企業版ふるさと納税は、企業にとってメリットがあるのでしょうか?企業版ふるさと納税とは、社会貢献と節税を両立できる制度で、企業と寄付先の自治体の双方にメリットをもたらします。この記事では、企業版ふるさと納税の制度の活用で得られるメリットやデメリット、注意点まで詳しく解説します。企業版ふるさと納税の導入や、さらなる活用に役立ててみてください。
企業版ふるさと納税については、小谷野税理士法人でもサポートを行っています。
寄付や節税などでお困りの方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
目次
企業版ふるさと納税とは?制度の基本を理解しよう
企業版ふるさと納税とは、「地方創生応援税制」のことです。国が指定した地方自治体が行っている地方創生プロジェクトを支援するために、寄付をした企業に対して税額控除が適用されます。
地方創生プロジェクトには、雇用の創出とまちづくり、働き方改革や人口流入などが含まれています。
2016年に創設された制度ですが、地方創生をさらに強化するために、2020年4月の税制改正にて、税額控除の特別措置を設け、企業がより取り組みやすい制度になりました。これまで、6割であった税額控除率を9割に増やしたことで、節税効果を高めたのです。この特別措置は、令和6年年度まで適用されます。
参考:内閣府 地方創生応援税制
企業版ふるさと納税の仕組みと利用実績
企業版ふるさと納税が節税対策に効果的と言われているのは、最大で利用できる税額控除額が多いからです。ここでは、企業版ふるさと納税の仕組みと利用実績について解説します。
企業版ふるさと納税制度の仕組み
企業が、国が指定した自治体に対して寄付をすると、寄付した額のうち3割を通常の寄付金扱いで損金に算入し、最大で6割が税額控除となります。
そのため、寄付した税額のうち最小で1割が企業負担の対象となり、大幅な節税効果が期待できるのです。ただし、企業版ふるさと納税を利用する企業の本社がある自治体に対する寄付は、制度の対象とはなりません。
また、控除される金額には上限が設けられています。
- 法人事業税:寄付金額の20%(法人事業税額の20%が上限)
- 法人住民税:寄付金額の40%(法人住民法人税割額の20%が上限)
- 法人税:寄付金額の10%、法人税額の5%、法人住民税で40%未満の場合はその残額の3つのうちいずれか少額
寄付金額によってどの程度の税額が控除されるのか知りたいときは、企業版ふるさと納税サイトで税額をシミュレーションしてみましょう。
企業版ふるさと納税の利用実績
利用実績の大幅な増加が見られることから、多くの企業が企業版ふるさと納税制度を利用していることが分かります。
2023年度については、寄付金額が約470億円(前年度比で約1.4倍)、件数14,022件(前年度比約1.7倍)と、大きく増加しています。
寄付先の自治体については、2024年度は能登半島地震の影響により、石川県への寄付件数が大幅に伸びています。
参考:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 内閣府地方創生推進事務
企業版ふるさと納税の5つのメリット
企業版ふるさと納税を活用することで、節税効果はもちろん、さまざまなメリットが期待できます。ここでは、企業版ふるさと納税によって期待できるメリットについて、詳しく紹介します。
最大9割の税額控除による節税効果が得られる
企業が納めるべき税金である法人税、法人事業税、法人住民税それぞれの負担軽減効果が期待できます。
一般的に、企業が寄付をしたとき、損金として算入できるのは、寄付の内容や所得などによって異なります。場合によっては、寄付金額の3割程度になることもあるでしょう。
企業版ふるさと納税では、損金の約3割に加えて、最大で約6割の税額控除が受けられます。控除を最大限活用できれば、寄付した額のうち、約1割が企業の負担となり、大幅な節税効果が期待できます。
また、地方創生プロジェクトに参加するために、専門知識やノウハウを持つ人材を地方公共団体に派遣した場合、その経費も税額控除の対象です。
ただし、控除が適用されるには、人材の派遣先が寄付をした事業に関与するものでなくてはいけません。
社会への貢献(CSR活動)をアピールできる
地方自治体への寄付を行うことで、社会貢献活動に参加できます。環境保全やまちづくり、SDGsなど、寄付先の自治体が抱えている課題の解決や、地域社会をより良くするための活動をサポートできるのです。
寄付を受けた自治体は、寄付をしてくれた企業を公表するため、地方創生や社会貢献に積極的に取り組んでいる企業として、世間にアピールできます。これにより、企業イメージの向上につながる可能性が高いです。
地方自治体とのパートナーシップを構築できる
寄付をするだけでなく、寄付先の地方自治体と連携し、地方創生プロジェクトをサポートすることで
自治体とのパートナーシップを構築できます。
プロジェクトの立案段階から企業が参加するケースもあり、企業の地方創生に対する関わり方が多様化しています。
自治体と関係を深めることによって、企業と地域社会の交流も活発となるでしょう。社員が、寄付先の自治体の地方創生プロジェクトに積極的に参加することで、企業の人材育成や社員のモチベーションアップにつながるかもしれません。
新市場の開拓と事業機会の創出
自治体との連携や地方創生プロジェクトへの関わりが深まることで、新たな市場の開拓と事業機会の創出に効果的です。
企業が展開している事業と関連性の高い地方創生プロジェクトに関わることで、地域特有のビジネスチャンスが見つかったり、技術開発が加速したりすることがあるからです。
大手企業が、地方で生活する女性の活躍促進や若年層の流出を防ぐために、貢献した事例があります。女性が活躍できる社会を実現するために、地域特有の課題を洗い出し、自ら解決することを目指す探求型プログラムを実施しました。
自社の持つ人材育成のノウハウを活用することで、地域で活躍できる女性リーダーを育成し、女性がやりがいを持って働ける状況づくりをサポートしたのです。
他にも、地方自治体が地方創生プロジェクトを立案し、中心となって推進するために、寄付を受け付ける自治体を公募するといった事例もあります。このように、企業側が積極的に地方創生に関与することは、ビジネスチャンスの拡大につながります。
人材派遣による節税と人材育成効果
寄付金と併せて人材を派遣することで、経費削減と節税、人材育成効果が期待できます。企業が寄付先の自治体に自社の社員を派遣する際は、寄付金に派遣料を含めるケースが一般的です。
また、地方創生プロジェクトに必要な知識やノウハウを有している人材を派遣することで、より効果的にプロジェクトの推進をサポートできます。
寄付先の自治体は、人件費を負担することなく有能な人材に地方創生のためのプロジェクトに従事してもらい、企業は人件費の削減と節税効果が期待できるのです。
さらに、プロジェクトの推進によって派遣した人材のスキルとモチベーションの向上にも貢献してくれます。
関連記事:法人も寄付金控除は適用される?法人税の損金算入についても解説
小谷野税理士法人では企業版ふるさと納税のサポート・支援を行っています。
申請や手続き、節税などでお困りの方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
企業版ふるさと納税の注意点
企業版ふるさと納税は、節税や人材育成など得られるメリットが多々ありますが、デメリットや注意点もあります。デメリットや注意点を把握し、企業版ふるさと納税を行うかを検討しましょう。
資金や予算に影響がある
寄付金を前払いするため、一時的に資金が減ることで、資金繰りや予算管理に影響が出る恐れがあります。
寄付金による資金や予算への悪影響を防ぐため、事前に寄付金の額が適正であるかどうかを検討し、無理のない範囲で金額を設定しましょう。
企業版ふるさと納税における寄付金は最低10万円からです。最低金額以上の寄付を検討しており、寄付金額設定の判断が難しいときは、顧問税理士からのアドバイスを仰ぎましょう。
返礼品や経済的利益がない
企業版ふるさと納税では、個人版のふるさと納税とは異なり返礼品がありません。個人で行うふるさと納税は、個人の納税に対する意識を高めること、自身の出身地やゆかりのある地域を納税でサポートするのが主な目的です。とはいえ、返礼品を目当てに寄付する自治体を選ぶケースが多く見られます。
一方で、企業版のふるさと納税は、地方創生を主な目的としています。そのため、返礼品の内容で寄付先を決めるのではなく、公平かつ透明性の高い判断が求められるのです。
寄付する自治体や金額の制限
企業版ふるさと納税の税額控除を適用したい場合は、寄付する自治体や寄付金の額に制限があります。
原則、企業版ふるさと納税の寄付先の自治体は、国が認定した事業を対象としています。そのため、対象外の事業に寄付をしても、一般的な寄付と同じ扱いとなり、高い節税効果が期待できません。
さらに、自社の本社の所在地である自治体への寄付も、企業版ふるさと納税制度の対象外です。
寄付金額についても、1件あたり10万円の下限が設けられています。資金繰りや予算管理への影響も考慮しながら、下限を下回らないように寄付額を決めることが大切です。
適切な資金管理が求められる
寄付金による資金流出の影響を考慮することや、税額控除の恩恵を活用するためには、寄付をするタイミングを見計らうなど、適切な予算管理が求められます。
寄付金の額にもよりますが、寄付をすることで一時的に資金が少なくなるため、他の支出も考慮して、資金不足が起こらないように対応しなくてはいけません。
また、税額控除を受けるためには、決算期の末日までに支払い(振込)が完了していることが、該当する期に税額控除を適用する条件です。
経費処理の証明書類として、寄付金の支払が完了した際に寄付先の自治体から「寄付受領証明書」が必要です。
税額控除を適用したい期に合わせて適切に予算を管理することで、資金繰りへの影響を抑え、効果的な節税対策を実現できるでしょう。
節税への効果や資金繰りへの影響を抑えるためにも、税理士のアドバイスが役立つ可能性が高いです。
関連記事:税理士の相談料について知っておくべきこととは?料金相場と選び方のポイント
赤字企業への適用の難しさ
赤字経営の企業にとって、税額控除のメリットが受けられず、逆に負担が増す可能性が高いです。そのため、企業版ふるさと納税を検討した際には、事前の検証が必要です。
法人税などの税金は、所得に対して課税されるため、赤字の場合は、そもそも税金が発生しないか少額で、税額控除による節税効果が期待できません。
税額控除以外のメリットを期待するなら、自社の経営状況や納税額などを事前に検証したうえで、資金繰りに影響を及ぼさない範囲で制度を活用しましょう。
企業版ふるさと納税の利用でメリットを受ける企業の特徴
企業版ふるさと納税を行うなら、できる限りそのメリットを受けたいと考えるでしょう。しかし、企業の状況によってメリットが多いかどうかが変わってきます。ここでは、企業版ふるさと納税の利用により、メリットが期待できる企業の特徴を紹介します。
事業拠点が地方にある
自社の支店や支社、工場などが所在する自治体に寄付をして、その地域の発展を活性化することで、自社事業の発展にも貢献できます。
企業版ふるさと納税を通じ、その地域のインフラ整備や経済の成長をサポートすることは、その地域で事業を行っている自社の経営にも好影響をもたらすからです。
さらに、企業イメージの向上により地域社会との結びつきが強まることから、地域に根差した経営を行いやすくなるはずです。
収益が多く出ている
多額の収益が出ている企業は、企業版ふるさと納税の利用によって、節税効果と企業イメージの向上が期待できます。
企業版ふるさと納税では、寄付金額のうち最大9割の税額控除が適用されるため、節税につながり、資金に余裕が生まれます。
また、寄付をした企業は広く世間に公表されるため、社会貢献活動に熱心な企業として好印象を与えられるでしょう。
関連記事:法人で利益が出過ぎた場合はどうする?知っておきたい節税対策を一挙にご紹介!
社会貢献に力を入れている
社会貢献活動に力を入れている企業は、社会的な責任を果たせるだけでなく、企業のブランディングにも効果的です。
また、積極的に社会貢献活動に参加することにより、社員のモチベーションと帰属意識の向上につながることがあります。
新たな市場開拓を検討している
地方で新規事業を展開したい、新たな市場を開拓したい企業は、企業版ふるさと納税を通じて、自治体との連携を強化できます。
新たに市場や事業を開拓するための準備として、地域のインフラ整備や経済の振興に関われるからです。
さらに、地域社会との結びつきが強めることは、その地域で新規事業を展開した際に、ビジネスチャンスを広げることに効果的です。
企業版ふるさと納税の恩恵を受けられそうな場合だけではなく、判断が難しい場合にも小谷野税理士相談がしっかりとサポートします。お気軽にご相談ください。
企業版ふるさと納税によるメリットを受けにくい企業
企業の状況によっては、企業版ふるさと納税のメリットをほとんど得られないことがあります。自社が企業版ふるさと納税によるメリットを得られるのかどうかを見極めるためにも、メリットを受けにくい企業の特徴について把握しておきましょう。
赤字経営や収益が少ない
赤字が続いている、そもそもの収益が少ない企業は、企業版ふるさと納税の税額控除による恩恵がほとんどありません。課税対象となる利益が出ていなければ、税額控除による節税効果が薄いからです。
資金繰りが苦しい
収益が出ていても、資金に余裕がない企業は、寄付金の支払いで資金が不足するリスクが懸念されます。
税額控除を期待しても、実際に資金として使えるまでに一定の時間を要するからです。資金繰りに余裕がないときは、下限額で寄付を行う、もしくは企業版ふるさと納税以外の方法で、節税対策や地域貢献を検討しましょう。
地方との関わりを必要としない
地方に支店や工場を持たず、今後も展開する予定がない企業にとって、地域社会との連携がビジネス面で有利になる可能性は低いでしょう。
地方創生や地域貢献の目的で寄付を行う制度のため、地域社会との結びつきを求める企業には、多くのメリットをもたらすからです。
地方との関係性の強化を重視しない場合、節税目的で企業版ふるさと納税を利用するよりも、他の節税対策を取り入れた方が賢明だと言えます。
短期的な利益を求める
企業版ふるさと納税は、長期間のサポートで利益に結び付く可能性が高いため、短期間の利益を求める企業には不向きです。短期的に利益を得られないと、寄付金の支払いによるコスト増加が負担となるかもしれません。
まとめ | 企業版ふるさと納税のメリット・デメリットを考慮し最適な選択を
企業版ふるさと納税は、企業にとって節税や地域社会への貢献といったさまざまなメリットをもたらします。しかし、企業の状況によっては期待するメリットを得られないこともあります。さらに、適切に対処しなければ、企業版ふるさと納税によるメリットを実感しにくくなるのです。自社の状況に応じて企業版ふるさと納税の利用を検討することで、節税対策などに有効活用しましょう。