仕事専用の服は基本的に経費にできます。例えば作業服や制服などです。一方で、私用でも使えそうな服は経費にしにくい傾向があります。例えばスーツやオシャレ着は難しいでしょう。ただし、工夫次第では全額ないしは一部を経費に計上できる場合があります。今回は、個人事業主が経費にしやすい服の特徴や、経費にしにくい服を経費として認められやすくするコツを解説します。また、仕訳や勘定科目についてもお伝えします。
目次
「仕事でしか使えない服」なら経費にできる可能性が高い
ここでは、経費にしやすい服・しにくい服の違いを解説します。
経費にできる可能性が高い服の例:私用で使えない作業服や制服など
作業着や制服など、仕事専用の服は経費にしやすい傾向があります。このような服は仕事でしか使えず、とてもじゃないが私生活では着用できないと想定されるからです。
具体例として以下の服が挙げられます。
- 会社名やロゴが入った制服やスタッフTシャツ
- 作業用の作業服・安全靴・ヘルメット
- スポーツインストラクターのユニフォームやレッスン着
- 舞台衣装や撮影専用の衣装
上記のような「明らかに業務用の服」であれば、経費として認められる可能性が高いです。
経費にしにくい服の例:私用でも使えそうなスーツや美容師の服など
スーツやおしゃれ着といった「私用でも使えそうな服」は、経費にしにくい傾向があります。たとえ仕事のために買っていても、私生活でも着用できる汎用性があるためです。
具体例として以下の服が挙げられます。
- スーツ、ジャケット、シャツなどビジネス寄りの服
- 美容師や講師が着るスタイリッシュな服
- カジュアルなパンツや革靴
特にスーツは一見「仕事でしか着られないのでは?」と思われがちです。しかし、冠婚葬祭や子供の入学式など、プライベートでも着用できる場面があります。よって、スーツ代全額を経費にすることは現実的ではありません。
美容師が接客中に着る服や、講師がセミナーで着るジャケットやワンピースなども同様です。その気になればプライベートでも着られる服は、経費として認められづらい傾向があります。
判断が難しい服は、家事按分する方法も検討しましょう。家事按分については次の章で詳しく解説します。
参考:必要経費の知識|国税庁
個人事業主が服を経費にするコツ3つ
前の章では、スーツや私服に近い服などは経費として認められにくいと解説しました。ここでは、私用でも使えそうな服を経費に計上するための3つのポイントを解説します。
「仕事に必要だった」と説明できるよう準備しておく
私服風の服を経費に計上したい場合、その服が仕事に必要だったと説明できる証拠を準備しておきましょう。
税務署が重視するのは業務上の必要性と、必要性を裏付ける証拠です。たとえ仕事に使っていたとしても、私用との区別がつかない場合は、経費として認められない可能性があります。
例えば以下のような証拠を準備しておくと、税務調査の際に有利に働くでしょう。
- 業務内容と、業務の際に着用していた服を記録した日誌
- 仕事中に着ていたと分かる写真や動画(ファイル名に業務内容や日付あり)
逆に、以下のような曖昧な記録しかない場合、証拠として弱くなってしまいます。
- 帳簿への摘要欄に「仕事用に買った服」と書くだけ
- 仕事で使ったか確認できない写真や投稿(服が写っていない・日付不明など)
私用でも使えそうな服を買った場合は、仕事で使った証拠を意識して残しましょう。
プライベートで使っていないと証明できるよう準備しておく
私用でも使えそうな服は「仕事専用である」と証明できると、経費として認められる可能性が高くなります。
例えば士業や講師など仕事でスーツを着る場合、スーツを持ち帰らずに事業所のロッカーに保管するのも一つの方法です。自宅には冠婚葬祭用の別のスーツを置いておくと、私用との区別がより明確になります。
ただし、スーツ代などは基本的に経費にするのが難しい出費です。不安な方は、税理士など専門家と相談して自分の状況に合った対策を考えておくのが確実でしょう。
私用でも使えそうな仕事用の服は「家事按分」で全否認を避ける
スーツなど私用でも使える服は、「家事按分」で一部だけ経費にする手もあります。家事按分とは、仕事と私用が混在する支出を、使用割合に応じて分けて経費として計上する方法です。
全額を経費計上した場合、仮に税務署に否認されると追徴課税などで高額な負担が発生するリスクがあります。予め業務使用分だけを按分しておけば、最悪の事態は回避できます。
例えば月30日のうち20日間業務をしている場合、20/30=約67%を経費に、残り33%を「事業主貸」として処理します。使用日数や割合は、メモなどに残しておくと証拠になるでしょう。
全額経費にできるか微妙な服は、すべて経費にしようと強引に処理するより、家事按分で控えめに処理する方が無難です。
家事按分の運用については下記の記事も併せてご確認ください。
関連記事:家事按分を正しく適用!個人事業主が知っておきたい経費計上の方法と注意点
なお、追徴課税について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
服の購入費用を計上する際の仕訳は?勘定科目を解説
服を経費にする場合、使途や金額によって勘定科目が変わる場合があります。具体的には下記の通りです。
- 服の勘定科目は「消耗品費」が一般的
- 家事按分する場合は「消耗品費」と「事業主貸」に分ける
- 販促目的の衣装なら「広告宣伝費」にもなり得る
- 10万円以上なら「固定資産」として減価償却する
ここでは、仕訳例をパターン別に解説します。
服の勘定科目は「消耗品費」が一般的
作業着やユニフォームなど、明らかに業務で必要な服は「消耗品費」で処理するのが一般的です。1着あたり10万円未満であれば、資産にせずそのまま経費にできます。
【8,000円の作業用エプロンを現金で購入した場合の例】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
消耗品費 | 8,000円 | 現金 | 8,000円 | 作業用エプロン |
服の購入が頻繁な場合、「被服費」など自作科目で管理しても構いません。
家事按分する場合は「消耗品費」と「事業主貸」に分ける
私用と兼ねる服は、家事按分して事業分だけを経費に計上しましょう。全額を経費にすると、税務調査で否認されるリスクがあります。
家事按分する際は、業務に使った割合を「消耗品費」、私用分を「事業主貸」として分けて記帳します。「事業主貸」は、事業主が個人的に使った費用を帳簿から抜く処理です。
【美容師が流行の服を50,000円で購入した場合の例(事業用50%:私用50%と判断)】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
消耗品費 | 25,000円 | 現金 | 50,000円 | ジャケット |
事業主貸 | 25,000円 |
按分割合の根拠は、使用日数や時間など、合理的に説明できるよう準備しておきましょう。また、仕事で着用している様子を写真に撮るなど、証拠の確保も大切です。
販促目的の衣装なら「広告宣伝費」にもなり得る
撮影や登壇など販促目的で使う衣装は、「広告宣伝費」や「販売促進費」などで処理できる場合があります。
特に、融資や補助金を受けたい場合は積極的に広告宣伝費での処理を検討しましょう。広告宣伝費は、消耗品費と比べて「売上拡大のための積極投資」と見なされやすいためです。「事業を伸ばそうとしている」「事業が拡大傾向」という印象を与えやすくなります。
また、消耗品費よりも仕事としての用途がより明確で、経費計上が否認されにくくなります。スーツなど経費になりにくい服でも「X月X日のセミナー出演用」といった具体的な業務目的があれば、広告宣伝費として認められる可能性があります。
【PRイベント用のコスプレ衣装を12,000円で購入した場合の例】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
広告宣伝費 | 12,000円 | 現金 | 12,000円 | コスプレ衣装 |
仕事服について、ブランディングや「見せる・魅せる」目的がある場合は、広告宣伝費での計上を検討しましょう。
広告宣伝費に該当する費用について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:広告宣伝費はいくらまで?相場や経費計上のポイント、注意点などを解説
10万円以上なら「固定資産」として減価償却する
購入額が1点あたり10万円以上の衣装は原則「工具器具備品」として資産計上し、減価償却によって数年に分けて経費化します。一般的に衣装の減価償却期間は2年で、個人事業主の減価償却方法は「定額法」が原則です。
【12万円の舞台用衣装を購入した場合の例:購入時】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
工具器具備品 | 12万円 | 現金 | 12万円 | 舞台衣装 |
【12万円の舞台衣装を購入した場合の例:購入した年の年度末(定額法・2年)】
2年で毎年60,000円ずつ減価償却します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
減価償却費 | 60,000円 | 減価償却累計額 | 60,000円 | 舞台衣装 |
参考:別表第1 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表|東京都主税局
ただし、高価かつ長く使える衣装は、2年よりも長い耐用年数と判断される可能性もあります。不安な場合は、耐用年数を税務署に確認しましょう。用途や使用頻度によっては別の年数が妥当とされるケースもあります。
なお、10万円以上20万円未満なら、3年間で3分の1ずつ均等に経費にできる「一括償却資産」も選択できます。さらに青色申告者なら、10万円以上30万円未満の資産を買った年に全額経費にできる特例も使えます。
管理の手間や他の資産との兼ね合いを考慮しつつ、自分に合った償却方法を選びましょう。
参考:一括償却資産とは|国税庁
参考:少額減価償却資産の特例|中小企業庁
減価償却については下記の記事も併せてご確認ください。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
関連記事:少額減価償却資産とは?一括償却資産との違いやメリット、注意点も解説
関連記事:個人事業主が税金対策で買うものをご紹介!経費計上の注意点も
服の経費計上が方法が不安な方はご相談ください
今回は、個人事業主の方に向けて服を経費にするコツを解説しました。
仕事でしか使えない作業服などは、経費にできる可能性が高いでしょう。一方で、私用にも使い得る服は全額経費にできない場合があります。
私服に近い服は、仕事に使った証拠を残したり、事務所に置きっぱなしにしたりするなどして、経費に計上できるよう工夫しましょう。
服を経費にできれば節税につながりますが、税務調査で否認されるとかえって損をしてしまう可能性もあります。また、高額な衣装は減価償却の手続きが必要なため、慣れていないと計算ミスをし、結果的に追徴課税につながるおそれも。
「この服はどう工夫すれば経費にできる?」「按分の割合はどう決める?」などと迷った場合は、ぜひ税理士にご相談ください。無理なく経費計上できるようサポートいたします。