年収2,000万円の個人事業主は高所得者ゆえに税負担も大きく、利益の半分以上が税金に消えるケースも珍しくありません。この記事では、年収2,000万円の個人事業主がどの税目にいくら税金を支払うのかを具体的にシミュレーションします。さらに、おすすめの節税方法や、法人化した場合の税負担についても解説します。
目次
個人事業主の「所得」とは「年収から経費を引いた額」を指す

本題に入る前に、「年収」や「所得」の定義を確認しましょう。
年収 | 1年間の売上(年商) |
経費 | 売上を得るために必要だった支出 (仕入れ・家賃・光熱費など) |
所得 | 年収から経費を引いた金額 1年間の所得 = 年収 – 1年間の経費 ※税金がかかる基準となるのも所得 |
個人事業主の場合、主要な税金の基準となるのは、年収ではなく「所得」です。社員の場合、年収を聞けば大体の手取りが想像できます。しかし個人事業主は経費の額によって実際の手取りが大きく変わります。
例えば、年収3,000万円の個人事業主でも、経費が2,500万円かかれば所得は500万円です。逆に経費が少なければ、同じ年収でも所得はもっと大きくなります。このように、個人事業主の「年収」だけを聞いても、手取り額や課税される金額は判断できません。
そのため、個人事業主が言う「年収」は、実際には所得を指しているケースが一般的です。
この記事では税金について解説するため、「年収から経費を差し引いた【所得】が2,000万円」のケースを想定して説明します。
関連記事:自営業の所得とは?年収や収入との違いや税金の計算方法を解説
所得2,000万円の個人事業主の税金シミュレーション

年間所得が2,000万円の場合、下記の条件でシミュレーションすると、税金などの合計は約1,100万円で、手取りは約900万円です。所得の55%が税金や保険料に持っていかれます。
【条件】
- コンサルタント業の個人事業主(青色申告者)
- 年間所得2,000万円(前年以前も同水準の所得)
- 課税売上3,000万円、経費1,000万円(人件費含む)
- 消費税の課税事業者
- 東京都渋谷区に住み、事業所も区内
- 42歳(介護保険料あり)
- 扶養者なし
以下、税金など1,100万円の内訳を見ていきましょう。
税目 | 金額 | 計算根拠 | 備考 |
社会保険料(国民健康保険料+国民年金) | 約130万円 | ・国民健康保険料(所得が高いほど増える) 医療分+後期高齢者支援金分+介護分の世帯限度額=109万円 ※渋谷区の「令和7年度渋谷区国民健康保険料試算シート」による ・国民年金(所得に関わらず一定) 109万円+約21万円 | ・国民健康保険料は自治体によって金額が異なる ・扶養者がいると負担が大きくなる ※所得税と住民税では、社会保険料で支払った金額を控除できる |
所得税 | 約423万円 | 事業所得2,000万円- 基礎控除58万円- 青色申告特別控除65万円- 社会保険料控除約130万円(※上記)=課税所得1,747万円 1,747万円 × 税率33% − 控除153.6万円 =所得税422万9,000円 | ・扶養控除・配偶者控除があると減額 ・基礎控除は2025年12月に改正 |
復興特別所得税 | 約90,000円 | 所得税422万9,000円 × 2.1%≒復興特別所得税88,809円 | |
住民税 | 約176万円 | 住民税176万2,000円 | 自治体によって金額が異なる |
個人事業税 | 約86万円 | 事業所得2,000万円− 事業主控除290万円=1,710万円 1,710万円 × 税率5%=個人事業税85万5,000円 | 業種によっては税率が3%・4%になる |
消費税 | 270万円 | ・売上に対する消費税課税売上3,000万円× 10%=仮受消費税300万円 ・経費に含まれる消費税 経費1,000万円(人件費含む)のうち、控除対象となる経費(通信費・外注費・交通費など)が300万円と仮定すると300万円 × 10%=仮払消費税30万円 仮受消費税300万円- 仮払消費税30万円=納付税額270万円 | ・人件費はf不課税→仮払消費税として控除できない ・本則課税で計算 |
税金の合計額 | 約1,100万円 | 社会保険料:約130万円 所得税:422万9,000円 復興特別所得税:88,809円 住民税:176万2,000円 個人事業税:85万5,000円 消費税:270万円 合計:約1,093万円 |
参考:保険料試算 | 国民健康保険料 | 渋谷区ポータル
参考:国民年金保険料|日本年金機構
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
参考:No.2260 所得税の税率|国税庁
参考:課税・申告 | 渋谷区ポータル
参考:個人事業税|仕事と税金|東京都主税局
参考:No.6351 納付税額の計算のしかた|国税庁
社会保険料や所得税などについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:個人事業主が加入すべき社会保険の種類|加入条件や健康保険組合一覧まとめ
関連記事:個人事業主の所得税の計算の仕方は?税金の計算方法を詳しく解説
関連記事:フリーランスの税金はいくら?年収別に簡単シミュレーション
年収2,000万円の個人事業主におすすめの節税方法

所得2,000万円の個人事業主は、税金と社会保険料で利益の半分以上を失います。ここでは、高所得層に効果が出やすい代表的な節税方法を紹介します。
専従者給与(家族への給与分散)を活用する
青色申告者の特典である「専従者給与」を利用して家族に給与を支払うと、事業主本人の所得を減らせるため、節税できます。専従者給与とは、事業を手伝ってくれる家族に対して支払う給与を、経費に計上できる制度です。
例えば所得2,000万円のうち300万円を配偶者の給与として計上すれば、事業主本人の事業所得は1,700万円に減ります。その結果、世帯全体の税負担を抑えられます。
ただし「実際に働いていること」「給与が相場に見合っていること」などいくつかの条件があります。給与が多すぎると税務署に判断されると、過大な部分は経費になりませんのでご注意ください。また、制度を利用するには届出も必要です。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
給与額の決め方や手続きなど、詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:青色専従者給与はいくらまでOK?金額設定の考え方と注意点を解説
iDeCoや小規模企業共済を活用する
iDeCoや小規模企業共済に加入すると、掛金が全額「所得控除」となるため、税負担を減らせます。その上、将来の老後資金や退職金にも活用でき、一石二鳥です。
例えば、年間84万円(毎月70,000円)を小規模企業共済に積み立てると、84万円を所得控除として適用できます。所得税の税率が40%である個人事業主の課税所得が84万円減ると、年間で約34万円所得税を減らせます(84万円 × 40%=33.6万円)。住民税も対象です。
ただし掛金の控除は、社会保険料の計算基準には反映できないため注意しましょう。
参考: iDeCo|厚生労働省
参考:No.1135 小規模企業共済等掛金控除|国税庁
iDeCoや小規模企業共済のメリットについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:iDeCoの節税効果と計算方法をわかりやすく解説(監修中)
関連記事:小規模企業共済に個人事業主が加入するメリットとデメリットを解説
経費として計上できる範囲を見直す
経費にできる支出が他にもないか見直すと、課税所得を減らせる可能性があります。また、事業と私用を兼ねる支出は、一部を事業の経費にできます。これを家事按分と呼びます。
例えば、自宅兼事務所の家賃や光熱費は、事業使用割合に応じて按分できます。また、スマートフォン代やインターネット代も、事業利用分は計上可能です。
どれも高所得者にとっては1件あたりの金額は小さく見えますが、積み重ねれば課税所得を数万円単位で抑えられる場合があります。
経費にできる範囲や税金対策、按分方法などは下記の記事をご確認ください。
関連記事:個人事業主はなんでも経費にできる?注意すべき5つのポイントも解説
関連記事:個人事業主が税金対策で買うものをご紹介!経費計上の注意点も
関連記事:家事按分を正しく適用!個人事業主が知っておきたい経費計上の方法と注意点
法人化を検討する
所得2,000万円の個人事業主は、法人化すると税金面や保障面で有利になる場合があります。
税金面で言えば、個人事業主の所得税は最高税率が45%ですが、法人税の最高税率は23.2%です。さらに、給与所得控除も使えますし、退職金制度の導入も可能です。
保障面で言えば、社会保険の制度を幅広く利用できるようになります。例えば、国民健康保険にはない「傷病手当金」や、国民年金より手厚い「厚生年金」などです。
上記で解説した【所得2,000万円の個人事業主の税金は約1,100万円】の条件と同じく900万円の手取り額で税金を比較すると以下の通りです。
【同じ事業規模(売上3,000万円・経費1,000万円)の場合の比較】
税目 | 個人事業主 (所得2,000万円) | 法人(役員報酬900万円・法人所得1,100万円) |
社会保険料 | 約130万円 (国民健康保険料+国民年金) | 本人負担:約123万円 会社負担:約123万円 (協会けんぽの健康保険+厚生年金) |
所得税+復興税 | 約432万円 | 約62万円 |
住民税 | 約176万円 | 約54万円 |
法人税(地方法人税を含む) | ー | 約210万円 |
法人住民税 | ー | 約20万円 |
個人事業税 | 約86万円 | 約77万円 (地方法人特別税含む概算) |
消費税 | 270万円 | 270万円 |
税金の合計額 | 約1,094万円 | 約939万円(本人負担・会社負担の社会保険料を合計した場合) |
参考:令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表・健康保険料率|全国健康保険協会
上記を見て分かる通り、法人化は「劇的な節税」にはなりません。法人化には社会保険加入の義務や決算申告の手間があり、節税以上の負担が増える可能性もあります。
節税だけを目的に法人化するのではなく、事業拡大や信用力増加など他の目的と併せて法人化を検討しましょう。なお、法人化には、報酬設計や設立登記など専門的な知識が必要です。不安な場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
関連記事:個人事業主から法人化をするメリットは?タイミングと手順
関連記事:個人事業主の節税・税金対策を解説!ポイントや法人の方がお得なケースとは?
年収2,000万円の個人事業主の税金対策はご相談ください
この記事では、所得2,000万円の個人事業主が払う税金の金額について解説しました。業種や家族構成などの条件にもよりますが、所得の半分ほどは税金や社会保険料にとられてしまいます。よって、節税策が欠かせません。
税金対策や法人化は、ぜひ税理士にご相談ください。所得控除や専従者給与、社会保険や消費税などが複雑に絡み合う税制は、専門的な知識が必要です。最適な方法は事業規模や家族構成によって個々に異なるため、専門家が状況に合わせて節税をサポートします。





