民泊は共同経営も可能で、個人事業主同士がスキルや資金を持ち寄ってビジネスを始めるケースも増えています。ただし、共同経営で民泊を運営するには、民泊新法をはじめとする法律への対応や、契約面でのトラブル防止策を講じておくことが欠かせません。この記事では、民泊を共同経営する際の主な形態や注意点、メリット・デメリット、トラブルを防ぐための契約や準備のポイントなどを解説します。
目次
民泊経営の種類
民泊の経営は、法律や運営スタイルによってタイプが異なります。効率的に経営するためには目的に合ったスタイルを選び、法的リスクを回避しましょう。ここでは民泊経営の法律と運営方法を説明します。
法律に基づく民泊の分類
民泊は、法律によって主に以下の3つに分類されます。
分類 | 特徴 | 営業日数 | 手続き | 主な条件 |
---|---|---|---|---|
住宅宿泊事業法 (民泊新法) | 一般住宅を 使った民泊 | 年間180日以内 | 届出制 (許可不要) | 家主不在の場合は 管理業者の委託が必須 |
旅館業法型民泊 | ホテル・旅館と同様の営業 | 年間365日可能 | 都道府県の 営業許可が必要 | 建築・消防基準を 満たす必要あり |
特区民泊 (国家戦略特別区域法) | 特定地域での 特例制度 | 地域の規定による | 自治体の認定が必要 | 地域によって独自の ルールあり |
それぞれ、営業可能日数や許認可の有無、運営ルールが異なりますので、経営を始める前におさえておきましょう。
運営形態による分類
民泊の運営方法は、主に以下の2つの形態があります。
運営形態 | 概要 | 特徴 | 該当する法律 |
---|---|---|---|
家主居住型 | 家主が同じ建物に居住しながら、 空き部屋を貸し出す | ・ゲストとコミュニケーションが取りやすく安心感がある ・レビュー評価が高くなりやすい | ・住宅宿泊事業法 (年間180日以内の営業) |
家主不在型 | 家主が物件に住まず、 建物全体を貸し出す | ・プライバシー重視の運営が 可能 ・住宅宿泊管理業者への 委託が必要 ・旅館業法の取得で通年営業可 | ・住宅宿泊事業法 (180日以内) ・旅館業法 (180日超) |
それぞれメリットとデメリットがあり、特徴や法律が異なりますので、自分に合った形態を選択しましょう。
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民泊の共同経営はできる?
民泊の経営は、2人以上での共同経営も可能です。共同で運営する場合は、契約を結び、住宅宿泊事業法(民泊新法)などの関連法令を遵守して経営することが欠かせません。
また、共同経営の形態には複数の選択肢があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。いずれにしても計画的に進めることが、事業成功への第一歩です。
実際の経営では、夫婦で共同経営を行っているケースや、複数の人が出資して法人を設立し、民泊事業を展開するケースなどがあります。
合同会社を設立して運営する場合は、出資比率に関係なく、すべての社員に平等な議決権が与えられます。
トラブルを防ぐためにも、共同経営を始める前に、役割分担や収益の分配方法、トラブル時の対応ルールなどを定めた契約を交わしておきましょう。
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共同経営の種類・形態
民泊を共同で経営する場合、主な形態は以下の3つに分類されます。
個人間での共同事業
家族や友人など、身近な相手と比較的気軽に始める形態です。特定の物件に共同で出資し、得られた収益を分配します。
ただし、契約が緩やかになることが多く、トラブルが発生した際には責任の所在が曖昧になりやすい点には注意が必要です。
スムーズな運営のためには事前に契約書を交わし、役割分担・出資割合・収益の配分方法、さらには意見が食い違ったときのルールまで決めておきましょう。
任意組合の結成
民法に基づいて複数人が出資し、共同で事業を運営する方法です。法人格はありませんが、設立が比較的容易で、構成員全員が対等な立場で運営に関与できます。一方、損失が出た場合には無限責任を負うため、個人の財産で弁済するリスクがあります。
トラブルを避けるためにも、あらかじめ契約書を作成し、出資比率や責任の範囲などを取り決めておきましょう。
法人設立(合同会社など)
法人を設立する方法は、民泊の運営形態として安定した選択肢と言えます。出資者は有限責任のため、仮に事業が失敗しても損失は出資額の範囲に限られます。
中でも合同会社は設立費用が比較的安く、運営の自由度が高いため、多くの人に選ばれています。
ただし、原則として社員全員に平等な議決権があるため、意見が対立した場合に備えて、あらかじめ定款を定めておきましょう。
共同経営の形態を選ぶ際は、パートナーとの関係性や資金力、どこまでリスクを取れるかといった視点から、慎重に判断することが大切です。
民泊を共同経営するメリット・デメリット
民泊の共同経営は、1人での運営では得られない多くのメリットがある一方、注意すべきリスクや課題もあります。
メリット・デメリットを把握し、適切な対策を講じておくことで、安定した運営ができるでしょう。
民泊を共同経営するメリット
民泊の共同経営には多くの利点があり、まず挙げられるのは初期費用を分担できることです。
物件の取得やリノベーション、家具・家電の購入など、民泊運営には多くの初期投資が必要です。共同経営では初期費用を複数人で分け合えるため、自己資金が少ない場合でも、参入のハードルが下がります。
また、ローンや融資の際も、共同名義で申請することで信用力が高まり、資金調達しやすくなるケースもあります。
次にリスクを分散できる点も大きなメリットです。民泊経営には、季節による集客の波や、設備トラブル、クレーム対応など予期せぬ事態がつきものですが、パートナーと協力し合えることで、精神的・経済的な負担を軽減できます。
スキルを補い合えるのも共同経営の強みです。例えば、一方が物件選びや資金計画に強く、もう一方がマーケティングやゲスト対応に長けていれば、それぞれの得意分野を活かせるでしょう。
また、日々の業務分担も可能となり、本業や家庭との両立もしやすくなります。
複数で意思決定ができることも、共同経営ならではのメリットです。これらのメリットを活かすためには、パートナーとの信頼関係を築くこと、役割分担を明確にすること、定期的に話し合いの場を持つことが欠かせません。
民泊を共同経営するデメリット
一方、民泊の共同経営には注意点もあり、まず挙げられるのが意見の対立が起きやすいことです。経営方針や物件選び、費用の使い道、運営方法、収益の分配方法など、多くの場面で意見が食い違う可能性があります。
特に合同会社のように、出資額にかかわらず全員が平等な議決権を持つ場合は、意見がまとまらず、事業が停滞するリスクもあります。
次に注意したいのが、収益の分配に対する不満が生まれる可能性です。一般的には出資比率に応じて利益を分け合いますが、実際の業務量や関与の度合いに差があると、不公平感が生まれることもあります。
後々のトラブルを避けるため、あらかじめ分配のルールを決めておきましょう。
共同経営では責任の所在が曖昧になりやすい点もデメリットです。役割が曖昧なままだと、クレームや事故が発生した際に、誰が対応すべきかがはっきりせず、混乱や責任の押し付け合いにつながる恐れがあります。
また、信頼関係が崩れることで、事業そのものに悪影響が及ぶ可能性もあります。
リスクを防ぐためには、あらかじめ共同経営契約書を作成し、役割分担や意思決定のルール、収益の分け方などを明確に決めておきましょう。
関連記事:民泊経営にかかる所得税って?注意点や確定申告の手順も解説
民泊経営にかかる費用相場
民泊を始める際には、初期費用と、毎月のランニングコストを把握しておくことが重要です。
これらの費用を見落とすと、収益化が遅れたり、資金繰りが厳しくなったりするため、事前に資金計画を立てておきましょう。ここでは初期費用とランニングコストを説明します。
初期費用
民泊経営の初期費用は、主に以下の通りです。
費用 | 内容 | 金額の目安 |
物件取得費または 賃貸費用 | 物件購入代金、仲介手数料、登記費用、敷金・礼金(賃貸)など | 購入:数千万円〜億単位 賃貸:100万円前後 |
備品・家具・設備の購入 | ベッド、家電、調理器具、アメニティなど | 数十万〜数百万円 |
リノベーション費用 | 水回りや内装の改装、スマートロック設置など 旅館業法や特区民泊の場合は高額になる傾向あり | 数百万〜数千万円 |
申請・届出代行費用 | 行政書士に代行依頼する場合 | 10〜40万円 |
初期費用は立地やコンセプトによって大きく変動します。なお、自己所有物件の場合でも、改装や設備投資が必要になるケースが多いため、一定の初期費用が発生します。
予算には余裕を持ち、突発的な出費にも対応できるようにしておきましょう。
ランニングコスト
民泊は初期費用だけではなく、運営を続けるための毎月の経費も見落とせません。規模や運営方法、稼働率によって異なりますが、月15万〜50万円程度が一般的な目安です。主な内訳は以下の通りです。
費用 | 内容 |
家賃またはローン返済 | 賃貸物件は家賃、購入物件は住宅ローンの返済額 |
水道光熱費 | 宿泊数や季節によって変動 |
消耗品費 | アメニティ(歯ブラシ・シャンプーなど)や清掃用品 |
通信費 | ゲスト用Wi-Fi、予約対応用の電話など |
清掃費 | 外部業者に依頼する場合は1回数千〜1万円以上 |
管理費(運営代行費) | 予約管理・ゲスト対応などを代行業者に任せた際の費用 |
修繕費 | 備品の故障や建物の老朽化による修理費用 |
広告宣伝費 | AirbnbなどOTAへの掲載手数料、自社サイトの運用費 |
保険料 | 火災保険や損害賠償保険など、万が一に備えるための保険 |
税金 | 所有物件であれば固定資産税、収益に応じた所得税・法人税など |
これらの費用をあらかじめ見積もっておくことで、無理ない資金計画となります。また、共同経営では費用の分担方法を明確にしておきましょう。
関連記事:民泊経営における節税対策とは?具体的な対策法をご紹介
民泊を共同経営する際のポイント
民泊を共同で経営する場合、協力体制を築くことはもちろん、共同経営ならではの課題にどう対処するかも大切です。以下のポイントを押さえて、安定した運営を目指しましょう。
収益につながる物件を選定する
民泊経営において最も重要なのは、収益性の高い物件を選ぶことです。中でも立地は大切な要素で、観光地の近くや駅の近く、空港へのアクセスが良いエリア、ビジネス需要が見込める都心部などでは、高い稼働率が期待できます。
ただし、地域によっては民泊の営業を制限する条例があるため、事前にエリアのルールを確認しましょう。
また、物件の種類や広さも、ターゲットによって選び方が異なります。ファミリーでは一戸建てや広めの物件が向いており、ビジネス利用や1人旅のゲストにはマンションの一室などが適しています。
加えて、建築基準法で定められた面積や、キッチンや浴室などの設備条件を満たしているかも確認しましょう。Wi-Fiやエアコン、洗濯機など設備が充実していることも大切です。
地方の物件は取得費用が比較的安いというメリットがありますが、集客面では工夫が欠かせません。古民家リノベーション、農業体験やワーケーションなど地域の特色を活かしたコンセプトを打ち出してみましょう。
許認可と届出をする
民泊を始める際は許認可や届出の手続きが必須です。日本の民泊は、以下のいずれかの法律に基づいて運営されます。
区分 | 概要 |
住宅宿泊事業法(民泊新法) | 都道府県知事への届出が必要 家主不在型の場合は住宅宿泊管理業者への委託義務あり |
旅館業法 | 営業日数制限なし。旅館業の許可を得る必要があり、 建築基準法・消防法など厳格な要件を満たす必要がある |
国家戦略特別区域法 (特区民泊) | 特区に指定された自治体で運営可能 最低宿泊日数(2泊3日など)の制限あり。自治体の認定が必要 |
共同経営で民泊を運営する場合は、事業者全員が関わっていることを示す契約書や同意書の提出が求められます。
無許可で営業を行うと旅館業法違反となり、罰則の対象になるため注意しましょう。
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まとめ
民泊の共同経営は、1人では難しい初期費用や運営業務の負担を分担できる点で、大きなメリットがあります。また、パートナー同士の得意分野を活かせば、より効率的で魅力ある宿泊運営も実現できます。
ただし、意見の食い違いや責任の曖昧さがトラブルの原因になることもあるため、事前に契約書を交わして役割や収益配分を明確にしておくことが欠かせません。
法令や自治体のルールを把握し、収益性のある物件選びや差別化されたコンセプト設計を行うことで、共同経営の強みを最大限に活かした民泊運営が可能です。