共同経営は、信頼する相手と事業を進められる反面、利益配分や役割分担をめぐってトラブルに発展するケースも少なくありません。契約書の不備や事前の取り決め不足が原因で、関係が悪化してしまうこともあるでしょう。本記事では、共同経営で起こりやすいトラブルや事前に決めておくべきルール、相談すべき専門家について解説します。これから共同経営を始める予定の方や、現在の経営に不安を感じている方は最後までご覧ください。
目次
共同経営とは?
共同経営とは、2人以上のパートナーが出資や労務を持ち寄り、利益とリスクを共有して事業を行う形態です。
法人を設立する場合もあれば、個人事業主同士で契約を結んで行う場合もあります。パートナーの関係は、夫婦や親子、友人などさまざまでしょう。
ただし、信頼関係だけで始めると、利益配分や業務分担、方針決定をめぐって対立が起きやすくなります。関係悪化や事業の混乱を防ぐためにも、事前のルールや契約書の整備が重要です。
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共同経営でよくあるトラブル
共同経営では信頼関係が前提となる場合が多いため、明確な取り決めをせずに始めてしまい、後からトラブルに発展するケースが少なくありません。では、実際にどのような問題が起きやすいのでしょうか。
利益や経費の分配でもめる
利益や経費の分配ルールが曖昧なままだと、「売上は誰の成果か」、「これは共通経費か」などの解釈の違いから衝突が起こりやすくなります。
お互いの貢献度を客観的に評価するのが難しく、不公平感が積み重なると信頼関係に影響を与えます。
数字が絡むため感情的になりやすく、話し合いが平行線をたどるケースも少なくありません。
労働量や責任の偏り
片方の業務負担が多くなると、「自分ばかり働いている」という不満が生じやすくなります。
最初は合意していたつもりでも、状況が変わる中でバランスが崩れると、不平等感が強まり関係にひびが入る原因になります。
さらに、責任の所在が曖昧な場合、トラブル時に押しつけ合いが発生し、対立が深まる可能性があります。
意思決定で対立が起こる
経営方針や業務の進め方に関して意見が割れると、意思決定が進まず事業が停滞するケースがあります。
特に「誰が最終的に判断するか」というルールが不明確だと、議論がまとまらず感情的な対立に発展しやすくなります。
こうした状況が続くと、日常業務にも支障をきたし、経営全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
片方の離脱や死亡で事業継続が困難になる
パートナーが急に離脱・死亡・倒産した際、対応ルールが決まっていないと、業務や財産の引き継ぎをめぐって大きな混乱が起こる可能性があります。
特に持分や業務分担が不明確な場合、残された側に過度な負担がかかり、最悪の場合は事業の継続が困難になるケースもあります。
共同経営におけるトラブルを防ぐために決めておくべき5つのこと
共同経営は信頼関係に基づくからこそ、最初にしっかりとルールを定めておかないと、些細な行き違いが深刻な対立に発展します。共同経営を円滑に進めるために最低限取り決めておくべき以下5つのポイントについて解説します。
- 出資額と持分比率の明確化
- 役割分担と意思決定ルールの設定
- 利益・経費の分配ルールの取り決め
- 契約書(共同経営契約書)の作成
- 解散・離脱時の取り決め
出資額と持分比率の明確化
出資額とそれに応じた持分比率の明確化は、共同経営において最も基本的かつ重要な取り決めです。
誰がいくら出資し、どの程度の経営権や利益分配の権利を持つのかが曖昧だと、後になって「自分の取り分が少ない」、「口出しする権限があるのか」といった不満や誤解を生む原因になります。
特に利益が出たときや経営方針で意見が割れたとき、このルールが曖昧だと話し合いがまとまらず、トラブルに発展しかねません。
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役割分担と意思決定ルールの設定
業務の役割分担と意思決定のルールを最初に明確に決めておけば、無用な混乱や対立を防げるでしょう。
営業、経理、発注、採用などの実務が重なると「誰がやるべきか」でもめる可能性がありますし、決定権限が不明確なままだと、いざというときに話が進まなくなります。
また、経営判断が必要な場面では「多数決か、代表者決定か」といったルールがないと、意見が分かれたときに感情的な対立に発展するおそれがあるでしょう。
あらかじめ業務の範囲と意思決定の仕組みを取り決めておくことが大切です。
利益・経費の分配ルールの取り決め
利益や経費の分配ルールを事前に取り決めておくと、金銭面での誤解や不満を防げます。
どのように売上を按分し、経費を共通とするのか、また私的な支出をどう区別するのかを明確にしないと、「誰がどれだけ利益を取っているのか分からない」、「これは共通経費なのか?」といった問題が起きがちです。
特に、出資比率と分配割合を一致させるかどうか、役割に応じた配分にするかといった点は、早い段階で合意しておきましょう。
契約書(共同経営契約書)の作成
事業に関する合意事項は、口頭ではなく書面(契約書)で明確に残しておきましょう。
信頼関係があるからと契約書を作らないと、意見が食い違ったときに「そんな約束していない」と主張されるなど、証拠がなく不利になる可能性があります。
契約書には、出資比率、利益配分、業務分担、意思決定ルール、解散条件などを盛り込むのが一般的です。
のちのトラブルを防ぐためにも、口約束ではなく、合意内容を正式な文書として残しておきましょう。
解散・離脱時の取り決め
共同経営はいつまでも続くとは限らないため、万が一の解散やパートナーの離脱時にどう対応するか、事前にルールを決めておく必要があります。
例えば、「持分を第三者に譲渡できるのか」、「死亡時の継承はどうするのか」、「事業資産の分配はどうするか」などを決めておかないと、トラブルが起きたときに混乱を招くでしょう。
とくに、事業からの撤退や解消に関する取り決め(Exitルール)が定められていない場合には、感情的なもつれや法的トラブルに発展し、残った側の負担が過大になるので注意しましょう。
共同経営の契約書に盛り込むべき主な内容
共同経営は信頼だけでなく、文書による取り決めが不可欠です。特に契約書にどのような内容を明記するかによって、後のトラブルを防げるかどうかが決まります。
以下で、契約書に盛り込むべき基本的な項目について解説します。
基本事項
事業の目的や名称、所在地といった基本事項を明確に契約書へ記載しておくと、共同経営の方向性や実態がはっきりします。
これらの情報は、契約書の冒頭で定める基盤部分であり、契約全体の土台になります。
事業の目的が不明確なままだと、意思のすれ違いが生じやすく、方向性のズレからパートナー間で不信感が生まれる原因にもなるでしょう。
また、銀行口座開設や登記手続きの際にも必須となるため、正確かつ網羅的に記載しておく必要があります。
出資・利益分配・損失分担
誰がいくら出資し、それに応じて利益や損失をどう分配するかを明文化しておくと、金銭面のトラブルを防げます。
出資比率と利益分配の比率が異なる場合は特に注意が必要で、事前に納得のいく合意が不可欠です。
例えば、労務提供と資金出資のバランスに応じた調整を行う場合などは、曖昧なままでは「損をしている」といった不満が生じやすくなるでしょう。
契約書に、それらのルールを具体的に記載することで後の誤解を防ぎます。
業務執行・決定権限
誰がどの業務を担当し、どのように意思決定を行うかを明確にしておくと、日常業務の混乱や責任のなすり合いを防げるでしょう。
例えば、「営業はAが行う」、「経理はBが管理する」、「資金調達は合意制」といった形で役割分担と意思決定ルールを定めておくのが重要です。
特に意思決定については、単独判断と合議制のどちらを取るのか、緊急時の対応はどうするのかなどをあらかじめ取り決めておけば、無駄な対立を防げるでしょう。
契約期間と終了の条件
共同経営の契約期間や、終了に関する条件を明記しておくと、万が一の解消時にも冷静かつ円滑に対応できます。
例えば、「契約は1年間」、「更新は自動」、「終了は30日前通知による」といった具体的な内容を盛り込むと明確でしょう。
また、契約終了の条件として、死亡・破産・重大な契約違反などの具体的なケースを想定しておけば、解散時の混乱を最小限に抑えられます。
紛争時の解決方法
意見の対立やトラブルが発生した際の解決手段を事前に取り決めておくと、信頼関係を維持する上でも非常に重要です。
「裁判」、「調停」、「仲裁」など、どの手段を取るかを明記しておくと、万一揉めたときにも冷静かつ速やかに対応できます。
特に金銭トラブルや経営方針の相違などは感情的な対立に発展しやすく、出口戦略がないままだと関係修復が困難になるでしょう。
紛争処理のルールは、トラブルに備えるための基本的な備えと言えます。
共同経営で相談すべき専門家とは?
共同経営では、税務・法務・経営など多岐にわたる専門知識が必要になります。自力での判断に頼りすぎると、トラブルや損失の原因になるため、信頼できる専門家に相談するのが有効でしょう。
税理士
税務処理や利益・経費の按分に関しては、税理士への相談が不可欠です。出資割合に応じた利益分配や、経費の事業性の判断は非常に複雑で、誤ると税務調査のリスクや不要な課税が生じかねません。
また、個人事業と法人、どちらの形態が適しているかを見極めるにも専門的な視点が求められます。
税理士であれば、日々の帳簿づけから確定申告、節税の方法までトータルで支援を受けられるため、長期的なパートナーとしても信頼できます。
弁護士
契約書の作成やトラブル対応など、法律に関わる事項は弁護士への相談が最も適しているでしょう。
共同経営では、口約束や曖昧な合意が後々の紛争に発展するケースが多いため、契約内容の明文化が極めて重要です。
また、パートナー間での対立や離脱時の対応、損害賠償請求など法的リスクが絡む場面では、法的観点から冷静に対処できる専門家の力が不可欠です。
弁護士を通じて中立的な解決を図ることで、関係悪化を防ぎながら問題解決が可能になるでしょう。
司法書士や行政書士
法人の設立登記や定款作成など、法務手続きの実務面は司法書士や行政書士がサポートしてくれます。
例えば、合同会社や株式会社の設立時には、登記に必要な書類を整えたり、公証役場での手続きを代行してもらうと、時間と手間を大幅に削減できます。
また、契約書のひな形作成や内容確認といった対応も依頼可能で、法的整合性を保ったうえでスムーズに事業を開始するための支援が受けられます。
初期コストを抑えつつ実務を進めたい方に適しているでしょう。
中小企業診断士
経営戦略や事業の方向性に関する相談には、中小企業診断士の助言が有効でしょう。
特に、パートナー間での役割分担の見直しや業務プロセスの最適化、今後の事業計画の策定など、経営そのものに関わる支援を受けたい場合に適しています。
共同経営は意思疎通だけでなく、業務設計や成長戦略のすり合わせも重要であり、診断士による客観的な分析が軌道修正や改善のきっかけになります。
経営の質を高めたい方は積極的に活用してください。
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共同経営に関するよくある質問
共同経営を検討する際には、名義の取り扱いや契約書の必要性、税務上の処理方法などについて不安や疑問を感じる方が多く見られます。
以下で、共同経営に関する代表的な疑問について取り上げ、注意すべきポイントをお伝えします。
名義が1人でも共同経営になれますか?
名義が1人だけでも、実質的に複数人が経営に参加していれば、共同経営とみなされる可能性があります。
出資、労務の提供、経営判断への関与といった実態があるかが判断の基準となります。例えば、収益の分配や意思決定に複数人が関与している場合、名義とは関係なく税務署や裁判所で共同事業と見なされるケースもあります。
契約書がなくても共同経営とみなされますか?
契約書がなくても、実態として事業を共同で運営していれば、共同経営と見なされるかもしれません。
例えば、収益を分け合っていたり、役割分担が明確にされている場合などです。ただし、文書化されていない合意は、後から「言った・言わない」のトラブルを引き起こす可能性が高く、法的にも不利になる恐れがあります。
契約書があれば、責任範囲や利益配分の明確化に繋がり、万一の紛争時にも強い証拠となります。
税務上の共同経営の扱いはどうなりますか?
税務上の共同経営の扱いは、個人事業主や法人など形態によって異なります。全員が個人事業主として対等に事業を行う場合は、それぞれに確定申告が必要です。。
各自が出資割合に応じて収益や費用を申告しなければならず、単独の確定申告とは異なる複雑な対応が求められます。特に、経費の按分や利益配分が適切でないと、税務調査で指摘されるリスクがあるでしょう。
初めての場合は判断が難しいケースも多いため、税理士に相談し、適切な処理方法や届け出を行うのが安心・確実な対応に繋がります。
共同経営に関するお悩みやトラブルは早めに専門家へ相談を
共同経営は信頼関係が前提となる一方、契約や税務の整備を怠ると、大きなトラブルや金銭的損失に発展するリスクがあります。
初期の段階で専門家に相談しておくことで、こうしたリスクを未然に防ぎ、円滑な経営を進めやすくなるでしょう。
小谷野税理士法人では、共同経営に関する税務処理・法人設立支援などを幅広くサポートしています。共同経営に関する不安や悩みがある方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。