会計処理では「繰延資産」と「固定資産」という用語がよく登場しますが、両者の違いを正しく理解しているでしょうか。どちらも支出を資産として処理する点は共通していますが、その性質や償却方法、使われる勘定科目には明確な違いがあります。本記事では、繰延資産と固定資産の違いを整理し、具体的な勘定科目や仕訳例、処理時の注意点までわかりやすく解説します。
目次
「繰延資産」と「固定資産」の違い

「繰延資産」と「固定資産」はどちらも支出を資産として処理しますが、その性質や償却方法には明確な違いがあります。まずは比較表で全体像を把握し、それぞれの特徴を詳しく確認しましょう。
項目 | 繰延資産 | 固定資産 |
性質 | 費用性が強い資産 | 長期利用を前提とした資産 |
償却 | 均等償却(一部の繰延資産は任意償却の可能性あり) | 法定耐用年数による減価償却 |
用途 | 開業、株式発行など | 建物、備品、車両など |
繰延資産とは
「繰延資産」とは、支出自体は一時的なものでも、今後の収益に貢献すると見込まれるため、会計上いったん資産として処理するものです。
例えば、開業費や社債発行費などが該当し、任意償却によって数年にわたり段階的に費用化することができます。
関連記事:会社設立前の出費はいつから経費になる?経費として扱える出費も解説
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固定資産とは
「固定資産」とは、事業のために長期間使用する建物・備品・ソフトウェアなどを指します。
購入時は資産計上し、法定の耐用年数に応じて減価償却によって費用化します。使用によって価値が減少していくことを前提とした処理で、実物が存在する「有形固定資産」と権利などの「無形固定資産」に分けられます。
関連記事:固定資産はいくらから計上できる?固定資産税についても解説
繰延資産で使う勘定科目

繰延資産は、将来の収益に貢献すると見込まれる支出を一時的に資産として処理するもので、使用される勘定科目も少し独特なので注意しましょう。代表的な科目は以下の通りです。
勘定科目 | 説明 |
開業費 | 開業設立後、営業するまでにかかった各種費用 |
創立費 | 会社設立までの支出全般 |
株式交付費 | 株式発行に伴う手数料・印紙代 |
社債発行費 | 社債発行時の手数料や登録免許税 |
長期前払費用 | 長期的効果が見込まれる広告費用 |
繰延資産で使用される主な勘定科目には、開業費や創立費、株式交付費、社債発行費、などがあります。
いずれも一時的な支出であるものの、将来の収益に貢献すると見込まれるため、資産として計上し償却が必要です。処理に柔軟性がある一方で、税務上はその妥当性を説明できる記録や資料の保存が求められる点に注意しましょう。
固定資産で使う勘定科目
固定資産は、長期使用を前提とした事業用の資産で、取得・償却に関して多くの勘定科目が関与します。代表的な科目は以下の通りです。
勘定科目 | 説明 |
減価償却費 | 固定資産の価値を期間ごとに費用化する際に用いる費用勘定 |
建物 | オフィス・店舗など建築物 |
構築物 | 塀・舗装・看板など建物以外の設備 |
備品 | デスク・椅子・コピー機などの器具備品 |
車両運搬具 | 社用車・バイク・配送用トラック等 |
ソフトウェア | 業務用ソフト、自社開発システムなど |
特許権・商標権 | 登録された知的財産権の使用権利 |
固定資産で使われる勘定科目は、建物・構築物・備品・車両などの有形資産と、ソフトウェアや特許権などの無形資産に分類されます。
これらは購入時に資産計上され、使用に応じて法定耐用年数に従い「減価償却費」として費用化されます。
減価償却費は、資産の価値の減少分を毎期費用として計上するための重要な科目なので留意しておきましょう。なお、取得額が一定基準を下回る場合には、取得時に全額を費用として処理することも認められています。
繰延資産の仕訳例

繰延資産は、支出時にいったん資産として計上し、将来の収益に貢献するものとして償却します。以下で、代表的な仕訳例を紹介します。
開業準備中の支出
開業後、営業するまでに発生した費用などは、費用ではなく「開業費」として繰延資産に計上します。任意償却の対象となり、後から自由なタイミングで費用化が可能です。
例)営業前に広告宣伝費として30万円を支払った場合
借方 | 貸方 | ||
開業費 | 30万円 | 普通預金 | 30万円 |
株式交付費の処理
株式発行に伴う印紙代や金融機関への手数料などの支出は、将来の資金調達活動に結びつくため「株式交付費」として繰延資産に計上されます。
例)株式発行時に手数料20万円を支払った場合
借方 | 貸方 | ||
株式交付費 | 20万円 | 普通預金 | 20万円 |
固定資産の仕訳例
固定資産は取得時に資産計上し、使用に応じて耐用年数に基づいて減価償却を行います。以下は代表的な仕訳例です。
備品を購入した場合
一定金額(原則10万円以上)の備品は費用処理せず、固定資産として「備品」勘定で計上します。取得後は減価償却の対象になります。
例)50万円の複合機を現金で購入した場合
借方 | 貸方 | ||
備品 | 50万円 | 現金 | 50万円 |
減価償却の処理
固定資産は使用によって価値が減るため、「減価償却費」として毎年一部を費用化し、「減価償却累計額」として資産を減額します。
例)取得価額30万円・耐用年数5年の備品を定額で1年分償却
取得価額30万円 × 0.2 = 60,000円/年
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 60,000円 | 減価償却累計額 | 60,000円 |
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
ソフトウェアの取得
業務で使用するパッケージソフトや自社開発システムは「ソフトウェア」として無形固定資産に計上され、耐用年数(通常5年)で償却します。
例)ソフトウェア(80万円)を購入した場合
借方 | 貸方 | ||
ソフトウェア | 80万円 | 普通預金 | 80万円 |
繰延資産と固定資産の処理で注意すべき5つのポイント

繰延資産・固定資産はいずれも資産処理にあたるため、処理を誤ると税務上の否認や帳簿ミスに繋がります。以下5つのポイントを押さえて、正確な会計処理を行いましょう。
- 資産計上の要件を満たしているかを確認
- 任意償却の繰延資産は記録管理を厳密に行う
- 固定資産は正しい耐用年数を用いる
- 勘定科目の使い分けを誤らない
- 税務調査に備えて根拠資料を保存する
資産計上の要件を満たしているかを確認
資産として計上するには、一定の要件を満たしていることが前提です。明確な目的や将来的な収益への貢献が認められない支出を資産として処理すると、税務上否認されるおそれがあるので注意しましょう。
繰延資産では「一時的な支出か」、「将来への効果があるか」、固定資産では「長期利用の見込みがあるか」などを事前に確認する必要があります。
任意償却の繰延資産は記録管理を厳密に行う
開業費や創立費は償却額や償却のタイミングを自由に決められるため、適切に記録しなければなりません。
任意償却は柔軟性が高い一方、償却忘れや帳簿の不整合が起こりやすく、経理ミスや決算の信頼性低下に繋がります。台帳・明細書などで管理を徹底し、期末に処理漏れがないか必ず確認しましょう。
固定資産は正しい耐用年数を用いる
減価償却には、資産ごとに定められた法定耐用年数を正しく使うことが重要です。耐用年数の誤りは、毎年の減価償却費の金額を狂わせ、損益計算や税額計算に直接影響するので注意しましょう。
国税庁の耐用年数表を参考に、資産の種類や使用状況に応じた適切な年数を選定する必要があります。
関連記事:耐用年数が過ぎた減価償却資産の扱いはどうなる? | 会社設立の基礎知識
勘定科目の使い分けを誤らない
勘定科目の選択を誤ると、資産の性質を正確に反映できず、帳簿ミスや税務否認のリスクが高まるでしょう。
繰延資産と固定資産では処理の前提や償却方法が異なるため、費用の内容や目的をよく確認し、適切な勘定科目を選んでください。例えば、広告宣伝費は短期なら費用処理、長期的なら長期前払費用など、実態に即した判断が必要です。
税務調査に備えて根拠資料を保存する
資産計上した支出は、内容を証明できる資料とともに記録・保管しておきましょう。
契約書、請求書、支払い明細、見積書などの関連資料がない場合、資産の正当性を示せず、税務調査で否認される可能性があります。特に繰延資産は支出の性質が曖昧になりがちなので、証拠の整備と管理が求められます。
関連記事:税務調査とは?どこまで・何を調べる?流れや個人・法人の対応方法などについて詳しく解説
繰延資産と固定資産の処理でお悩みの方は専門家に相談を
繰延資産や固定資産の処理は、会計上だけでなく税務上の判断も伴うため、処理を誤ると申告の修正や税務調査での否認リスクに繋がる恐れがあります。特に、費用との区別や償却のタイミング、勘定科目の選定には注意しましょう。
こうした判断に不安がある場合は、専門家のアドバイスを受けることが安心です。
小谷野税理士法人では、繰延資産や固定資産の計上・償却・税務処理に関するご相談を多数受け付けております。処理に迷ったときは、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。





