経営の安定やさらなる成長を目指す企業にとって、注目されているのが「多角経営」です。単一事業に依存せず、複数の事業を展開することでリスクを分散し、新たな収益源を確保できますが、成功には戦略的な計画と十分な準備が欠かせません。本記事では、多角経営の基本から目的、代表的な戦略、メリット・デメリット、成功ポイントまで詳しく解説します。多角経営を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
多角経営とは?
多角経営とは、1つの事業や製品に依存せず、複数の事業領域に展開する経営手法を指します。
事業を多様化することで収益源を増やし、景気変動や市場の変化による経営リスクを軽減できる点が大きな特徴です。
多角経営は、既存の経営資源やノウハウを活かしながら企業の競争力を高め、持続的な発展を図る戦略としても注目されています。
多角経営を行う3つの目的
多角経営には、経営の安定性を高めるだけでなく、企業がさらなる飛躍を遂げるための重要な狙いがあります。多角経営を行う目的について解説します。
- 収益源の分散
- 成長機会の拡大
- 経営資源の有効活用
収益源の分散
多角経営の最大の目的は、収益源の分散化です。
単一の事業に依存していると、市場環境の変化や景気後退といった外部要因に大きく影響を受けやすくなりますが、複数の事業を展開すれば、1つの事業が不調でも他の事業が支え合い、全体としての安定性を保てます。
成長機会の拡大
多角経営は、新たな市場への参入や新規顧客の獲得を通じて成長機会を広げるための有効な手段です。
既存事業だけでは得られない新しいビジネスチャンスを見つけられると、企業の競争力を強化できます。
また、異なる事業間で得られるノウハウや技術を活かしたシナジー効果により、さらなる発展が期待できるでしょう。
経営資源の有効活用
経営資源の有効活用も、多角経営の大きな目的です。人材、技術、設備といった既存の資源を新たな事業に応用すれば、効率性が向上し、無駄のない経営が実現できます。
例えば、遊休資産を新規事業に活用したり、既存のノウハウを横展開して新たな価値を生むなど、資源の再配置によって全体の収益性を向上できるでしょう。
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多角経営の代表的な戦略パターン
多角経営を成功させるためには、自社に合った戦略を選ぶ必要があります。代表的な多角経営のパターンを紹介しますので、参考にしてみてください。
関連多角化
関連多角化は、既存事業と関連する分野へ進出する戦略です。共通の技術やブランド力を活用できるため、相乗効果を生みやすく、リスクも抑えられるでしょう。
例えば、自動車メーカーが部品製造やアフターサービスを展開する場合、技術力や信頼性を活かして新たな収益源を確保できます。
既存の資源を最大限活用しながら新事業を立ち上げることで、全体の競争力を強化できる点が特徴です。
非関連多角化
非関連多角化は、既存事業と既存事業と関連性の低い分野に進出する戦略です。景気変動の影響を受けにくくなり、経営全体の安定性向上が期待できるでしょう。
例えば、食品メーカーが不動産事業に参入するケースでは、全く異なる市場に挑戦するため、特定事業への依存リスクを減らせます。
幅広い事業ポートフォリオを持つことで、経営の柔軟性を高め、長期的な収益基盤の強化に繋がります。
水平多角化
水平多角化は、同じ業種内で製品ラインやサービスを広げる戦略です。市場シェアの拡大や既存顧客への提案力向上を目的に進められます。
例えば、飲料メーカーが健康飲料や機能性ドリンクを展開すれば、ブランド認知度を活かしつつ新たな顧客層を獲得できるでしょう。
既存市場での強みをさらに伸ばし、収益基盤を強化する効果が期待できる点が特徴です。
垂直多角化
垂直多角化は、原材料の調達から製造、販売まで一貫して行う戦略です。これにより、コスト削減や供給の安定化を図れます。
例えば、農産物を生産する企業が加工食品の製造・販売まで手がけるケースでは、自社内で価値を積み上げながら高い利益率を実現できます。
垂直統合によるシナジー効果を活かせば、効率的かつ競争力のあるビジネスモデルを構築できるでしょう。
多角経営のメリット
多角経営には、リスク軽減や成長促進だけでなく、企業全体の強化に繋がる多くのメリットがあります。
収益の安定化
収益の安定化は、多角経営を導入する最大のメリットの1つです。複数の事業を展開していれば、ある事業が不調でも他の事業が補えるため、企業全体の収益を安定化できます。
例えば、飲食事業と物販事業を併営する企業では、飲食需要が落ち込んだ時期でも物販の売上でカバーできるため、業績の大幅な悪化を防げるでしょう。
新たな市場の開拓
新たな市場の開拓は、多角経営によって実現できる大きなメリットです。既存事業だけではリーチできない顧客層や市場にアプローチできるため、企業の成長機会が飛躍的に広がります。
例えば、製造業がサービス業に参入すれば、モノを売るだけではなく継続的な収益源を確保できるでしょう。
経営資源の有効活用
経営資源を有効活用できる点も、多角経営が持つ大きな強みです。人材、技術、設備など、これまで特定事業に限定していた資源を他事業へ展開すれば、全体の効率性が向上します。
例えば、自社開発の技術を異業種に応用すれば、新たな価値創出やコスト削減が期待できるでしょう。
多角経営のデメリット
多角経営は多くのメリットをもたらす一方で、慎重に取り組まなければ思わぬリスクを招く可能性もあります。
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経営管理の複雑化
経営管理の複雑化は、多角経営を進めるうえで大きな課題となります。複数の事業を同時に展開するため、組織構造や意思決定のプロセスが複雑化し、迅速な対応が難しくなる場合があります。
例えば、各事業で異なる市場戦略や運営体制が必要になると、情報共有や現場の統制が行き届かなくなり、全体のパフォーマンス低下を招く場合があるでしょう。
資源分散による集中力低下
資源分散による集中力低下は、多角経営の大きなリスクの1つです。新規事業へ人材や資金を割くため、既存の主力事業に十分なリソースを注げなくなり、競争力が低下する恐れがあります。
例えば、過度に多角化を進めた結果、本来の強みを活かせず、すべての事業で中途半端な結果に終わる場合もあるでしょう。
投資リスクの増加
投資リスクの増加も、多角経営が抱える代表的なデメリットです。新たな事業には初期投資や市場開拓のための多額の資金が必要であり、これが失敗した場合には企業全体に大きなダメージを与えかねません。
特に、異業種への参入は情報不足や経験不足から予想外の障害に直面しやすく、回収困難な負債を抱えるリスクも高まります。
多角経営の成功事例
多角経営を導入する企業は増えていますが、成功には緻密な戦略と柔軟な発想が求められます。具体的な事例を通じて、多角経営がどのように企業の成長を後押ししているのかを紹介します。
食品事業からサービス業への展開
ある食品メーカーは、これまで培ったブランド力と信頼を武器にレストラン運営や物流サービスに進出しました。
これにより、自社製品をより多くの顧客に届けるだけでなく、外食事業で直接消費者と接点を持つことでブランドイメージをさらに強化しました。
製造にとどまらずサービス分野へ進出することで、売上の安定化と収益拡大を同時に実現した好例と言えます。
製造業からIT事業への進出
ある製造業の企業は、自社の技術や生産ノウハウを活かしてソフトウェア開発事業に参入しました。
従来の製品開発にIT技術を組み合わせ、製造プロセスの効率化を図りつつ、顧客への提案力を強化しています。
このように異業種との融合により、新しい価値を生み出し、自社の競争力を大幅に高めた点が注目されます。
地域密着型事業から全国展開
地域限定で展開していた小売業者が、オンラインショップを開設し全国規模で顧客を獲得した例もあります。
もともとは地元のニーズに応える形で事業を進めていましたが、EC事業の開始によって販路が拡大し、全国の消費者へ商品を届ける体制が整いました。地域の強みを活かしながら新たな売上を生み出し、収益基盤を大幅に拡充しています。
多角経営を成功させるための5つのポイント
多角経営は多くのチャンスを生む一方で、高い難易度が伴います。成功に導くためには、事前準備や運営体制の整備、戦略の徹底が不可欠です。多角経営において、特に重要な以下5つのポイントについて解説します。
- 市場調査と分析の徹底
- コア事業とのバランス維持
- 資源配分の最適化
- 経営陣の意思決定力強化
- 成功事例と失敗事例の研究
市場調査と分析の徹底
市場調査と分析を徹底すれば、新規事業の成功確率が大幅に高まります。需要や競合状況、顧客ニーズを正確に把握してから戦略を立てれば、無駄なリスクを回避できます。情報不足で進めると損失リスクが高まるので注意しましょう。
コア事業とのバランス維持
コア事業の強化と新規事業の両立が、多角経営成功の重要なポイントです。新事業に注力しすぎると主力事業の競争力が低下し、収益基盤が弱くなります。両者のバランスを取りながら成長を目指す視点が不可欠です。
資源配分の最適化
資源を適切に配分すれば、全体の効率と収益性が向上します。人材や資金を各事業の成長段階に応じて活用すれば、過剰投資やリソースの浪費を防げるでしょう。無駄のない資源管理が安定経営を支えます。
経営陣の意思決定力強化
経営トップの迅速かつ的確な意思決定が、多角経営の成否を決めます。データに基づく判断と現場感覚を兼ね備え、変化に柔軟に対応する力が求められます。判断の遅れは競争力の低下に繋がるので注意しましょう。
成功事例と失敗事例の研究
他社の成功と失敗から学ぶことで、自社戦略の精度を高められます。情報収集と分析を通じて、自社に合った最適な方法を見つけ出せば、成功確率を大きく引き上げられるでしょう。
多角経営に関してよくある質問
多角経営に挑戦しようと考える経営者や担当者の間では、多くの疑問や不安が生まれます。以下で、多角経営に関してよく寄せられる質問をご紹介します。
中小企業でも多角経営は可能ですか?
中小企業でも多角経営は十分に実現できますが、資金力や人材が限られているため、慎重な計画とリスク管理が不可欠です。
まずは自社の強みや資源を見極め、関連性が高く無理なく始められる分野を選びましょう。例えば、既存事業に付加価値サービスを加えるなど、小規模でも着実に展開できる方法がおすすめです。
段階的に事業を拡大し、無理のない成長を目指しましょう。
多角経営とM&Aの関係性は?
M&Aは多角経営を進めるための手段であり、他社を買収・合併することで事業を拡大する方法を指します。
新しい事業を一から立ち上げるには多大な時間とコストが必要ですが、M&Aを活用すれば、既にノウハウや顧客基盤を持つ企業を取り込めることで、短期間で新市場に参入できます。
これにより、自社では難しかった事業領域の拡大が可能となり、経営資源の補完や競争力の強化といったメリットも期待できます。
多角経営の始め方は?
多角経営を始めるには、まず新たに挑戦する市場や事業分野のリサーチを行いましょう。業界動向や競合分析、顧客ニーズの把握を通じて、成功の可能性を具体的に検討する必要があります。
その後、実際の事業展開では、パートナー企業との協業やM&Aを活用する方法、既存の技術やノウハウを活かした新規事業立ち上げなど、複数のアプローチがあります。
自社の強みを最大限活かしつつ、計画性を持って段階的に進めていきましょう。
多角経営に挑戦する際は専門家に相談を
多角経営は新たな成長のチャンスがある一方で、経営資源の分散や投資リスク、管理体制の複雑化といった大きなリスクを伴います。これらのリスクを正しく把握し、失敗を防ぐためには、第三者の視点を取り入れましょう。
小谷野税理士法人は、多角経営に関する戦略立案や資金計画、税務面でのサポートなど、幅広い知識と経験を持つ専門家集団です。これから多角経営を検討している方や、既に取り組んでいて課題を感じている方は、ぜひ小谷野税理士法人に相談してみてください。