税務調査の連絡が来ると「一体いくら取られるのだろう」と不安になる経営者は多いです。申告漏れがあった場合、本来の税金に加えてペナルティが課されるため、事前の備えが大切です。本記事では、税務調査における追徴課税の平均額やペナルティの種類などを、分かりやすく解説します。税務調査の心配がある方は、記事の内容を参考にしてみましょう。
関連記事:税務調査は何種類ある?それぞれの特徴や税務調査の流れについて解説
目次
税務調査の追徴課税額

税務調査で申告漏れが見つかると、追徴課税が発生します。国税庁の発表によると、法人と個人事業主では平均追徴税額は異なります。自社の状況を想定するためにも、まずは追徴課税の平均額を把握して、対策を検討するのが大切です。
法人のケース
法人の税務調査1件あたりの平均追徴税額は、約550万円です。国税庁の「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、直近10年で2番目に高い水準とされています。
申告漏れや不正計算が発覚した場合、法人全体での追徴税額の合計は約3,197億円にのぼります。不正計算には、意図的な売上除外や架空経費の計上が含まれており、該当するとペナルティが重くなる傾向にあります。
納税者に対して自発的に申告内容を見直してもらったケースでは、追徴税額の合計は約92億円でした。意図的に不正をしたかどうかで、追徴税額は変わります。
個人事業主のケース
個人事業主の税務調査1件あたりの平均追徴税額は、約359万円です。近年はAIを活用し効率的に調査が行われており、結果として追徴課税額は過去最高に達しました。
調査対象となった個人事業主全体の申告漏れ所得金額は、合計で約9,964億円に上ります。インターネット取引や無申告のケースで、申告漏れが見つかる傾向にあります。
また、仮想通貨取引を行っている個人の追徴課税額は、所得税の実地調査で行われた275万円を上回る約662万円です。個人にとっては負担となるため、事前に申告内容を確認し、対策しておくのが大切です。
税務調査の種類

税務調査には、任意で行われる「任意調査」と、裁判所の令状に基づく「強制調査」の2種類があります。実施される調査の多くは任意調査ですが、それぞれの違いを理解しておきましょう。
任意調査
任意調査は、納税者の同意のもとで行われる一般的な税務調査です。事前に税務署から電話などで日程調整の連絡があり、調査官が事務所などを訪れて帳簿や資料を確認します。
任意調査と呼ばれますが、調査官の質問を正当な理由なく拒否すると、罰則の対象になる場合があります。実質的には協力する義務がある調査のため、任意だからといって安易に断らず、誠実な対応が必要です。
強制調査
強制調査は、裁判所の令状に基づいて強制力をもって行われる調査です。国税局査察部が担当し、脱税額が大きく悪質と判断されるケースが対象で、事前連絡なしに調査官が訪れ関係書類を押収します。
強制調査は、ニュースやテレビドラマなどの税務調査をイメージすると分かりやすいでしょう。強制調査に発展すると、刑事事件として扱われる可能性もあります。
起訴・有罪判決を受けて懲役刑や罰金刑が科される場合もあるため、日頃から帳簿を正しく管理するのが大切です。
知っておくべき4種類の追徴課税

追徴課税は、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティとして「附帯税」が上乗せされます。ここでは、申告漏れの内容や悪質性の度合いに応じて課される4種類の附帯税を解説します。
参考記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
過少申告加算税
過少申告加算税は、期限内に提出した申告書の税額が本来より少なかった場合に課されるペナルティです。計算ミスや経費の誤認識など、意図せず生じたミスも対象です。税務調査の事前通知後に、自主的に修正申告した場合は税率が軽減されます。
基本的な税率 | 重加算税率(悪質なケース) |
5% ※50万円超部分は10% | 35% |
表が示すように、税率は意図的であったかどうかで異なります。ただし、自主的に修正申告を行えば、ペナルティを軽減できる可能性があります。税務調査の連絡を受ける前に、申告内容を定期的に見直しましょう。
無申告加算税
無申告加算税は、確定申告の期限までに申告をしなかった場合に課されるペナルティです。申告の必要性に対する理解が不十分な場合もペナルティの対象ですが、税務調査の事前通知前に、自主申告した場合は税率が5%に軽減されます。
無申告加算税の税率は以下の通りです。
基本的な税率 | 重加算税率(悪質なケース) |
15% ※50万〜300万円の部分は20% 300万円を超える部分は25% | 40% |
意図せず追徴課税が生じた場合でも15%の税率が適用され、50万円を超える部分には20%の高い税率を課されるのが特徴です。さらに、意図的に申告しなかったと判断された場合は、40%の重加算税が課されます。
申告忘れは、意図の有無にかかわらず大きなペナルティに繋がる可能性があります。
重加算税
重加算税は意図的に事実の隠蔽や仮装を行い、税額を少なく申告した場合に課されるペナルティです。例えば、帳簿書類の改ざん、架空の経費計上などが該当します。
悪質な行為のため税率も高く設定されており、重加算税が課されると、金融機関からの信用低下にも繋がります。重加算税の税率は以下の通りです。
加算されるケース | 基本的な税率 | 同じ税目で5年以内に前科がある場合の税率 |
過少申告加算税に代えて課されるケース | 35% | 45% |
無申告加算税に代えて課されるケース | 40% | 50% |
重加算税の税率は、申告の有無にかかわらず、35%以上と高く設定されています。重加算税が課されると税務調査で厳しく見られるようになり、長期的な影響も覚悟する必要があります。
延滞税
延滞税は、納付すべき税金を期限までに納めず、遅延した日数に応じて課されるペナルティです。延滞税の税率は以下の通りです。
期間 | 税率 | 令和7年中の税率(特例) |
納期限の翌日から2ヵ月以内 | 原則年7.3% | 年2.4% |
納期限の翌日から2ヵ月を超えた期間 | 原則年14.6% | 年8.7% |
現在は特例により低い税率が適用されています。しかし、納付が2ヵ月を超えると税率は倍以上に上がります。税金は期限までに納めるのが基本ですが、万が一納付を忘れていた場合は、なるべく早く対応しましょう。
税務調査の対象になりやすいケース
税務署は、限られた人員で効率的に調査を行うため、申告漏れが見込まれる納税者を重点的に選定しています。ここでは、どのようなケースが税務調査の対象になりやすいのか、代表的な例を解説します。
売上や所得が急に変動している
過去の申告内容と比べ、売上や所得の急激な増減は調査の対象となる可能性があります。国税庁の国税総合管理システムでは、蓄積されたデータを厳正に管理しています。
売上が増えているのに仕入や原価は現状維持といった、不自然な動きも分析対象です。数字の急な変動は、合理的に説明できる準備が求められます。
同業他社と比べて利益率が低い
税務署は、業種ごとの平均的な利益率を統計データで把握しています。自社の利益率が業界平均から大きく下回る場合、調査対象に選ばれる可能性があります。
特に売上総利益率は、注視されやすいポイントです。自社の財務状況を客観的に把握し、平均値と差がある場合は、理由を明確にしておくのが大切です。
現金での取引が多い
飲食店や小売店、美容室といった現金での取引が多い業種は、一般的に税務調査の対象になりやすいです。現金商売は銀行振込と比べて、記録を改ざんしやすく、売上を漏らしやすいと見なされるためです。
税務署は、申告された売上高が、お店の規模や従業員数といった事業の実態と見合っているかを分析します。申告内容に不自然な点があれば調査の優先順位が上がるため、正確な申告が大切です。客観的な事実を残すためにも、日々の売上管理と記録の管理はしっかり行いましょう。
税理士が関与していない
税理士が未関与の申告書は、調査対象として選ばれる可能性が高まります。専門家によるチェックが不足している分、計算ミスや税金のルールの勘違いが含まれる可能性が高いためです。
税理士に依頼すると、申告内容について税務署からの問い合わせがあった際、論理的に説明してもらえます。税理士の説明で税務署の疑問が解消され、実地調査の前に手続きが完了するケースもあります。申告漏れに不安を感じる方は、税理士に頼るのもひとつの手段でしょう。
税務調査に入られないための工夫
税務調査の対象に選ばれる可能性を完全にゼロにはできませんが、日々の心がけでリスクを減らすことは可能です。ここでは、税務調査に備えるための3つの工夫を解説します。
関連記事:交際費の税務調査で否認されるケースとは?注意点と対策を徹底解説
確定申告を税理士に依頼する
税理士に確定申告を依頼するメリットは、申告書の信頼性が高まる点です。専門家が申告内容の品質を保証する「書面添付制度」を活用すれば、税務署からの信用度はより向上します。調査対象となる可能性を下げる効果も見込める、有効な調査対策のひとつです。
税理士に依頼しておけば、万が一調査が行われる場合でも、専門家のサポートがあるため、安心感にも繋がるでしょう。
税務調査には誠意をもって対応する
税務調査の事前通知があった際は、調査に協力する姿勢が大切です。調査官からの質問には、憶測や曖昧な回答は避け、帳簿などの事実に基づいて簡潔に答えるよう心がけましょう。
ただし、聞かれたこと以外の情報を自ら話してしまうと、新たな疑問を招き、調査が長引く恐れがあります。複雑な内容がある場合は事前に専門家に相談し、想定される質問への回答を整理しておくのがおすすめです。
計上する経費には根拠資料を用意する
経費を計上する際は、事業に必要な支出だと証明する根拠資料の保管が大切です。領収書や請求書を整理しておけば、申告内容の透明性が増します。
領収書を紛失した際は、取引先に再発行を依頼しましょう。取引の日時や金額、相手方を記録しておけば、経費として認められる可能性が高まります。日頃からの丁寧な資料管理が、申告書の信頼性を高め、調査官に良い印象を与えます。
税務調査に関するよくある質問
以下では、税務調査に関してよくある質問に回答します。
税務調査は10年以上来ない?
10年以上調査が未実施の場合もあります。ただし、いつ連絡があっても対応できるよう、日頃から正しい申告と帳簿書類の保管を心がけるのが大切です。
税務調査が来た時の流れは?
一般的な税務調査は、事前連絡から結果の通知まで、およそ以下の流れで進みます。
- 税務署からの事前通知と日程調整
- 帳簿などを確認する実地調査
- 調査結果の連絡と修正申告
電話で日程調整の連絡があり、調査官が自宅や事務所などで帳簿類を確認します。調査後に申告漏れなどがあると判断されると、修正申告と納税が必要です。
税務調査は何年前までさかのぼって調べられる?
税務調査でさかのぼる期間は、通常は過去5年分です。ただし、意図的な不正が疑われる場合、最大で7年分までさかのぼって調査される可能性があります。
個人宅にも税務調査は来る?
個人事業主が自宅を事業所として登録している場合、基本的に税務調査は自宅で行われます。ただし、調査官が確認できるのは、事業に関する帳簿や資料に限られます。
税務調査がいくら取られるか不安なら税理士に相談しよう
税務調査では、申告漏れの金額に加えて、さまざまなペナルティが課されるため、追徴課税は想定より高額になる場合があります。税務調査の連絡が来たら、一人で対応するよりも、専門家である税理士に相談するのがおすすめです。
税理士に依頼すれば、調査前の準備から当日の立ち会い、調査後の交渉まで、専門的な視点でサポートしてもらえます。小谷野税理士法人では無料相談を行っているため、まずはお気軽にご利用ください。





