家計からお店を支えていたり、借入の返済が苦しかったりする美容室は、すでに経営難に陥っているかもしれません。ですが、経費や返済計画を見直せば、改善できる可能性があります。この記事では、経営難の美容院にできる改善策や、補助金や助成金といった支援制度を紹介します。また、廃業を判断する基準もお伝えしますので参考にしてください。
目次
あなたの美容室は大丈夫?経営難のサインをチェック
美容室の経営が危うくなる際は、いくつか共通する兆候が現れます。以下のような状況に当てはまるなら、経営改善が必要である可能性があります。
売上があるのに通帳の残高が増えない
売上があるのに通帳の残高が増えない状態は、経営難の初期サインです。材料費や光熱費などの経費で利益が圧迫されている可能性があるためです。利益が少ないと実際に手元に残るお金が少なくなり、新たな挑戦や万が一への備えが難しくなります。
借入の返済が苦しい
借入の返済が苦しくなっているのは、経営難の兆候です。例えば以下のような状況が該当します。
- 通帳の残高がギリギリで、返済日までにお金を用意できるかいつも不安
- 利息分しか払えておらず、元本がほとんど減らない
- 返済のために、スタッフの給料や材料費の支払いを遅らせている
- 過去の借金を新たな借入で返している
上記のような状態が続く場合、資金繰りが限界に達している可能性があります。「毎月なんとかやりくりしている」ではなく、「毎月綱渡りになっている」と感じるなら、見直すタイミングです。必要に応じて金融機関や専門家への相談も検討しましょう。
家計からお店を支えることが多い・自分の給料が後回し
家計から美容室の経費を補う状況が続いているのは、経営難のサインです。本来、お店の利益で家計を支えるべきなのに、逆に家計のお金でお店を支えている状態になっているためです。
また、オーナー自身の給料がゼロまたは後回しになっている場合も要注意です。これは利益が出ていない証拠であり、この状態が続くと生活費の貯金まで使い果たし、最終的に店も家計も共倒れになります。
家計からの持ち出しやオーナーの無給が常態化している場合は、早急に経営を見直しましょう。
スタッフの給料が払えない
スタッフの給料が払えない状態は、経営難の中でも危険なサインです。給与の未払いは労働基準法違反であり、30万円以下の罰金の対象です。
さらに、スタッフの離職や求人への悪影響といった社会的な問題にも発展するリスクがあります。こうなると人材確保ができず、経営の立て直しがますます困難になります。早急に資金繰りを見直し、税理士・商工会議所・金融機関などへの相談を検討しましょう。
経営難のサインが出たときに見直したい3つの数字
経営難を脱するために見直したい数字があります。それは以下の3点です。
- 月ごとの利益額と利益率
- 固定費の総額と内訳
- 現金残高と借入返済の状況
以下、1点ずつ見ていきましょう。
月ごとの営業利益と営業利益率をチェック
美容室の経営状態を見直す際、最初に確認したいのが営業利益と営業利益率です。感覚ではなく数字で、自分の店の売上や経費のバランスを把握することが大切です。
営業利益とは、売上から材料費・人件費・家賃・水道光熱費・広告費などの経常的な費用を差し引いた金額です。借入金の返済や利息、税金などは含まれないため、「日々の美容室運営から出る本業のもうけ」と考えるとわかりやすいでしょう。
例えば、月の売上が100万円で、経費が95万円(材料費・人件費・家賃など)だった場合、営業利益は50,000円となります。
そして、営業利益率は、売上に対してどれくらい利益が残っているかを示す割合であり、計算式は以下の通りです。
営業利益率(%)=営業利益 ÷ 売上 × 100
例えば、月の売上が100万円あって営業利益が50,000円なら、営業利益率は5%です。
なお、美容室の営業利益率は地域や規模によっても異なりますが、大手や中規模店舗であれば8~10%、小規模店舗であれば5%前後を目標とすると良いでしょう。
営業利益率を高めるための代表的な方法は、以下の通りです。
- 客数または客単価を増やして売上を増やす
- 経費を減らす
集客・客単価を増やすには、魅力的なメニューやサービス、効果的なプロモーションなどが必要です。中でもヘアケア商品の販売は、人件費や時間を掛けずに利益を生める手段です。
また、既存客のリピート率を高めるために、接客力や技術力の向上も欠かせません。デジタル予約システムの活用などで、来店のハードルを下げるのも1つの方法です。
一方で、安易な値下げには注意が必要です。値引きでは利益が残らない上、安さで選ぶ客は簡単に他店へ流れてしまいリピーターになりづらいからです。
技術・雰囲気・接客などの独自の強みや付加価値こそがリピーターを生み、長期的な経営の安定につながります。
客数や客単価が上がる取り組みについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:1人美容室経営の年収はどれくらい?費用・収益の仕組みと安定経営のポイントを解説(監修中)
関連記事:美容室経営における7大課題と具体的な解決策を解説(監修中)
固定費の総額と内訳をチェック
利益率を高めるためには、経費のチェックも重要です。まず固定費を見直しましょう。
固定費とは、家賃・人件費・光熱費といった「毎月必ず掛かる経費」です。売上に対して固定費の割合が高すぎる場合、一時的な売上減ではなく、慢性的な赤字になっているかもしれません。
固定費を数字で把握すると、「ここを改善すれば利益が増える」という箇所が見えてくる可能性があります。固定費の内訳をチェックし、削減や見直しの余地がないか探ることで、経営再建に繋がります。
具体的には、以下のような点に着目しましょう。
- 節水・節電機器の導入
- 家賃の交渉
- 安い物件への移転を検討
- サブスクや不要サービスの削減
- 無駄な雇用の見直し(過剰な人員をパートや業務委託に切り替える、など)
- バラバラな会計や予約のシステムを統一するor簡素化する
- キャッシュレス手数料の見直し
- 空きスペースの活用(空きスペースをネイルなどのシェアサロンにする、など)
1件1件は小さくても、年間で見ると大きな差が生まれます。自分でコスト削減や業態変更の余地が分からない場合は、専門家へ相談してみるのも良いでしょう。
固定費の削減方法については下記記事でも詳しく解説しています。
関連記事:厳選!すぐに採用したい経費削減アイデア集
現金残高と借入返済の状況をチェック
経営の安定には「通帳にいくらあるか」も重要です。売上や利益が出ていても現金が足りなければ、給料が払えなかったり、家賃の引き落としができなかったりといった事態に繋がるからです。
結果、スタッフの離職や家賃契約の打ち切り、新たな融資が受けられなくなるなど、深刻な問題に発展しかねません。
まずは毎月の通帳残高を確認しましょう。目安となるのは運転資金の3~6ヵ月分です。例えば毎月の経費(家賃・材料費・給料など)が100万円なら、300万円の残高があると安心です。
1つの目安にはなりますが、現金が運転資金の3ヵ月分を切っている場合、資金繰りが危険な水準にあると考えましょう。上記で解説した売上アップ策や経費削減を検討する必要があります。借入がある場合は、返済条件を見直しましょう。
借入の返済条件の見直し例は、以下の通りです。
- 元本返済の一時据置交渉(半年〜1年)
- 利息軽減の相談
- 返済期間の延長で月額返済を軽くする
特に注意したいのが、毎月の返済が「利息だけ」になっているケースです。これは、元本(借金の本体)が減っていない状態で、返済総額が増え続け借金がいつまでも残ってしまいます。
返済計画の見直しや、借換・リスケジュールなどを検討する場合は、税理士や資金繰りに強い専門家に相談しましょう。準備不足で失敗すると信用が落ち、今後の融資が受けにくくなるためです。
また、資金繰りが苦しい場合は、補助金などの支援制度の活用も検討しましょう。次章で詳しく解説します。
経営難の美容室が使いたい支援制度
経営が苦しいときは、国や自治体の支援策が使えないか確認しましょう。
美容院が経営難や資金繰りに苦しむときに使える主な制度は、以下の通りです。
制度名 | 概要 |
小規模事業者持続化補助金 |
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業務改善助成金 |
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中小企業新事業進出補助金 |
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小規模事業者経営改善資金 | 無担保・無保証で最大2,000万円まで借りられる制度 |
参考:小規模事業者持続化補助金(通常枠)|中小企業基盤整備機構
なお、自治体によっては独自の補助制度がある場合もあります。「(自治体名) 支援金」「(自治体名) 補助金」などのワードで検索してみましょう。
経営難の美容室は廃業すべき?廃業を判断する基準を解説
経営が苦しくても、すぐに廃業するのが最適とは限りません。廃業を検討すべき状況なのかを見極め、可能な選択肢を整理してから判断しましょう。
廃業を検討すべきサインをチェック
以下のような状況に該当するなら、経営継続が厳しい可能性が高いでしょう。
- 2期連続の赤字で自己資金が尽きた
- 借入の返済が利息分しかできない
- 家計を削っても回らない
改善の見込みがない場合は、廃業も視野に入れて検討しましょう。
廃業前に考えたい選択肢
廃業を決める前に、次のような「再出発の選択肢」も検討してみましょう。
- 規模を縮小して再スタート(店舗を縮小する・自宅サロンへ移行するなど)
- 他店と合併・譲渡する(従業員や客を引き継げる可能性あり)
- 債務整理やリース解約などの見直し(弁護士などに相談)
悩む場合は、1人で抱え込まずに経営の専門家に相談しましょう。例えば、税理士・中小企業診断士・商工会の経営指導員などは、数字の整理や制度活用、再建プランの立案などに強みがあります。
経営難にお悩みの美容室は専門家にご相談ください
この記事では、美容室が経営難のときに見直したい数字や改善のヒントを解説しました。赤字が続いていたり、資金繰りが苦しい場合は、経営難に陥っている可能性があります。ですが、固定費を見直したり、補助金などを活用すれば、改善につながるかもしれません。
とはいえ、「何から手をつければいいか分からない」「借入や補助金の手続きが不安」と感じる方も多いでしょう。そんなときは、数字に強い税理士にご相談ください。一緒に改善策を考えましょう。
相談せずに放置してしまうと、資金ショートやスタッフの離職、追加融資が受けられなくなるなど、手遅れになるリスクもあります。