営業キャッシュフローがマイナスのとき、経営面での不安を感じてしまうのではないでしょうか。それは、黒字経営が続いていても、資金が不足すれば事業が停滞する危険性があるからです。この記事では、営業キャッシュフローがマイナスになる主な原因、リスクの見極め方、改善策までを分かりやすく解説します。資金の流れを正しく把握し、適切な対策を取るために役立ててみてください。
目次
営業キャッシュフローの基本

営業キャッシュフローとは、企業の経営状況を判断する重要な情報の一つです。ここでは、営業キャッシュフローとは何か、その重要性について詳しく解説します。
営業キャッシュフローとは
企業や個人事業主の本業における現金の収入と支出を表したものです。商品やサービスの提供によって得た収入から、支出(売上に伴う仕入れ、人件費や販売管理費などの経費)を差し引くことで計算します。
それぞれの詳細は次の通りです。
- 直接法
現金収入-現金支出
- 間接法
当期純利益に、非現金項目(例:減価償却費)や運転資本の増減を加味して算出
営業キャッシュフローから実際の現金の流れを把握できるため、企業や個人事業主の資金繰りが良好な状態であるかを判断できるのです。
例えば、利益が出ていても売掛金の回収が遅れた場合、営業キャッシュフローはマイナスになることがあり、資金不足に陥る危険性が高まります。資金不足による経営への悪影響を避けるため、キャッシュフローを活用して、資金の流れを適宜管理することが求められます。
営業キャッシュフローの重要性
営業キャッシュフローは、企業の経営が良好であるか否かを見極める重要な基準です。プラスであれば事業が順調である証拠ですが、マイナスの場合は資金繰りが悪化している可能性が高いため注意が必要です。
営業キャッシュフローのマイナスが続くと、黒字経営であっても資金が枯渇し、最悪の場合黒字倒産に陥ることもあります。そのため、定期的にキャッシュフローを確認し、資金繰りの悪化を未然に防ぐ対策を講じる必要があります。
営業キャッシュフローがマイナスになる主な原因
営業キャッシュフローがマイナスになるのは、いくつかの原因が考えられます。ここでは、営業キャッシュフローがマイナスになる主な原因について詳しく解説します。
本業で利益が出ていない
営業キャッシュフローがマイナスになる主な理由の一つが、本業で利益が十分に出ていないことです。利益が出ないのは、以下の要因が考えられます。
- 売上が低迷している
- 売上があっても利益率が低い
- 競合他社の業績向上
- 景気低迷などの外部要因
- トレンドやニーズが変わった
安定して売上を上げるのは簡単ではありません。しかし、資金の管理が不十分であると、資金不足を招く要因になり得ます。例えば、収入よりも支出が上回った場合、売上が出ていても、資金繰りが悪化する危険性が高まります。
売上債権の入金が遅れている
売上が順調に伸びていても、取引先からの入金が遅れてしまうと営業キャッシュフローがマイナスになることがあります。
売掛金の回収までに時間がかかると、利益が出ていても手元に資金がない状態に陥るからです。さらに、未回収の売掛金が増えると、帳簿上では十分な利益が出ていても、資金難による黒字倒産の確率が高まります。
支払い条件を見直すなど、売掛金を適切に回収するための対策を取り入れ、現金収入を安定させることが重要です。
仕入れや経費などの支払いが先行すると、営業キャッシュフローがマイナスになることがあります。売上を上げるためには、相当の仕入れや経費が必要です。
しかし、仕入れや経費が増加した分に応じて、現金の出費も増えます。現金残高や取引先からの入金額よりも支出額が増えると、資金難となる可能性が高いです。
仕入れや経費の支払いよりも、売掛金の入金が先になるように得意先と調整するなどの対策が求められます。
過剰な在庫を抱えている
在庫を過剰に抱えていると、在庫の保管や廃棄などで費用が増え、営業キャッシュフローをマイナスにすることがあります。
在庫を多数保有していると、保管のための費用がかかります。また、消費期限のある在庫などは、期限が近付けば廃棄しなくてはいけません。過剰、不良在庫により、余計な経費が増えてしまうのです。
営業キャッシュフローがマイナスであることのリスク

営業キャッシュフローがマイナスの場合、さまざまなリスクが潜んでいます。ここでは、営業キャッシュフローのマイナスが引き起こすリスクについて、詳しく解説します。
資金繰りの悪化で倒産リスクが高まる
営業キャッシュフローのマイナスが続くと、資金繰りが次第に苦しくなって倒産リスクが高まります。仕入れ、経費、従業員への給与などの支出に対して、現金が不足すると、事業活動が停滞する原因となるからです。
黒字倒産の多くは、営業キャッシュフローのマイナスによる資金繰りの悪化が主な原因です。帳簿上の利益だけではなく、実際の現金の動きと併せて経営の状況を確認することが、安定経営に結びつきます。
信用を失うことにつながる
資金繰りに不安がある個人事業主や企業は、外部からの信用を失いがちです。営業キャッシュフローがマイナスの場合、金融機関は倒産の危険性を警戒して、融資を渋る可能性が高いからです。
また、株主も利益を持続して出せない企業に対して、投資する価値を見出せなくなるでしょう。利益が出ていても現金の流出入に不安要素があれば、財務や経営に危機感を抱くため、資金調達でも不利になります。
改善の機会を見逃すことにつながる
営業キャッシュフローのマイナスを放置しておくと、経営難に陥る危険性を高めてしまいます。適切な改善策を講じなければ、経営の状況がさらに悪化し、最悪の場合は倒産を招くからです。
営業キャッシュフローのマイナスは、経営戦略の見直しを促す警告とも捉えられます。例えば、売上の増加に伴って支出も増えている状態が続くと、現金が不足する可能性が高まります。
現金が不足する可能性があるのに、利益率の悪さ、売掛金回収の遅れなどの原因を特定し、原因に合わせた対策を取らなければ、資金繰りが苦しくなるでしょう。
営業キャッシュフローのマイナスは、経営の問題点を表すサインであると捉え、速やかな原因の分析と対策を講じることが大切です。
営業キャッシュフローの危険性を判断するポイント
営業キャッシュフローがマイナスであるからといって、必ずしも経営危機に直面しているとは限りません。また、プラスでも経営リスクが潜んでいることがあります。ここでは、営業キャッシュフローの危険性を判断するポイントについて紹介します。
損益計算書と照合して業績を判断する
損益計算書と照合し、営業キャッシュフローがマイナス、損益計算書が赤字の場合は、経営に問題があるため、早急な対策が求められます。
営業キャッシュフローのマイナスが、一時的であるか、継続的であるかを判断するためには、損益計算書との照合が必須です。
原則、良好なキャッシュフローでは、営業キャッシュフローの額が利益よりも多くなっているはずです。
例えば、事業拡大のための仕入や人件費で支出が一時的に増えたとします。そのようなケースでは、営業キャッシュフローがマイナスでも、損益計算書で利益が出ていれば、営業キャッシュフローのマイナスは一時的で、経営に問題はないと言えます。
一方で、営業キャッシュフローがマイナス、損益計算書も赤字の場合は、その原因を特定し、妥当な対策を講じましょう。
減価償却費の割合を確認する(間接法の場合)
減価償却費の割合によっては、経営の改善が必要です。キャッシュフロー計算書を間接法で計算しているなら、経費全体に占める減価償却費の割合を確認しましょう。
減価償却費は、固定資産を購入した際の費用を分割して費用計上するため、実際は現金の動きがないからです。
間接法で計算する営業キャッシュフローでは、減価償却費は加算扱いです。そのため、営業キャッシュフローがプラスでも、そのプラスの原因が減価償却費である場合は、翌期以降の営業キャッシュフローがマイナスになる可能性があります。
減価償却費の加算で営業キャッシュフローがプラスとなる場合、経営に改善点がある見込みが高いため、相応の対策が求められます。
営業キャッシュフローのマイナスを改善するための対策

営業キャッシュフローがマイナスの状態が続くと、事業の継続に支障をきたす恐れがあります。ここでは、キャッシュフローのマイナスを改善するための具体的な対策を7つ紹介します。
利益増加に努める
営業キャッシュフロー改善の第一歩は、業界や業種、事業規模を問わず、利益増加に注力することです。以下に、利益増加のための策を紹介します。
| 利益増加対策 | 具体的な行動 |
|---|---|
収益性の高い商品やサービスに注力する |
|
原価率を下げる施策を取り入れる |
|
商品やサービスの見直し |
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新規顧客を開拓する |
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リピーターを増やす |
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など、さまざまな対策を講じることで、営業活動における現金収入を増やせます。利益増加による営業キャッシュフローの改善は、多くの個人事業主や企業にとって効果的な対策だと言えるでしょう。
売上債権の早期回収を目指す
現金の不足が起こらないように、売上債権の適切な回収が求められます。例えば、売掛金の回収時期について得意先との条件を見直す、定期的に得意先の信用調査を実施するなどして、売上債権回収の遅延を防ぐことが大切です。
また、経営に不安がある得意先、新規の取引先については前払い制度を提案するなどして、貸倒れリスクを減らします。
ただし、売掛債権の回収期間を短くすることは、得意先との関係を悪化させる要因になるかもしれません。そこで、円滑に事業を進め、キャッシュフローを改善するためにも、得意先とは良好な関係を築いておくことが大切です。
仕入れや経費の支払いを調整する
資金不足を防ぐためには、出ていくお金のタイミングを見直すことも重要です。仕入先や外注先と支払い条件について交渉し、支払い期日を調整することで、現金残高の不足を防げます。
具体的な策として、売上債権の回収時期よりも、仕入れや経費の支払いを遅らせることです。ただし、支払い期日については、取引先の資金繰りにも影響を与えることから、取引先からの信用を損なわないように誠実に対応することです。
無駄な費用の削減に努める
経費を見直し無駄なコストを削減することで、資金の流出を抑える効果が期待できます。例えば、以下のような対策で固定費と変動費の両面から費用の削減に努めましょう。
- 人件費の削減(パートやアルバイト、業務委託の活用)
- 賃料削減のためのオフィス移転
- ペーパーレス化による消耗品費の削減
- デジタル化による業務効率化
- 出張費の削減
- リースやレンタル料の見直し
経費削減のやり方は多様です。ただし、度を越した経費削減は、従業員のモチベーション低下や業務の非効率化といったデメリットが生じる原因となり得ます。経費削減を成功させるためには、無駄な経費を適切に見極めることがポイントです。
適切な経費削減のやり方については、税理士のアドバイスが役立つ可能性が高いです。自社の経営や財務の状況に適した経費削減策を取り入れることで、営業キャッシュフローの改善につながるでしょう。
固定資産を売却する
使っていない設備や不動産などの固定資産を売却することで、一時的ですが手元の現金を増やせます。
複数の設備や不動産を保有していると、管理や維持のために手間と費用が発生します。固定資産を売却すると、管理と維持費用の削減と売却益が得られ、キャッシュフローの改善に結びつくのです。
固定資産の売却は、特に、資金を必要とするとき、事業の効率化を図るときに効果的な対策です。
また、資産によっては、予想以上に売却益が出る可能性もあり、財務体質の強化をサポートしてくれるかもしれません。
クレジットカードを活用する
クレジットカードの利用で、支払い期日を後ろ倒しにして、資金の流出を抑制します。クレジットカードの場合、利用代金の引き落としまでに時間があるため、その間に売上などの入金を得られれば資金繰りが安定するからです。
また、クレジットカードの利用額に応じて加算されるポイントは、クレジット利用分の支払いに充当したり、マイルに移行したりと、経費の削減に役立ちます。
在庫の量を見直す
過剰在庫は無駄な費用の発生原因となるため、在庫の量を見直しましょう。在庫を過剰に抱えていると、在庫保管のための費用がかかるだけではありません。商品によっては期限が近づく、もしくは期限が過ぎたら処分しなくてはいけないため、無駄な費用がかかるからです。
在庫の適正量についてルールを作り、全体で共有することで、できる限り過剰な在庫を持たないようにしましょう。
まとめ|営業キャッシュフローのマイナスは状況に応じて改善が必要
営業キャッシュフローがマイナスの場合、必ずしも経営が危機的状況にあるとは限りません。マイナスでも経営に問題がないこともあるため、マイナスの原因を分析し、必要に応じて早期に対策を講じることです。
利益の増強、売上債権の回収、経費削減などの対策により、営業キャッシュフローはプラスに導けます。現金の流れを正確に把握し、安定した経営基盤を築くためにも、営業キャッシュフローの適切な管理に努めましょう。








