共同経営は信頼するパートナーと力を合わせて事業を進められる反面、出資比率や役割分担など「決め事」が曖昧だと後々のトラブルにつながるリスクもあります。特に創業当初に何をどのように取り決めておくかは、経営の安定性や継続性に直結します。本記事では、共同経営を始める前に必ず決めておくべき7つの事項やトラブルを防ぐための対策を詳しく解説します。共同経営を検討中の方、不安を感じている方は最後までご覧ください。
目次
共同経営とは?
共同経営とは、2人以上のパートナーが出資や労力を持ち寄り、協力して事業を運営する形態を指します。
法人を設立して代表者や役員として参画するケースのほか、個人事業者同士が契約を交わして共同運営する方法もあります。
夫婦・親族・友人・ビジネスパートナーなど、共同経営の組み合わせは多様で、それぞれに合ったルール作りが不可欠です。
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なぜ「決め事」が重要なのか
共同経営を始めるにあたって、最初にルールを決めるべきだと言われるのには理由があります。円滑な経営と関係維持のために、なぜ事前の取り決めが必要なのでしょうか。
トラブルを未然に防ぐため
事前に明確なルールを決めておけば、予期せぬトラブルを防げます。
共同経営では、出資や業務、報酬などの条件を曖昧なまま進めると、後になって「そんなはずじゃなかった」という認識のズレが生じやすくなります。特に金銭や労力に関する不公平感は、関係悪化の引き金になりがちです。
あらかじめ細かな取り決めを交わし、書面に残しておくと、万一の対立時にも冷静に対処でき、事業運営がスムーズに保たれます。
信頼関係を維持するため
「決め事」を合意し文書化しておけば、信頼関係を長く保てます。共同経営は人と人との関係に強く依存するため、ちょっとした誤解や感情的なすれ違いが経営の根幹を揺るがす場合もあります。
お互いの役割や責任、判断基準を明文化しておくと、「言った・言わない」の水掛け論を防ぎ、対等な立場でのパートナーシップが築けます。
経営判断を円滑に進めるため
あらかじめ意思決定の責任や手順を明確にしておけば、経営判断が迅速かつ的確に行えるようになります。
共同経営では、日々の業務から将来的な戦略まで、重要な判断を下す場面が多くあるため、その際に誰がどのように決定するかが曖昧なままだと、意見がまとまらず判断が遅れ、経営に支障をきたす可能性があります。
こうした停滞を防ぐには、役割分担とあわせて意思決定の流れを明文化し、全員が納得した形で共有しておきましょう。
共同経営で最初に決めておくべき7つのこと
共同経営を安定して続けるには、曖昧なまま進めないことが大切です。始める前に話し合っておくべき以下7つのポイントについて解説します。
- 出資比率と資金負担のルール
- 経営方針や意思決定の方法
- 業務分担と責任範囲
- 利益配分と報酬の取り決め
- 資金繰り・借入・追加出資の対応方針
- 退任・解散・持分売却時のルール
- 万一のトラブルや仲違い時の対応
出資比率と資金負担のルール
出資比率や資金負担のルールを明確にしておくと、将来的な不満やトラブルを防げます。
誰がどれだけ資金を出すのか、今後の追加出資はどうするかを曖昧にしておくと、出資額と発言力のバランスや利益配分で対立が起きやすくなります。
さらに、出資比率は議決権にも影響するため、事前に取り決めて合意しておくと、公平感と経営の信頼性が保たれるでしょう。
経営方針や意思決定の方法
意思決定のルールを決めておくと、経営判断がスムーズになります。
事業の方向性や大きな出費、契約など重要な意思決定を、多数決にするのか、全会一致にするのかによって、経営スピードや柔軟性が大きく変わります。
曖昧なままだと議論が長引き、意思決定が滞る恐れがあります。決定ルールはできるだけ明文化し、迅速な経営判断を支える体制を整えましょう。
業務分担と責任範囲
業務分担と責任の明確化は、円滑な共同経営を続けるうえで重要なポイントです。
誰が営業を行い、誰が会計や人事を担当するのか、日常的な業務の範囲を明らかにしておかないと、負担の偏りや不満が生じ、信頼関係に悪影響を及ぼすおそれがあります。
業務内容と報酬のバランスにも直結するため、役割分担については初めから書面で合意しておくのが賢明です。
利益配分と報酬の取り決め
あらかじめ報酬や利益の分け方を取り決めておくと、継続的な協力関係が築きやすくなります。
同じ出資をしていても、実際の業務負担に差があると、報酬への不満が生じることがあります。例えば、毎月の役員報酬と利益分配を分けて設定すれば、労働の対価と経営成果をそれぞれ適切に反映できるでしょう。
配分ルールを明文化し、互いに納得できる制度として整えておけば、長期的な信頼関係と安定した経営が保たれます。
資金繰り・借入・追加出資の対応方針
資金調達に関する原則を事前に決めておけば、緊急時の混乱を防げます。
売上の低迷や設備投資が必要なタイミングで、資金をどう調達するかについて合意がないと、話し合いが難航し対応が遅れます。
借入の名義や保証人の負担、将来的な増資の方針なども含め、基本方針を共有しておくことで、資金繰りの柔軟性が高まるでしょう。
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退任・解散・持分売却時のルール
将来の離脱や解散を見越したルールづくりが、円満な整理や引継ぎに繋がります。
共同経営を始めるときは順調でも、やがて退任・持分売却・解散といった場面が訪れる可能性はあります。
その際に精算方法や持分の買取・譲渡先などについて定めがないと、対立に発展しやすくなるでしょう。万一に備えたルールづくりは、経営の出口戦略としても重要です。
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万一のトラブルや仲違い時の対応
トラブル時の解決策を事前に決めておけば、対立が起きても冷静に対応できます。
共同経営では、人間関係の悪化や価値観の違いから対立が生じるケースがあります。そのとき社内での解決が困難な場合は、第三者の調停や顧問税理士・弁護士の関与が有効です。
こうした対応方法を事前に合意しておけば、感情的な衝突を避け、事業を継続する選択肢も広がるでしょう。
決め事を文書化する方法
共同経営の取り決めは、口頭の合意だけでなく、必ず書面に残すようにしましょう。トラブルを防ぎ、万が一の対立にも冷静に対応できるよう、法的効力のある文書化を行ってください。
法人設立の場合は「定款」に記載する
法人設立時は、定款にルールを明記しておくと、紛争時にも有効に機能します。
会社を設立する際には、出資比率や役員構成、意思決定の方法などを定款に盛り込んでおくと、法的拘束力を持たせることができます。
株式会社であれば定款は登記の際に公証人による認証を受けるため、後のトラブル時にも有力な証拠として活用できます。
個人事業での共同運営は「契約書」や「覚書」を交わす
法人でなくても、契約書や覚書で合意内容を文書化することが重要です。
個人事業者同士で共同経営を行う場合でも、出資、役割、報酬、解散時の取り扱いなどについて書面で合意しておきましょう。
とくに法的拘束力を持たせたい場合は、署名・押印を行った契約書の形式で作成してください。覚書という形式でも、内容が明確であればトラブル防止に有効です。
トラブルに備える場合は「合意書」に特約を盛り込む
将来の対立に備えるには、合意書で特約を交わしておくのが有効です。
信頼関係が前提となる共同経営ではありますが、退任・解散・損失発生などの局面で意見が対立する可能性もあります。
こうした場合に備えて、あらかじめ「どのような手順で解決するか」や「第三者を交える調停手続き」などの特約を合意書に加えておくと安心でしょう。
弁護士や税理士にチェックを依頼すれば、法的な不備も防げます。
よくあるトラブル例
共同経営は信頼関係に基づくものですが、ルールの不備や価値観の違いからトラブルが発生する場面が多々あります。実際によくあるトラブル事例をご紹介します。
出資比率と労働量のバランスに不満が出る
共同経営を始めた当初は、お互いの信頼関係に支えられて順調に進んでいたものの、次第に不満が表面化するケースがあります。
例えば、一方が多くの資金を出資し、もう一方が現場の実務を担うという体制で始めた場合、時間の経過とともに労働している側が負担の重さに対して不公平感を持つようになるでしょう。
お互いの立場や貢献が見えにくい状態では、報酬や役割に対する納得感が薄れやすくなります。
経営判断で意見が対立して事業が進まない
商品の導入や価格改定など、大きな判断が必要な場面で意見が食い違い、事業が止まってしまうというトラブルもよく見られます。
例えば、片方は積極的に新規事業へ投資したいと考えているのに対し、もう片方は慎重な姿勢を崩さない場合、議論が平行線になり、なかなか結論に至らない可能性があるでしょう。
こうした状態が続くと、社内全体の動きも鈍り、経営スピードが落ちてしまいます。
親族・友人関係が悪化する
もともと親しい関係で始めた共同経営が、仕事上のトラブルをきっかけに私生活にも影響を及ぼす可能性があります。
夫婦や兄弟、友人同士での共同経営では、お互いの関係性を前提にした曖昧な運営になりやすく、意見の衝突や金銭的な問題が生じた際、感情的な対立に発展する場合があります。
その結果、仕事上だけでなく、もともとの人間関係までもが壊れてしまうケースは少なくありません。
業績への貢献度をめぐる認識のズレ
自分の方が会社に貢献しているという意識の差が、関係に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、営業成績や顧客対応など目に見える成果を挙げているパートナーに対し、間接業務や裏方を担当している側が軽視されていると感じてしまうケースがあります。
互いの役割が違えば成果の見え方も異なり、貢献の評価が不明確なままでは不満が募りやすくなります。
共同経営を成功に導く5つのポイント
共同経営は信頼関係と役割分担が重要であり、長く円滑に経営を続けるためには、日々の取り組みや配慮が欠かせません。実務で意識すべき以下5つのポイントについて解説します。
- 定期的にミーティングを行い情報共有する
- 相手の意見や立場を尊重する
- 数値で判断できる体制を整える
- 役割に応じた報酬や評価を設定する
- 第三者の関与を定期的に受ける
定期的にミーティングを行い情報共有する
定期的な情報共有は、信頼関係や組織の一体感を維持するうえで非常に効果的です。
共同経営では、それぞれの役割や関与の度合いが異なるため、お互いの行動や判断の背景が見えづらくなる可能性があります。
経営方針や業績、課題などを継続的に共有することで、意識のズレを防ぎ、共通の目標に向かいやすくなります。仕組みとして、定例のミーティングを設けておくと、誤解や不信感の蓄積を防げるでしょう。
相手の意見や立場を尊重する
相手の意見を受け入れる姿勢が、対等な関係と長期的な信頼を築きます。
共同経営では意見が一致しないケースも珍しくありませんが、それを否定的にとらえず「違い」として尊重することが重要です。
相手の価値観や判断の背景を理解しようとする姿勢があると、冷静かつ建設的な議論が生まれます。一方的な判断や感情的な反論は関係悪化の原因になるため、互いに耳を傾けるように心掛けましょう。
数値で判断できる体制を整える
感覚ではなく、数値に基づいた判断体制が冷静で合理的な経営判断を可能にします。
売上・利益・経費・負債などの数値を可視化し、共通の指標で状況を確認できる環境が整っていれば、個人の感覚や主観による対立を避けられます。
クラウド会計ソフトや管理ツールを活用して、収支状況をリアルタイムで共有することで、問題の早期発見や役割の見直しにも役立つでしょう。
役割に応じた報酬や評価を設定する
労働量や責任に応じた報酬体系を構築しておけば、不満の蓄積を防げるでしょう。
たとえ出資比率が同じでも、実務にかける時間や業務の負担は異なるケースが多くあります。その差を無視して報酬を一律にすると、労力を多く担う側に不満が生じる可能性があるでしょう。
役員報酬・成果報酬・利益配分などを分けて設定しておけば、フェアな報酬制度が実現し、双方の納得感も高まります。評価基準も明確にしておくのが重要です。
第三者の関与を定期的に受ける
外部の視点を取り入れることで、偏りや見落としを防げます。
税理士や外部アドバイザーを定期的に交えて経営状況を確認することで、主観に偏った判断やリスクの見落としを防げるでしょう。
経理・税務・法務といった専門的な分野では、第三者の助言がトラブル回避や改善策の提案に繋がる可能性もあります。
また、パートナー間の意見対立時にも、外部の中立的な意見が判断材料となり、冷静な解決を後押ししてくれます。
共同経営での決め事に悩んだら専門家に相談を
共同経営では、小さなすれ違いが大きなトラブルに発展するケースが多々あります。特に「決め事」が曖昧なまま始めると、資金や役割分担、解散時の処理などで深刻な問題に直面するリスクがあります。
そうしたリスクを回避するには、契約書の作成や税務・経理面を含めて、専門家のサポートを受けるのが安心でしょう。
小谷野税理士法人は、法人設立や共同経営の実務支援に豊富な実績を持ち、経営・税務・会計のあらゆる場面で的確なアドバイスを提供しています。共同経営のルールづくりにお悩みの方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。