公益法人の設立メリットは、社会的な信頼を得られたり、税制上の優遇を受けられたりすることです。一方で、法令遵守が求められたり、事務作業が増加したりするのがデメリットとしてあげられます。今回は、公益法人設立の方法やメリット・デメリットなどを解説します。最後まで読めば、公益法人を設立するうえでの疑問や悩みなどを解消できるでしょう。
目次
公益法人とは
公益法人設立のメリットを知る前に、以下の通り基本を押さえておくとよいでしょう。
- 公益社団法人と公益財団法人の2種類ある
- 公益目的事業などの条件を満たす一般社団法人・一般財団法人である
ここから、詳しく解説します。
関連記事:公益法人の財務分析で重要な財務三基準とは?法改正後の変更点も解説
公益社団法人と公益財団法人の2種類ある
公益法人とは、公益の増進を目的とする民間法人を示し、以下の通り2つの法人があります。
- 公益社団法人:志ある人の集合体
- 公益財団法人:財産の集合体
個人の価値観が多様化する傾向にある近年、行政や民間企業のみでは、社会課題の解決が難しいケースもあります。公益法人は民間非営利部門の1つで、より豊かな社会の実現へ向けて、重要な役割を果たしてきました。
公益法人制度が制定されたのは明治31年です。公益活動のさらなる発展のため、令和7年4月には制度改正が行われています。
内閣府の令和5年のデータによって、全国で約9,700の公益法人が活動していると判明しています。
参考:申請に役立つ各種資料
公益目的事業などの条件を満たす一般社団法人・一般財団法人である
一般社団法人・一般財団法人のうち、公益目的事業をしているなどとして、以下の通り行政庁から認められているのが公益法人です。
- 複数の都道府県に所在または複数の都道府県で公益目的事業する法人:内閣総理大臣(内閣府)
- 上記以外の法人:事務所所在の都道府県知事
民間有識者で構成される合議制機関などで、行政庁の認定が行われます。一般社団法人・一般財団法人と公益法人との違いは以下の通りです。
項目 | 一般社団法人・一般財団法人 | 公益法人 |
認定要件 | 登記のみ | 認定基準(欠格要件)への適合 |
事業内容 | 適法の事業 | ・適法の事業 ・公益目的事業の割合50%以上 |
遵守事項 | 一般社団・財団法人法 | ・一般社団・財団法人法 ・公益法人認定法 |
監督 | 一律的な監督なし | 行政庁 |
税制 | 収益事業のみ課税 | 公益目的事業は非課税など |
公益法人設立のメリット

公益法人設立のメリットは以下の通りです。
- 社会的な信頼がある
- 寄附を集めやすい
- 税制上の優遇がある
ここから具体的に解説します。
社会的な信頼がある
社会的な信頼があるため、行政や市民などから支援を受けやすいのがメリットとしてあげられます。結果として、求人数の増加や仕事の受注数の増加などへとつながり、事業を継続させやすくなるでしょう。
法制度の実現や社会インフラなどの事業の場合は特に、社会的な信頼獲得で、利用者へ安心感を与えやすくなると言えます。
寄附を集めやすい
寄附の集めやすさもメリットの1つです。
公益法人は寄附で支えられており、個人・法人とも以下の優遇措置を受けられるためです。
個人から公益法人へ寄附 |
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法人から公益法人へ寄附 |
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寄附によって、個人のみでなく規模の大きな法人からも資金を得られる可能性がある点は、魅力的だと言えます。
参考:公益法人税制
関連記事:法人も寄付金控除は適用される?法人税の損金算入についても解説
税制上の優遇がある
公益法人が得られるメリットの1つは、以下の通り税制優遇です。
- 法人税の非課税
- 法人税のみなし寄附金(公益目的事業への支出)の損金算入
- 利子・配当などの源泉所得税の非課税
- 事業税・法人住民税・固定資産税などの優遇
- 奨学金貸与事業の印紙税の非課税
税制上の優遇措置のメリットが大きいと判断できる場合、公益法人化するのを検討するのが有用です。
関連記事:中小企業の税制優遇とは?令和5年度の改正内容と活用方法のポイント
公益法人設立のデメリット

公益法人設立のデメリットは以下の通りです。
- 法令遵守が求められる
- 事務作業が増加する
- 認定取消時のリスクがある
ここから、詳しく見ていきましょう。
法令遵守が求められる
特定の業種や公益性のある事業内容など、法令遵守の観点から、活動制限を受けるのがデメリットとしてあげられます。法令の内容は以下の通りです。
- 公益事業は50%以上占める必要がある
- 認定事業に限られる
- 公益事業の収支は赤字または0円である
- 保有財産・剰余金は事業で使うなど
さまざまな法令遵守が必要なため、なるべく制限を受けたくない事業主の場合、他の法人格を選択肢とするのがポイントです。
事務作業が増加する
自ら情報開示したり行政庁への対応が求められたりするため、事務作業が増加するのがデメリットの1つです。事業運営の透明性について説明責任があり、毎年度以下の書類提出が公益法人の義務です。
- 収支予算書や事業計画書などの書類:毎事業年度の開始日の前日までに作成・提出
- 財産目録や役員名簿、監査報告など事業報告関連の書類:毎事業年度経過後、3ヵ月以内に作成・提出
小規模な団体ほど、事務作業増加が負担に感じられる可能性は高いでしょう。適正な対応を怠ると、公益認定の取消処分を受けるケースがあるため注意が必要です。
事務負担の軽減化を実現させるうえで、税理士などの専門家へ依頼するのが望ましいです。
認定取消時のリスクがある
以下の理由で認定取消の処分を受けると、収益をすべて失うなどのリスクがあります。
- 公益認定基準に不適合
- 行政庁の指示を無視
- 不正な手段での認定取得
- 財務状況の悪化
- 事業活動の停止など
認定を受けたまま公益法人を解散する場合も同様で、公益目的財産を国などへ贈与する必要があります。
認定取消の事実は行政庁から公示され、「一般社団法人」「一般財団法人」へ名称変更が必要です。名称変更するとき登記申請の必要はありません。登録免許税は非課税です。
公益法人の設立方法

公益法人の設立の流れは以下の通りです。
- 一般社団・一般財団法人の設立
- 申請書作成
- 行政庁に公益認定申請
- 行政庁の審査
- 公益の認定
- 定款・登記上の名称変更
行政庁の窓口や郵送のほか、公益法人インフォメーションへアクセスしログインすることで、申請書のダウンロードができます。書類の入手や記載など、なるべく効率的に作業を進めるうえでは、書類のダウンロードがポイントです。
書類で審査が行われるため、以下の添付書類を含め、必要事項が記載されていないなどの不備があると、修正が必要です。
- 収支予算書
- 前事業年度末日時点の財産目録
- 事業計画書など
申請作業が大変になったり、審査に時間がかかったりする可能性もあるため、よく確認したうえで書類作成する必要があります。公益認定を受けるうえで基準を満たす必要があり、以下の通りポイントをまとめました。
目的 |
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財務 |
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機関 |
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財産 |
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一方で、暴力団関係者が役員にいないなどの欠格事由を満たすのも、公益認定でのポイントです。
公益法人に関するよくある質問

公益法人に関するよくある質問をまとめました。ここから詳しく解説します。
公益社団法人・公益財団法人の一覧はありますか?
はい、存在します。
公益法人行政総合情報サイトへアクセスすると、行政庁の住所や法人の名称、事業の種類などで絞り込み検索ができます。
参考:公益法人等の検索
公益法人には法人税などの税金がかかりますか?
かからないケースがあります。
収益事業が公益目的と認定されると、法人税が非課税となったり、一定額の範囲内での寄附金の損金算入が認められていたりします。一定の利子・配当などへかかる源泉徴収所得税が非課税であるなど、公益法人は税制上の優遇を受けられるのがメリットです。
公益財団法人への転職が「やめとけ」と言われる理由は?
基本的に寄附や補助金などによるビジネスで、年収が限られたり、長期的なキャリア形成がしにくかったりするためです。
一方で、社会的な意義のある仕事へ従事しやすい点は、メリットの1つだと言えます。口コミや評判はあくまでも1つの指標で、さまざまな観点から検討するのが望ましいです。
公益法人の給料の目安は?
令和5年実施の民間給与実態統計調査の結果、公益財団法人を含む法人職員の平均年収は、約429万円だと判明しています。
非営利組織で、利益の分配がないため、公益法人の給料は一般的な会社と比較すると低い傾向にあるのが特徴です。給料以外の部分でやりがいを見いだせる方の場合、公益法人の仕事も向いていると言えるでしょう。
参考:民間給与実態統計調査 / 民間給与実態統計 / 結果表(新たな復元推計手法により計算)
公益法人の設立に関する相談は税理士へ
公益法人の設立メリットとデメリット、設立方法などを解説しました。
現代の社会課題を解決するうえで、公益法人が貢献する部分は大きいと言えます。法令遵守や事務作業の増加などのデメリットがある一方、寄附を集めやすかったり税制上の優遇を受けられたりするのはメリットです。
事業内容や体制などで適用される税制が異なるため、最適な判断を下すうえでは税理士へと相談するのが賢明です。
認定支援機関として、国から認められている小谷野税理士法人は、公益法人の設立を始めとするサポート実績が豊富にあります。まずは無料相談をご利用ください。





