現在の税理士に不満がある場合、契約解除を考えることもあるでしょう。税理士の仕事ぶりに満足できなければ、事業に支障をきたす可能性もあります。この記事では、顧問税理士を解約する流れやポイントについて解説します。トラブルを回避する伝え方にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
なお、現在の税理士にご不満がある方、税理士変更をご検討中の方は、ぜひ一度小谷野税理士法人までご相談ください。
目次
顧問税理士との顧問契約は解約できる?

「満足いく内容の仕事をしてくれない」など、現在の税理士との契約解除を検討することもあるでしょう。そもそも、顧問契約は事業主の一存で解約できるものなのでしょうか?以下にて、詳しく解説します。
顧問税理士の解約は事業主の自由
企業や事業主が顧問税理士を変更したり、契約を解消することは、自らの判断で行うことが可能です。
顧問税理士との契約は一般的に「委任契約」とされており、民法第651条に基づいて、事業主はいつでも契約を解除する権利があります。この権利は、信頼関係が基盤となる契約であるため、信頼が損なわれた場合に契約を続けることが不合理と考えられるからです。
さらに、判例(最高裁昭和58年9月20日判決)によれば「税理士との顧問契約も委任契約であり、受任者(税理士)の利益を目的としない限り、事業主(委任者)はいつでも契約を解除できる」とされています。税理士顧問契約は一般的に「受任者の利益を目的とするもの」ではないため、事業主は自由に契約を解除することが認められているのです。
ただし「契約期間」には注意
顧問税理士の解約は、企業や事業主の裁量に委ねられていますが、顧問契約書の「契約期間」には注意が必要です。
例えば、契約書に「契約期間満了日の1ヵ月前までに意思表示がない場合は自動継続」と記載されている場合、2週間前に解約を申し出ても相手側に認められないことがあります。そのため、まずは現在の契約内容をしっかり確認し、契約に反しないタイミングを確認することが重要です。
また、自動更新期間に入っている場合でも、税理士と話し合い、一定の「違約金」を支払って契約解除できるケースもあります。契約内容を確認し、円満に解約できるよう努めましょう。
基本的に解約手続きは不要で意思表示のみ
顧問税理士との契約を解約する際に、煩雑な手続きは必要ありません。基本的には「解約の意思」を伝えるだけで解約できます。
これは、委任契約が相手方に対する一方的な意思表示で成立するためです(民法第540条第1項)。この意思表示は、口頭と書面のどちらでも問題ありません。
しかし、解約の意思を伝える際にはメールや書面など記録に残る方法を選ぶことをおすすめします。電話だけでは記録が残らないため、後のトラブルにつながる可能性があるためです。
顧問税理士との契約を解約するタイミング
顧問税理士との契約は、「契約期間」に注意すれば、基本的にいつでも解約することが可能です。しかし、税理士の解任が自社の不利益につながるタイミングもあり、適切な時期を見定めることも大切です。ここでは、税理士との顧問契約を解約するタイミングについて解説します。
法人税申告書の提出後がベスト
顧問税理士との契約を解約するなら、「法人税申告書の提出後」のタイミングが最も適していると言えます。この時期は、税務関連の主要業務が一区切りつき、次の大きな税務イベントまでしばらく時間があるためです。
申告書提出後は、企業の財務状況が整理されており、新しい税理士への引き継ぎがスムーズに行えます。このタイミングでの変更は、業務の中断を最小限に抑えるだけでなく、データの一貫性も保たれるため、誤りが生じにくくなるメリットがあります。
また、新しい税理士が次の会計期間の始まりから参画することで、事業計画や節税対策の提案が円滑に進むことも期待できるでしょう。
修正申告がある場合は申告完了後に解約すべき
税務調査で誤りが指摘され、修正申告書を提出する場合、その手続きが完了した時点で契約を解除するのが最適です。
修正申告が終了した後は、税務関連の業務が安定しており、不確定要素が少ないため、新しい税理士への引き継ぎがスムーズに行えます。トラブルのリスクを抑えられ、新しい税理士との円滑な業務開始が期待できるでしょう。
決算の3ヶ月前のタイミングでの解約はリスクが大きい
決算の3ヶ月前からは、資料の確認や申告書の準備が本格的に進行しています。このタイミングで税理士を変更すると、新しい税理士が短期間で全ての業務や情報を引き継ぐのが難しくなり、業務に支障をきたしかねません。決算書類の作成や税務処理に影響を及ぼし、企業の信頼性や税務上のリスクが高まる恐れがあります。
決算は企業の年間業績をまとめる重要な時期であり、正確な損益計算や税額の算出には、1年間の業務内容を詳しく把握している顧問税理士のサポートが欠かせません。そのため、決算前3ヶ月を避け、業務に支障が出ないタイミングを選びましょう。
確定申告の時期(2月〜3月)での解約も避けるべき
確定申告の時期である2月〜3月中旬も避けるべきです。確定申告期間は、税理士業界の繁忙期に当たります。この時期に税理士を変更すると、必要な書類が揃わなかったり、税務上の適切な対応が取れなかったりするリスクが高まります。
さらに、新しい税理士にとっても忙しい時期であるため、契約を断られる可能性も考えられます。業務が円滑に進まず、トラブルの原因となることが多いため、この時期の解約はおすすめできません。
関連記事:税理士変更のトラブルは断り方が理由?契約解除の文例や引継ぎ方法を解説
顧問税理士との契約をスムーズに解約する流れ

契約解除を強引に進めてしまうと、トラブルにつながりやすくなり、自社の事業に影響が出てしまう可能性もあります。解約を滞りなく進めるためには、以下の流れを把握しておくことが大切です。
契約解除に関する条項を確認する
最初に、現在の顧問税理士との契約書を手元に用意し、契約解除に関する条項を確認しましょう。多くの場合、契約書には解約手続きや条件が明記されています。
契約期間中に解約する場合、違約金の発生や通知期間の設定など、具体的な取り決めがある場合もあります。記載されている内容をしっかりと理解しておくことが大切です。
解約を告げる前に新たな顧問税理士を見つけておく
契約を解除する前に、次の税理士を見つけておきましょう。新しい税理士を早めに探しておけば、解約手続きやスムーズな引継ぎについてアドバイスを受けられる上に、「税理士がいない期間」が発生することも避けられます。
新しい契約を正式に結ぶのは、現在の契約が解除された後で構いませんが、事前に相談だけでも済ませておくと良いでしょう。
顧問税理士に解約したい旨を伝える
契約解除の意向を伝える際には、感謝の気持ちと敬意を忘れずに表現することが大切です。不満があったとしても、これまでのサポートに対するお礼の言葉を添えることで、円満に進められます。
契約解除の方法としては、記録が残るよう文書で伝えることが望ましいですが、文書だけでは感情が伝わりにくいため、電話や面談など口頭でも伝えられると理想的です。
預けていた書類やデータをすべて返却してもらう
顧問税理士にこれまで預けていた書類やデータを、きちんと返却してもらうことも必要です。請求書や領収書、決算書、登記簿謄本など、多岐にわたる重要書類があります。これらは次の税理士に引き継ぐ際にも必要となります。
特に忘れがちなのが、e-Taxのパスワードです。旧税理士しかパスワードを知らない場合、新たにパスワードを設定する必要があり、過去のメールボックスが見られなくなることもあります。このようなトラブルを避けるためにも、すべての書類やデータが確実に返却されるよう、期限を決めて依頼することが大切です。
注意したい!顧問税理士との解約でよくあるトラブル
顧問税理士との契約解除では、トラブルに発展するケースもあります。ここでは、よくある事例について解説します。
高額な違約金を請求される
税理士が違約金を求めることは「不当なこと」ではありませんが、その金額が適正かどうかは別問題です。解約のタイミングによっては、一部の税理士が法外な違約金を設定することがあります。例えば、決算直前に契約を解除する際に「解除料として100万円を請求する」といったケースも稀にあるのです。
契約書に記載されている違約金が月の顧問料の数ヶ月分であれば、それは一般的な範囲内ですが、常識を超える高額な金額を請求される場合は注意が必要です。解約を急ぐ理由がなければ、決算が終わった後に解約することで違約金を回避できることもあります。契約内容をしっかりと確認し、不適切な違約金を請求されないよう、慎重に対応することが大切です。
顧問税理士に解約を拒否される
顧問税理士との契約を解除したいと申し出た際に、拒否されることもあるかもしれません。税理士が契約解除を拒否する理由としては、「契約期間が残っている」「引き継ぎが困難な状況にある」「重要な案件が進行中である」など、さまざまなケースがあります。このような場合、まずは契約書を再確認し、契約解除の条件や手続きを理解しておくことが大切です。
もし契約解除を拒否された場合、話し合いでも解決できない場合は、税理士会や第三者機関に相談し、調停を通じて解決の道を探る方法もあります。ただし、裁判にまで発展してしまうと、双方にとって大きな負担となり、経済的にも時間的にも大きなコストがかかります。そうした事態を避けるためにも、冷静で丁寧な対応を心掛けることが賢明です。
参考:日本税理士会連合会
関連記事:【税理士監修】[例文付き]税理士変更の断り方!コツと円満に断る方法とは?
新しい税理士との引き継ぎがうまくいかない
顧問税理士を変更する際、前任の税理士から新しい税理士に情報が正確に引き継がれないことがあります。引き継ぎがうまくいかないと、新しい税理士が必要な情報を得られず、業務に支障をきたす可能性があります。
特にe-Taxの利用者識別番号や暗証番号の変更は、契約解除前に必ず行うべきです。これを怠ると、解除後も前任税理士が修正申告を行える状態が続くことになります。また、e-Taxに登録されている前任税理士のメールアドレスを削除することも重要です。
引き継ぎトラブルを防ぐために、事前に新しい税理士と詳細な打ち合わせを行い、スムーズな引き継ぎができるよう準備を整えることが大切です。
関連記事:税理士変更のデメリットは?「ダメな税理士」「税務調査」「コロコロ変える」を防ぐ断り方とタイミング
顧問税理士と円満に解約するポイント

顧問税理士の解約でトラブルを避けるためには、旧税理士への伝え方に工夫が必要です。ここでは、顧問税理士と円満に契約を終わらせるポイントについて解説します。
解約期日や書類の返却期日を文面で伝える
顧問税理士との契約を円満に解約するためには、解約期日や書類の返却期日を明確に文書で伝えることが大切です。口頭で伝えるだけでは、後々「言った・言わない」のトラブルが生じる可能性がありますので、必ず文書やメールで具体的な期日を明示しましょう。
例えば、「契約解除の期日は〇年〇月〇日でお願いします。また、書類の返却は〇年〇月〇日までにご対応いただけますようお願い申し上げます」といったように、具体的な日付を記載することが重要です。また、通知は担当税理士だけでなく、税理士事務所の責任者にも送付し、確実に伝わるようにしましょう。
不満は伝えず前向きな理由を考えておく
円満な解約を目指す上では、前向きな理由を考えて伝えることが大切です。不満がある場合でも、それをそのまま伝えるのではなく、前向きな言葉に変換しましょう。例えば「取引先から税理士の指定があった」「事業内容が変わるため別の税理士に依頼することになった」といった理由を使うことで、スムーズに解約を進めやすくなります。
税理士の能力に不満がある場合でも、やむを得ない事情を理由として挙げることで、円満に話を進められます。感情を逆なでしないよう配慮した言葉選びを意識し、顧問税理士との良好な関係を保ちつつ、円満に解約を目指しましょう。
関連記事:【税理士監修】[例文付き]税理士変更の断り方!コツと円満に断る方法とは?
顧問税理士への感謝を伝える
顧問税理士に対する不満があったとしても、これまでのサポートに対するお礼の言葉を添えることで、穏やかに解約を進められます。感謝や尊敬の気持ちを示すことで、相手も自分の仕事が認められたと感じやすくなり、ネガティブな感情も和らぐでしょう。
感謝を伝える際には、具体的な内容を含めるとさらに効果的です。例えば、「おかげさまで決算報告を無事に終えられました」や「税務調査で指摘がなかったのは〇〇さんのお力のおかげです」など、具体的な事例を挙げて感謝を伝えましょう。
関連記事:税理士変更のトラブルは断り方が理由?契約解除の文例や引継ぎ方法を解説
顧問税理士から解約されることもある?
顧問税理士との契約では、相手側から解約を言い渡されるケースも考えられます。ここでは、顧問税理士から解約される主な理由について、ご紹介します。
顧問料の支払いが滞っている場合
税理士は、顧問契約に基づいて業務を行っており、適正な報酬を受け取る権利があります。しかし、従業員の賃金や取引先への支払いが優先され、税理士の顧問料が後回しになってしまう場合もあるかもしれません。しかし、不払いが続くと、税理士は顧問契約の解除を申し出ることがあります。
顧問料の支払いが滞ると、税理士に対して不満や信頼の欠如を感じさせることになりかねません。報酬が高すぎると感じる場合には、大まかな相場を踏まえて交渉してみるのも一つの手です。
最終的には、契約通りに顧問料を支払うことが基本となりますので、支払いが滞らないように計画的に対応しましょう。
脱税の相談や依頼がある場合
税理士の役割は、法律の範囲内で適正な税務をサポートすることです。過度な節税や違法な手段で税金を減らそうとする要求は、税理士にとって困難な状況を生むだけでなく、プロフェッショナルな信頼を損なう行為となります。税理士が不正に加担すれば、彼らの仕事を失うリスクも伴うのです。
税理士法第1条でも、税理士の使命は「納税義務者の信頼に応え、納税義務の適正な実現を図ること」とされています。このため、脱税を持ちかける顧問先に対しては、税理士側から契約解除を求める場合が多いです。節税に関しての相談は、必ず法律の範囲内で行うよう心掛けましょう。
事務所の方針が変わった場合
税理士事務所の経営方針は、変更されることもあり得ます。例えば、個人事業主を受けない方針に転換したり、大規模な企業に特化するなどの理由で、現在の顧問契約が解除されるケースがあります。税理士事務所も人手不足問題を抱えており、業務の効率化を図るために行われることが多いです。
顧問料が低い場合や業務が集中する時期がある個人事業主は、こうした方針転換の影響を受けやすいです。ただし、長期にわたって契約してきた顧問先に対しては、方針転換後も引き続き契約を続けることもあります。
税理士が高齢を理由に廃業する場合
日本では税理士の平均年齢が60歳前後で、若手税理士が少ないのが現状です。税理士が高齢や病気を理由に廃業する場合、顧問契約は解除されることがあります。
また、税理士自身が病気にかかり、業務を続けることが困難な状況になると、顧問先に契約解除を申し出ることが一般的です。
「顧問税理士を解約すると税務調査が来る」って本当?

他の経営者の方との会話の中で、「税理士との顧問契約を解約すると税務調査が来る」という噂を耳にしたことがある方もいるかもしれません。しかし、これはあくまでも噂であり、心配する必要はほとんどありません。税理士を変更することで税務調査が増えるという可能性はありますが、その確率は大幅に高まるわけではないのです。
税務調査は、税務署が一定の基準に基づいて行うもので、調査対象の選定に税理士が関与することはありません。税理士が故意に税務調査を仕掛けることはできず、そのような行為を行えば、自分の信用や評判を失うことになります。したがって、税理士の解約と税務調査には因果関係はないと言えます。
税理士変更直後に税務調査の通知が来た場合、それは偶然やタイミングの問題に過ぎません。多くの顧問先が他の税理士事務所から乗り換えていますが、税務調査の確率は一般的な法人や個人事業主とほとんど変わらないのです。安心して、必要に応じて税理士の変更を進めてください。
顧問税理士に不満がある場合は解約を検討しよう
税理士との関係に不満を感じながら付き合い続けるのは、大きなストレスとなるでしょう。「顧問契約を結んでいるのに何もしてくれない」「節税にも消極的だし税務調査が不安」といった理由での不満は、会社経営にとって良い影響を与えません。早期に顧問税理士の変更を検討することが望ましいです。
これまでの付き合いを考えて言い出しにくい場合でも、事業の最善を考え、遠慮なく解約の意思を伝えるべきです。適切なタイミングと方法で、次のステップに進みましょう。
現在の顧問税理士との関係に不安がある方や、信頼できる新しい税理士をお探しの方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。





