インフルエンサーとして収入を得ている個人事業主にとって、SNS発信における税務リスクは無視できない問題です。近年では、税務署はSNSを有力な情報収集源の1つとして活用しており、投稿内容が税務調査のきっかけとなる事例が増えています。本記事では、税務署がSNSをチェックする理由や、税務調査の事例、マークされないための対策について詳しく解説します。
目次
税務署がSNSをチェックする理由とは?

現代社会ではSNSの普及により、誰もが気軽に発信できる時代となりました。特にインフルエンサーのように、活動内容やライフスタイルがSNS上で可視化されやすい職業は、税務署の監視対象になりやすい傾向にあります。
ここでは、税務署がSNSをチェックする目的について具体的に解説します。
SNSの用途が多様化しているため
いまやSNSは、日常生活に欠かせないツールであると言っても過言ではありません。2026年末には、日本国内におけるSNS利用者数が8,550万人に達すると見込まれており、人口の約7割に相当します。
InstagramやYouTubeだけでなく、X(旧Twitter)など、多種多様なプラットフォームが存在し、個人のみならず企業や個人事業主も業務連絡や顧客対応にSNSを活用しています。
このようにSNSの利用者が増え、用途が広がるなかで、税務署にとってもSNSは重要な情報収集ツールとなっているのです。
例えば、SNSで高級な食事や旅行、買い物など派手な暮らしぶりを投稿している場合には注意が必要です。投稿内容と比べ実際の所得の申告額が少ない場合などは、申告内容とのギャップがあるとして税務調査の対象となる可能性があります。
収入に関する情報が発信されているため
SNSでは、副業の成果や売上実績など、収入に関する内容を投稿するアカウントも存在します。こうした投稿は、税務署にとって収入の実態を知るためのヒントになるのです。
特にインフルエンサーの場合、企業からのPR案件による報酬や、グッズ販売の売上など、複数の収入源があるため、投稿内容と実際の申告内容に矛盾がないかが注目されます。
例えば、「○○円売れました」「こんなに稼げました」といった投稿がある一方、それに見合う収入が申告されていない場合、税務調査のきっかけになる可能性があります。実際に、報酬の一部を申告していなかったり、確定申告自体をしていなかったりするインフルエンサーが税務調査によって発覚した事例もあります。
売上額など収入に関する具体的な数字や成果を発信する際は、税務調査の対象として調べやすくなるため注意しましょう。
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日常生活について投稿されているため
インフルエンサーがSNSに投稿する日常生活の様子も税務署によるチェックの対象になりやすいです。高級マンションでの暮らし、高級車やブランド品の購入、豪華な旅行などの投稿は、生活レベルを判断する材料になります。
税務署は、こうした投稿内容と、実際に申告された所得額との整合性を確認します。もし、申告額に比べて明らかに贅沢な生活をしていると見なされた場合、申告漏れや脱税の疑いがあるとして税務調査につながるケースも。
税務署では、調査の準備段階でSNSを確認し、投稿された内容から財産の規模を推測することもあります。SNSでの発信が、思わぬ税務リスクにつながる可能性があるため、日々の投稿にも注意が必要です。
SNSがきっかけで発覚した税務調査事例

近年では、実際にSNSの投稿内容が税務調査のきっかけとなる事例が発生しています。これらの事例は、SNSが単なる情報発信ツールではなく、税務当局にとって重要な調査ツールとなり得ることを示していると言えるでしょう。
ここでは、実際にあった2つの事例について紹介します。
青汁王子の脱税事件
「青汁王子」として知られる実業家・三崎優太氏の脱税事件は、SNSが税務調査の発端となった代表的な事例です。
彼は健康食品会社の経営者として「青汁」商品を大ヒットさせ、ビジネスに関することのみならず、豪華な私生活をSNSやメディアで積極的に発信していました。高級マンション、高級車、高級腕時計、競走馬の購入報告など、具体的な金額やブランド名まで記載された投稿が多数見られたのです。
しかしその一方で、実際には架空の広告宣伝費を計上するなどして所得を過小に申告し、法人税や消費税を脱税していたことが発覚。東京地検特捜部により、2年間で約1億8000万円の法人税の納税を免れたとして起訴され、法人税法違反の有罪判決が言い渡されました。
この事例は、SNSでの豪華な生活アピールが、税務署にとって申告内容との矛盾を見抜く手がかりとなり、調査に乗り出すきっかけとなり得ることを示したと言えるでしょう。
また、国税当局は、SNSだけでなく、テレビなどのメディア露出も含めて広く情報収集を行っていることも明らかになりました。
インフルエンサー9人の無申告事件
2023年には、東京国税局の税務調査によって、9人のインフルエンサーが約6年間で合計約3億円の申告漏れをしていたことが報じられました。
これらのインフルエンサーは、企業案件や商品紹介などで報酬を受け取っていたにも関わらず、報酬の一部を申告していなかったり、年によっては確定申告自体をしていなかったりしたことが判明。中には、報酬を海外のペーパーカンパニーの所得として見せかけていた悪質なケースもあったとされています。
その結果、9人に対して合計8,500万円の追徴税額が課されました。この事例の背景には、SNS広告市場の急激な成長に伴い、インフルエンサーが高額な所得を得るようになってきた社会現象が挙げられます。
税務署はこうした新たな収入源に注目しており、インフルエンサーの申告状況を厳しくチェックしているのです。広告代理店への税務調査を通じて、インフルエンサーへの報酬支払い実態を把握し、そこから申告漏れが判明するケースも多くなってきています。
また、年間所得が20万円を超えているにも関わらず、収入がないように見せかける無申告状態となっていた場合は、税務署に調査対象としてマークされるリスクは高くなります。
さらに、国税庁は課税逃れの情報を受け付ける通報窓口を設置しており、SNSを見た第三者からの密告によって税務調査が始まるケースも把握しておきましょう。
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SNSがきっかけで税務署に注目されないための対策3選

SNSの投稿が税務調査のきっかけとなるリスクを回避するためには、日頃からの意識と対策が不可欠です。
インフルエンサーとして活動する上で、税務署に注目を集めないようにするためには、自身の発信する情報に細心の注意を払う必要があります。適切な情報管理と、必要に応じた専門家への相談を通じて、安心してSNSでの活動を継続できるよう努めましょう。
派手な生活のアピールは控える
高級車やブランド品、タワーマンションでの暮らし、豪華な旅行など、贅沢な生活を匂わせる投稿は、税務署の注目を集めるきっかけになり得ます。納税額が少ないにもかかわらず、このような投稿が頻繁に行われていると、調査対象になりやすくなるのです。
インフルエンサーの場合、ブランディングのために豪華なライフスタイルを投稿するケースもありますが、これにより税務調査のリスクが高まることを認識しておく必要があることを理解しておきましょう。正しく申告していれば問題はありませんが、誤解を避けるためにも投稿内容には慎重な配慮が求められます。
収入に関する投稿は控える
SNS上で収入に関する具体的な数字や情報を発信することは、税務署に注目されるリスクを高めます。売上額や報酬の具体的な金額、高額案件の詳細などを投稿すると、税務署が申告内容と照らし合わせて確認しやすくなるのです。
特に注意が必要なのは、確定申告で「0円申告」や低い所得額を記載しているにもかかわらず、「◯◯万円稼ぎました」といった高収入を示唆する投稿を行うケースです。このような発信は、申告との不一致を疑われ、調査対象となるきっかけになりかねません。
収入や納税に関する情報は、基本的にプライベートなものです。SNS上での過度な公開は税務リスクを招く可能性があるため、投稿には十分注意しましょう。ビジネスの成果をアピールする際も、金額や報酬内容の記載は控えめにし、慎重な情報管理を心がけることが大切です。
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不安なことがあれば税理士に相談する
税務について不安や疑問がある場合は、税務の専門家である税理士に相談することが最も確実な方法です。
特に、インフルエンサーのように、広告収入や企業案件の報酬、グッズ販売の売上など、収入源が複数ある場合は顧問税理士をつけると安心でしょう。どの費用が経費として認められるのか、どのように所得を区分すべきかなど、正確な税務処理の判断が難しいケースが多くあるためです。
税理士に相談すれば、正しい申告や節税の方法が明確になるだけでなく、税務調査に備えた体制を整えられます。また、「確定申告のやり方が分からない」「過去の申告に不安がある」といった場合にも丁寧なサポートが受けられます。
特にネットビジネスやインフルエンサーの税務に詳しい税理士であれば、最新の税制改正にも対応でき、申告ミスや過剰な納税を防げるでしょう。仮に無申告の状態であっても、自主的に税理士に相談し、過去の確定申告と納税を行えば、ペナルティを最小限に抑えられる可能性もあります。
安心してSNS活動を続けるためにも、不安を感じた段階で早めに税理士へ相談しましょう。
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まとめ
現代の情報化社会において、SNSは税務署にとって重要な調査ツールです。特にインフルエンサーのように活動内容が可視化されやすい職業では、投稿内容が税務調査のきっかけになるリスクもあるため注意が必要です。
派手なライフスタイルの過度なアピールや具体的な収入の公開は、税務調査の対象としてマークされる可能性も高まります。万が一に備え、投稿と申告内容の整合性を日頃から意識しましょう。不安や疑問がある場合は自己判断せずに税理士に相談し、適切な税務処理を行うことが大切です。





