない)
- 保険料率(令和7年度):健康保険料9.91%、厚生年金保険料18.3%
なお、社会保険料は原則として会社と個人で折半しますが、一人社長の場合は会社と個人の両方を負担しているとも言えます。
役員報酬30~100万円の保険料の目安を表にしました。以下は、会社と個人を合計した金額です。
役員報酬 (月額) | 標準報酬月額 (健康保険/ 厚生年金) | 健康保険料 (月額) | 厚生年金保険料(月額) | 社会保険料合計(月額) | 年間負担 総額 |
30万円 | 30万円/ 30万円 | 29,730円 | 54,900円 | 84,630円 | 約101万円 |
50万円 | 50万円/ 50万円 | 49,550円 | 91,500円 | 14万1,050円 | 約169万円 |
80万円 | 79万円/ 65万円(上限) | 78,289円 | 11万8,950円 | 19万7,239円 | 約236万円 |
100万円 | 98万円/ 65万円(上限) | 97,118円 | 11万8,950円 | 21万6,068円 | 約259万円 |
※厚生年金には上限があるため、報酬が高くなっても保険料は一定で頭打ちになります
※介護保険料は含めていません
役員報酬が高額になると、社会保険料だけで年間259万円以上の負担です。
そのため、役員報酬の設定は資金繰りへの影響も見据えて慎重に行う必要があります。
参考:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)|全国健康保険協会
一人社長の社会保険料を自分で計算する3つのステップ

社会保険料は役員報酬の金額に基づいておおまかに算出可能です。
ここでは、一人社長が自分で社会保険料を試算するための3つのステップを解説します。算出の際の参考にしてください。
自身の「標準報酬月額」を保険料額表で確認する
社会保険料の計算は、実際の報酬月額ではなく「標準報酬月額」という区切りのよい金額を基準に行います。
標準報酬月額は毎年4月から6月に払った報酬の平均額を基に決定され、その年の9月から翌年8月まで適用されます。
自身の標準報酬月額を知るためには、加入している健康保険組合の保険料額表を確認しましょう。
健康保険と厚生年金保険の保険料率を調べる
次に、適用される保険料率を確認します。
厚生年金保険の保険料率は全国一律ですが、健康保険の保険料率は事業所の所在地がある都道府県によって異なります。
また、40歳から64歳までの被保険者(介護保険第2号被保険者)は健康保険料に加えて介護保険料も徴収されるため、介護保険料率も確認が必要です。
保険料率は標準報酬月額と同様に保険料額表に記載されています。
なお、保険料率は毎年改定される可能性があるため、常に最新の情報を確認しましょう。
計算式に当てはめて保険料を算出する
標準報酬月額と保険料率が分かれば、次の計算式で保険料算出が可能です。
社会保険料=標準報酬月額×保険料率
保険料は、会社と被保険者(社長自身)が半分ずつ負担する「労使折半」となります。
よって、計算した保険料の半分が役員報酬から天引きされる個人負担分、残りの半分を会社が法定福利費として納付します。
ただし、一人社長の場合は実質的に全額を自身で負担する点に注意しましょう。
社会保険に加入しない場合に起こりうる3つのリスク
法人である以上、たとえ社長一人の会社であっても、社会保険への加入は法律で義務付けられています。よって、未加入でいると重大なリスクに直面するかもしれません。
ここでは、社会保険に加入しない場合に起こりうるリスクを3つ解説します。
年金事務所から加入を催促する通知が届く
法人の設立情報は登記されているため、年金事務所は社会保険が未加入の事業所を把握できます。よって、加入していない状態が続くと、まず年金事務所から加入を促す文書が送付されますので注意しましょう。
この通知を無視していると、次は電話による連絡や、職員が事業所を訪問する加入指導が行われるかもしれません。「社長一人の会社だから見つからないだろう」という考えは危険で、最終的には職権による強制加入が行われる場合もあります。
最大2年分の保険料を遡って支払うことになる
年金事務所の指導に応じず、最終的に強制加入の措置が取られた場合は、過去に遡って保険料の支払いを求められます。社会保険料の徴収時効は2年のため、最大2年分の保険料を一括で納付しなければなりません。
役員報酬の金額によっては、遡及徴収額が数百万円にのぼるケースもあります。一人社長の会社にとって、こうした予期せぬ多額の支出は資金繰りを圧迫し、事業の継続に影響を与える可能性があります。
国や自治体の助成金が申請できなくなる
国や地方自治体が実施している制度には、創業時に活用できる助成金や、従業員を雇用する際に受けられる補助金など、事業の成長を後押しするさまざまな制度があります。しかし、社会保険に未加入の場合、助成金や補助金を利用できなくなるかもしれません。
一人社長の段階から適切に加入しておくことは、将来の事業拡大や資金調達の選択肢を広げるためにも重要です。
国民健康保険との違いは?社会保険に加入する4つのメリット
法人を設立すると社会保険への加入が義務となりますが、保険料の負担が増える一方で、国民健康保険・国民年金にはないさまざまなメリットがあります。ここでは、一人社長が社会保険に加入することで得られる主なメリットを4つ解説しますので見ていきましょう。
将来もらえる年金額(厚生年金)が増加する
社会保険に加入すると、国民年金(基礎年金)に加えて厚生年金にも加入します。これは、日本の公的年金制度における2階建て構造の2階部分です。国民年金のみに加入する個人事業主と比べて、将来受け取る老齢年金額が上乗せされるため、より手厚い老後保障が得られます。
なお、支払う厚生年金保険料は役員報酬額に応じて決定し、その額が高いほど将来の受給額も増加します。将来の生活設計を考えるうえで、厚生年金は大きなメリットと言えるでしょう。
家族(配偶者や親)を扶養に入れることができる
社会保険の健康保険には扶養制度があります。被保険者である社長が家族の生計を維持しており、かつ年収などの要件を満たす場合、配偶者・子ども・親などを被扶養者として加入させることができます。
被扶養者となった家族は、追加の保険料を負担することなく健康保険の給付が可能です。
一方、国民健康保険には扶養の仕組みがないため、家族一人ひとりがそれぞれ保険料を支払わなければなりません。そのため、扶養する家族がいる場合には、社会保険の方が世帯全体の保険料負担を軽減できるケースが多くなります。
病気やケガで休業した際に傷病手当金がもらえる
健康保険の被保険者は、業務外の病気やケガで働けなくなり、連続3日間休業した場合、4日目から傷病手当金の受給が可能です。支給額は報酬のおよそ3分の2で、最長1年6ヵ月にわたり支給されます。
一方、国民健康保険には傷病手当金の制度はありません。一人で事業を担う社長にとっては、万が一働けなくなった際の所得補償として得られる安心感は大きいでしょう。
障害年金や遺族年金の保障内容が手厚くなる
万が一、病気やケガで障害が残った場合や、死亡した場合も、社会保険のほうが保障が手厚くなります。厚生年金に加入している場合は、障害基礎年金に加えて障害厚生年金、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金が上乗せして支給されます。
この仕組みにより、障害等級の範囲が広がったり、支給要件が緩和されたりするケースがあり、より充実した保障を受けることが可能です。自身や家族の生活を守るうえでも、社会保険の保障内容が充実していることは大きなメリットと言えるでしょう。
一人社長が社会保険に加入するときのよくある質問
最後に一人社長が社会保険に加入するときのよくある疑問について、それぞれわかりやすく回答していきます。
社会保険料が払えない月があった場合は?
社会保険料を期限までに納付できない場合、延滞金が発生し、督促状が送付され、 最終的には差押えといった手続きへ進むことがあります。事業の資金繰りが厳しいと感じた時点で、早めに税理士や社会保険労務士へ相談しましょう。
社会保険の加入で節税になることはありますか?
あります。社会保険料は会社負担分を損金算入できるため、法人税の節税効果があります。また、役員報酬の決め方とあわせて見直すことで、社長の手取り額と法人税の負担をバランスよく調整することも可能です。
一人社長でキャッシュフローが不安です。どこに相談すべき?
社会保険の加入は、税務・人事労務・資金繰りなど複数の分野に関わるため、税理士と社会保険労務士の両方に相談できる体制が最も安心です。
- 税理士:役員報酬の決め方、節税、法人税・資金繰り
- 社労士:社会保険の手続き、標準報酬月額、労務リスク
それぞれの専門家が違う角度からサポートできます。
まとめ
社会保険は、国民健康保険と比べると保険料負担は大きくなります。しかし、将来の年金額の上乗せや家族の扶養、病気やケガによる休業補償、万一の遺族保障など、多方面でより手厚い制度です。
こうしたメリットを踏まえると、一人社長の段階から社会保険に加入しておくことは、将来のリスクに備え、会社経営と家族の生活を守るための大切な判断だと言えるでしょう。










