合併比率とは、企業同士が合併する際に「株をどのように分けるか」を決める要素です。合併比率によっては経営の力関係に影響します。
本記事では、合併比率の基本から実際の決め方・計算方法、気をつけたい税務処理のポイントまでを解説します。
目次
合併比率とは
合併比率とは、企業同士が合併する際に、それぞれの株主へどの割合で株式を割り当てるかを決める「比率」のことです。
会社が合併をする際は、合併される側の株主が持っている株式数に対し、合併後の存続会社や新会社に株式が配分されます。この比率は関係する企業の資産・負債・収益力などを考慮して決定します。
なお、合併には大きく分けて2種類あります。
合併種別 | 内容 |
---|---|
吸収合併 | 一方の会社が存続し、他方が消滅する業態です。消滅会社の株主に対して、存続会社の株式が一定の比率で交付されます。 |
新設合併 | 両社が消滅し、新しく設立された会社が両者の権利義務を継承するもので、消滅する両社の株主に対して、新会社の株式が割り当てられます。両社が消滅し、新しく設立された会社が両者の権利義務を継承するもので、消滅する両社の株主に対して、新会社の株式が割り当てられます。 |
合併比率を決める際は、株主の利益を損なわないよう公正に設定することが大切です。取り決めた内容や算定方法は合併契約書に記載することで法的な効力を持ちます。
合併比率が必要とされる理由
合併比率は合併を進めるうえで欠かせない重要な要素であり、その目的は株主間の公平性を確保することにあります。
異なる法人が合併する場合、各社の資産、負債、将来の収益力には違いがあるため、単純な株式交換では一方の株主に不利益が生じる可能性があります。そのため、合併比率を正しく設定して株主の持つ権利や利益を守るのです。
合併比率は合併契約書に明記され、その内容をもとに合併手続きが進行します。この比率は合併後の株式価値や配当、さらには株式の希薄化にも影響するため、慎重かつ公正な判断が必要になります。
不適切な設定は既存株主の財産価値を損ね、企業間の信頼関係にも悪影響を及ぼしかねません。こうしたリスクを防ぎ円滑な経営統合を実現するためにも、合併比率は各企業の実態を的確に反映した形で算定される必要があります。
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合併比率の決定手順
ここでは、実際に合併比率をどのような流れで決定していくのか、その具体的な手順を3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:企業価値の算定方法
まずは株価、純資産、収益力などをもとに合併対象となる両社の企業価値を評価します。評価にはいくつかの代表的なアプローチがあり、目的や企業の特性に応じて使い分けることが重要です。
ここでは、最も一般的な「インカムアプローチ」と「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」についてご紹介します。合併比率を決定する際は、これらの評価方法の中から事業内容や財務状況、市場環境に応じて最適な計算方法を選択しましょう。
インカムアプローチ
企業の将来の収益やキャッシュフローを基に価値を評価します。代表的な手法としては、ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)があり、特に業績が安定している企業に適しています。
マーケットアプローチ
類似企業の株価や過去の取引事例など市場データを参考に企業価値を見積もります。この方法は市場環境や競合状況を反映しやすいのが特徴です。
コストアプローチ
企業が保有する資産や負債の簿価を基に評価を行います。資産ベースでの価値算定となるため、主に資産重視の企業や収益予測が難しい場合に有効です。
ステップ2:株主構成の確認方法
合併に伴う株主構成の確認は、企業価値の算定結果や合併契約書の内容を元に行われます。
このとき、合併比率に基づいて各株主に割り当てられる株式数を計算し、合併後にどのような持ち分になるかをシミュレーションします。これによって、特定の株主が過度な割合を占めていないか、また株主バランスが崩れていないかを確認します。
特に子会社を含む合併の場合には、親会社や子会社双方の株主構成が適正に調整されているかがポイントとなります。さらに、新旧株主間の価値の公平性を確保するため、合併契約書に記載された合併比率が適正かどうかの検証も不可欠です。
ステップ3:合併比率の最終的な調整
初期段階で試算された合併比率は、合併の進行に伴い再調整されることが一般的です。
事業計画の変更や市場環境の変化、関係者からの意見を踏まえて、比率の再評価が必要になる場合があります。こうした見直しの際には、評価手法の再選定や数値の微調整が行われるほか、比率に端数が出る場合にはその処理方法についても検討します。また、必要に応じて株式の追加交付や金銭の交付といった補完的な手段も検討します。
調整にあたっては、税務・法務上の影響も考慮する必要があります。そのため多くの企業は、第三者の専門機関による評価や意見も取り入れながら、客観性と説明責任を備えた合併比率を決定します。
合併比率の計算方法
ここでは合併比率の基本的な計算方法をはじめ、評価に用いられるアプローチや公平な比率を導き出す際のポイントについて解説します。
合併比率を計算する際は、まずは各法人の1株あたりの評価額を比較するところから始めます。これにより、株主に割り当てるべき株式数の目安が明確になります。評価額は会社の資産や収益力を基に算出します。
1株あたりの評価額を求める際の代表的な計算式は以下の通りです。
<計算式>
合併比率 =消滅会社の1株あたり評価額 ÷ 存続法人の1株あたり評価額 1株あたり評価額 = 企業価値 ÷ 発行済み株式数 |
たとえば、以下の条件における合併比率について計算をしてみましょう。
株式価値 | 発行済み株式数 | |
---|---|---|
消滅会社 | 3,000万円 | 150株 |
存続会社 | 1億円 | 400株 |
<消滅会社の評価額>
1株あたり評価額(消滅会社):3,000万円 ÷ 150株 = 20万円
<存続会社の評価額>
1株あたり評価額(存続会社):1億円 ÷ 400株 = 25万円
合併比率:20万円 ÷ 25万円 = 0.8
この場合、消滅会社の株主は 1株あたり0.8株 の割合で、存続会社の株式を受け取ることになります。仮に消滅会社の株主が50株保有していれば、合併後に 40株(50株 × 0.8) を取得することになります。
なお、この計算例は基本的なものであり、実際の合併では将来の収益性や負債、市場環境などを踏まえて調整が行われます。無対価合併や端数処理といった実務上の対応も必要となる場合があります。
なお、合併比率を算出する際に小数点以下の端数が生じることがあります。これをそのままにすると、割当株数の不確定や手続きの煩雑化につながるため端数の調整も欠かせません。その際は株式の分割・併合や、端数株の金銭交付などで対応することが一般的です。
債務超過時の合併比率計算上の注意点
債務超過の企業が合併に関与する場合、通常の評価方法では合併比率を算出できないこともあります。たとえば、資産より負債が上回る状態では純資産価値がマイナスとなるため、単純に株式の帳簿価額や時価だけで比率を算出すると不公平な配分になりかねません。
このため、債務超過企業の評価では、将来の収益力や事業の再生可能性を考慮する収益還元法や専門機関による再評価が求められます。たとえば事業の将来キャッシュフローを予測し、その現在価値を算定する手法を用います。
また、存続会社株主にとって過度な負担を避けるため、債務超過企業の株主には新株を無対価で付与しないケースもあります。しかし、その場合の税務上は贈与税課税リスクや損金算入の可否など慎重な検討が必要です。会計処理では、合併差損やのれんの計上方法が複雑になるため、適用される会計基準に従い厳密に処理しなければなりません。
さらに、合併比率を決める際は関係者間の合意形成が重要であり、特に株主間の利害調整は綿密な交渉が求められます。金融機関や外部専門家による適正な評価と併せ、事前の法務確認やリスク分析も欠かせません。
債務超過のケースでは、数字だけに頼らず、将来展望や法的側面も多角的に考慮した合併比率の設定が求められます。
参考記事:新事業承継税制とは?制度の概要やメリット・デメリットを解説 | 会社設立の基礎知識
関連記事:【税理士監修】のれんの意味と会計処理の注意点とは?「負ののれん」をわかりやすく解説 | 会社設立の基礎知識
合併比率が影響する税務上の注意点
合併比率は単なる株式交換の比率にとどまらず、存続会社や株主に税務上で大きな影響を与えます。主な税務上の影響は以下の通りです。
資本金の増資が与える影響
合併により存続会社の資本金が1億円を超えると、中小企業に該当しなくなり、年間所得800万円までの軽減税率の適用がなくなり、中小企業向けの優遇措置が受けられなくなる可能性があります。合併比率の設定は資本金の額に影響を与えるため、慎重に設定が求められます。
また、増資は登録免許税にも影響を与えます。吸収合併の場合、存続会社の資本金増加額に対して0.15%の登録免許税が課されます。この資本金増加額は合併比率によって変動するため、比率が税負担に直結します。また新設合併の場合、新設会社の資本金全体に対して0.15%が課され、吸収合併よりも登録免許税の負担が大きくなる傾向があるため、その点も注意が必要です。
資産や負債、繰越欠損金の引継ぎによる影響
適格合併の場合、消滅会社の資産・負債を帳簿価額(簿価)で引き継ぐことができます。しかし非適格合併の場合、消滅会社に含み益があると、その含み分も法人税の課税対象となります。引き継ぐ資産の取得価額が高くなる一方、一時的に多額の課税が発生する可能性があります。また、非適格合併は消滅会社の繰越欠損金は引き継ぐことができない点も注意が必要です。
みなし寄附金とみなされるリスク
仮に合併比率が不公正で合併対価が適正でないと判断されると、経済的利益の移転があったとして、みなし寄附金として認定される可能性があります。これにより、存続会社側には受贈益が、消滅会社には寄附金が認定され、それぞれ法人税の課税対象となることがあります。
株主の税負担への影響
先述もしましたが、適格合併と非適格合併のこの違いが株主の税務上の取り扱いにも影響を与えます。
適格合併と認められれば、原則として、資産の簿価引継ぎや繰越欠損金の引継ぎが認められ、法人税や株主の譲渡所得課税などが繰り延べられる(または非課税となる)といった税制上の優遇措置が適用されます。
仮に非適格合併だった場合、資産の時価評価による課税や株主への課税が発生して税負担が大きくなります。特に合併後の株価が消滅会社の頃より上回る場合、譲渡所得として課税されたり、資本金等の額を超過する部分がみなし配当として課税される可能性があります。その時、合併比率がこれらの課税額に直接影響を与えます。
合併比率に関するまとめ
合併比率は、企業合併における株主の公平性や利益を守るための重要な指標です。企業価値の算定から最終的な調整まで多角的に考慮する必要があり、株主間の不利益を防止する役割も担います。
計算時には株価や1株あたり評価額の比較、端数調整など細かな確認も不可欠で、債務超過の場合など複雑なケースも存在します。さらに、合併比率の設定は税務や適格合併の可否にも影響するため慎重な対応が求められます。
合併に伴う様々なリスクや手続きを円滑に進めるには、税理士などの専門家に早めに相談し適切なサポートを受けることをおすすめします。