現在のビジネス市場は目まぐるしく変動しています。中小企業や個人事業主の経営において、成長や安定経営の妨げとなる「経営課題」は、放置しておくと深刻な経営リスクへとつながります。ですが、日々の業務に追われ「問題が可視化できない」「具体的にどのような対策をすれば改善できるのかわからない」と悩む経営者も少なくありません。今回は、経営課題の洗い出し方や具体的な解決方法、その他注意点について解説します。
目次
経営課題とは
企業が経営・成長するうえで特定の事業やプロジェクトの成功を阻む障壁や課題です。目標達成には欠かせない要素であり、経営課題を解決せずに放置すると、倒産や売上・利益の低下、人材流出など、企業にとって致命的な事態に陥る場合もあります。
経営課題は短期的なものから長期的なものまで多岐にわたり、企業の規模や業種、市場環境によっても異なります。健全な企業経営を続ける上で、経営課題の解決は重要です。
経営課題の洗い出しとは
洗い出しとは、特定の課題や状況に対して、隠れている問題や要素を明確にするために、関連する事柄をすべてリストアップするプロセスを指します。洗い出しをせずにいきなり経営課題に取り組んでも、解決すべき課題・問題点が分からず活動の効果を十分に得られません。
経営課題に取り組む場合は、経営資源を有効かつ集中的に投下し、優先度の高い課題から特定し、解決しましょう。
経営課題が曖昧なままだと危険?
経営課題を曖昧なままにしておくと、表面的な問題にしかアプローチできず、成果につながりません。結果的に人手・時間・コストが無駄になる恐れがあります。
根本原因が特定されていないため、今後会社の将来を左右する重大なリスクにつながる可能性もあります。できるだけ早く現状を把握し、優先順位をつけて問題の本質を明確にしましょう。その上で適切な解決策を検討し、実行に移すことが効果的な問題解決につながります。
主な経営課題について
次に、企業が抱える主な経営課題について、具体的に解説します。
財務面の課題
企業の財務面において、直面しがちな課題は以下です。
- キャッシュフローの悪化
- コストの増加
- 債務過多
収益の向上は多くの企業にとって永続的な課題であり、売上の増加やコスト削減、利益率の改善などが含まれます。不確実性の高い現代において安定した収益を確保するのは難しく、経営課題になりやすいでしょう。
関連記事:キャッシュフローを改善する7つの方法!悪化時の注意点とは?
営業・マーケティングの課題
企業の営業・マーケティング面において、直面しがちな課題は以下の通りです。
- マーケティング戦略が定まっていない
- 競合分析ができていない
- 顧客獲得コストが高い
製品やサービスを売るためには、営業力やマーケティング力を高める必要があります。コロナ禍やSDGsへの対応など、ビジネス環境の変化が影響した課題を抱えている企業も少なくありません。自社のターゲット層と需要、そこに対する自社の強み・弱みを深く理解し、顧客と信頼関係を構築していく能力が求められます。
人材・組織の課題
企業の人材・組織面において、直面しがちな課題は以下です。
- 人材不足が深刻
- 従業員の定着率が低い
- 社内コミュニケーション不足
少子高齢化や都市部への人口集中により、特に地方の中小企業では人材の確保が困難になっています。即戦力となる人材の採用が難しく、採用した人材の育成や定着が大きな課題です。
業務プロセス・生産性の課題
企業の業務プロセス・生産性面において、直面しがちな課題は以下です。
- 業務の属人化・サイロ化
- システム導入が進んでいない
- 技術者の高齢化や人材流出が進んでいる
サイロ化とは、組織やシステム、データなどが部門や部署ごとに分断され、連携が取れていない状態です。業務がサイロ化すると、部門間でスムーズな連携ができず、時間や労力を無駄に消費することにもつながります。
経営戦略・将来ビジョンの課題
企業の経営戦略・将来ビジョン面において、直面しがちな課題は以下です。
- 中長期の経営計画が不透明
- 後継者問題が未解決
- DX(デジタルトランスフォーメーション)対応が遅れている
- 新規事業の開発が進まない
ITの進歩が著しい近年では、最新技術をキャッチアップして自社のノウハウへと昇華することも重要です。IT化やDX化の波に乗り遅れると、業務効率や競争力に影響を及ぼします。中小企業では、IT人材の不足や投資余力の制約が課題です。
関連記事:DX投資促進税制が延長された?背景や認定要件・流れ・事例を解説!
経営課題の洗い出しステップ
経営課題の洗い出しステップを紹介します。
現状データを収集・可視化
企業が経営課題を解決するためには、まず自社の現状を客観的かつ多面的な把握が重要です。そのため、経営資金や組織状況などのデータを収集し、把握する必要があります。
経営の資金繰りにおいてどこにネックがあるのか、削減すべきコストはどこなのかを把握するためには可視化が重要です。現状を多面的に分析すれば、これまで見過ごしていた問題点や改善の余地が明らかになるでしょう。
現場ヒアリング・社内アンケートを実施する
現場の担当者やチームメンバーに直接ヒアリングやアンケートを行い、日常の業務のなかでどのような問題や課題があるのかを確認します。現場の担当者の意見を聞かずに独断で判断すると、費用対効果が低い業務改善になってしまったり、システムやRPAを導入しても使われなかったりする可能性があります。
業務に携わる人たちの実際の経験を基に現実的な問題を把握できるため、実務に基づいた改善ポイントが見つかります。ヒアリングが難しい場合は、代表者を通じて意見を吸い上げてもらいましょう。
フレームワークを活用する
問題解決や意思決定を効率的に行うための「枠組み」や「考え方のパターン」を指します。フレームワークを活用すれば、枠組みに業務内容などをひとつずつ当てはめて現状を可視化できます。業務の全体像がひと目で分かるようになり、問題をスムーズかつ的確に特定可能です。
また、フレームワークは単なる問題解決の道具ではなく、思考の質を高めるための訓練としても有効です。日頃から活用すれば、思考プロセスの整理等に役立ち、ビジネスで活躍する機会が増えるでしょう。
原因を掘り下げる
問題が分かったら、そこから改善可能かつ手を打てる問題点を深掘りしましょう。分析していく中で新たな要素が見つかる場合もあります。あらゆる可能性を考え、もっとも問題に関与する原因を探し出す必要があります。
原因を探るためには、事実を認識し観察したうえで結論を導き出さなければなりません。できるだけ多くの情報から客観的に捉えることが大切です。
課題の優先順位をつける
業務における問題点がヒアリングなどで明らかになったら、どの問題から解決していくか優先順位付けを行いましょう。
すべての問題に対して解決方法を考えて実行することは困難なため、本当に解決すべき問題であるかどうかを熟考し、重要度や緊急度などを見極めて優先順位をつけて効率的に進めることが大切です。
経営課題の解決方法
経営課題を乗り越え、成長させるための具体的な解決方法について解説します。
経営計画の策定
経営計画とは、自社のビジョンや目標を明確化した上で、達成するための具体的な取り組みを示した計画です。経営計画の策定にはまず自社の現状把握が必要なため、現在の課題を整理でき、各課題の詳しい状況や優先順位も付けられます。
また、現在の課題をリスク要因として認識すれば、中期経営計画や長期経営計画をより現実的な内容で策定できます。
関連記事:経営計画書とは?事業計画書との違いや書き方を徹底解説!
評価制度の見直し
評価制度の見直しは、企業の成長と従業員のモチベーション維持に必要です。評価制度を見直せば、従業員のスキルや適性などを正確に把握でき、配置転換や昇格による異動などの際に適材適所へ人員配置ができます。
加えて評価制度を見直すと言うことは、改めて組織の経営方針・ビジョン・目標などを見つめ直す機会にもなります。従業員に周知すれば、それぞれがどのような目標を立て、どう行動していくべきかを考えるきっかけにもなるでしょう。
IT化の促進
近年、経営課題の解決に繋がる「IT経営」と言う言葉が注目を集めています。IT経営は、ITツールを導入・活用して業務効率化やワークライフバランス改善など企業の経営課題解決を図る手法です。
これまで手作業で行っていた業務をIT化すれば、効率化や生産性の向上、コスト削減などのメリットが生まれます。メリットを享受するためには自社の課題を明確にし、解決するための適切なITツールの選択が重要です。
ナレッジの共有
ナレッジは一般的に「知識」や「知見」を意味する英語で、ビジネスシーンでは企業や組織にとって有益な情報や経験、技術やノウハウなどを指します。特定の業務に対する経験や知見を有する社員がそのナレッジを蓄積・共有すれば、他の社員も同じような課題に直面した場合、効率的に業務を進められます。
しかし、蓄積したナレッジが活用されないケースも多い傾向にあります。有効活用するには、運用の仕組みを工夫する必要があるでしょう。
コストの見直し
コストの見直しは、企業が利益を最大化し、競争力を強化するために不可欠な課題です。収益を上げるために必要不可欠なコストと見直し、削減可能なコストを見極める目を持つ必要があります。
単に直接的な支出を抑えるのではなく、業務の効率化・改善や働きやすい環境づくりを進めていけば、企業全体としてコスト削減につながるケースもあります。
経営課題の整理・対策は専門家へ相談も
経営課題は、放置しておくと企業全体のパフォーマンスを低下させる重大なリスク要因です。一方で、課題を的確に洗い出し、着実に対策を講じていけば、事業の安定・成長につながります。
職場で課題解決に取り組むためには、研修などを開催して課題解決のスキルを身につけるとともに、職場で実際に使える仕組み作りが大切です。課題解決の方法を正しく把握し、ビジネスに役立てましょう。
しかし、課題の見極めや優先順位付け、施策の実行は、経営者だけで対応するには負担が大きく、判断を誤るリスクも伴います。こうしたときには、税理士をはじめとした外部の専門家の視点を取り入れることが、的確な課題解決の第一歩となります。
小谷野税理士法人では、税務・財務面での相談やアドバイスも承っております。お困りごとやご相談はぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。