親子の共同経営には、お互いを理解しているという強みがある一方で、感情的な対立や金銭面が曖昧になりやすいなど事業運営への難しさも伴います。本記事では、親子で事業を共同運営する際の具体的な形態、メリット・デメリット、円滑に経営を進めるための実践的な対策までをわかりやすく解説します。親子での共同経営を考えている方は必見の内容です。
目次
個人事業主が共同経営を行う形態
複数人で共同経営を行う場合、いくつかの形態が考えられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、目的や関係性に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
共同経営者がそれぞれ個人事業主となる方法
各共同経営者がそれぞれ個人事業主として、1つの事業を共同で運営する方法です。親子であれば、親も子も個人事業主となり共同で事業運営をします。この形態のメリットは、全員が対等な立場で事業を進められる点にあります。
ただし、売上や経費の分配方法、成果の差や経費の使い方に偏り生じた場合の調整が難しく、トラブルの原因になることもあるでしょう。こうしたリスクを避けるためには、あらかじめ売上や経費の取り扱いに関する明確なルールを取り決めておくことが重要です。
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1人が代表者、他が下請けとなる方法
1人の個人事業主が代表となり、他の共同経営者が業務を下請けとして受ける形態もあります。親が代表者、子が下請けといった形、またはその反対も考えられます。
この形態は業務の内容や責任範囲が明確で、管理もしやすいと言えるでしょう。代表者と下請けという立場になり、立場は対等ではありませんが、報酬や経費の管理がしやすく、経理面の負担も軽減しやすい方法です。
ただし、下請け側の発言力や裁量は制限されやすいため、関係性や役割分担のバランスには注意が必要です。
1人が代表者、他が従業員となる方法
1人が個人事業主として代表を務め、他の共同経営者が従業員として勤務する方法も考えられます。親が代表になり、子が従業員として雇われるイメージです。この形態も、上下関係が生じるため対等な経営とは言えませんが、スキルに差がある場合などには良い方法です。
従業員となる側は、安定した給与を得ながら実務経験を積むことができるため、将来的な独立を見据えた働き方にも適しています。雇用関係を結べば、従業員は安定した給与を受け取れるのもメリットの1つです。
法人を設立して経営する方法
個人事業ではなく、会社を設立して共同経営を行う方法です。株式会社や合同会社などの法人形態を選択できます。法人化することで、外部からの信用を得やすくなり、融資や取引の面でも有利になるのが特徴です。
ただし、法人設立には登記や設立費用がかかるほか、会計や税務の対応も必要となるため、運営コストは個人事業より高くなる点に留意が必要です。
関連記事:法人が銀行融資を受けるには?手続きの流れ必要書類・その他の資金調達方法を解説
有限責任事業組合(LLP)を設立する方法
有限責任事業組合(LLP)は、2005年に日本で導入された比較的新しい事業形態です。個人事業主や専門家同士が共同でビジネスを行うために設けられました。
メンバーそれぞれが「出資額の範囲内で責任を負う(=有限責任)」という点が大きな特徴で、個人の財産が原則として事業の損失リスクにさらされない仕組みになっています。出資者は出資額の範囲内で責任を負い、損益や役割分担を柔軟に決められます。
LLPは法人格を持たないパートナーシップ形態ですが、契約を柔軟に設計できる点がとくちゅです。
しかし、契約内容を柔軟に設計できるため、フラットな関係性で事業を進めたい場合に向いています。一方で、株式会社ほどの信用力は得にくい傾向があり、設立には組合契約書の作成など一定の手続きが必要です。
参考:有限責任事業組合(LLP)制度について (METI/経済産業省)
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親子で共同経営を行う5つのメリット
親子での共同経営には、家族ならではの信頼関係を土台とした、他のパートナーシップにはない強みがあります。ここでは、親子経営における代表的な5つのメリットを紹介します。
資金を集めやすい
複数人で出資できる共同経営は、1人で事業を始めるケースに比べて資金を準備しやすいメリットがあります。特に親子の場合、お互いの資産状況を把握しやすく、事業計画に沿った出資がしやすい点も特徴です。
親子で資金を出し合うことで、開業時の運転資金や設備投資に余裕を持てる点は大きなメリットと言えるでしょう。
しかし、現在の会社法上、資本金1円から会社設立は可能ですが、取引先や金融機関からの信用を得るためには、ある程度まとまった資金が求められるのが実情です。
得意分野を活かし合える
親子といっても、それぞれの経歴やスキルは異なるものです。共同経営では、お互いの得意分野を活かしつつ苦手な部分を補い合えば、効率的に業務を進められるのも魅力です。
例えば、親が業界のノウハウと経験を持ち、子がITやSNSマーケティングに詳しければ、分担しながらスムーズに経営を進められるでしょう。
意思決定を迅速に行える
親子間には、お互いの価値観や考え方をある程度理解している場合が多いため、意思疎通を図りやすく、意思決定をスピーディーに行える可能性も高いと言えます。
重要な局面においても、根回しや形式的な会議を省略できるのは、変化の速いビジネス環境において大きな武器です。
腹を割って話せるという利点もある一方、意見の対立が感情的な衝突に発展する可能性も。あくまでビジネスとして、立場をわきまえた冷静な話し合いを心がける必要があります。
後継者を育成しやすい
計画的な事業承継は、経営の安定と世代交代の円滑化に大きく寄与する大切な要素です。親子での共同経営は、自然な形での後継者育成につながるのもメリットです。
親は自身の経営哲学や事業ノウハウを伝えながら、子に徐々に権限を委ねていくことで、無理のない事業承継を実現が可能です。それと同時に、子は実践を通じて経営感覚を養い、将来的な経営者としての自覚を育てていけるでしょう。
経営理念を共有しやすい
特に親子という関係性においては、創業時の想いや事業に対する価値観を共有しやすいのも特徴です。ビジョンに共感し合うことで、経営方針や事業戦略に一貫性が生まれるでしょう。
親子で共通の理念を掲げられるのは、経営の軸がぶれにくくなるという点でも大きなメリットです。さらに、経営理念が共有されている組織は、判断や行動にぶれがないため、従業員や取引先との信頼関係の構築もしやすいと言えるでしょう。
親子で共同経営を行うデメリット
親子という近い関係性では、信頼関係や安心感があるからこそ生じやすい課題も存在します。ここでは、親子による共同経営において注意すべき代表的なデメリットを6つ挙げて解説します。
人間関係やお金に関する問題が生じやすい
親子という関係性では、ビジネスとしての線引きが曖昧になりがちで、経営判断が感情に左右されやすくなることが多くなってしまいます。これが原因で、人間関係の悪化やお金に関するトラブル発生につながりやすいと言えるでしょう。
関連記事:個人事業主に適用される所得控除はいくつある?控除の種類や注意点を解説
業務分担に不公平が生じる
共同経営では役割や業務範囲を明確にするのが基本ですが、親子の場合「言わなくても伝わるだろう」といった思い込みから、業務分担が曖昧になりがちです。
結果として、一方に業務が偏ったり、特定の業務の負担が大きくなったりなどで、不公平感が生まれる可能性があります。こうした状況が続くと不満が溜まり、関係性の悪化や業務効率の低下を招きかねません。
人事評価が主観的になりやすい
親が経営に関与している場合、身内である子に対して、客観的な人事評価を行うことが難しいケースも多く見られます。子に対する評価が甘くなったり、逆に期待が大きすぎて不当に厳しく評価してしまったりすることも考えられるでしょう。
その結果、子のモチベーション低下を招いたり、あるいは他の従業員から「家族びいき」と受け取られることで、社内の士気が低下する恐れもあります。このような事態を防ぐには、評価基準の明確化や、第三者の視点を取り入れた制度設計が求められます。
意見の衝突が感情的になりやすい
親子間では、遠慮なく意見を述べられる反面、衝突が感情的になりやすい傾向があるでしょう。親は自身の経験や成功体験に基づいた経営を重視し、子は新しいアイデアや価値観を重視するなど、世代間のギャップが生じやすいのもその一因です。
意見の対立が続けば、意思決定が遅れたり、事業の停滞を招いたりする恐れもあるため、冷静に対話できる関係性を築くことが重要です。
優秀な人材を確保しづらくなる
家族中心の経営体制は、外部から見て閉鎖的に映りやすい点にも注意が必要です。家族以外の社員からは、昇進やキャリアアップの機会が限られているように感じられたり、家族内の人間関係に馴染めるか不安を持たれたりすることもあります。
それが原因で、優秀な人材の採用・定着に悪影響を及ぼす場合もあるでしょう。透明性のある人事制度と、開かれた組織風土を意識的に築いていくことが、優秀な人材を獲得し、組織を活性化させるためには必要です。
ガバナンス体制が弱くなりやすい
家族間の暗黙の了解や慣習が優先されることで、経営のルールや監督体制が整わないまま事業が進んでしまうことがあります。意思決定のプロセスが不透明になったり、不正やリスク管理がおろそかになったりするリスクがあるのです。
特に、親子間で経営権を巡る対立が生じた場合、組織としての統制が効かなくなる可能性もあるため、明確なガバナンス体制の構築はマストであると言えるでしょう。
親子での共同経営を円滑に進めるための注意点
親子での共同経営を行うには、家族ならではの強みを活かしつつも、感情や曖昧な関係性が経営の妨げにならないよう配慮が必要です。共同経営をビジネスとして客観的に捉え、あらかじめルールを定めておくことで、トラブルを未然に防げるでしょう。
事業の責任範囲を明確にする
親子という関係性であっても、共同経営における業務内容や責任範囲は明確に定める必要があります。業務の偏りや認識のズレを防ぎ、それぞれが自身の役割に責任を持って取りみやすくするためです。
責任の所在が明確であれば、問題が発生した場合にも責任の押し付け合いを防げるだけでなく、スムーズに対応できます。業務分担や責任範囲は口頭のやり取りで済ませず、必ず書面で取り決めるようにしましょう。
共同経営の契約書を作成しておく
親子間の信頼関係があっても、事業運営においては正式な契約書を必ず作成しましょう。
共同経営契約書には、事業の目的、出資比率、利益や経費の配分、報酬額、業務の範囲と責任・権限、共同経営を解消する際の取り決めなど、重要事項を詳細に記載する必要があります。
契約書は法律で作成が義務付けられているわけではありませんが、万が一、意見の対立や金銭トラブルが発生した際には、契約書の内容が事実確認の根拠となり、冷静な判断と解決に役立ちます。家族だからこそ、曖昧にせず書面で明確にルールを残すことが大切です。
公私の区別を徹底する
親子で共同経営を行う上で難しい傾向にあるのが、公私の区別を徹底することだと言われています。ビジネスとプライベートの境界が曖昧になることは避けなければなりません。
業務上の話し合いは、経営者同士として冷静に行い、家庭では親子としての関係に戻るなど、場面に応じた意識的な切り替えが重要です。仕事の話を私生活に持ち込まない、業務判断を感情的に行わないなど、公私の区別を徹底しましょう。信頼関係を築く上でも、公私の区別は大切なことです。
経営に関する専門家のサポートを活用する
経営判断に迷った際や専門的な知識が求められる場面では、税理士や弁護士といった外部の専門家の力を借りることも選択肢の1つです。特に、金銭トラブルや事業承継といった感情が絡みやすいテーマでは、第三者の冷静な視点がトラブル回避に役立ちます。
専門家は、客観的な視点から的確なアドバイスを提供し、法的な手続きや税務処理をサポートします。契約書の作成や税務処理なども、専門家に相談することで法的リスクや将来的な問題を未然に防ぐことができるでしょう。
まとめ
親子での共同経営には、資金を集めやすい、スキルを補い合える、意思決定が速い、後継者育成がしやすい、経営理念を共有しやすいなどのメリットがあります。
一方で、家族ゆえの感情的な対立や業務の偏り、人事評価の不公平さ、有能な人材確保の困難さ、ガバナンス体制の脆弱さといったデメリットも存在します。
デメリットを避けながらメリットを最大限に活かすには、業務や責任範囲の明確化、共同経営契約書の作成、公私の区別の徹底、そして外部の専門家へサポート依頼するのがおすすめです。
親子という信頼関係を基盤にしつつも、ビジネスとしてのルールと距離感を保つことで、安定した経営と事業の成功へつなげられるはずです。