クリニック経営は、地域医療を支える重要な役割を担っています。しかし、感染症の流行、物価の上昇、人手不足などのさまざまな課題を抱え、経営が難しくなるケースも少なくありません。本記事では、集患対策、財務管理、業務効率化、人材確保、経営知識の習得などクリニック経営課題を取り上げ、解決策をわかりやすく解説します。安定した運営のため、ぜひ最後までお読みください。
目次
クリニック経営における主な課題
クリニック経営には、さまざまな課題があります。
近年では、新規クリニックの増加に伴う競争の激化、物価や人件費の高騰、医療機器の導入やIT化による設備投資の負担増など、多方面にわたります。安定した経営を続けるために、まずクリニック経営における主な課題を見ていきましょう。
集患とリピート率の課題
新規患者の獲得(集患)と既存患者のリピート率の維持は、クリニックの収益性を左右するポイントです。
診療科目や立地によっては周辺に競合クリニックが多く、患者獲得の競争が厳しい地域もあります。また、集患がうまくいかない原因としては、クリニックの認知度不足や、他の医療機関との差別化が不十分であることが挙げられます。
現代の患者はインターネットを活用して医療機関を比較・検討する傾向が強く、WebサイトやSNSなどのオンライン情報が充実していないことも、集患を妨げる一因です。
財務管理の課題
財務管理の甘さは、クリニック経営が行き詰まる要因のひとつです。特に、人件費・賃料・光熱費など運転資金が不足すると、診療の継続が困難になる可能性があります。
そのため、診療報酬の入出金を正確に把握し、資金繰りを計画的に管理することが大切です。加えて、医療機器や薬品の購入、スタッフの給与といった定期的な支出も、将来を見据えて検討していく必要があります。
また、税務申告や会計処理でミスが生じれば、追徴課税や罰則金が発生するだけではなく、社会的信用を失ってしまうかもしれません。
また、近年の物価上昇も財務面に影響を与えています。よって、エネルギー効率の良い設備への入れ替えや、医薬品の在庫管理の徹底といった、無駄な支出を抑えるための工夫も必要です。
業務効率化の課題
クリニックの業務効率が低いと、患者の満足度が下がるだけではなく、スタッフの負担が増していきます。よって、離職率が高まり、経営に直結する問題に発展するかもしれません。
例えば、予約管理や患者情報の管理が紙ベースで行われていたり、診療前後のオペレーションが非効率であったりすると、業務全体にムダが生じます。その結果、患者の待ち時間が長くなって不満を招き、再来院の意欲低下や口コミでの低評価につながるでしょう。
また、スタッフも本来の業務に加えて受付・会計・電話応対・清掃などの雑務を兼任すると、一人ひとりの負担が大きくなります。
こうした状況を改善するには、デジタル技術の導入によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が欠かせません。
予約管理システムや電子カルテ、勤怠・経費精算ツールなどを導入することで、業務の自動化・効率化を図り、スタッフの負担軽減とサービスの質向上が可能になります。
人材確保と離職率の課題
医療業界全体で人手不足が深刻化するなか、クリニックにおいても、質の高い人材の確保と定着は課題のひとつです。
看護師や医療事務、受付スタッフの離職は患者対応や診療の質に影響を及ぼしかねません。また、離職率が高まると、残されたスタッフに過度な業務負担がのしかかり、さらなる離職を招くという悪循環に陥るリスクがあります。
人材が定着しない背景には、以下の要因が挙げられます。
- 長時間労働や過重な業務負担
- 給与水準や待遇の不満
- キャリアアップの機会の少なさ
- 職場の人間関係や労働環境の不備
例えば、看護師が本来の業務に加えて清掃や受付を兼任している場合、疲労が蓄積し、離職につながるでしょう。
また、就業規則や労働条件が曖昧、あるいは実態と乖離している場合は、スタッフの不満を招きやすく、定着率を下げる要因となります。
こうしたリスクを回避するためには、業務分担の見直し、労働環境の整備、人材育成や評価制度の構築といった、総合的なマネジメントが求められます。
経営知識不足によって生じる課題
クリニック経営者は高い専門性を有している一方で、経営の知識やスキルが十分ではないケースも少なくありません。しかし、資金繰りの管理、集患戦略、人事労務、マーケティング、経営戦略の立案は、クリニック経営を成功させる上で大切です。
経営知識が不足していると、以下のような問題が発生しやすくなります。
- 資金管理のミスによる資金ショート
- 集患や広告戦略の失敗
- 人材マネジメントの不備による離職増加
- 無駄な支出や投資判断ミス
- 会計・税務処理の不備による罰則や信頼失墜
例えば、地域のニーズや競合を十分に調査せずに場所を選んでしまうと、想定した患者数が集まらず、赤字経営に陥る恐れがあります。また、スタッフの採用・育成・評価制度が整っていない場合は人材が定着せず、安定した運営が難しくなるでしょう。
さらに、税務申告や会計処理のミス、あるいは法令への対応が遅れた場合、患者や取引先からの信用問題に関わります。
こうしたリスクを回避するには、経営に関する基礎知識を習得し、必要に応じて税理士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
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経営課題を解決するための対策
クリニックが安定した運営を続けていくためには、個別の問題にその場しのぎで対応するのではなく、幅広い視点から全体を見渡し、計画的に取り組むことが大切です。
まずは経営戦略を立て、集患対策や財務管理、業務の効率化、人材マネジメント、経営知識の習得など、それぞれの課題に応じた対策を進めていきましょう。
ここでは安定した経営体制を築いていくため、経営課題を解決するための対策を提案します。
明確な経営理念の策定
クリニック経営の安定には、経営理念の策定が欠かせません。経営理念とは、クリニックの使命、存在意義、進むべき方向性を言語化したもので、院長の価値観やビジョンをスタッフや患者に伝える役割を果たします。
経営理念が明確であると、患者はクリニックを選びやすくなり、かつ信頼や共感を得られやすくなるでしょう。スタッフにとっても、日々の業務における判断基準や行動の軸となります。
組織全体に理念が浸透することで、職員一人ひとりが同じ方向を見据えて行動し、自律的に質の高い医療サービスを提供できる環境が生まれます。
集患とリピート率の向上
集患力の強化とリピート率の向上は、クリニック経営を安定させるために重要です。現代の患者は医療機関を選ぶ際、インターネットで情報収集を行うことが多いため、オンラインでの情報発信は欠かせません。
まずは、医療広告ガイドラインに準拠し、院長の理念や診療方針、診療科目、診療時間、予約の可否、院内設備などを掲載したホームページを構築しましょう。
Google検索での上位表示を目指すSEO対策や、Googleマップ上での検索結果を最適化するMEO(マップエンジン最適化)対策を組み合わせることで、地域の新規患者層にアプローチできます。
あわせて、SNSやインターネット広告も集患の強化に有効です。
さらに、オンライン予約システムやリマインド通知を導入することで、リピート率の向上も期待できます。
可能な場合はオンライン診療を導入すると、遠方の患者や外出が難しい高齢者・子育て世代にも対応でき、新たな患者層の獲得にもつながります。
一方で、オフラインでの集患施策も忘れてはなりません。地域のフリーペーパーやポスティング、地元イベントへの参加や健康セミナーの開催などは、地域の方々とのつながりを深める効果的な取り組みです。
コスト削減と財務管理の徹底
コスト管理と財務の見直しは、クリニック経営の健全化を図る上で欠かせません。中でも人件費は大きな割合を占めるため、効率的な人員配置と業務最適化が大切です。
しかし、単に人員を減らすだけでは、サービスの質やスタッフの満足度が下がり、かえって逆効果になることもあります。大切なのは業務を効率化し、少ない人数でも無理なく運営できる体制作りです。
電子カルテや予約管理システムを導入すれば、スタッフの負担が軽減されて、よりスムーズな診療体制が整えられます。
来院データをもとにシフトを見直すことで、人件費の削減にもつながるでしょう。
さらに、清掃やレセプトの請求処理、電話応対などの業務は、アウトソーシングを活用することで、サービスの質を保ちながらコストを抑えられます。
また、医薬品・衛生材料・備品の在庫管理を徹底することで、発注ミスや廃棄ロスの削減が可能です。
省エネ性能の高い空調や照明設備への切り替え、リース契約の活用による初期費用の平準化なども、効果的なコスト対策となります。
日々の収支を「見える化」し、継続的にコストを分析・見直していくことが、安定した経営につながるでしょう。
業務効率化とIT化の推進
業務効率化とIT化の推進は、限られた人員で質の高い医療サービスを提供するために欠かせません。
ITは紙ベースや手作業に頼っていた業務をデジタル化することで、業務時間を短縮し、生産性を向上できます。
例えば、電子カルテを導入することで、患者情報を一元管理でき、入力作業の手間を減らすと同時に、情報の共有もスムーズになります。診療予約システムを活用すれば、電話や窓口業務での負担を軽減でき、ヒューマンエラーも防げるでしょう。
さらに、Web問診票を導入することで、患者は来院前に自身の症状を入力でき、医師は診察前に状態を把握できるため、診療の質とスピードが向上します。
加えて、自動精算機の設置により、受付スタッフの負担が軽くなり、患者の待ち時間短縮も可能です。
このように、IT化はクリニック経営の質やスピードを高める投資として積極的に取り入れることをおすすめします。
働きやすい職場環境の構築
人材不足が続く医療業界において、優秀な人材の確保と定着のためには、働きやすい職場環境の整備が欠かせません。
まず、長時間労働の是正や残業削減、福利厚生の充実など、基本的な労働条件を整えましょう。就業規則を明文化し、スタッフに周知・徹底することで、安心して働ける職場が生まれます。
また、スタッフのモチベーション維持には、日頃からコミュニケーションを取ることが大切です。定期的な1on1ミーティングなどを通じて、不満や要望を把握し、早期に対応することが信頼関係の構築につながります。
さらに、業務内容やスキルに応じた報酬を設定し、努力や成果を正当に評価してください。スタッフがやりがいを持って働ける環境は、離職率の低下にもつながります。
経営知識の習得と専門家の活用
クリニックの運営において、財務管理、マーケティング、人事労務、法務対応など、医療とは異なる分野の知見が求められる場面は少なくありません。
院長や経営者は、これらの知識を習得するために、経営セミナーや研修会への参加、書籍・オンライン講座などを通じて、継続的にスキルアップを図る必要があります。
しかし、診療業務と並行して全てを自力でこなすのは現実的ではありません。
よって、税理士や社労士、経営コンサルタントなど、専門家を積極的に活用することをおすすめします。
専門家と連携することで、クリニック経営リスクを抑えつつ、より戦略的な運営が可能です。
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まとめ
クリニック経営には、集患、財務、人材確保、業務効率化、経営知識の習得など、さまざまな課題が複雑に絡み合っています。しかし、こうした課題を一つひとつ把握し、計画的に対策を講じていくことで、経営の安定化と持続的な成長は実現可能です。
この記事では、明確な経営理念の策定、効果的な集患施策、財務管理とコスト削減の徹底、ITを活用した業務効率化、働きやすい職場環境の整備、経営知識の習得と専門家の活用といった、すぐに実践できる重要な取り組みをご紹介しました。
医療を取り巻く環境が日々変化するなかで、クリニックの価値を高め、地域に選ばれ続ける存在であるためには、経営者自身が学び続ける姿勢が大切です。
必要に応じて税理士などの専門家とも連携しながら、より強い経営基盤を築いていきましょう。