「延払基準」について、疑問に感じている方が多いのではないでしょうか。延払基準は長期の分割払いで商品やサービスを提供する企業にとって、これまで重要な考え方のひとつであり、「代金を受け取るタイミングで売上を計上する」という特例のルールです。延払基準は廃止が決まっており、一部の取引に対しては段階的に切り替える「経過措置」が設けられています。この記事では、経過措置の仕組みと廃止までの流れについて解説します。
目次
延払基準とは

通常の会計では、商品を引き渡した時やサービスを提供した時点で売上を計上する「引渡基準」が一般的です。
一方、延払基準では、代金の支払期限が到来したタイミングで、初めて売上として計上します。長期分割払いの取引において、「まだお金が入っていないのに税金だけ先に発生する」ような状況を避けるための制度です。
例えば、何年にもわたって支払ってもらう高額商品の販売や、リース取引などでよく使われている方法です。しかし、会計基準の改正にともない、法人税の世界でも「収益は原則、引渡時点で計上する」流れが強まったため、延払基準は廃止の流れをとっています。
延払基準が適用される取引
延払基準は、長期にわたり代金を回収する取引で適用されています。代表的な取引には、長期割賦販売とリース譲渡があります。
長期割賦販売
建設工事や高額な機械の販売で、「2年以上にわたる分割払い」「頭金が総額の3分の2以下」「支払いは3回以上」という条件に当てはまる取引です。これまでは回収した金額に応じて少しずつ売上を計上していました。そのため、初年度からの大きな税負担を回避ができたわけです。
しかし、平成30年度の税制改正によって、長期割賦販売に対する延払基準の特例は廃止され、現在は原則どおり「引渡時点」で売上を一括計上しなければいけません。
リース譲渡
リース取引では、リース資産を貸し出すのではなく、実質的に譲渡する形になる場合があります。これまではリース譲渡についても、延払基準を用いた収益計上が認められていました。
「リース料の支払いに応じて、少しずつ売上を立てる」計算方法です。しかし、リース取引についても延払基準廃止の流れが及んでいます。令和7年度税制改正で原則廃止が予定されているものの、令和9年3月31日開始前の事業年度までは一部経過措置が認められています。
延払基準の計算方法
延払基準の計算方法には、賦払金割合を用いる方法と、リース期間に応じて計算する方法の2種類がありました。
賦払金割合を用いる方法
リース料(賦払金)の支払スケジュールに応じて、収益と費用を計上するやり方です。その年に支払期限がくるリース料の合計が、リース契約全体の金額に対してどれくらいの割合かを算出します。
算出した割合を使って、収益や原価を分割して計上していました。言い換えれば、「今期もらえる分だけを、売上として計上していた」というイメージです。
リース期間に応じて計算する方法
もう一つの方法では、リース期間の長さ(月数)で均等に割る方法が使われていました。具体的には、リース契約の総額から利息分を差し引き、元本に相当する部分をリース期間の月数で割ります。そのうえで、当期に該当する月数分だけを掛けて、収益を計算します。
さらに、まだ支払われていない分に対応する利息分も、当期分として収益に加える必要がありました。一方で費用(=原価)も同様に、リース期間全体で割り算し、当期に対応する分だけを計上するのが主流だったのです。
リース期間に応じた計算方法は「代金が手元に入ってくるタイミングに合わせて収益を分散する」という目的のもと、認められていました。しかし、令和7年度の税制改正により、延払基準は廃止され、今後は原則として「引渡し基準」が適用される予定です。今後はリース取引であっても、資産を引き渡した時点で損益をまとめて計上する必要があります。
延払基準廃止の背景

延払基準が見直された背景には、国際的な会計ルールとの整合性をとる必要性があります。これまで日本では、「代金の支払期限が到来したタイミング」という考え方が認められていました。しかし、新しい会計基準では「支配が移ったタイミング(=引渡し時)」で売上を認識することが原則です。
つまり、「物やサービスが相手のものになったら、売上を立てる」「お金の支払タイミングには左右されない」というのが、新しいルールの考え方です。
新たな国際基準に合わせて、日本の法人税法でも収益認識のルールが見直されました。その結果、延払基準は廃止され、今後は引渡し基準に統一される予定です。
もう一つ大事な理由は、企業間の税務処理の公平性です。延払基準の特例があると、同様の取引でも、企業ごとに税金を払う時期が異なり,税務上の公平性が保てません。
収益を計上するタイミングを統一し、どの会社も同じルールのもとで税負担を計算する目的もあります。
延払基準の廃止時期と経過措置
延払基準の廃止時期は、長期割賦販売とリース譲渡で異なります。それぞれの取引には経過措置が設けられており、急な制度変更で企業に過度な負担がかからないよう配慮されています。
長期割賦販売の延払基準廃止と経過措置
長期割賦販売に対する延払基準は、平成30年度の税制改正で廃止されました。平成30年4月1日以降に契約された長期割賦販売の取引については、原則どおり「引渡し時点」で収益を一括計上する必要があります。
ただし、すでに契約済みの取引に新ルールを適用するのは負担が大きいため、次のような経過措置が設けられました。経過措置の対象となったのは、平成30年3月31日以前に契約された長期割賦販売で、令和5年3月31日以前に始まった事業年度に限り、引き続き延払基準の適用が可能でした。経過措置により、企業は一気に収益計上が前倒しされるリスクを回避できました。
また、延払基準の適用を中止する場合には、「繰延割賦利益額」の取り扱いに注意が必要です。繰延割賦利益額とは、「まだ売上に計上していない収益」から「未計上の原価」を引いた差額、つまり未処理の利益部分を指します。
本来であれば、繰延割賦利益額は適用中止の年に一括で売上に計上する(益金算入)のが原則です。しかし、一時的に税負担が大きくなるため、「10年均等取崩し」という特例が用意されています。10年均等取崩しとは、繰延割賦利益額を10年間に分けて、毎年均等に収益として計上できる方法です。例えば、繰延割賦利益が1,000万円なら、毎年100万円ずつ10年かけて益金計上できます。
10年均等取崩しの特例を受けるには、確定申告書に所定の記載が必要です。書類の記載漏れや不備があると、特例が認められず、結果的に一括課税となる恐れもあるため、申告時の確認が重要です。
リース譲渡の延払基準廃止と経過措置
リース取引についても、令和7年度の税制改正で延払基準の廃止が予定されています。今後は、令和7年4月1日以降のリース取引については、原則として資産の引渡し時点で損益を一括計上しなければなりません。ただし、リース取引についても一定期間は経過措置が用意されています。令和7年3月31日以前に契約・実施されたリース譲渡については、令和9年3月31日以前に開始する事業年度までは、延払基準による収益計上が選択可能です。
さらに、令和7年4月1日以後に開始する事業年度で延払基準の適用をやめた場合の繰延リース利益額の取り扱いについては、特例措置が設けられる予定です。具体的な制度運用の詳細は、今後の関連法令や公式発表をもとにご確認ください。
経過措置は、制度変更による急激な税負担を和らげるための緩和措置です。移行期間中の対応には十分な準備が重要です。
参考:令和7年度税制改正の大綱
延払基準の廃止による影響はある?

延払基準の廃止は、特に長期の分割払いやリース取引を行っている企業にとって、大きなインパクトがあります。これまで、売上を「代金の支払期限が到来したタイミング」で少しずつ計上できていた企業では今後、商品やサービスを引き渡した時点で、全額を売上に計上しなければいけません。つまり、税金の支払いがこれまでより早まる可能性があります。
例えば、1,000万円の機械を10年分割で販売した場合、これまでは1年ごとに100万円ずつ売上を計上していました。しかし、延払基準が廃止されると、機械を引き渡した年に1,000万円すべてを売上として計上しなければなりません。その結果、利益が一時的に大きくなり、法人税も高くなります。現金がまだ入っていないのに、税金だけ先に払うという事態が発生し、資金繰りに苦しむケースも考えられます。
リース取引においても同様です。リース料を長期契約で受け取る予定だった場合、利益だけ先に全額計上するために、納税負担が急に重くなる可能性があります。急激な負担の軽減を目的に用意されているのが経過措置や特例制度です。収益を10年にわたって分割計上できる「10年均等取崩し」などの制度を活用すれば、急な税負担を回避できる可能性があります。ただし、経過措置や特例制度は要件を満たしていなければ使えません。
「自社に当てはまるか」「いつまでに手続きが必要か」など、事前の確認や専門家への相談が重要です.特に中小企業では、制度の変更が資金繰りや経営計画に直結します。延払基準の廃止は単なる会計処理の変更ではなく、納税管理や資金計画全体を見直すきっかけとも言えるでしょう。
経過措置適用時の注意点
経過措置の適用においては、いくつか注意点があります。具体的に、どのような点に気を付けるべきなのか、以下から見ていきましょう。
適用期限がある
経過措置には適用期限が定められています。長期割賦販売に関する経過措置は、令和5年3月31日までに開始した事業年度が対象です。 つまり、令和5年4月1日以降に始まった事業年度では、すでに延払基準は使えません。
リース譲渡に関する経過措置は、令和9年3月31日までに開始する事業年度までが対象です。経過措置を適用する場合は早めの準備が重要です。取引日や事業年度の開始日を確認し、対象期間に該当しているかを見極めましょう。
確定申告の記載漏れがあると制度が使えない可能性がある
経過措置や特例を適用するには、確定申告書において所定の記載が必要です。記載漏れがあった場合、制度が使えず、収益が一括で課税されてしまう恐れがあります。
例えば、1,200万円のリース契約を10年分割で見込んでいたのに、申告時の記載漏れにより、初年度に1,200万円全額が課税対象になってしまうといったリスクもあります。
税務の処理にズレが生じることがある
経過措置を適用すると、会計上は分割で収益を計上しているのに、税務上は一括で課税されるといった処理のズレが生じることもあり、注意が必要です。
会計処理と財務処理で差異がある場合、確定申告書の「別表」で調整を行う必要がありますが、記載ミスや処理の誤りがあれば、追徴課税を受ける可能性もあります。
経過措置や特例のルールは複雑で、制度変更のタイミングや契約内容によって判断が分かれる場合もあります。経過措置が適用されるかの判断や申告の準備は、税理士などの専門家と一緒に進めるのが安心です。
参考:No.6161 延払基準、工事進行基準を用いているとき|国税庁
まとめ
延払基準はこれまで、長期の分割払いやリース契約のような取引で、代金の回収に合わせて少しずつ売上を計上できる特別なルールとして活用されてきました。しかし、近年の収益認識に関する会計基準の見直しを受けて、法人税法でも制度が改正され、延払基準は段階的に廃止されました。
これからは、商品やサービスを引き渡したタイミングで収益を一括計上する「引渡し基準」が原則です。
ただ、制度は複雑な部分もあり、正しく対応できるか不安な方も多いでしょう。
不安や不明点がある場合は、早めに税理士などの専門家に相談し、スムーズな移行と対策を進めていきましょう。







