建設業を営む経営者や経理担当者にとって、税務や会計処理は業務負担となりがちです。しかし、建設業界は独自の会計処理や税務ルールが存在するため、一般的な税理士では対応できないかもしれません。建設業に強い税理士に依頼することで、記帳業務や税務申告はもちろん、資金繰りや経営改善など幅広いサポートを受けられます。この記事では、建設業に強い税理士の特徴や選び方、依頼するメリットを解説します。
目次
建設業にとって税理士選びが欠かせない理由

建設業の経営において、税理士選びはとても大切です。建設業には、工事進行基準や工事完成基準といった独自の会計処理や、特殊な勘定科目の扱いなど、他の業種にはないルールが数多く存在します。
さらに、資金の流れも複雑なため、建設業に詳しい税理士のサポートは欠かせません。
経営に損失が生じる可能性がある
建設業に不慣れな税理士に依頼すると、経営に思わぬ損失を招くことがあります。建設業は長期工事や多額の先行投資、複雑な原価管理など、専門的な知識が求められる場面が多いためです。
売上を計上する際、工事進行基準と工事完成基準の判断を誤れば、決算や資金繰りに影響が出ます。また、未成工事支出金や完成工事未収入金などの勘定科目の扱いを間違えると、経営状況を把握できなくなり、過度な納税や税務調査での指摘につながる可能性もあります。
税理士に資金繰りのアドバイスもしてもらえる
建設業は工期が長く、材料費や人件費などの先行支出が多いため、資金繰りが難しい業種のひとつです。売上は発生していても入金が遅れることで手元資金が不足し、支払いが滞る黒字倒産に陥るリスクも少なくありません。
建設業特有の課題に対して、建設業に強い税理士は資金繰りのアドバイスを行い、経営を支えてくれます。例えば資金繰り表の作成をサポートし、将来の資金の動きを見える化することで、資金不足の兆しを把握できます。
早めに資金調達の手段やタイミングを判断できるので、金融機関との融資交渉もスムーズに進められるでしょう。
融資に有利な決算書を作成してもらえる
建設業は設備投資や材料の仕入れ、人件費などに多額の資金が必要となるため、金融機関からの融資は事業の継続に直結します。融資を受けるためには、企業の財務状況を正確に示し、信頼性の高い決算書を提出することが求められます。
建設業特有の工事進行基準や工事完成基準を正しく適用したり、未成工事支出金や完成工事未収入金といった特殊な勘定科目を的確に処理したりすることは、経験の浅い税理士では難しいかもしれません。
一方、建設業に強い税理士であれば、複雑な会計処理に対応し、金融機関が求める信頼性の高い決算書を作成できます。
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建設業に強い税理士の主な特徴

建設業に特化した税理士には、一般的な税理士とは異なる特徴があります。これらは、建設業界ならではの商習慣や複雑な会計・税務ルールに対応する中で培われてきたものであり、企業にとって大きな強みとなります。
他士業との強力な連携
建設業に強い税理士の特徴の1つは、他士業との連携の強さです。建設業では、税務や会計だけではなく、建設業許可申請、社会保険・労働保険の手続き、労務管理など、あらゆる専門的な業務が発生します。
建設業許可の取得や更新には行政書士の知識が不可欠となり、従業員の社会保険加入や労働条件の整備には社会保険労務士のサポートが欠かせません。さらに、契約トラブルや法的課題が発生すれば、弁護士の力も必要です。
建設業に精通した税理士は、行政書士、社労士、弁護士などの専門家とネットワークを築いていることが多く、同じ事務所内に各分野の専門家を抱えている場合もあります。そのため、経営者は課題ごとに専門家を探す手間をかけることなく、税務・法務・労務をワンストップで相談することが可能です。
ITツール導入への助言
現代の経営において、ITの活用は業務効率化やコスト削減、経営判断の迅速化に欠かせません。建設業は、工事ごとに原価管理や損益把握が必要となるため、会計ソフトや原価管理システムが経営効率に影響します。
建設業に特化した税理士は、建設業に対応したツールやシステムに関する知識が豊富で、企業の規模や事業内容、課題に合わせて最適な導入方法を提案してくれます。よって、経理業務の負担軽減だけでなく、経営判断の迅速化にもつながる点が大きなメリットです。
コンプライアンスに関する豊富な知識
建設業は、建設業法をはじめ、労働安全衛生法や社会保険関連法規など、多くの法律や規制を遵守する必要があります。これらを守ることは、企業の信用維持や事業の継続に直結し、違反すれば行政処分や罰則、さらには企業イメージの低下を招くかもしれません。
建設業に精通した税理士は、税務・会計の範囲にとどまらず、法規制にも幅広い知識を持っています。よって、企業が適切なコンプライアンス体制を築き、維持していくためのアドバイスが可能です。
建設業特有の会計・税務知識
建設業の会計は他の業種と比べても複雑で、独自の会計基準が適用されます。建設業では工事の着工から完成までの期間が長期にわたるため、売上や原価を計上するタイミングには注意しなければなりません。この際に使われるのが、工事進行基準や工事完成基準など、建設業特有の収益の計上ルールです。
建設業に精通した税理士であれば、会計処理を正確に行えるだけではなく、工事ごとの原価管理や損益分析も細かく対応できます。よって、財務諸表の信頼性が高まり、経営判断に役立つ数値情報も得られるでしょう。
法改正への対応力
建設業界は、建設業法だけではなく労働関連法や税法、さらには社会情勢の変化に伴う新制度の導入など、さまざまな法改正の影響を受けやすい業種です。建設業に強い税理士は、法改正への対応力にも優れています。
例えば、インボイス制度の導入や電子帳簿保存法の改正は、経理業務に直結します。また、働き方改革関連法や社会保険の適用拡大といった労務関連の改正も重要な課題です。
建設業に特化した税理士は、法改正に関する情報を常にキャッチアップし、企業に与える影響を考えます。そのうえで会計処理や税務申告の方法を見直し、経営戦略の再検討まで含めたアドバイスも行います。
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【状況別】建設業に強い税理士の選び方

税理士の専門分野や得意領域はさまざまです。税理士を選ぶ際には、自社の状況や将来の目標に合った専門家を見つけましょう。
小規模事業者向けの税理士の選び方
小規模の建設事業者は、初期投資や毎月の固定費を抑えながら、日々の経理業務を効率化できる税理士を選ぶと良いでしょう。特におすすめなのは、建設業に詳しく、記帳代行サービスに強みを持つ税理士です。
小規模事業者では、経理担当者を置けず、経営者自身が多忙な業務の合間に記帳や書類作成を行っているケースが少なくありません。
しかし、工事進行基準や完成工事原価の計上など、建設業特有の会計処理には専門知識が必要です。処理を誤ると、税務リスクが高まるだけでなく、経営判断にも悪影響を及ぼす可能性があります。
よって、経理の負担を軽減しつつ、本業に集中するためには、建設業に強い税理士の力を借りることをおすすめします。
事業拡大を目指す場合の税理士の選び方
事業拡大を目指す建設業者にとって、税理士選びは経営戦略に直結します。特に、大規模工事の受注や新しい設備投資、さらにはM&Aを検討している場合には、融資に強い税理士を選びましょう。
融資に強い税理士は、金融機関が評価する決算書作成のノウハウを持ち、企業の財務状況を有利にアピールするためのサポートが可能です。また、資金繰り計画の立案や金融機関との交渉支援も期待できます。
さらに、事業拡大に伴い、建設業許可の新規取得や業種追加、特定建設業許可への切り替えなど、複雑な許認可手続きが必要になるケースもあります。こうした場面でも、建設業に詳しい税理士であればスムーズに対応できるでしょう。
経営分析やコンサルティングを求める場合の税理士の選び方
建設業は工事ごとの収益性や原価管理が重要であり、リアルタイムで経営状況を把握しなければなりません。経営分析やコンサルティングを重視する建設業者は、経営コンサルティングに強い税理士を選ぶことをおすすめします。
経営コンサルティングに長けた税理士であれば、月次決算や工事台帳などの財務データをもとに、売上高・原価・利益率・資金繰りなどを多角的に分析できます。そのうえで現状の課題や改善策、経営戦略について、具体的なアドバイスを提供してくれるでしょう。
資金繰りに課題がある場合の税理士の選び方
建設業における資金繰りの問題は、経営を揺るがすリスクとなるかもしれません。材料費や外注費を先に支払い、工事完成後に入金があるといった建設業特有の商習慣が、資金繰りを難しくしているからです。
資金管理に課題を抱える建設業者は、キャッシュフローに精通した税理士を選ぶことをおすすめします。将来の資金不足を早期に予測し、改善策をアドバイスしてくれる税理士であれば、安心して経営を続けられるでしょう。
関連記事:顧問税理士の探し方10選・選ぶ際の10個のポイント
自分に合った税理士の見つけ方
建設業を営む経営者や経理担当者にとって、最適な税理士を見つけることは、事業の安定と成長に直結します。自社のニーズに合って信頼できるパートナーを選ぶために、押さえておきたいポイントを紹介します。
知人から紹介してもらう
有効な方法のひとつは知人からの紹介です。特に同業の経営者や取引先からの紹介であれば、税理士の専門性や実績について、信頼性の高い情報を得られます。
建設業に詳しい税理士は決して多くはないため、すでに実際に依頼している人の体験談は、貴重な判断材料になります。実績や対応を事前に知ることができるため、自社のニーズに合った税理士を見つけやすくなるでしょう。
税理士が提供する情報を確認する
税理士事務所が発信している情報を確認することも有効な方法です。多くの税理士事務所は、自社のホームページやブログ、SNSなどを通じて、専門分野やサービス内容、実績などの情報を公開しています。
こうした情報をチェックすることで、その税理士が建設業に関する知識や経験をどの程度持っているかを判断できます。特に、建設業の具体的な事例を発信している税理士であれば、実務に即したサポートを受けられる可能性が高いでしょう。
関連記事:税理士を超スムーズに変更する全手順を税理士目線で解説
まとめ
建設業を営む経営者や経理担当者にとって、自社の状況に合った建設業に強い税理士を選ぶことは、事業の安定と成長に欠かせません。
建設業特有の複雑な会計処理や税務ルール、資金繰りの難しさに対応するには、専門知識と経験を持つ税理士のサポートが必要です。適切な税理士をパートナーにすることで、税務上のリスクを避けられ、資金繰りの改善や融資に有利な決算書の作成も可能になるでしょう。
税理士選びで不安なことがありましたら、一度建設業に詳しい専門家に相談してみることをおすすめします。





