法人税は、法人が事業活動によって得た所得に課される税金です。課税対象となる所得の範囲や税率は法人の種類や資本金によって異なり、中小法人には軽減税率も適用されます。本記事では、法人税の基本的な計算方法をわかりやすく解説します。さらに法人が取り組める節税効果の高い10の対策を具体例と注意点付きで紹介します。法人税をなるべく節税したいと考える企業の担当者の方はぜひ参考にしてください。
目次
そもそも法人税とは何か
法人税とは、法人が事業活動によって得た「所得」に課される税金です。この所得は、売上などの益金から損金を差し引いて計算されます。具体的には、商品の販売収入や不動産の売却益などが「益金」、売上原価・販売管理費・災害による損失が「損金」として扱われます。
実際の計算は単純な「収入-費用」ではなく、企業会計上の税引前当期純利益をベースにしています。法人税法の規定に従って加算・減算を行う「税務調整」を経て、課税所得を算出されることを覚えておきましょう。
法人税の課税所得の範囲
法人税は、法人税法に基づいて計算された各事業年度の「課税所得」に一定の税率をかけて算出します。課税所得の範囲は法人の種類によって異なるため、内国法人については次のように定められています。
法人の区分 | 課税所得の範囲 |
公共法人 | 課税されない(納税義務なし) |
公益法人等 | 収益事業から生じた所得のみ課税 |
人格のない社団等 | すべての所得が課税対象 |
協同組合等 普通法人等 | すべての所得が課税対象 |
なお、ここでの収益事業とは、法人税法で定められた34種類の事業を指します。
参考:課税所得の範囲|国税庁
関連記事:法人税は最低いくらから必要?法人にかかる6つの税金について解説
法人税率と軽減税率の条件
現行の法人税率と軽減税率の条件について解説します。
税率
法人税の基本税率は、原則として、普通法人であれば23.2%です。資本金が1億円以下の中小法人は所得金額のうち、年800万円以下の部分には軽減税率19%が適用されます。なお、現在は時限特例措置により15%となりました。
これは中小企業の資金繰りに配慮した制度で、当初は時限措置でしたが、令和9年3月31日まで延長されることが決まっています。
参考:税率|国税庁
参考:令和7年度(2025年度)経済産業関係税制改正について中小企業者等の法人税率の特例の延長等(法人税・法人住民税)
軽減税率の条件
法人税の軽減税率は、原則として資本金1億円以下の法人に適用されます。「前3事業年度の課税所得の平均額が15億円を超える法人」は適用除外法人とされ、軽減税率(15%)の対象外となります。
参考:令和7年度税制改正の大綱
関連記事:2025年度の税制改正で法人税はどう変わる?概要や変更点を解説
法人税の計算方法
法人税は、「法人税 = 所得金額(課税標準) × 法人税率」で求められます。法人税は、会社の利益そのものではなく、税法で定められた「所得金額」 を基準に課税されます。
所得金額 = 益金 − 損金
益金と損金の概要については以下の表をご参照ください
区分 | 内容 | 具体例 |
益金(収益に該当) | 税法上の売上や収益として扱われるもの | 商品・製品の販売収入 固定資産や有価証券の売却益 請負契約などによる役務提供収益 無償で受け取った資産や役務の収益 |
損金(費用に該当) | 税法上の経費や損失として扱われるもの | 売上に対応する原価(仕入原価・完成工事原価など) 販売費や一般管理費(減価償却費を含む) 災害による損失 |
会計上の「利益」は会社の経営成績を示すための概念ですが、法人税で用いる「所得金額」は税法上のルールに従って計算されます。
そのため、会計上の利益 = 税法上の所得金額とはならず、実際には税務調整を行った上で算定されます。つまり法人税の計算は会社がどのくらい儲けたかという視点ではなく、課税の公平性を保つための調整を踏まえて行われるのです。
法人税の節税効果を計算する方法
法人税の節税効果は、基本的に「節税により所得金額が減少する額 × 適用される法人税率(実効税率)」で求められます。例えば倒産防止共済の掛金などは「損金算入」されます。そのため節税額は「控除される金額×税率」の計算式で簡単に算出でき、具体的な効果を把握しやすくなっています。
ただし、実効税率は企業規模や所在地によって変動するため、正確な試算をする際は専門家に相談するのが安心です。
関連記事:売上1億円の法人にかかる税金は?法人税の計算方法や個人事業主との違いを解説!
法人税の節税効果がある10つの対策
以下では、法人税の節税効果がある10つの対策について解説します。
役員報酬を損金として計上する
法人では、経営者は給与ではなく役員報酬を受け取ります。定期同額給与などの要件を満たせば、損金として計上できます。
ただし報酬を増やすと個人の所得税が増えるため、税理士と相談して適正額を決めるのが望ましいです。また、役員報酬は原則として1年間固定で、増減時は株主総会で決議し、議事録を残す必要があります。
未払費用を漏れなく計上する
今期に発生した費用で、支払いが来期になるもの(通信費、社会保険料、給与など)は未払費用として計上できます。利益を減らすことで法人税を抑えられ、所得が大きい法人ほど節税効果が高まります。
赤字を繰り越して黒字と相殺する
法人の赤字は最大10年間繰り越し可能で、翌年以降の黒字と相殺できます。また条件を満たせば、欠損金の繰り戻しによる還付で過去の法人税が還付されることもあります。ただし、赤字でも法人住民税の均等割は課税されるので注意しましょう。
不要在庫の処分
使わない在庫や資産を処分すると、帳簿から除外されるとともに、処分費用を損金として計上できます。売却損や廃棄損として経費に計上する際は、廃棄証明書などの書類が重要です。
社員旅行や健康診断の制度化
社員旅行や健康診断を制度として導入すると、福利厚生費として経費計上可能です。社員旅行は、一般的には会社負担金が4泊5日以内・従業員50%以上などの参加が条件となります。また健康診断は従業員全員対象かつ会社から医療機関に直接支払うことが要件です。
自家用車を社用車に転用する
経営者所有の自家用車を社用車として利用すると、減価償却費や燃料費、保険料、車検費などを経費として計上可能です。ただし、私用利用がある場合は利用規程を作成し、一定額を会社に支払うルールが必要です。
経営セーフティ共済に加入する
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)の掛金は、損金計上可能のため節税効果が期待できます。取引先が倒産した際の連鎖倒産を防ぎ、無担保・無保証人で掛金の10倍(上限8,000万円)まで借入れできるメリットもあります。
またこちらは解約すると解約手当金を受け取れます。自己都合でも12カ月以上の納付で掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上なら全額が戻ります。ただし12カ月未満は掛け捨てです。
参考:制度の概要|中小機構
社宅制度を活用する
会社が賃貸物件を借りて経営者や従業員に貸す場合、会社が支払う家賃と入居者から受け取る賃料の差額を経費として計上できます。社宅の家賃を抑えつつ福利厚生にもなる一方で、賃料が無料や過度に低い場合は課税対象となるため注意が必要です。
経営者の旅費日当を経費にする
法人では、経営者が出張する際の旅費日当(食費・通信費など)も経費として計上可能です。会社の旅費規程に沿った妥当な金額であれば、法人の経費として認められ、受け取る経営者の所得税も非課税扱いとなります。
貸倒引当金・貸倒損失の計上
売掛金や未収金など、回収が難しい債権は貸倒引当金として見込損を計上します。さらに、回収の見込みが完全になくなった債権は、貸倒損失として処理できます。どちらも損金として計上可能なため、法人税の負担を軽減できます。
まとめ
法人税は、会社の利益ではなく、税法に基づく「所得金額」を基準に計算されます。そのため、会計上の利益と必ずしも一致せず、税務調整を行うことで公平に課税されます。法人が実践できる節税策としては、役員報酬や未払費用の計上、赤字の繰越、不要在庫の処分などさまざまです。
これらを適切に組み合わせることで、法人税の負担を抑えつつ、福利厚生や経営の安定にもつなげられます。ただし節税策の適用には法令の要件や証拠書類の整備が必要のため、具体的な金額や方法については税理士に相談しましょう。