2024年から電子取引データの保存義務が本格化する中、令和5年度の税制改正で制度の見直しが行われました。電子帳簿等保存制度は電子帳簿保存・スキャナ保存・電子取引データ保存の3つに分かれており、それぞれに改正内容があります。今回は、電子取引データ保存制度に関する改正のポイントを中心に解説します。対応しなかった場合の罰則や、スムーズな移行を支援する方法などもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
電子帳簿等保存制度の概要をおさらい
電子帳簿等保存制度とは、税務上保存が必要な帳簿や書類を紙ではなく電子データで保存する制度です。主に以下の3種類に分かれています。
電子帳簿保存 | 会計ソフトやパソコンで作成した帳簿等を電子のまま保存できる方法 要件を満たせば税務上の優遇措置もあり |
スキャナ保存 | 紙の領収書や請求書などをスキャナやスマホで読み取り、電子データとして保存する方法 |
電子取引データ保存 | 電子的に受け取った請求書などをデータのまま保存する義務があり、法人・個人事業主ともに対応が必要 |
このように、保存方法に応じて3つの制度に分かれているため、事業者は内容を理解し適切に対応する必要があります。
参考:電子帳簿保存法の内容が改正されました 〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜|国税庁
関連記事:電子帳簿保存法とは?概要や目的、改正のポイントについて解説
令和5年度税制改正による主な改正事項
以下では、令和5年度税制改正による主な改正事項を以下の3項目に分けて解説します。
電子帳簿等保存に関する主な改正事項
「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置」の適用に必要な帳簿の範囲が、所得税および法人税について見直されました。この軽減措置は、一定の帳簿について所定の保存要件に加え、以下の要件をすべて満たして電子保存することで適用される制度です。
- 訂正・削除履歴の保存
- 帳簿間の相互関連性
- 検索機能
その上で関連する過少申告が発覚した場合でも、過少申告加算税が5%に軽減されます。なお、消費税に関しては帳簿の範囲に変更はありません。
スキャナ保存に関する主な改正事項
スキャナ保存に関する令和6年からの主な改正点は以下の3点です
- スキャナ読み取り時の解像度・階調・大きさに関する情報の保存義務が廃止(ただし、読み取り時の基準自体は変更なし)
- 入力者や監督者の情報確認要件が不要
- 帳簿との相互関連性の確保が必要な書類が「重要書類」に限定(見積書などの「一般書類」は対象外)
スキャナ保存に関する制度改正により、保存時の手続きや要件が一部緩和されました。具体的には、解像度や入力者情報の保存義務が廃止され、帳簿との関連性の確保も「重要書類」に限定されました。
この改正によって実務負担が軽減され、スキャナ保存の利便性が向上しています。
電子取引データ保存に関する主な改正事項
検索機能が不要となる保存義務者の範囲が「売上高1,000万円以下」から「5,000万円以下」に拡大しました。さらに、日付・取引先ごとに整理されたプリントアウト書面を提示できる保存義務者も対象に追加されます。
また令和5年12月31日までのデータには宥恕措置が適用されていましたが、それ以降は廃止となります。ただし、既にプリント保存している書類は保存期間満了まで有効です。
また以下のどちらの要件も満たす場合は保存要件に沿った対応が不要です。
- 保存要件を満たせなかったことに相当の理由があると税務署長が認めた場合(申請不要)
- データのダウンロード対応と、プリントアウト書面の提示が可能な場合
この改正により、中小事業者の実務負担が一部軽減されます。
参考:電子帳簿保存法の内容が改正されました 〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜|国税庁
関連記事:令和6年1月からの電子帳簿保存法(電子取引データの保存方法)について
電子帳簿保存法に対応しなかった場合の罰則

2024年1月から電子取引のデータ保存が義務化され、対象事業者が定められた保存要件を満たさない場合、罰則が科される可能性があります。以下では、電子帳簿保存法に対応しなかった場合に課せられる可能性のある罰則について解説します。
追徴課税が課せられる
国税関係書類の電子データで悪質な不正(改ざん・虚偽・隠蔽)があった場合、重加算税の加重措置が設けられています。スキャナや電子取引のデータ保存が対象で、税務調査で不正が判明すると通常の重加算税35%に加え10%の加重税が課されます。
青色申告の承認の取り消し
2024年1月から電子取引データ保存は義務化されるものの、要件不備があっても直ちに承認が取り消されるわけではありません。国税庁の指針に基づき、取引事実が他の書面などで確認でき、特別な事情がなければ即時取り消しにはならないとされています。
ただし、税務調査で帳簿書類の提示を拒否した場合は承認取り消しの対象となります。なお、国税関係帳簿の電子保存やスキャナ保存は任意ですが、利用する場合は要件を満たす必要があります。
会社法による過料
電子帳簿保存法に違反し、書類や帳簿の改ざんや不正があった場合は会社法(976条)違反となります。場合によっては100万円以下の過料が科せられる可能性があるので、注意しましょう。
関連記事:電子帳簿保存法システム要件ガイド|2024年以降の実務対応のポイントも解説
改正後の電子取引データの保存制度に対応する方法

改正後の電子取引データの保存制度にスムーズに対応するための2つの方法を以下で解説します。
IT導入補助金を活用する
電子帳簿保存法への対応を含めた経理業務のデジタル化には、クラウドサービスの活用が重要です。新たに導入する際には、IT導入補助金などの支援制度を活用しながら準備を進めると良いでしょう。
市販の会計ソフトはJIIMA認証されているものを選ぶ
市販の会計ソフトを導入する際は、電子帳簿保存法の要件を満たしているか確認することが重要です。特に公益社団法人日本文書情報マネジメント協会が実施する認証制度「JIIMA認証」の取得状況をチェックすると良いでしょう。
認証を受けたソフトにはマークが付けられ、JIIMAのホームページや国税庁のサイトで一覧が確認できます。また、自社専用システムの開発で要件適合に不安がある場合は、国税局や税務署の相談窓口を利用することが可能です。
参考:令和5年度の税制改正により見直された 電子帳簿等保存制度の内容と中小企業の対応策
関連記事:電子帳簿保存法の要件とは?対応すべきポイントをわかりやすく解説
電子帳簿等保存制度に関するよくある質問

最後に電子帳簿等保存制度に関するよくある質問についてまとめて回答するので、こちらもあわせてチェックしましょう。
電子データと紙の書類が混ざっていたらどうする?
見積書や領収書などの取引書類は、電子と紙が混在すると管理が煩雑になります。書類の紛失や検索の手間を避けるためにも、どちらかに統一して一元管理することが重要です。
管理方法としては、すべてをデータ化して保存する方法と、印刷して紙で保存する方法があります。データ保存はスキャナ保存対応のシステムを使えば効率的ですが、紙での管理も印刷・ファイリングを徹底すれば可能です。
自社の運用に合った方法を選び、できるところから整理を進めましょう。
タイムスタンプはいらなくなった?
電子帳簿保存法改正により、スキャナ保存時のタイムスタンプ付与が不要となるケースが設けられました。
具体的には、電子データの訂正・削除履歴を残せるクラウドシステムを使うケースです。このシステムで入力期間内にそのシステムへデータを保存すれば、タイムスタンプは不要です。
タイムスタンプなしの運用が可能となるため、スキャナ保存の負担が軽減されました。ただし、条件を満たすシステムや運用体制の整備は引き続き重要です。
まとめ
電子帳簿等保存制度の改正により、検索機能要件の緩和やスキャナ保存の手続き簡素化など、実務負担が軽減されます。しかしその一方で、対応しない場合の罰則も明確化されました。
例えば保存要件を満たさなければ重加算税の加重や青色申告の取消し、さらに会社法違反による過料の対象となることもあります。制度対応に不安がある場合には、IT導入補助金やJIIMA認証済みのソフトを活用し、段階的に体制を整えていきましょう。
不明点がある場合は早めに税理士などの専門家へ相談し、正確かつ効率的な対応を進めるのが得策です。電子取引データの保存制度の移行に不安がある方は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。





