大小問わず、事業を営む上では企業成長や経営危機を見据えた企業そのものに対する分析が欠かせません。経営者側の視点だけでなく、企業の全体像を把握するためには、さまざまな分析方法を活用し、安定を維持し続けることが大切です。この記事では、経営に関する分析方法のひとつである財務分析について解説します。概要や目的、使用する項目を押さえ、経営状態の把握・維持につなげましょう。
目次
財務分析の概要・目的

ここでは財務分析の概要・目的と、行う理由について解説します。概要や目的を押さえ、経営状態の把握に役立てましょう。
財務分析の目的
財務分析は、企業における以下5項目の分析を通じて、経営状態を把握することを目的としています。
- 収益性
- 安全性
- 成長性
- 生産性
- 効率性
財務分析では、企業の財務状況を可視化させ、経営者をはじめ株主や投資家等でも企業の実態を正確に理解できるようまとめることが大切です。また、定期的な実施によって企業活動の変化を細かく把握できるので、持続可能な経営の実現につながります。
財務分析を行う理由
企業が財務分析を行う必要性は、経営の安定化や成長戦略の策定にあります。財務分析によって得られる数々の情報は、どのビジネス領域で収益が生み出されているかなど、具体的な状態の把握に役立ちます。
詳細な分析結果を収集できるからこそ、新規プロジェクトの立ち上げや別会社設立の検討、株主や投資家への説得にも有効な資料となるでしょう。
財務分析に必要な財務諸表の種類
財務分析では、これから紹介する財務諸表を活用して企業の全体像を多角的に分析します。具体的には以下の通りです。
- 貸借対照表(B/S)
- 損益計算書(P/L)
- キャッシュフロー計算書(C/F)
どのようなものなのか、詳細について解説します。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表(B/S)は、決算日の企業の財政状態を示す報告書です。資産・負債・純資産のバランスが把握できるような構造が特徴で、バランスシート(B/S)と呼ばれることもあります。
貸借対照表の解析により、経営の健全性や安全性、流動性を正確に評価することが可能です。また、長期的な成長戦略や投資計画を立てる際の指針にもなることから、戦略策定など、意思決定における資料としても活用されています。
損益計算書(P/L)
損益計算書(P/L)は、一定期間における企業の経営成績を示す報告書です。売上高・費用営業利益・経常利益等の項目が記載されており、企業がどの程度の利益を効率的に生み出しているかを明らかにする目的があります。
PLは「Profit and Loss Statement」の略称で、和訳して損益計算書と呼ばれています。集計期間は1年間が一般的で、合併等の理由によっては1年よりも短くなる場合も多いです。
キャッシュフロー計算書(C/F)
キャッシュフロー計算書(C/F)は、一定期間における企業の資金(現金)の流れを表す報告書です。営業活動・投資活動・財務活動の3つに分かれており、それぞれの活動によるキャッシュフローが詳細に記載されています。
たとえば、営業活動によるキャッシュフローでは、どれだけの現金が投資や資金調達に充当しているのかを把握できます。資金繰りの健全性や成長の可能性を評価する際などでは、詳細な情報により、正確に現状を把握することが可能です。
財務分析の主な種類

財務分析では、企業のパフォーマンスや状況をさまざまな角度から評価するため、以下5つの方法を用いることが一般的です。
| 種類 | 概要 |
|---|---|
収益性分析 |
|
安全性分析 |
|
成長性分析 |
|
生産性分析 |
|
効率性分析 |
|
財務分析では上表のような分析方法を活用し、それぞれ異なる指標やデータを使用します。たとえば、収益性分析の場合は売上高総利益率や売上高当期純利益率などを用いて、企業の利益状況を測定するなどです。ここからは、上記5つの分析に用いる指標と計算式について解説します。
収益性分析で用いる指標と計算式
収益性分析では、以下8つの指標及び計算式を使用します。
| 指標 | 概要 | 式 |
|---|---|---|
売上高総利益率 (粗利率) |
| 売上総利益 ÷ 売上高 × 100 |
売上高営業利益率 (利益率) |
| 営業利益 ÷ 売上高 × 100 |
売上高経常利益率 |
| 経常利益 ÷ 売上高 × 100 |
売上高当期純利益率 |
| 当期純利益 ÷ 売上高 × 100 |
自己資本利益率 (ROE) |
| 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 |
総資産利益率 (ROA) |
| 当期純利益 ÷ 総資産 × 100 |
総資本回転率 |
| 売上高 ÷ 総資産 |
自己資本回転率 |
| 売上高 ÷ 自己資本 |
たとえば売上高総利益率であれば「売上総利益 ÷ 売上高 × 100」という計算式を使い、売上に対する粗利益の割合を把握することが可能です。また総資産利益率(ROA)と自己資本利益率(ROE)は、いずれも収益性を多角的に評価する指標です。
成長性や投資効率を分析する際はそれぞれの数字も算出し、経営状態の把握に役立てることをおすすめします。
安全性分析で用いる指標と計算式
安全性分析では主に5つの指標と計算式を使用します。
| 指標 | 概要 | 式 |
|---|---|---|
株主資本比率 |
| 株主資本 ÷ 総資産 × 100 |
流動比率 |
| 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 |
当座比率 |
| 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 |
固定比率 |
| 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 |
インスタント・カバレッジ・レシオ |
| (営業利益 + 受取利息 + 受取配当金) ÷ (支払利息 + 割引料)(倍) |
たとえば流動比率であれば「流動資産 ÷ 流動負債 × 100」で計算でき、短期的な支払い能力を確認することができます。
一般的に流動比率は100%を超えることが望ましいとされています。算出された数字により、企業が短期的な負債を返済するための十分な流動資産を持っているかを判断することも可能です。
成長性分析で用いる指標と計算式
成長性分析では以下7つの指標と計算式を使用します。
指標 | 概要 | 式 |
|---|---|---|
売上高増加率 |
| (当期売上高 - 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100 |
経常利益増加率 |
| (当期経常利益-前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100 |
営業利益増加率 |
| (当期営業利益-前期営業利益) ÷ 前期営業利益 × 100 |
総資本増加率 |
| (今期総資本-前期総資本) ÷ 前期の総資本 × 100 |
純資産増加率 |
| (当期末純資本残高 - 前期末純資本残高) ÷ 前期末自己資本残高 × 100 |
従業員増加率 |
| (当期従業員数 - 前期従業員数) ÷ 前期従業員数 × 100 |
一株当たり当期純利益 |
| 当期純利益 ÷ 普通株式の期中平均発行済み株式数 |
参考:売上高増加率 | 中小企業活力向上プロジェクトアドバンスプラス
売上高増加率や従業員増加率の活用で、企業の売上高や事業規模を判断できます。複数の期間の指標データから算出した平均値を参考にすることで、成長トレンドの安定性や長期的な見通しの精度を高められるでしょう。
生産性分析で用いる指標と計算式
生産性分析では、以下5つの指標と上記で説明した総資本回転率、計算式を使用します。
指標 | 概要 | 式 |
|---|---|---|
労働生産性 |
| 産出した生産量および付加価値額 ÷ 従業員数あるいは労働時間 |
労働分配率 |
| (人件費 ÷ 付加価値)× 100 |
有形固定資産回転率 |
| 売上高 ÷ 有形固定資産× 100 |
労働装備率 |
| 有形固定資産 ÷ 従業員数× 100 |
売上高付加価値率 |
| 付加価値 ÷ 売上高× 100 |
参考:財務省|労働生産性
たとえば、労働生産性は「売上高÷従業員数」の指標で計算されます。この数値が高いほど、従業員1人当たりの生産力が高いことを示します。この指標を活用することで、従業員の効率性を詳しく解説できるのが特徴です。
また、資本生産性は「売上高÷投下資本」で測定される指標であり、この数値が資本がどれだけ効率的に収益を生み出しているかを明確に示します。これらの指標を適切に分析することにより、現状のパフォーマンスや効率性を具体的な数値で把握し、経営戦略に役立てることが可能となります。
効率性分析で用いる指標と計算式
効率性分析では以下5つの指標と計算式を使用します。また、総資本回転率・自己資本回転率も使用することが一般的です。
| 指標 | 概要 | 式 |
|---|---|---|
経営資本回転率 |
| 売上高 ÷ 経営資本 |
棚卸資産回転率 (在庫回転率) |
| 売上高 ÷ 棚卸資産 |
固定資産回転率 |
| 売上高 ÷ 固定資産 |
売上債権回転率 (回転期間) |
| 売上債権回転率(回)=売上高 ÷ 売上債権 売上債権回転期間 = 365 ÷ 売上債権回転率 |
買入債務回転率 (回転期間) |
| 買入債務回転率(回)=売上高 ÷ 買入債務 買入債務回転期間 = 365 ÷ 買入債務回転率 |
商品回転率 (回転期間) |
| 商品回転率(回)=売上高 ÷ 商品 商品回転期間 = 365 ÷ 商品回転率 |
参考:総資本回転率 | 中小企業活力向上プロジェクトアドバンスプラス
たとえば、在庫回転率の場合「売上高 ÷ 棚卸資産」という計算式で求められます。在庫がどれだけの売上を生み出せているのかを数値化することで、在庫管理の改善や運営の効率化を実現可能です。
また、資本生産性は「売上高÷投下資本」で測定される指標であり、この数値が資本がどれだけ効率的に収益を生み出しているかを明確に示します。これらの指標を適切に分析することにより、現状のパフォーマンスや効率性を具体的な数値で把握し、経営戦略に役立てることが可能となります。
財務分析を行う際に注意すべきこと

財務分析を行う上ではこれから紹介する注意点を押さえておくことをおすすめします。どのような点に注意すべきなのかさっそく見ていきましょう。
定期的に行う
財務分析は定期的に実施し、企業全体の状況を細かく把握する姿勢が必要です。理由は、一時的なデータだけでは企業の成長度合いを判断することが難しいためです。
特に、市場競争の激しい業界で優位性を確立するためには、顧客ニーズの変化や市場動向の変化に順応することが大切です。時代の変化とともに顧客ニーズや市場も変化します。時代の変化と共に企業がどのように変化したかを分析した後、必要な進化について洗い出すためには、定期的な財務分析が必要と言えるでしょう。
数値は相対評価を使用する
数値を判断する際、以下2種類の方法が用いられます。
- 絶対評価:既定の基準に対する到達度・達成度を評価する方法
- 相対評価:集団における相対的な位置づけで評価する方法
財務分析では相対評価を使用することが推奨されています。絶対評価の場合、わずかな変化を見落とす可能性や到達できていないと判断しかねないためです。
相対評価によってわずかな変化に気付くことができ、正当な評価につなげることができます。
財務諸表は正確性を維持する
財務分析においては、各指標の数値を正確に算出することが欠かせません。ひとつでも数値にミスがあれば、財務分析の信頼性を損なう可能性があるためです。
また、正しい分析結果が得られなくなり、経営判断に活かすこともできないでしょう。正確性を保った財務諸表を作成する際は、日々の取引をミスなく記帳する姿勢が大切です。
なお、財務諸表に対応したシステムを導入し、効率化を図る方法もおすすめです。経理業務の効率性を高める会計ソフトについては以下の記事でまとめているので、こちらも併せてご覧ください。
必要に応じて専門家のアドバイスを受ける
財務分析を実施する上では、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。財務分析ではさまざまな指標や計算式を使用します。
そのため、計算式や使用する数字にミスがあれば、正確な分析結果を抽出することができません。また、独自のビジネスモデルを採用した企業であれば、専門的な知識や視点が求められる場合もあります。
財務分析を通じて経営戦略を策定したいときほど、専門家のアドバイスを受け適切な方法を見つけましょう。
財務分析で企業を多角的に分析しよう
財務分析は、企業の経営状態や成長の可能性を把握するために欠かせない方法のひとつです。貸借対照表をはじめとした財務諸表を基に、収益性や安全性等を多角的な視点から見つめることで、実態や経営状況を深く理解できるでしょう。
しかし、財務分析にはさまざまな指標と計算式を使用する特徴から、継続することに難しさを感じることも少なくありません。財務分析には正確な数値を要します。正確な数値によって正しく財務分析を行いたい方は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。







