事業用資産の買換え特例とは、土地などの事業用資産を買換えるときに適用でき、所得税を将来に繰り延べられる制度です。資産の買換え時の納税額を抑えられるため、事業の発展で役立てられる可能性があります。今回は本特例の基本情報やメリットとデメリット、手続きの方法などをわかりやすく解説します。
目次
事業用資産の買換え特例とは
事業用資産の買換え特例とは、土地や建物など事業用の資産を売却・買換えるとき、売却資産にかかる所得を繰り延べられる制度です。例えば、土地を売却したあとで新たに土地を購入し、アパート経営を始めるときなどに適用できます。
繰り延べた税額は、将来その買換資産を売却する際に課税される点に注意が必要です。あくまでも課税の「免除」ではなく「繰延べ」の仕組みであることを理解しておきましょう。
特例を適用するには、確定申告書などで必要書類を提出する必要があります。
資産を買換えるときに多額の税金を避けることで、事業者は投資や万が一の備えとして資金を使えるのがメリットです。結果として、事業をより発展させたり資産を有効活用したりする効果が期待できるため、本特例が設けられています。
繰り延べた譲渡税は将来的に納税する必要があるため、注意が必要です。
関連記事:補助金を活用した先行取得における圧縮記帳の正しい手順
事業用資産の買換え特例の基本事項
本特例を適用すべきか判断する前に、まずは基本事項について把握しておくのがポイントです。対象や要件などを満たすのか、しっかりとチェックしておくのが基本です。ここから具体的に解説します。
要件
本特例を適用するための要件は複数あり、具体的には以下の表にまとめました。
要件 | 具体的な内容 |
買換え目的で売却する資産と購入する資産は、いずれも事業用である |
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売却する資産と購入する資産が一定の組合せに該当する | 一例は以下の通り
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購入する資産が土地の場合、売却する土地面積の5倍以内である | 5倍を超える部分は対象外として扱われる |
資産を売却するタイミングの前年から翌年中に、資産を購入する | 購入するタイミングが前後する場合、書類提出が必要である |
資産を取得したあと、1年以内に事業で使う | 期限内に使わなくなったり、使わなかったりする場合、対象外として扱われる |
他の特例の適用がない | 一例は以下の通り
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資産の売却や購入などが、一定の取引に該当しない |
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期間内に資産を取得できない場合、原則として対象外です。
一方で、以下の通りやむを得ない事情であると認められた場合に限り、特例の適用が認められています。
- 造成や移転にかかる期間が1年を超える
- 法令によって計画変更を余儀なくされた
- 売主などとの交渉が長引いた
- 上記3つに準ずる事業がある
購入する資産の取得期間の延長を申請するには、理由を証明する書類添付のうえで、税務署へ申請するのがポイントです。
参考:No.3423 期限までに買換資産を買えなかったとき(事業用資産)
繰り延べ額の算出方法
事業用資産の買換え特例を適用する際、課税割合は原則20%が適用され、譲渡所得は以下のように計算されます。
売却資産の価額 ≦ 購入資産の価額の場合
- 売却資産の価額 × 課税割合(原則20%)
- (売却資産の取得費+譲渡費用)× 課税割合
上記を引いた金額が課税される譲渡所得の金額となります。
売却資産の価額 > 購入資産の価額の場合
- (売却資産の価額 − 購入資産の価額)×(1−課税割合)
- (譲渡資産の取得費+譲渡費用)×(売却資産との差益割合)
上記を引いた金額が課税される譲渡所得の金額となります。
譲渡所得を算出する際には、以下のような情報が必要です。
- 売却資産の取得費(購入時の価格)
- 売却価額(売却代金)
- 譲渡費用(仲介手数料など売却手続きに要した費用)
- 買換資産の取得価額
領収書や契約書などをきちんと保管しておきましょう。
金額の算出方法
本特例を適用する場合、以下の式で譲渡所得を求めます。
売却資産の価額≦購入資産の価額 (課税割合20%) |
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売却資産の価額>購入資産の価額 |
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譲渡所得を算出するうえで、以下の金額を把握しておくのがポイントです。
- 売却資産の購入価額・売却価額・手数料などの費用
- 購入資産の購入価額
手数料など売却手続きにかかった費用も含まれるため、あらかじめ領収書を用意しておくとスムーズです。以下で譲渡所得の計算例を紹介します。
【例1】売却資産より購入資産の方が高いケース
- 売却資産:土地・購入価額1,500万円、売却価額が1,800万円(手続きの費用はなしと仮定)
- 購入資産:土地・購入価額2,200万円
- 課税所得=(1,800万円✕0.2)−(1,500万円✕0.2)=60万円
- 本特例を適用しない場合、譲渡所得(1,800万円−1,500万円)=300万円
以上から(300万円−60万円=240万円)、本特例により240万円譲渡所得が圧縮されています。購入資産の取得費は(2,200万円−240万円=1,960万円)で、納税を将来に繰り延べられることが分かりました。
【例2】売却資産より購入資産の方が低いケース
- 売却資産:土地・購入価額2,200万円、売却価額3,000万円(手続きの費用はなしと仮定)
- 購入資産:土地・購入価額2,500万円
- 3,000万円−2,500万円✕80%−(2,200万円✕〈1,000万円÷3,000万円〉)=約266万円
特例を適用しない場合、譲渡所得は3,000万円−2,200万円=800万円です。以上より、(800万円−約266万円=約534万円)と求められるため、減額される額は約534万円と判明しました。
事業用資産の買換え特例の手続き方法
本特例を適用するには、住所を管轄する税務署にて譲渡所得の内訳書などの書類を添付し、確定申告する必要があります。資産を購入する予定である場合、資産の購入後4ヵ月以内に登記事項証明書などを提出する必要があります。
更正の請求や修正申告するときの方法は以下の表にまとめました。
税務署への手続き | 具体的な内容 |
更正の請求 | 購入資産の見積よりも実際の金額の方が多い場合、資産を購入した日から4ヵ月以内に「更正の請求書」を提出すると、所得税を返還してもらえる |
修正申告 | 以下に該当すると、修正申告したうえで所得税の納付が必要
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事業用資産の買換え特例のメリットとデメリット
本特例を適用する前に、メリットとデメリットを正確に把握しておくと、適切な判断を下しやすくなります。メリットとデメリットは以下の表にまとめました。
メリット |
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デメリット |
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個々の状況に応じて、メリットとデメリットのいずれが大きくなるのかが異なります。土地の買換の予定がない場合、減価償却が発生しないため節税できる可能性が高いです。
一方で、償却資産の場合、実際に計算することで、本特例を適用する方が節税につながるかどうかを判断できます。
所得の高い方などの場合、長期的に見ると、所得税などの納税額が増加するケースもあるため、注意が必要です。
税金の計算は複雑で、正確に算出するのが難しく感じられるかも知れません。自社の節税につなげられるのか迷う場合、税理士への相談が望ましいです。
よくある質問
本特例に関してよくある質問をまとめました。ここから詳しく見ていきましょう。
売却する資産の保有期間は10年超えが条件?
はい。
国内の事業用の資産で、売却する年の1月1日時点で、保有期間10年超えが条件です。執筆時点では、令和8年3月31日までの売却も条件となっているため、合わせて確認しておく必要があります。
譲渡所得の金額算出で使えるチェックシートはある?
あります。
国税庁の公式サイトでチェックできるため、参考にするとよいでしょう。誤りやすいポイントについてまとめられており、事前にチェックしておくと安心できます。
買換えのマンションの面積が300㎡未満だとどうなる?
本特例を適用できません。
購入する資産は、面積300㎡以上あることが条件として定められているためです。1㎡でも面積が小さい場合、対象外となる点に注意が必要です。
税制・節税に関する相談は税理士へ
事業用資産の買換え特例の基本事項や金額の算出方法、手続き方法などを解説しました。
本特例によって納税を繰り延べられると、事業主にとっては手元の資金を増やせるため、事業の継続においてプラスに働く可能性は高いでしょう。あくまでも納税を繰り延べるための制度で、長期的にみると納税額は同じであると知っておくのが重要です。
節税に関する相談は、税理士を頼りにするのが賢明です。