建設業で働く一人親方にとって、税務調査は決して無関係ではありません。突然調査を受けることになったらどう対応すべきか、不安を抱える方も多いでしょう。普段からきちんと申告や帳簿管理をしているつもりでも、いざ調査となると心配は尽きないものです。本記事では、一人親方が税務調査に直面した際に知っておきたい基本事項や注意点をわかりやすく解説します。調査に不安を感じている方は最後までご覧ください。
目次
一人親方は税務調査の対象になるのか?

一人親方であっても税務調査の対象となる可能性はあります。
調査は個人事業主や法人を問わず行われており、選ばれる背景にはさまざまな要因が関係しています。どの程度の割合で調査が行われているのか、また業種ごとの特徴について理解しておきましょう。
税務調査を受ける確率(個人事業主と法人の比較)
国税庁の最新報告によれば、一人親方を含む個人事業主が税務調査を受ける確率はおよそ0.7%程度です。
法人の場合は約2〜3%と個人より高い水準にありますが、確率が低いからといって安心はできません。
調査対象に選ばれる背景(建設業の特徴)
国税庁の調査では、不正が見つかりやすい業種として毎年土木・建築関連業が上位に挙げられています。そのため、建設業は税務署から重点的に調査される対象になっています。
その背景には、長期間にわたる工事や高額な個別売上、さらに間接費用の按分処理や期ズレによる売上認識など、会計処理が曖昧になりやすい業務構造があります。
加えて、1件あたりの不正所得金額も大きくなる傾向があり、1,300万円超や1,800万円超といった事例も報告されているため、建設業は特に注目されていると言えます。
一人親方の税務調査でよく指摘されるポイント

一人親方の税務調査では、どのような点が指摘されやすいのでしょうか。以下のポイントを押さえておきましょう。
売上計上漏れや期ズレ処理
売上計上の誤りは、一人親方の典型的な指摘事項です。
請求書の発行と入金記録のタイミングが一致しないと、税務署から売上の抜けや期ズレを疑われます。
特に建設業は工期の延長や現金取引が多く、意図せず計上が遅れたり翌期に持ち越されるケースも少なくないため注意しましょう。
参考:法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)|国税庁
消費税の課税逃れ
売上が1,000万円前後の事業者は税務調査で注視される傾向です。消費税の免税点を意識して売上を抑えているのではと疑われやすいためです。
800〜900万円台で推移している一人親方は、売上調整をしているのではないかと見られる可能性があるため注意しましょう。
外注費と給与の区分
外注費として処理している支払いが、実態は給与に当たると判断されるケースがあります。
これは、税務署が契約形態よりも実態を重視しているためです。
例えば、勤務時間や業務内容が固定されており、指揮命令を受けて働いている場合は外注費ではなく給与とみなされる場合があります。
建設業は職人や作業員への支払いが多く、外注と雇用の線引きが曖昧になりやすいので注意しましょう。事業専従者への給与についても、届出や要件を満たしていなければ経費にできません。否認を避けるためには、契約内容と実態を一致させることが重要です。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
経費計上の妥当性
経費の妥当性は税務調査で必ず確認されます。自宅兼事務所の家賃や水道光熱費、交際費などは、事業利用と私的利用の線引きが難しいためです。
例えば、居住スペースと事務所スペースの区分が曖昧なまま家賃全額を経費計上していると、否認されるリスクが高まります。交際費でも、実際には私的な飲食や娯楽に近い支出が含まれていれば問題視されます。
こうした指摘を避けるためには、合理的な按分基準や支出の目的を明確に示し、領収書に利用状況を記録するなど工夫しましょう。
帳簿・証憑の整理状況
帳簿や証憑の整理状況についても確認されます。正しい記帳や証憑の保存ができていないと、それだけで不正や申告誤りの疑いが強まるためです。
例えば、領収書が欠けていたり請求書と帳簿の記載内容に食い違いがある場合は、正しい説明ができずに否認される恐れがあります。
建設業の一人親方は現金取引が多いため、領収書の紛失や整理不足が特に問題視されやすい傾向にあるので注意しましょう。
税務調査に備えるための事前対策

調査当日に慌てないためには、普段から準備が必要です。事前に押さえておくべき対策を紹介します。
正しい帳簿付けと確定申告
正しい帳簿付けと確定申告は、税務調査に備えるうえで最も重要な対策です。帳簿を正確に記帳していれば、税務署から不審に思われる可能性は低くなります。
日々の売上や経費を漏れなく入力し、申告時に整合性が取れていれば、指摘を受けても根拠をもって説明できますが、記録が不十分だと、小さなミスが不正と見なされる可能性があるため注意しましょう。
証憑書類の整理と保存
領収書や請求書などの証憑書類を整理・保存しておきましょう。帳簿の内容が正しくても証憑がなければ経費や売上の裏付けが取れず、否認される可能性があるためです。
取引先との契約書や支払明細を保管していれば、調査官から説明を求められた際に即座に提示でき、不必要な疑念を避けられるでしょう。
会計ソフトやクラウドツールの活用
会計ソフトやクラウドツールの導入は、税務調査への備えとして有効です。
手作業では入力ミスや記録漏れが起きやすいものの、例えば、銀行口座やクレジットカードを同期できる会計ソフトを使えば、取引が自動で記帳されるため、調査時にも整然とした帳簿を提示できます。
効率的な仕組みは業務負担を軽減するだけでなく、信頼できる記録として税務署からの印象も良くなるでしょう。
税理士に相談する
税理士への相談は、税務調査への不安を減らす有効な手段です。自分では気づかない記帳の誤りや税務上のリスクを事前にチェックしてもらえるため安心できます。
専門家の存在は心理的な支えとなり、税務署とのやり取りもスムーズになるため、顧問契約やスポット相談を活用し、自身の状況に応じたサポートを受けましょう。
税務調査を受けたときの流れと対応
一人親方が税務調査を受けることになった場合、どのように進むのか具体的な流れを知っておけば安心でしょう。調査時の一連の流れと対応について解説します。
事前通知と調査の進め方
税務調査は基本的に事前通知があり、通常は1〜2週間前に税務署から電話や書面で連絡が入ります。これは納税者が必要な資料を準備できるように配慮されているためです。
ただし、帳簿隠しや不正の疑いがある場合には「無予告調査」として突然訪問されるケースもあるので注意してください。
正しい申告と帳簿管理を行っていれば、通常の流れに沿った調査が行われるため落ち着いて対応できるでしょう。
調査当日に準備すべきもの
調査当日は帳簿や領収書、請求書、契約書などを整理して提示できるようにしておきましょう。
これは、調査官は記帳内容の正確性や証憑との整合性を確認するため、即座に資料を示せるかどうかで印象が変わるためです。
資料の不足は不信感に繋がり、余計な追及を招く可能性があるため、普段から証憑を整理し、提示しやすい状態を保っておきましょう。
指摘事項への対応方法
調査で誤りを指摘された場合は、速やかに修正申告を行いましょう。適切に修正すれば過少申告加算税や延滞税の負担を軽減できる可能性があるためです。
例えば、売上計上漏れをその場で修正すれば、延滞税は法定納期限の翌日から日割で発生するものの、短期間であれば金額はごく僅かにとどまります。反対に、修正を放置すれば延滞税は日数に応じて増え、加算税まで課される恐れがあります。
誤りに気づいた時点で速やかに対応する姿勢が、調査官からの信頼を得るだけでなく、結果的に余計な負担を避ける最善策となるでしょう。
税理士の立ち会い
税理士の立ち会いは、税務調査を安心して乗り切るための有効な手段です。税理士が同席していれば、専門的な視点から調査官の質問に対応し、必要に応じて交渉や説明を代行してくれるため、納税者は余計な不安を抱えずに済みます。
一人で対応するよりもリスクを抑えられるため、可能であれば事前に依頼しておくのが望ましいでしょう。
一人親方の税務調査に関してよくある質問
税務調査に対しては、誰もが不安や疑問を抱くものです。一人親方の方から寄せられやすい質問を取り上げますので、理解を深めるための参考にしてください。
税務調査はどれくらいの期間続くのですか?
税務調査の期間は事業の規模や内容によって異なりますが、個人事業主の場合は通常1日から3日程度で終わるケースが多いです。
ただし、複雑な取引や追加の資料提出が必要な場合は、数日間延長される場合もあります。
税務調査でどんな書類を見られますか?
税務調査では、申告の正確性を確認するために必要な範囲の書類が確認されます。
対象となるのは、帳簿や領収書に加えて契約書、見積書、預金通帳の写しなどです。場合によっては、自宅兼事務所のスペース利用状況や、関連会社とのやり取りにまで調査が及ぶ場合もあります。
幅広い資料を確認されることを前提に、日頃から整理しておきましょう。
税務調査を断ることはできますか?
税務調査を拒否することはできません。国税通則法第74条では、国税庁や税務署の職員が必要と判断すれば、納税者や関係者に質問したり、帳簿や資料の提出を求めたりできると定められているためです。
ただし、体調不良や予定が重なるなど正当な理由があれば、日程変更の相談は可能です。無理に拒否するのではなく、適切に調整しましょう。
参考:税務調査において「調査理由」を開示することは法的要件か | 国税庁
税務調査に不安がある一人親方は専門家に相談
一人親方は、売上計上や経費処理の些細なミスが大きな指摘に繋がるリスクがあります。特に現金取引の多い建設業は税務署に注目されやすく、日頃から帳簿を整えていても調査への不安を抱える方は少なくありません。
こうしたリスクを避けるには、税務の専門家に相談して備えておくのが有効でしょう。
小谷野税理士法人では、一人親方をはじめとする個人事業主の税務調査対応や日常的な記帳・申告のサポートを行っています。税務調査に不安を抱えている方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。











