取引先が倒産した場合、「買掛金の支払い」はどう対応すべきか迷う方も多いのではないでしょうか。支払義務が残るのか、仕訳はどう処理するのか、対応を誤ると法的リスクや社内責任にも発展しかねません。本記事では、取引先の倒産状況別に買掛金の扱いを整理し、具体的な仕訳例や注意点もあわせて解説します。処理に迷う方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
取引先が倒産した場合の買掛金の基本的な考え方

取引先が倒産した場合、自社の買掛金についてどのように対応すべきかは、倒産の種類や手続きの有無によって異なります。特に法的整理か私的整理かによって、支払の要否や処理のタイミングが変わるため、状況を正確に把握した上で慎重に判断する必要があります。
取引先の倒産とは?
倒産には「法的整理」と「私的整理」があり、対応方針が大きく変わります。
「法的整理」は、破産・民事再生・会社更生など裁判所の関与を伴う手続きで、破産管財人や再生管財人が債権者対応を行いますが、「私的整理」は裁判所を介さず、取引先と債権者が個別に交渉を進める手続きです。
まずはどちらの整理に該当するのかを見極める必要があります。
関連記事:黒字倒産はなぜ起こる?7つの理由や起こりやすい業種、黒字倒産しないためのポイントをご紹介!
買掛金の支払い義務はなくなるのか?
倒産したからといって、すぐに買掛金の支払い義務が消えるわけではありません。法的整理の場合、破産手続開始決定後に支払停止し、管財人の指示に従う必要があります。
債権者平等の原則に基づき、勝手に一部の債権者へ支払うと他の債権者とのトラブルや法的責任に繋がる可能性もあるため、状況に応じて慎重に対応しましょう。
買掛金対応の誤りによるリスク
倒産時の買掛金対応を誤ると、財務的な損失だけでなく、法的責任や社内での信頼問題に発展するリスクがあります。
不適切な支払による債権者平等原則違反
倒産手続中の取引先に対して買掛金を個別に支払うと、他の債権者より優遇した「偏頗弁済(へんぱべんざい)」と見なされる恐れがあります。
これは債権者平等の原則に反する行為とされ、破産管財人などから支払額の返還請求を受けるリスクがあります。
支払の事実が帳簿や取引記録に残っていると、その責任を免れづらく、企業としての法令遵守姿勢も疑われかねません。
支払後に否認権を行使される可能性
取引先が倒産手続に入る前に支払ったとしても、破産手続き開始前の一定期間内であれば「否認権」が行使され、返還請求の対象になる場合があります。
特に、倒産が明らかに迫っている場合や、通常の支払タイミングから逸脱している場合は注意しましょう。
正当な債務履行であっても、事後的に不当と判断されれば、財務処理や信頼に影響を及ぼすリスクがあります。
社内責任やガバナンス問題に発展する恐れ
買掛金対応における判断ミスは、単なる事務ミスにとどまらず、経営層や財務責任者の監督不備として社内外から問われる場合があります。
例えば、支払可否の判断を明確に記録していなかった場合や、法的整理の事実を把握せずに処理した場合などは、組織内のガバナンス体制全体に疑義が生じるリスクがあります。
その結果、内部監査や外部調査の対象となる恐れも否定できません。
倒産した取引先への買掛金対応で注意すべき5つのポイント

取引先の倒産時には、買掛金の支払可否や処理手順について慎重な対応が求められます。状況によっては返還義務が生じたり、社内外での責任が問われたりするリスクもあるため、以下5つのポイントを押さえて適切に対応しましょう。
- 相殺可能かどうかを確認する
- 債権者集会・破産管財人との連絡を怠らない
- 社内での意思決定プロセスを記録に残す
- 支払いや返還に関する証拠を保存する
- 支払期限や猶予措置を誤解しない
相殺可能かどうかを確認する
売掛金と買掛金の相殺は可能な場合がありますが、倒産手続き中は法的制限がかかるため注意しましょう。
特に破産手続き開始後の相殺は制限されることがあるため、相殺前に必ず法的な妥当性を専門家に確認する必要があります。
債権者集会・破産管財人との連絡を怠らない
法的整理が開始された場合、破産管財人や再生管財人との連絡は不可欠です。
債権者集会への出席や通知文書への対応を怠ると、債権届出や支払順位で不利になる可能性があるため、継続的な連絡と情報把握が必要です。
社内での意思決定プロセスを記録に残す
買掛金対応に関する判断は、会議録や稟議書、社内メールなどで正式な記録は保存しておいてください。
後日、責任の所在や対応の正当性を問われた際に備えて、社内意思決定プロセスの透明性を確保しましょう。
支払いや返還に関する証拠を保存する
支払いや返還に関する一連の証拠書類(請求書、振込記録、送金明細、メールや書面のやり取りなど)は必ず保存してください。
取引先や第三者とのトラブルが生じた場合、証拠の有無が対応結果を大きく左右します。
支払期限や猶予措置を誤解しない
「倒産したから支払不要」と判断するのは誤りです。債務の履行が必要なケースや、破産前の取引分について支払義務が残る場合もあります。
支払期限や管財人からの通知を正確に確認し、誤解のないよう慎重に対処してください。
倒産トラブルに備えてできる与信管理
取引先の倒産リスクは、与信管理体制を整えておけば、事前に兆候を察知し対応できます。倒産トラブルを未然に防ぐために実践できる対策を紹介します。
関連記事:黒字倒産の対策方法まとめ!起こる原因から回避方法までを分かりやすく解説
定期的に信用調査を実施する
信用調査は取引開始時だけでなく、継続的に実施することが重要です。
年1回程度のペースで与信調査を行えば、経営悪化や資金繰り悪化などの兆候を早期に察知できます。調査会社のレポートや決算情報を活用し、最新の信用状況を把握しましょう。
支払条件や契約内容を見直す
リスクの高い取引先と継続して掛取引を行うのは危険です。必要に応じて支払条件を短縮したり、前払い・現金取引へ切り替えることでリスクを軽減できます。
契約書面の整備も重要で、債権回収の根拠となる条項を明確にしておきましょう。
担保・保証制度を活用する
大口の取引や継続的な与信を行う際には、担保や保証制度の活用が有効です。
個人保証や連帯保証のほか、動産譲渡担保、債権譲渡担保といった制度を活用すれば、万一倒産した場合でも一定の回収可能性を確保できます。
取引先の集中度を下げる
売上や仕入の大半を特定の取引先に依存していると、その企業が倒産した場合、事業継続に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。特に中小企業にとっては、1社依存の取引構造が命取りになるケースも少なくありません。
こうした集中リスクを避けるためには、複数の取引先と関係を築き、仕入先や販売先を分散させる体制を整える必要があります。取引実績の偏りを定期的に見直し、依存度の高い相手がいないかを確認しましょう。
取引先倒産と買掛金対応に関してよくある質問

取引先が倒産した場合、買掛金の支払いや契約の履行について判断に迷う場面が多くあります。企業から寄せられることの多い質問とその考え方について解説します。
取引先倒産後に納品された商品への支払いは必要ですか?
はい、商品の納品を受けた場合は、原則としてその対価を支払う義務があります。
取引先が倒産状態であっても、受領した商品が自社の経済的利益になっていれば、債務の履行が求められる可能性が高く、安易に支払を拒むとトラブルに発展しかねません。
支払った買掛金は債権者に返還しなければいけませんか?
倒産直前の買掛金支払いが「偏頗弁済」と判断された場合、破産管財人から返還請求を受ける場合があります。
特に破産手続き開始前の一定期間に特定の債権者へ優先的に支払ったとみなされると、法的に無効とされ返還が求められるケースがあるため注意しましょう。
支払いを保留したら取引継続に影響しますか?
倒産手続中であれば、買掛金の支払保留は正当とされるケースが多いですが、相手方がまだ法的整理に入っていない場合は注意が必要です。
債務不履行とみなされ、契約違反や損害賠償請求のリスクが発生する場合もあります。必ず法的な状況を確認した上で判断しましょう。
取引先の倒産で買掛金処理に不安がある方は専門家に相談
取引先の倒産時、買掛金の対応を誤ると返還請求や法的トラブル、社内での責任問題に発展するリスクがあります。倒産の形態や債権者間の関係によって適切な対応は異なるため、独断で判断するのは危険と言えるでしょう。
こうした複雑な局面では、専門家の助言を受けながら対応を進める必要があります。
小谷野税理士法人では、倒産処理や会計・税務の専門知識をもとに、企業の安全な対応をサポートしています。複雑なケースにも対応可能ですので、買掛金処理に少しでも不安のある方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。





