役員賞与は税務調査で厳しく確かめられるものの1つで、適切な手続きを踏まなければ損金として認められません。賞与は金額により税負担を意図的に減らせる場合もあるからこそ、慎重に算入することが求められます。そのため、役員賞与を算入する際は、税務調査の対象となる原因と正しい対策を把握しておきましょう。本記事では役員賞与が税務調査により認められない原因と、課税額への影響について解説します。
目次
役員賞与が税務調査で厳しく見られる理由

役員賞与が税務調査で問題視される理由として、報酬金額により会社・役員が意図的に税負担を軽くできることが挙げられます。役員は自分の賞与額を自由に決められる立場にある場合が多く、金額の調整により不当に利益を調整できます。
例えば、利益が想定以上に増えた場合、基本的には増えた利益に応じて税負担も増えるでしょう。しかし、同時に役員賞与を支給して所得を減らせば、法人税の負担を軽減できてしまいます。
そのため、税務署では不当な利益調整を防げるよう、役員賞与を損金算入するにあたって法人税法で厳しいルールを定めています。税務調査では法人税法に則って役員賞与が支給されているかが確認されるため、厳しい調査に備えた対策と支給が欠かせません。
役員賞与が損金算入できないと判断されるケース3つ

税務調査により役員賞与の損金算入が認められないと判断される原因として、手続き上のミスや不正が挙げられます。まずは役員賞与が損金算入できないケースとして、典型的なもの3つをご覧ください。
法人税法に定められた要件を満たしていない
典型的な例が、役員賞与の支給が法人税法に定められる規定に則っていない場合です。役員報酬を損金算入するには、原則として以下3つの方法から、支給内容に沿った方法を採用する必要があります。
支給方法 | 主な支給内容 |
定額同額給与 | 役員に毎月同額の報酬を支給する |
事前確定届出給与 | 税務署に届出のうえ、書面で定めた支給日・支給額どおりに役員に賞与を支給する |
業績連動給与 | 株価や業績に基づいて定めた割合で役員に賞与を支給する |
多くの会社では、定額同額給与や事前確定届出給与が採用されています。いずれの方法も、あらかじめ支給金額を決めて規定どおりに支給しなければいけません。そして税務調査では、定めた支給方法と支給実態が一致しているか、厳密に確認されます。
「支給日に資金が足りず支払いが遅れた」「業績が良かったため増額支給した」などの場合も、損金算入は認められません。届出から報酬額が減った場合にも損金不算入となるため、金額と支給日を厳守することが求められます。
参考:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
役員のプライベートな支出を経費計上している
役員のプライベートな支出を経費として処理した場合、実質的な役員賞与とみなされる可能性があります。国税庁では「役員に対する経済的利益の供与」と区分しており、以下の例は税務調査により役員賞与として振り分けられます。
- 家族との旅行費用を福利厚生費として計上する
- 個人的な飲食代を接待交友費として計上する
プライベートな支出は本来、役員個人の給与所得として扱われるべきものであり、損金算入できません。税務調査により個人的な支出を指摘されれば、損金不算入となるだけでなく、重加算税などの処分が下される恐れもあります。
業績に対して支給額が不当に高額である
正しい手続きを踏んでいたとしても、役員賞与の支給額が不相当と判断されれば、損金不算入となる可能性があります。役員賞与が妥当な金額であるかの判断基準は、役員の業務内容や会社の収益、他の従業員の給与支給額などさまざまです。
結果として、税務調査により以下のように「不当に高額である」と判断されれば、高額と見なされた部分が損金不算入となります。
- 赤字経営であるにもかかわらず高額な役員賞与が支給されている
- 特定の役員のみ高額な賞与が支給されている
ただし「賞与が妥当か不当か」は調査員の判断に委ねられる部分もあり、異議申し立てに至ったケースもあります。役員賞与を支給する際は、客観的に説明できるよう業務内容に対して妥当な金額を定めることが大切です。
税務調査で役員賞与が認められなかった際のリスク4つ

税務調査により役員賞与が損金不算入と判断された場合、会社だけでなく役員の税負担にも影響がおよびます。役員賞与の損金算入が認められなかった場合の主なリスクとして、4つを解説します。
【会社側】法人税の追徴課税が発生する
役員賞与の損金算入が認められなかった場合、否認された金額に相当する課税所得が増えます。結果として、増加した所得に応じた過少申告が指摘され、本来収めるべき税額に応じた追徴課税を納付しなければいけません。
追徴課税には過少申告加算税や無申告加算税など複数の種類があり、本来納付すべき税額を大幅に超える納税につながります。
【会社側】源泉所得税を追加で納付しなければいけない
損金不算入の役員賞与も役員から見ると給与所得であり、会社は賞与に対する源泉徴収をしなければいけません。これは役員へ直接支給した賞与だけでなく、私的な支出を経費計上した場合も同様です。
経費が事実上の役員賞与と判断された場合も、会社は支出に対して源泉徴収していなかったと判断されます。源泉徴収の納付漏れを指摘されれば、会社は本来納めるべき源泉徴収税を追加で納付しなければいけません。
合わせて、源泉徴収税の無申告には不納付加算税と延滞税も課されます。
- 不納付加算税:追納分の5〜10%
- 延滞税:追納分の7.3〜14.6%
【会社側】意図的な不正と判断されれば重加算税が課される
役員賞与が計上ミスや手続きの誤りではなく、意図的な隠ぺいや仮装と判断された場合は、重加算税が課されます。重加算税が課せられる例として、以下をご覧ください。
- 架空の経費を計上して役員賞与を支給していた
- 虚偽の契約書を作成して事実上の役員賞与を支給していた
重加算税が課されると本来の税額より35〜40%が加算され、納付額が大幅に増える恐れがあります。重加算税の対象となると税負担が大幅に増加するだけでなく、企業の信用も損なうため、絶対に避けるべき支給方法です。
【役員側】所得税と住民税の納付額が増える
役員のプライベート支出が役員賞与とみなされた場合、役員個人が納付する所得税や住民税にも影響する恐れがあります。役員賞与は課税対象の給与所得であり、基本的には賞与から源泉徴収された金額が支給されています。
しかし、役員賞与の源泉所得税の納付漏れが指摘されれば、賞与に相当した所得税と住民税を納付しなければいけません。役員個人も所得税と住民税の負担が増えるため、役員賞与を正しく支給することは、会社と役員双方の負担を減らすうえで大切です。
税務調査で役員賞与を否認されないための対策3つ
役員賞与が税務調査で認められないリスクを防ぐためにも、会計・税務における対策は欠かせません。法人税法のルールに則り、正しい手続きをふまえて役員賞与を支給しましょう。
役員賞与が税務調査により損金不算入とならないための対策方法として、3つをご覧ください。
役員賞与を損金算入にするためのルールを厳守する
役員賞与の損金算入には法人税法により厳しくルールが定められているため、まずは法律を遵守して算入しましょう。役員賞与を損金算入する主な方法として、事前確定届出給与として支給する方法が挙げられます。
事前確定届出給与として支給日と支給額を定めて税務署に届け出ておくと、役員に支給する賞与も損金として算入できます。ただし、役員賞与を事前確定届出給与として支給する場合、以下の要件を満たす必要があります。
- 業務内容に対して妥当な支給額を算定する
- 役員賞与の支給日を設定する
- 税務署に給付額と支給日を届け出る
- 届け出た日程・金額どおりに支給する
届出は原則として、株主総会などで支給が決議された日から1ヵ月以内、または会計期間開始の4ヵ月以内よりいずれか早い日です。期日を超えると、その年度では届出が受理されないため、制度をもとに支給日を定めましょう。
なお、届け出た内容から1円でも金額を変更したり1日でも支給日がずれたりすると、損金算入は認められません。要件を厳格に守って、法律を遵守した役員賞与の損金算入を目指してください。
経費との線引きを明確にして処理する
役員の個人的な支出の経費計上を税務調査で損金算入できない役員賞与と判断されないため、経費の線引きを明らかにしましょう。会社の経費として認められるものは、あくまで事業に必要な支出のみです。
特に接待交際費や福利厚生費、旅費交通費は税務調査において、内容を詳しく問われる勘定科目です。経費は事業に必要であったことを明確にし、第三者が見ても業務上の支出である根拠も記録することを習慣付けてください。
役員のプライベートな支出は経費とは分けて、正しく処理することが大切です。
役員賞与を支給する根拠となる書類は必ず保管する
役員賞与を支給する際は、支給する旨や金額が妥当であることがわかる書類を作成し、保管しておきましょう。代表的な書類として、株主総会議事録や取締役会議事録が挙げられます。
役員賞与が経営層の独断ではなく、会社の正規の意思決定プロセスを経て決まったことを証明する書類であることが重要です。議事録には決議の日時や場所、出席者や決議内容などを正確に記載して、税務調査でも正当な証拠書類となるよう保管しましょう。
なお、議事録には賞与額の算定根拠を具体的に明記しておくと、支給額が高額でも妥当であることを説明できます。
役員賞与の税務調査にお悩みの方は税理士にお任せください
役員賞与は法人税法を遵守して支給すれば、損金算入が認められます。一方で、手続きミスや意図的な所得の隠ぺいは税務調査の対象となるだけでなく、税負担が重くなる原因になりかねません。
会社法人税はもちろん、役員個人の所得税や住民税にも影響するため、正しい手続きにより支給しましょう。役員賞与の損金算入が認められないリスクを避けるには、制度を正しく理解して届出・支給することが求められます。
ただし、損金算入の要件は法人税法により厳密に定められているため、会社経営に詳しい税理士に頼ることがおすすめです。
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