クリニックの開業を検討するにあたり、複数の医師で共同経営するのも魅力的な選択肢の1つにうつるでしょう。共同経営には多く利点がありますが、1人での開業とは異なるリスクも存在するため、あらかじめ把握しておくことが大切です。本記事では、複数医師による共同経営の主なメリット・デメリット、そして開業前に取り決めておくべき重要な事項について解説します。
目次
複数医師でクリニックを共同経営する3つのメリット
複数の医師によるクリニックの共同経営には、1人での単独開業では得られない多くの利点があります。ここでは、その中でも代表的な3つのメリットをご紹介します。
医師を確保しやすくなる
共同経営であれば、開業当初から複数の医師が在籍する体制を整えられます。通常、紹介会社を利用して医師を採用する場合は高額な紹介料が発生しますが、共同経営であればその必要がありません。
つまり、効率的に人的リソースを確保でき、医師採用にかかるコストや手間を軽減することができるでしょう。
資金調達の負担を軽減できる
複数人で出資することで、開業資金や運営資金など一人あたりの資金調達の負担が軽減されます。大きな初期費用が必要な医療機器や内装費用についても、共同で資金を準備すれば、より充実した設備を整えられるでしょう。
さらに、将来的な事業拡大も視野に入れやすくなります。また、金融機関に対しても複数の医師が関与することによる信用力の向上が期待でき、資金調達面でも有利に働く場合があります。
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人脈やネットワークを活用しやすくなる
医師それぞれの持つ人脈やネットワークを持ち寄ることで、地域の医療機関や専門医との連携、患者紹介のルート拡大など、事業運営における相乗効果が見込めるのも共同経営のメリットです。
お互いのコネクションを生かすことで、信頼性の向上や地域との関係構築にもつながり、クリニック経営の安定化に寄与する可能性もあります。
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複数医師でクリニックを共同経営する3つのデメリット
複数の医師による共同経営には、さまざまなメリットがある一方で、注意すべき課題も存在します。ここでは、特に留意すべき3つのデメリットを紹介します。
人件費が高額になる
医師が複数関与する共同経営では、人的リソースが充実する反面、人件費が高額になる傾向があると言えるでしょう。特に、共同経営者以外の医師やスタッフを雇用する場合には、毎月固定の人件費を支払う必要があります。
売上が想定より伸びなかった場合や閑散期には、高額な人件費が経営を圧迫するリスクがあるため、採用計画や報酬設定は慎重に検討しましょう。
経営方針の不一致が生じるリスクがある
複数の経営者が関わることで、クリニックの経営方針や運営方法に関して意見の相違が生じることがあります。診療方針、投資判断、スタッフマネジメントなど、重要な意思決定で意見が分かれると、議論が長期化し意思決定が遅れる可能性があるでしょう。
それだけでなく、経営の停滞や混乱を招く可能性も考えられます。このようなリスクを避けるためには、事前に意思決定のルールや役割分担を明確に定めておくことが重要です。
報酬の分配を巡りトラブルになる可能性がある
共同経営では、各医師の貢献度に応じて収益や報酬をどのように分配するかが、しばしば課題となります。診療時間や患者数、専門性など、評価基準があいまいであると不公平感が生じやすく、経営者間の関係に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
報酬の分配方法については、あらかじめ透明性の高いルールを設定するべきだと言えます。必要に応じて第三者の助言を受けながら合意形成を図ることが望ましいでしょう。
複数医師で共同経営する際に決めておくべきこと
複数医師で共同経営を行う際には、将来的なトラブルを避けるために事前に定めておくべき事項がいくつかあります。特に3人以上の医師で経営に関わる場合や、医療法人を設立する場合には、利益配分や責任の所在などを明確にしておくことが大切です。
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収益の分配ルール
収益の分配方法は、共同経営でトラブルの原因になりやすい要因です。単純な均等配分ではなく、勤務時間、患者数、専門性への貢献度などを基準にした公平な基準を設ける必要があります。
また、評価基準や分配割合、計算方法についても事前に明確化し、全員が納得できる形で取り決めておくことが、各医師のモチベーションや信頼関係の維持にもつながります。
経費の負担・清算方法
クリニックの運営には、家賃、人件費、医療機器のリース代、消耗品費など、様々な経費が発生します。これらをどのように清算するかも、明確な基準を設けておきましょう。
特に重要なのは、個人的な経費(学会参加費、資格更新費など)とクリニックの経費の区別を明確にすることです。経費精算のルールを設けておけば、不明瞭な支出や不公平感によるトラブルを回避できます。
融資と出資金の取り扱い
クリニック開業には多額の初期費用がかかるため、金融機関からの融資を受けるケースがほとんどです。共同経営の場合では、誰がいくら出資するか、またその比率が意思決定や収益配分にどう影響するかも事前に話し合っておきましょう。
あわせて、開業資金の一部を融資に頼る場合は、借入先・借入額・連帯保証の有無・返済責任の分担などについても、明確に取り決めておく必要があります。これらは経営の根幹に関わるため、税理士や弁護士などの専門家の助言を得ながら、慎重に進めることが望まれます。
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まとめ
複数医師によるクリニックの共同経営には、人材確保や資金面の負担軽減、人脈の活用といったメリットがあります。一方で、人件費の増加や経営方針の違い、報酬分配に関するトラブルが生じるリスクが伴う点も把握しておかなければなりません。
こうした課題を回避し共同経営を成功させるには、収益の分配方法、経費の内訳、融資と出資金などに関するルールを事前に取り決めておくことが重要です。合意形成を図ることが重要です。お互いの立場や考えを尊重し、丁寧な準備を重ねられれば、安定した経営を実現できるでしょう。