原則としてすべての納税者が利用できる基礎控除の控除額が、2025年より引き上げられました。
本記事では、2025年度の税制改正による基礎控除の引き上げや上乗せ特例について解説していきます。また、私たちの税負担と深く関係している年収の壁の変化についても併せて紹介します。
目次
2025年度の税制改正の概要
2025年度の税制改正では、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を柱に個人所得課税の見直しや新たな税制度の創設などが行われています。税制改正のおおまかな内容は下記の通りです。
- 個人所得課税の見直し
- 法人課税の見直し
- 国際課税制度の見直し
- 新しい税制度の創設
上記の内容について改正し、物価上昇による税負担や就業調整対策、防衛力を強化するための財源確保、中小企業に対する支援などを行うことが今回の税制改正の主な目的です。
参考:令和7年税制改正|財務省
税制改正による個人所得課税の見直しのポイント
物価の上昇に伴う税負担や就業調整、老後の資産形成といった問題に対処するために、個人所得課税では以下のような点が見直されています。
- 給与所得控除の引き上げ
- 基礎控除額の引き上げ
- 基礎控除の上乗せ特例
- 特定親族特別控除の創設
以下では、それぞれの内容について詳しく解説していきます。
1.給与所得控除の引き上げ
給与所得控除とは、パートアルバイトや会社員などの給与所得者が利用できる控除です。この給与所得控除は、1年間の合計収入から差し引くことが認められています。1年間の合計収入から給与所得控除を差し引いた金額のことを所得と呼び、この所得をもとに所得税などの税金を計算するのです。
これまで給与所得控除額は55万円でしたが、2025年の税制改正により65万円まで引き上げられました。具体的な控除額は以下の通りです。
給与収入額 | 給与所得控除額 |
190万円以下 | 65万円 |
190万円超 360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超 850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
2.基礎控除額の引き上げ
基礎控除は納税者の所得から一定の額を控除できる制度です。日本の税制度には、個人の所得や経済状況に応じて無理なく納税するための所得控除という制度があり、その種類は延べ15種類にも及びます。基本的に控除を利用するには要件を満たさなければなりませんが、基礎控除については、年間の合計所得額が2,500万円以下のすべての人が利用できます。
これまで基礎控除額は48万円でしたが、今回の改正で58万円に引き上げられました。具体的な控除額は以下の通りです。
1年間の合計所得金額 | 基礎控除額 |
2,350万円以下 | 58万円 |
2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
改正前は年間の合計所得金額が2,400万円以下の場合48万円の控除が適用されていましたが、2025年からは新たな区分が設けられ、年間の合計所得金額が2,350万円以下の場合、58万円の控除が適用されます。
3.基礎控除の上乗せ特例の創設
基礎控除は原則として最大58万円になりますが、今回の税制改正により一部の納税者に対して適用する上乗せ特例が創設されました。上乗せ特例の創設の目的は以下の通りです。
- 低所得者層の税負担の軽減
- 物価の上昇に賃金が追い付いていない状況による中所得者層の税負担を軽減
この特例は、年間の合計収入額が200万円以下の低所得者層に対しては恒久的に適用されます。また、年間の合計収入が200〜850万円までの中所得者層に対しては令和7〜8年のみ適用されます。具体的な基礎控除額は以下の通りです。
1年間の合計収入額 | 基礎控除額(上乗せ額) |
200万円以下 | 95万円(+37万円) |
200万円超 475万円以下 | 88万円(+30万円) |
475万円超 665万円以下 | 68万円(+10万円) |
665万円超 850万円以下 | 63万円(+5万円) |
この特例の対象となるのはおよそ4,600万人で、これは納税者の8割強にのぼると言われています。この特例により、多くの納税者の税負担が軽減されることになるでしょう。
参考:基礎控除等の引上げと基礎控除の上乗せ特例の創設|財務省
4.特定親族特別控除の創設
2025年度の税制改正により、19歳以上23歳未満の大学生にあたる年齢の子を持つ親の税負担を抑える目的で、特定親族特別控除という新たな控除が創設されました。
これまで上記の年齢にあたる学生がアルバイトをする際には、親の扶養内である年収103万以下に収まるように就業調整をするケースが一般的でした。年収が103万円を超えてしまうと直ちに扶養から外れてしまい、親の所得に対して扶養控除の適用外となっていました。しかし、このたびの特定親族特別控除の創設により、103万円を超えても段階的な控除が適用されるようになったのです。
これにより、親の税負担を抑えながら家計の収入を増やせるようになったのです。具体的な控除額は以下のように設定されています。
1年間の合計収入額 | 控除額 |
150万円以下 | 63万円 |
150万円超 155万円以下 | 61万円 |
155万円超 160万円以下 | 51万円 |
160万円超 165万円以下 | 41万円 |
165万円超 170万円以下 | 31万円 |
170万円超 175万円以下 | 21万円 |
175万円超 180万円以下 | 11万円 |
180万円超 185万円以下 | 6万円 |
185万超 188万円以下 | 3万円 |
この制度により親の税負担の軽減はもちろん、労働力不足の改善も見込まれています。
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基礎控除の引き上げにより年収の壁が変化した
2025年より基礎控除額が10万円引き上げられ、さらに基礎控除の上乗せ特例が創設されたことで年収の壁が大きく変化しています。以下では、年収の壁の概要やどのような変化が生じたのかについて解説していきます。
年収の壁とは
年収の壁とは住民税や所得税、社会保険への加入の義務、配偶者控除の適用の有無といった税金や社会保険に関する年収のボーダーラインのことを指します。改正前の税金に関する年収の壁は以下の4つです。
- 100万の壁(110万の壁へ)(住民税が発生するボーダーライン)
- 103万の壁(160万の壁へ)(所得税が発生するボーダーライン)
- 150万の壁(160万の壁へ)(配偶者特別控除額が減少するボーダーライン)
- 201万の壁(配偶者特別控除が適用されるボーダーライン)
パートアルバイトで働く人々のなかには、上記の壁を意識して就業調整を行っている場合も多いです。そのため、結果として家計の収入が増えづらい、働き手が不足するといった自体を引き起こしています。
関連記事:所得税の超過累進税率とは?計算方法や税率を具体例付きで解説
基礎控除の引き上げにより103万の壁が160万円へ
2025年度の税制改正では基礎控除額が10万円引き上げられ、さらに上乗せ特例も創設されました。これにより多くのパートアルバイトの方が意識していた、所得税が発生するボーダーラインである103万の壁が最大160万に引き上げられたのです。
そもそも103万の壁の103万とは、給与所得控除の55万円と基礎控除額の48万円を合わせた金額を意味しています。所得税は1年間の合計収入額から給与所得控除額を差し引き、その金額からさらに基礎控除額を差し引いた金額に対して税率を掛けて求めます。
今回の税制改正では給与所得控除は65万円になり、年間の合計収入額が200万円以下の場合は基礎控除額が95万円まで引き上げられました。これにより、これまで103万円だった所得税の壁は最大160万円になったのです。
上乗せ特例が適用されない場合でも、給与所得控除と基礎控除がそれぞれ10万円ずつ引き上げられています。そのため103万の壁は消失して新たに123万の壁へと変化しています。
【まとめ】2025年から基礎控除は最大95万|103万の壁が160万へ
これまで48万円だった基礎控除は、2025年より58万円に引き上げられました。また低所得者や中所得者には、上乗せ特例として最大95万円の基礎控除が適用されます。基礎控除に加え給与所得控除も10万円引き上げられたため、所得税が発生するボーダーラインであった103万の壁が最大160万円に変化したのです。
基礎控除が10万円引き上げられたのは、年間の合計収入額が2,350万円以下に該当する人で、およそ5,600万人が対象となっています。このうち上乗せ特例の対象となるのは4,600万人で、多くの人々の税負担が軽減されることになったのが伺えます。
税金は私たちの暮らしに深く関係しており、今回の改正はまさに私たちの生活に直接影響がある重要な変更点です。基礎控除の引き上げや年収の壁の変更点を確認し、この機会に各家庭で働き方について再検討してはいかがでしょうか。
また、自営業で配偶者をパート社員にしているケースでは、控除額の引き上げによって給与額の見直しが必要になる可能性もあるかと思います。たとえば青色専従者給与と配偶者控除でどちらが納税負担が抑えられるか、改めて確認や調整をしなければならないかもしれません。このような時は一度税理士に相談をしてみるのもよいでしょう。