共同経営をしている方、これから始めようと考えている方にとって、将来経営を解消する場面は避けられないリスクの1つです。中でも、事業に関連する借入金の返済義務や資産の分配といった金銭的・法的な問題は、感情的な対立や予期せぬトラブルに繋がる可能性があります。本記事では、共同経営を解消する際に生じやすい借金の返済義務や資産の取り分、トラブルを未然に防ぐためのポイントなどをわかりやすく解説します。
目次
共同経営の形態
共同経営は複数の経営者が協力して事業を運営し、それぞれが資金やスキル・知識を持ち寄り、互いの強みを活かして経営を進められる点が特徴です。
個人で起業する場合に比べ、事業の立ち上げが円滑になることが多く、既存事業の発展も期待できます。
ただし、共同経営の形態はさまざまで、経営者同士の関係性や責任の在り方によって、運営方法やリスクの範囲は異なります。
共同経営の形態の例は、複数の経営者が出資して法人を設立するケース、有限責任事業組合(LLP)、NPO法人を共同で立ち上げるケースです。
また、共同経営者がそれぞれ個人事業主として、1つの事業を協力しながら運営するスタイルもあります。
共同経営の形態によって、出資比率に応じた意思決定権の有無や、損益の分配方法、法的責任の範囲などが異なります。
そのため、どの形態を選ぶかは、共同経営者同士の合意内容や事業の特性に応じて検討することが重要です。
関連記事:個人事業主の共同経営は可能?主な形態や親子・友人・夫婦との経営について
共同経営を辞める際の金銭問題・借金問題
共同経営を解消する際に避けて通れないのが、金銭や借金に関する問題です。特に、共同経営者の一方が事業から離れる場合は、もう一方の経営者とさまざまな調整が必要となります。
ここでは共同経営を辞める際の金銭問題をケース別で見ていきましょう。
共同経営解消時に借金はどうなる?
共同経営を解消する際に注意が必要なのは、事業に関わる借金の取り扱いです。誰がどのような割合で返済義務を負うかは、共同経営の形態や事前に取り交わした契約内容によって異なります。
例えば、法人を設立して共同経営を行っている場合、借金の返済義務は基本的に法人が負います。
ただし、共同経営者が借入に対して連帯保証人になっている場合は、退任後であっても個人として返済義務を負う可能性が高いでしょう。
一方、個人事業主として共同経営を行っている場合は、契約内容や実際の運営に応じて、借金の責任範囲が変わります。
このようなケースでは、共同経営を始める際の契約書や事前の取り決めの有無が、借金の扱い方に影響します。
もし、契約書などで明確な取り決めがない場合は、共同経営者同士で話し合いを行うか、必要に応じて法的な手続きを通じて解決を図らなければなりません。
金銭に関する問題は感情的になりやすいため、冷静な対応を心がけ、法律の視点からも適切に対応することが大切です。
共同経営解消時の資産・持ち分はどうなる?
共同経営を解消する際は、これまで築いてきた事業資産や各自の持ち分をどう分配するかも論点です。
例えば、株式会社として共同で経営している場合、各経営者は出資比率に応じた株式を保有しています。
そのため、解消時には辞める側の株式をどう扱うかが重要で、残る経営者や法人が買い取るのか、第三者に譲渡するのかといった選択肢が検討されます。また、その際には株式の評価額や買取条件について明確な合意が必要です。
一方、個人事業主として共同経営している場合は、保有している事業用資産や利益は、法律や契約に基づいて分配します。
資産についてあらかじめ契約書で定めておけば、トラブルを未然に防げます。しかし、取り決めがない場合は、共同経営者間での協議が必要となり、場合によっては弁護士など第三者を交えた法的手続きが必要になるかもしれません。
資産の評価方法や分配割合をめぐっては、感情的な対立が生じやすいため、金銭面・法務面の両面から冷静に判断することが重要です。
関連記事:【税理士監修】個人事業主の借入はいくらまで?借入先やタイミング等も解説
共同経営の解消方法
共同経営を解消する方法は、共同経営者間の関係性や事業の状況に応じて複数の選択肢があります。できる限り円満かつ法的に適切な手続きを踏むことが、解消後の無用なトラブルを防ぐためにも重要です。
まずは共同経営者同士がコミュニケーションを取り、互いの意思を確認しましょう。ここでは共同経営の解消方法を提案します。
話し合いによる解決
共同経営を解消する際に望ましいのは、当事者同士が冷静に話し合い、合意形成を図る方法です。感情的な衝突を避けながら、それぞれの意向や条件を伝え合うことで、建設的かつ円満な解消に繋がります。
話し合いの場では、現在の事業の状況や解消後の各自の方向性を共有しながら、資産や負債の分配方針について落としどころを模索するかもしれません。
あわせて、事業を今後も継続するのか清算するのか、あるいは第三者に引き継ぐのかといった選択肢についても検討しましょう。
すでに共同経営契約書を取り交わしている場合は、契約書に従って協議を進めます。なお、話し合いによって合意に至った事項は、後々の誤解やトラブルを防ぐためにも、合意書などの文書として残しておきましょう。
法律専門家への相談
話し合いだけでは解決が難しい場合や、法的に複雑な問題が絡む場合には、弁護士などの法律専門家に相談することをおすすめします。
弁護士は、共同経営契約書の解釈や、借金・資産の分配に関する権利義務の確認、解消に必要な手続きや書類の案内など、幅広くサポートしてくれるでしょう。
また、当事者同士の直接交渉が困難な場合には、交渉の代理人として間に入って調整を図ることも可能です。
借入金の額が大きい場合や、資産の評価や分配方法について意見が対立しているケースでは、法律的な問題解決と第三者による中立的な介入が不可欠です。
弁護士が関与することで、感情的な衝突を避けつつ、法的根拠に基づいた合理的な解決を目指すことができます。
また、解消後も良好な関係を保ちたい場合や、今後も取引を継続する可能性がある場合には、冷静に手続きを進めるためにも専門家の力を借りましょう。
関連記事:事業継承と事業譲渡の違いとは?それぞれのメリットや注意点も解説
共同経営のメリットとデメリット
共同経営には、複数の経営者が協力することで得られるメリットがある一方で、一定のリスクや注意点があります。ここでは、代表的なメリットとデメリットを説明します。
共同経営のメリット
共同経営の最大のメリットは、複数の経営者がそれぞれの資金・スキル・経験を持ち寄ることで、多角的な視点と豊富なリソースを活かして事業を展開できる点です。
特に、起業資金に限りがある場合や、自分にはない専門知識や技術を持つパートナーがいる場合には、共同経営は有効です。お互いの強みを活かした役割分担が可能になり、業務の効率化や事業成長のスピードアップも期待できるでしょう。
また、経営に関する重要な意思決定を1人で抱えず、パートナーと相談しながら進められるため、精神的な負担を軽減できます。
さらに、出資や経費の負担を複数人で分担できることで、金銭面でのリスクを抑えられるメリットもあります。
共同経営のデメリット
共同経営には多くのメリットがありますが、一方でリスクも伴います。最も起こりやすいのが、経営方針や事業戦略、資金の使い道などをめぐる意見の対立です。
意思決定に時間がかかり、対立が解消されないまま経営が停滞してしまうケースも少なくありません。
また、役割分担や貢献度に対する認識のズレから、報酬や利益配分について不満が生じやすい点にも注意が必要です。そうした不満が積み重なると、関係がぎくしゃくし、最終的には共同経営の継続が難しくなるかもしれません。
さらに、共同経営を解消する際には、資産や借金の清算、業務の引き継ぎなど、煩雑な手続きや話し合いが避けられません。
関係が悪化した状態での解消は、事業に影響を及ぼすリスクもあるため、慎重な対応が求められます。
関連記事:【税理士監修】会社設立する売上目安とは?個人事業主の所得・年商ならいくらから?法人成りのメリット・デメリットも紹介
共同経営を始める前に準備すべきこと
共同経営を成功させ、トラブルを回避するためには、事業開始前の準備が不可欠です。また、契約の締結とリスクへの備えは、後々の大きな問題を未然に防ぐためのポイントと言えます。
ここでは共同経営を始める前に準備すべきことを説明します。
契約を締結する
共同経営を開始する際は、事前に契約を締結することが重要です。口約束のまま事業を始めてしまうと、「言った・言わない」のトラブルに発展しかねません。
共同経営契約書に必要な内容は主に以下の通りです。
- 事業の目的
- 出資額と役割分担(労務・資金・知的財産など)
- 利益・損失の分配方法
- 意思決定の手続き
- 経営解消時の条件、手続き、資産・負債の取り扱い
- 共同経営者が脱退する際の株式や持ち分の処理方法
これらの内容を弁護士などの専門家と相談しながら文書化しておくことで、法的にも有効かつ公平な取り決めとなります。
問題発生時の対応策を決める
共同経営では、入念に準備をしていてもトラブルが起こる可能性があります。例えば、経営方針をめぐる意見の対立、業績悪化による資金難、共同経営者の離脱などです。
こうした事態に備えるためには、想定される問題への対応フローを検討し、契約書に盛り込んでおきましょう。
例えば、意見が食い違った際にどうやって調整・解決を図るのか、第三者の調停を含めるかどうか、赤字が出た場合の資金調達の負担や損失の分担をどうするのか、といった取り決めが効果的です。
また、経営者が脱退する場合には持ち分をどのように精算するか、事業をどう継続するかといった対応方法もあらかじめ決めておく必要があります。
さらに、弁護士や税理士など専門家に相談する際の判断基準や手順についても話し合っておくと安心でしょう。
こうした取り決めを決めておけば、実際に問題が起きたときも、冷静かつ迅速に対応できるでしょう。
関連記事:開業費とは?個人事業主の開業前に発生した費用を経費にするためのポイントを解説!
まとめ
共同経営は、複数の経営者が互いの強みを活かしながら事業を推進できる有効な手法です。
一方で、解消時には借金や資産の分配、責任の所在など複雑な問題に直面するリスクも伴います。
こうしたリスクを最小限に抑えるためには、以下の2点が重要です。
- 事前の明確な合意と契約書の作成
- 問題発生時の対応策の検討と明文化
準備を怠らず、ルールを共有することで、安定したパートナーシップのもとで事業を発展させることができるでしょう。
共同経営に不安がある場合は、早い段階で法律専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。共同経営についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。