減価償却は、固定資産の取得費用を分割して経費計上できる制度で、正しく活用すれば大きな節税効果が得られます。しかし、適用ミスや判断の誤りがあると、税務リスクにつながる場合もあります。本記事では、減価償却の基本から節税の仕組み、活用メリット、注意点までをわかりやすく解説します。節税を意識して資産を有効に使いたい方や、会計処理に不安を感じている方は、ぜひ最後まで読んで理解を深めてください。
目次
減価償却とは?
減価償却とは、長期間にわたって使用する固定資産の取得費用を、複数年に分けて経費として計上する会計処理を指します。
高額な資産を一度に全額費用にするのではなく、使用年数に応じて毎年少しずつ経費化することで、実際の利用状況に即したかたちで利益とのバランスが取れるようになります。
減価償却は、法人・個人事業主を問わず重要な制度であり、適切に活用すれば、資金繰りの安定や税負担の軽減にも繋がります。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
対象となる固定資産
減価償却の対象となるのは、1年以上にわたって事業で継続的に使用される高額な資産です。具体的には、以下のような資産が該当します。
資産の種類 | 具体例 |
建物 | 事務所、倉庫、店舗など |
建物附属設備 | 電気設備、空調、給排水設備など |
機械および装置 | 製造機械、加工機など |
車両運搬具 | トラック、営業車など |
工具・器具・備品 | パソコン、机、椅子、複合機など |
ソフトウェア | 会計ソフト、業務システムなど |
これらの資産は、取得時に全額を経費にするのではなく、法定耐用年数に基づき、数年にわたって少しずつ費用として計上します。
一方で、短期間で使い切る消耗品や、取得価格が10万円未満の資産などは、減価償却の対象とならないケースもあります。対象かどうかの判断には、使用期間と金額の両方を確認しましょう。
法定耐用年数
法定耐用年数とは、減価償却を行う際の基準となる年数で、資産の種類や用途ごとに国税庁が定めており、この年数に基づいて毎年の償却費を計算します。
以下は、主な資産における法定耐用年数の一例です。
資産の種類 | 耐用年数 |
木造建物 | 22年 |
鉄骨造建物 | 34年 |
建物附属設備 | 15年 |
普通自動車 | 6年 |
パソコン | 4年 |
ソフトウェア | 5年 |
使用用途によって耐用年数が異なることがあるため、注意しましょう。
中古資産を取得した場合には、法定耐用年数をそのまま使うのではなく、取得時点の状態に応じて「残存耐用年数」を再計算する必要があります。
耐用年数を誤って適用すると、税務調査で減価償却の否認や修正を求められるリスクもあるため、資産の内容と用途に応じて適切な年数を確認しましょう。
償却の種類
減価償却の方法には主に「定額法」と「定率法」の2種類があります。
定額法は毎年一定の金額を償却する方法で、安定した費用配分が可能です。一方、定率法は初年度に多く償却し、年々減らしていく方法で、初期の節税効果を重視する場合に有利でしょう。
法人では原則として機械や車両などは定率法、建物などは定額法が適用されます。いずれの方法を選ぶかによって税額やキャッシュフローに与える影響が変わるため、資産の種類や経営方針に応じて選択しましょう。
減価償却による節税効果の仕組み
減価償却は、単なる会計処理ではなく、戦略的に活用すれば大きな節税効果をもたらします。減価償却がどのように節税に結びつくのか、その代表的な仕組みを紹介します。
減価償却費を経費として計上できる
減価償却を使うと、資産の購入費用を購入時に全額ではなく、数年に分けて経費にできます。その結果、毎年の利益を減らすことができるため、支払う税金も少なくなります。
税金の負担が軽くなれば、事業に使えるお金が手元に多く残り、資金繰りも安定するでしょう。特に費用の大きい資産を導入する場合は、この効果が大きくなります。
会計上の費用処理に現金支出を伴わない
減価償却は、資産を一括で購入し代金を支払った後でも、支出時ではなく毎期にわたって分割して費用計上する仕組みです。実際には現金を動かさずに経費化が可能なため、利益を抑えて税額を軽減できます。
このようにキャッシュアウトを伴わず節税効果が見込めるため、資金繰りを意識する企業にとって有利な会計処理と言えるでしょう。
利益の多い年に償却を集中できる特例がある
減価償却には、一定の条件を満たせば通常より多くの費用を計上できる特例があります。例えば、30万円未満の資産を一括で経費にできる「少額減価償却資産の特例」や、一定の設備投資で償却額を上乗せできる「特別償却」などです。
この特例を使えば、利益が多く出そうな年にあえて多めに経費を計上し、税金を抑えられます。
計画的に節税を行うには、制度の内容を把握し、自社の状況に合うか事前に確認しましょう。
関連記事:少額減価償却資産とは?一括償却資産との違いやメリット、注意点も解説
減価償却資産の選定次第で節税額が変わる
どの資産を選ぶかによって、減価償却による節税効果は大きく変わります。例えば、耐用年数が短い資産や、即時償却の対象となる資産を選べば、早く経費にできる分だけ税金を抑えやすくなるでしょう。
制度をうまく使えば、利益が出やすい年に合わせて償却費を多く計上することも可能です。資産の内容や購入タイミングを工夫することで、節税の効果を高められるため、事前の検討がとても重要です。
減価償却で得られる節税効果のメリット3つ
減価償却は、単なる税務処理にとどまらず、経営の安定や戦略的な資金計画にも役立つ制度です。経営面で特に重要な3つのメリットについて解説します。
- 手元資金を維持したまま税負担を軽減できる
- 収益変動のある事業でも利益を平準化しやすい
- 投資判断の計画が立てやすくなる
手元資金を維持したまま税負担を軽減できる
減価償却では、資産取得後に追加の支出が発生せずに経費処理が進むため、資金を確保した状態で法人税の負担を抑えられます。
中小企業など資金に余裕がない場合でも、節税と経営の安定を両立できる点が実務上の強みです。
資金を守りながら税務対応を進められるため、将来の投資や運転資金にも柔軟に対応しやすくなります。
収益変動のある事業でも利益を平準化しやすい
一定額の減価償却費を毎年計上することで、収益が上下しやすい業種でも利益の変動を抑えることができます。
結果として、急な納税負担や経営判断への影響を軽減でき、より安定した業績管理が実現します。
投資判断の計画が立てやすくなる
減価償却は、資産ごとに将来の費用発生があらかじめ予測できるため、資金計画や設備投資のタイミングを検討する際の判断材料として役立ちます。将来の経費と利益を見通した、戦略的な経営判断がしやすくなります。
減価償却の節税効果を活用する際の5つの注意点
減価償却は強力な節税手段ですが、適用には一定のルールや注意点があります。減価償却を活用するうえで特に注意すべき5つのポイントを解説します。
- 法定耐用年数や償却方法を誤ると税務リスクに
- 減価償却費の計上漏れに注意
- 資産管理がずさんだと否認リスクが高まる
- 償却目的だけで資産を購入しない
- 償却資産税の申告漏れに注意
法定耐用年数や償却方法を誤ると税務リスクに
減価償却は法定耐用年数や定められた償却方法に基づいて行う必要があります。これを誤ると、税務署から否認され、過少申告加算税や延滞税などのペナルティを受ける可能性があります。
適用前に正しい年数や方法を確認しましょう。
減価償却費の計上漏れに注意
減価償却費の計上漏れは税金にも影響し、処理を忘れるとその分だけ節税の機会を失います。
年次の会計処理では必ず確認を行いましょう。
資産管理がずさんだと否認リスクが高まる
固定資産台帳の整備が不十分な場合、実際に資産が存在しない、または使用されていないとみなされ、減価償却の計上を否認される場合があります。
資産ごとの取得日や使用状況、設置場所を記録し、管理体制を明確にしておきましょう。
償却目的だけで資産を購入しない
節税のために不要な資産を購入するのは本末転倒です。使い道のない資産に資金を使うと、キャッシュフローが悪化し、事業全体の収支にも悪影響を及ぼします。
節税効果にとらわれず、事業にとって必要な支出かどうかを冷静に判断しましょう。
償却資産税の申告漏れに注意
固定資産を保有している事業者には、償却資産税の申告義務があります。これを怠ると、追徴や過料の対象となるだけでなく、信頼性にも影響します。
毎年1月の提出期限を意識し、税務署とは別に市区町村への申告も忘れず行いましょう。
減価償却を活用した節税効果の具体例
減価償却は制度の仕組みを理解するだけでなく、実際にどう活用するかまで把握しておく必要があります。
実際の業務で使いやすい節税手法を取り上げています。活用のヒントとしてお役立てください。
少額減価償却資産を活用して即時償却
30万円未満の資産であれば、青色申告を行う中小企業は全額を取得年度に即時償却できます。ただし合計額には上限があり、取得価額の合計額が300万円を超えることはできません。
これにより数年間にわたる分割償却が不要となり、購入初年度に利益を圧縮できるため、即効性のある節税効果が得られます。
関連記事:少額減価償却資産の特例とは?いくらまで経費にできるのかを解説!
特別償却を活用して初年度の負担を軽減
特別償却制度を活用すれば、一定の要件を満たす設備投資について通常の償却限度額に加え、さらに多くの減価償却費を初年度に計上できます。
これにより、高収益期の納税額を一気に圧縮し、資金負担を軽減できます。
ソフトウェアを資産計上して償却する
業務用ソフトウェアは原則として固定資産に該当し、耐用年数に基づいて減価償却を行います。
一括で費用処理するのではなく資産計上すれば、数年にわたり安定的に償却できるため、利益の平準化や長期的な節税戦略に活かせるでしょう。
関連記事:クラウド会計の導入で業務効率化!メリットとデメリットを徹底解説
中古車両購入による短期償却で節税
中古の車両や機械設備などは、法定耐用年数が短縮される可能性があるため、より短い期間で償却できるでしょう。
早期に費用を計上できるため、購入後すぐに節税効果を実感できます。中古市場の活用も検討する価値があります。
修繕費との違いを意識して処理する
修繕費として一括で経費計上できる内容を、誤って資産計上し減価償却してしまうと、かえって節税効果が薄れてしまいます。修繕費か資本的支出かを正しく見極め、効果的に節税を実現しましょう。
関連記事:修繕費と減価償却、税金対策ではどちらが得?その判断基準と計算方法
減価償却と節税効果に関してよくある質問
減価償却は税務や会計の基本ですが、実際の処理や判断に迷う場面も少なくありません。よくある質問をまとめましたので、節税を考える際の参考にしてください。
減価償却をせずに全額経費にできますか?
基本的に10万円以上の固定資産は、耐用年数に従って減価償却を行う必要があります。
ただし、10万円未満の資産は少額として一括で経費にできるほか、中小企業が取得した30万円未満の資産には、即時償却が認められる特例もあります。対象になるかどうか、制度の内容をよく確認して活用しましょう。
個人事業主も節税効果を得られますか?
個人事業主であっても、事業に使う資産を取得すれば減価償却の対象となります。特に青色申告を行っていれば、少額減価償却資産の即時償却など中小事業者向けの特例も利用可能です。
中古資産の場合はどうなりますか?
中古資産も減価償却の対象ですが、法定耐用年数ではなく、取得時の状態や使用年数を踏まえた「残存耐用年数」に基づいて償却します。また、使用可能期間の見積もりが困難な場合は、簡便法により耐用年数を計算できます。
通常より短期間で償却できるため、節税効果が高まりやすい点が特徴ですが、計算や判断には注意が必要なため、専門家に確認するのが安心でしょう。
減価償却の節税効果を確実に活かしたい方は専門家に相談を
減価償却の節税効果を適切に得るには、資産の管理や税務処理を正しく行うことが前提です。処理を誤った場合、税務調査で否認され、追徴課税やペナルティの対象になるおそれがあります。
こうしたリスクを避けるためにも、自力で判断するのではなく、専門家に任せるのが安心でしょう。
小谷野税理士法人は、減価償却を含む節税対策に精通しており、法人・個人を問わず幅広く対応しています。自社に合った対応を知りたい方や、判断に不安がある方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。