事業の経営を維持する上では、必要に応じて事業融資を検討する必要があります。しかし、返済期間が短期だと経営が難しくなるリスクが、長期だと経営が頓挫した際に返済だけが残る等のリスクになりかねません。この記事では事業融資の返済期間を中心に、長期返済のメリットなどについて解説します。
目次
事業融資における返済期間の借入金の種類
事業融資を検討するにあたって多くの人が悩む項目が返済期間ではないでしょうか。金融機関では、返済期間の長短によって借入金を大きく2種類に分類しています
1つは返済期間が1年以内の「短期借入金」、もう1つは1年を超える「長期借入金」です。それぞれいくつかの種類があり、特徴が異なります。
短期借入金 | 手形貸付 |
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手形割引 |
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当座貸越 |
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長期借入金 | 証書貸付 |
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短期借入金は、文字通り短期間に返済を伴う借入金です。短期返済という特徴から社会情勢等の影響を受けにくい一方、経営難によって支払いが滞ると企業信用度の低下を招くリスクがあります。長期借入金は1年以上の返済期間が確保された借入金です。社会情勢や経済動向によっては返済が難しくなるリスクがあります。
どちらも一長一短あることから、利用においては経営状況や収入見込み等の見極めが重要と言えるでしょう。
事業融資における資金用途とは
事業融資を受けるには、資金用途を明確にすることが大切です。一般的に、事業融資は「運転資金」と「設備資金」の2つに分けられ、さらにさまざまな目的を持つ資金に分かれています。ここでは運転資金と設備資金の種類について解説するので、融資を受ける際の参考にしてください。
運転資金
運転資金は、事業運営にあたって生じる費用をまかなうことを目的とした資金です。例えば仕入資金や人件費といった費用が運転資金に該当します。運転資金には5つの項目に区分され、それぞれの特徴は下表の通りです。
経常運転資金 | 企業が事業運営を行うため、常に必要な運転資金のこと 売上計上されても実際の入金は数ヵ月先になる |
増加運転資金 | 売上の増加に比例して仕入・人件費等の費用が増加した場合に、資金不足による倒産を防ぐ目的で借り入れる資金のこと |
減少運転資金 | 売上が減少した場合に、本来、売上でまかなっていた部分に充当する目的で借り入れる資金のこと |
季節運転資金 | 決まった季節で生じる運転資金のこと 賞与やスポーツ用品の仕入資金などが該当する |
他にも、その他で必要となる運転資金もあります。例えば、売掛債権および買掛債務の回転期間に変化があった場合等です。事業を運営するにあたっては、売掛債権や買掛債務のサイクルにも目を配ることが大切と言えるでしょう。
ちなみに、運転資金の返済期間については、最長5~10年以内とし、2年の据置期間が設けられています。
日本政策金融公庫の場合、融資種類によって多少の差はありますが、最長10年ほどです。運転資金だからこそ短期借入金を選択しなければならないといった必要はありません。資金計画に応じ、適切な選択をすることを優先的に考えましょう。
関連記事:【税理士監修】企業の成長を支える運転資金とは?調達から計算式・内訳までを徹底解説
設備資金
設備資金は、企業が事業運営のために必要とする固定資産用の購入資金です。例えば、社用車や顧客管理ツール、書類作成に必要なパソコン、プリンター、インクなどが該当します。
業種によっては、飲食業において欠かせない冷蔵庫や冷凍庫、食洗機、食事を提供するためのテーブル、イスなどもあるでしょう。
設備資金の融資を受けるにあたっても、どのような目的でどのくらいの数が必要なのかを洗い出すことが大切です。金融機関に透明性の高い使用用途を伝え、審査に良い影響をもたらす姿勢を心がけましょう。
なお、日本政策金融公庫の場合、設備資金の返済期間は据置期間5年以内を含め、概ね20年以内です。実質の返済期間は最長15年以内と考えられるため、ゆとりを保った上での返済が可能になるでしょう。
ただし、市中金融機関が利用する信用保証協会では、概ね10年以内となっています。設備資金の借入を検討する際は、購入予定の資産に合わせた返済期間を見極めることが大切と言えるでしょう。
関連記事:設備投資補助金の活用法とは?補助対象と申請方法を徹底解説!
短期返済のメリット
事業融資を受けるにあたっては、短期返済と長期返済の特徴について理解することが大切です。ここでは、短期返済におけるメリットについて解説します。
利息負担を軽減できる
短期返済の最大のメリットは、利息負担を軽減できる点です。返済期間が短いほど、元金に対する利息が発生する期間が短縮され、総返済額を抑えられます。たとえば、同じ金利であっても5年の返済計画と10年の返済計画では、支払う利息額が大きく異なります。
経営資源の効率的な活用に直結し、事業運営のコスト削減を実現できるでしょう。また、金利変動リスクも抑えられるため、安定した返済が可能になる点も魅力です。
信用力の向上しやすい
短期返済を計画通りに実行できれば、金融機関や取引先からの信用力が向上します。短期間で返済が完了できれば、「返済能力が高い企業」として評価されるためです。結果的に、次回の融資審査で有利な条件が得られる可能性があります。
また、スピーディーな返済実績は、ビジネスパートナーからの信頼を得ることにもつながるでしょう。
経済環境の変動リスクを軽減できる
短期返済は、経済環境の変化に伴うリスクを抑えやすいといったメリットがあります。返済期間が短いことで、金利上昇や市場動向の急変などの影響を受けにくくなるためです。
長期返済の場合、景気の変動によって返済計画に支障が出るリスクが高まりますが、短期返済では影響を最小限に抑えられます。不安定な経済環境下において、計画的に返済したい企業にとって短期返済は有効な手段と言えるでしょう。
短期返済のデメリット
ここからは、事業融資における短期返済のデメリットを解説していきます。上記のメリットと照らし合わせたうえで、自身にマッチする返済スタイルを考えてみましょう。
1回あたりの返済額が高くなる
短期返済では、返済期間が短い分だけ1回あたりの返済額が高額になります。このため、収益が計画通りに進まなかった場合や急な出費が重なった場合、資金繰りが逼迫するリスクがあります。
特に、貸し剥がし等が発生した際に一括返済を求められると、事業運営そのものが難しくなる可能性があるでしょう。安易に短期返済を選ぶと、経営を圧迫する大きなリスクを抱える可能性があるため、事前に十分な資金計画を立てることが重要です。
返済額の管理負担が増加する
短期返済は返済回数が少ないため一見すると効率的に思えますが、実際には多額の返済を短期間で行う必要があるため、資金繰りの管理が複雑化する場合があります。
実際、返済額が毎月の収益に対して高額である場合、他の経費や支出の調整が難しくなることも多いものです。経営者にとって、このような管理負担が心理的なストレスとなり、意思決定の迅速性に影響を及ぼすことも少なくありません。
経済的な突発トラブルに対応しにくい
短期返済は、予期せぬ経済的なトラブルに対応しにくいのが難点です。市場の急激な変動や予測できない支出の発生時に、返済負担があると資金の余裕が減少してしまいます。
特に、景気後退や災害といった外部要因が重なると、短期返済の厳しさが増す傾向にあります。そのため、短期返済を選ぶ際には、十分なリスク管理が求められるといえるでしょう。
長期返済のメリット
ここからは、長期返済のメリットについて解説します。長期返済スタイルを検討している方は、以下を確認しておきましょう。
資金繰りを安定させやすい
長期返済の最大のメリットは、毎月の返済額を低く抑えられる点です。
返済期間を長く設定することで、1回あたりの負担が軽減され、事業運営に必要な運転資金を確保しやすくなります。
これにより、安定した資金繰りを維持しやすくなります。また、余剰資金を事業拡大や新規投資に振り向けられるため、長期的な成長戦略を支えやすくなるでしょう。
突発的な支出に対応しやすい
長期返済では、毎月の返済額が低いため、急な出費や予期せぬトラブルに対応しやすいのがメリットです。
たとえば、景気後退や市場環境の変動など、経営に影響を及ぼす外部要因にも対応する余裕を持つことが可能です。突発的なトラブルに対応できる余力は、経営者にとって心理的な負担の軽減にもつながるでしょう。
リスクを分散しやすい
返済期間を長く設定することで、短期間に返済を集中させるリスク分散が可能です。売上の変動や市場の不確実性に対しても、安定した経営を維持できる可能性が高まります。
特に、初期投資が大きい事業や、新規市場に参入する企業にとっては、この安定性は重要といえます。
リスクを軽減しながら成長を目指したい場合には、長期返済は理想的な選択肢です。
長期返済のデメリット
長期返済には魅力的なメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここからは、具体的なデメリットについて詳しく解説していきます。
総返済額が膨らみやすい
長期返済の最大のデメリットは、返済期間が延びることで総返済額が増加する点です。
借入金に対する利息は期間が長いほど多く発生します。その結果、短期返済に比べて、支払総額が大幅に膨らむ可能性があります。
特に、借入額が大きい場合や金利が高い場合には、この負担が経営に与える影響も大きくなります。資金計画を立てる際には、長期返済の利便性とともに、最終的なコストを慎重に検討することが重要です。
経済環境の変化によるリスクがある
長期返済を選ぶと、返済期間中に経済環境が変化するリスクを負うことになります。例えば、金利が変動する融資を利用している場合、景気変動や金融政策の影響で金利が上昇すれば、返済負担が増加する可能性があるのです。
また、事業環境が悪化して収益が減少した場合、返済を継続することが難しくなるリスクも考えられます。長期的な視点で返済計画を立てることが求められるでしょう。
新たな融資を受けにくくなる
長期返済中は、既存の返済義務が新たな融資を受ける際の障壁になる場合があります。金融機関は、借入残高や返済能力を評価して追加融資の可否を判断するため、返済期間が長引くと新たな資金調達が制限される可能性があるのです。
特に、急な資金需要や新規プロジェクトへの投資が必要な場合、この制約が事業展開の足かせになることがあります。長期返済を選ぶ前に、返済期間と、別の融資を申請する時期を照らし合わせることが重要です。
事業融資の返済が厳しい場合の選択肢
事業融資の返済が厳しくなった際には、適切な選択肢を検討しなおすことが経営の安定につながります。このようなときは、これから紹介する2つの選択肢を検討してみてください。
条件変更を申し出る
返済が厳しくなったときは、金融機関に対して返済方法の条件変更を申し出ましょう。返済に関する相談は、金融機関にとっても返済遅延のリスクを回避できるメリットがあります。双方にとって良いバランスが保てるよう、遠慮なく条件変更を申し出てみましょう。
据置期間を活用する
融資を受ける際、あらかじめ据置期間を活用するのもおすすめです。据置期間とは、借入金の返済において、元金部分の返済はせず、利息分のみを返済する期間のことです。
なお、据置期間の利用は借入人の自由です。ただ、据置期間の利用によって、万が一の経営難でも、資金繰りの安定を図ることに専念できる可能性があります。社会情勢や経済動向を鑑み、据置期間の詳細についてあらかじめ確認すると良いかもしれません。
関連記事:起業する時に融資を受けるならこれ!起業・独立・開業時に利用したい融資制度をご紹介
事業融資の返済期間を設定するポイント
事業融資の返済期間を設定する上では、いくつかのポイントに沿って検討を進めることをおすすめします。ここでは、以下4つのポイントについて解説します。
- 返済方法を決める
- 綿密な返済計画を立てる
- 繰り上げ返済時のコストを確認しておく
- 余裕を持って長めに設定しておく
具体的にどのような意味なのか見ていきましょう。
返済方法を決める
事業融資を受ける場合は、企業や自身にとって無理のない返済方法を決めることが大切です。返済方法には「元利均等返済」と「元金均等返済」の2つあり、それぞれで特徴が異なります。
元利均等返済 |
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元金均等返済 |
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2つの返済方法の特徴について押さえ、短長期視点でどの方法が適しているかを見定めることが大切です。
綿密な返済計画を立てる
無理がなく、適切な返済方法を選択した後は、綿密な返済計画を立てましょう。事業融資に限らずお金を借りる上では、借入金額よりも一定でどのくらい返済できるかを基準に融資額を決める方が重要です。
毎月の元本が、税引後の利益と減価償却費を引いた利益保留額よりも高くならなければ、無理のない返済計画と言えるでしょう。返済シミュレーションの活用によって、返済期間の妥当性を見極めることができます。
繰り上げ返済時のコストを確認しておく
繰り上げ返済を希望する場合、発生するコストについてあらかじめ確認しておきましょう。金融機関によっては、繰り上げ返済に手数料が課される場合があります。
繰り上げ返済を利用する際は、将来的な返済負担を軽減させるためにも計画的かつ無理のない返済スケジュールを立てましょう。
余裕を持って長めに設定しておく
返済期間を決める上では、ある程度の余裕を持たせることも大切です。例えば急な支出やトラブルが生じた場合、余裕を持たせた返済期間によって返済に関する負担を緩和できる可能性があります。
また、経営環境が変動しやすい企業においても経営の安定性につながり、不確実な状況にも適応しやすい体制を構築できるでしょう。
事業融資の返済期間はさまざまな視点から決めよう
事業融資の返済期間について考えるのであれば、さまざまな視点から見つめた上での検討が欠かせません。事業融資について理解を深め、その上で利用を検討したいときは、専門家への相談がおすすめです。事業融資について相談を希望する方は、この機会に小谷野税理士法人をぜひご利用ください。