個人事業主が共同経営を選ぶことで、事業の規模拡大やリスク分散といった大きなメリットが得られますが、その一方で税金の取り扱いや経費の配分、申告方法など、複雑で注意が必要なポイントも多く存在します。本記事では、共同経営の基本的な仕組みから税務上の扱い、注意点、よくあるトラブル事例まで解説します。共同経営を安心して進めたい個人事業主の方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
そもそも「共同経営」とは?
共同経営とは、複数の人が協力して1つの事業を共同で運営する形態を指します。単独では難しい資金調達や事業の拡大、専門性の強化などを実現できるため、幅広い事業者にとって魅力的な選択肢となります。
規模の拡大、ノウハウの共有、リスク分散など、単独経営では得られない多くのメリットがある一方、税金面や経営面でのルールが曖昧なままだと、トラブルや想定外の負担を招く恐れがあります。
円滑な共同経営を実現するためにも、利益や損失の配分、業務分担、解散時の取り決めなどを契約書で明確に定めておきましょう。
個人事業主が共同経営を行う際の税務上の扱い
個人事業主が共同経営を行う場合、法人のように全体でまとめて申告するのではなく、各自が自分の取り分に応じて利益や経費を計算し、それぞれが個別に確定申告を行う必要があります。
また、事業形態によっては「組合」とみなされ、税務処理や申告方法が異なる場合がある点にも注意しましょう。
さらに、青色申告の適用可否や消費税の課税事業者に該当するかどうかの判断も、共同ではなく各事業主単位で行われます。
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共同経営で発生する税金の種類
前述したように、共同経営を行う場合、各自が独立して税務申告を行い、それぞれが負担すべき税金を適切に処理する必要があります。
どのような税金が関わるか、その計算方法、申告方法は状況によって異なるため、正しい知識と準備が欠かせません。共同経営に伴う税金全般の基本的な考え方と注意点について解説します。
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所得税
各事業主は、自身の取り分に応じた利益に対して所得税を納めます。共同経営でも一括ではなく、個人単位で課税されるのが特徴です。
所得税は総合課税方式が適用され、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税です。所得の種類や控除内容によって実際の税額が異なるため、正確に利益を計算しましょう。
消費税
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、各事業主ごとに消費税の申告義務が発生します。共同経営でも全体ではなく、個人単位で課税事業者かどうかを判定する必要があります。
一般的には売上が基準額以下であれば免税事業者となりますが、基準額を超えると消費税の納付が必要なので注意しましょう。
住民税
前年の所得を基に各事業主が個別に課される税金です。共同経営においても、配分された所得額によって住民税額が変わります。
課税額は居住する自治体の税率により決まり、均等割と所得割で構成されています。納税は翌年の夏以降に行われ、支払方法や回数も自治体ごとに異なるので注意してください。
個人事業税
個人事業税は、年間の事業所得が290万円を超える場合に課税されます。共同経営でも全体ではなく各事業主ごとに課税されるので注意してください。
税率は業種によって異なり、例えばサービス業は5%などと設定されています。課税対象は事業所得から必要経費や専従者控除を差し引いた後の金額です。
納税通知は毎年8月頃に自治体から送付され、通常は年2回に分けて支払います。所得規模や業種によって税額が大きく変わるため注意しましょう。
共同経営で税務署に提出すべき届出や書類
共同経営を始める個人事業主は、事業開始時や運営中に複数の届出書類を税務署に提出する必要があります。適正な税務処理や青色申告の活用、消費税の正確な申告を行うためにも、以下の書類を忘れずに確認しておきましょう。
個人事業の開業届出書
共同経営を開始する際は、各事業主が必ず「個人事業の開業届出書」を提出しなければなりません。これは、税務署に事業を開始したことを正式に届け出る重要な書類であり、申告義務の基礎となるものです。
共同経営でも「代表者がまとめて出せばよい」と誤解されがちですが、実際には全員が個別に提出する必要があります。
これを怠ると青色申告ができなくなるなど大きな不利益を被る可能性があるため、必ず期限内に提出しましょう。
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所得税の青色申告承認申請書
青色申告を利用するには、事業開始から2カ月以内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
青色申告は、節税効果の高い控除や赤字の繰越が認められる大きなメリットがあります。共同経営においても、各事業主単位での提出が必要であり、これを提出しないと白色申告となり控除の恩恵を受けられません。
正確な帳簿作成や事前準備が必要になるため、早めに提出しましょう。
関連記事:【個人事業主】青色申告の必要書類とは?注意点も解説
消費税課税事業者選択届出書
課税売上高が1,000万円以下でも、自ら課税事業者を選択したい場合は「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。
これにより、仕入税額控除が使えるようになり、仕入れコストの負担軽減が期待できます。ただし、提出後は一定期間免税事業者に戻れないため、共同経営においては慎重に検討しましょう。
消費税の納税義務やキャッシュフローに直結するため、税理士など専門家のアドバイスを得て判断するのが望ましいです。
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所得税の予定納税額の減額申請書
所得が大幅に減少する見込みがある場合、「所得税の予定納税額の減額申請書」を提出すると納税額を減額できます。
予定納税は前年の所得を基に計算されるため、事業環境が変わった共同経営では、実際の所得との差額が大きくなるリスクがあります。
この申請を行わずに多額の予定納税をすると、資金繰りが圧迫される恐れがあるため、正確な見込みを立てたうえで、必要であれば早めに申請するようにしましょう。
関連記事:予定納税における減額申請書の書き方は?申請書の提出時期や対象条件について解説
個人事業主の共同経営でよくある税務トラブル
個人事業主が共同経営を行う際は、利益や経費の配分、申告内容の違いなどから税務トラブルが発生しやすいのが実情です。
これらの問題は信頼関係の悪化や税務署からの指摘を招き、事業に大きな影響を及ぼす恐れがあります。特に注意すべき代表的な税務トラブルを紹介します。
配分ルールの不一致
利益や負担の配分ルールが曖昧なまま共同経営を始めた結果、想定外の金額を請求されたり、過度な負担を求められてトラブルに発展する事例があります。
貢献度や出資額に対する認識のズレが原因となり、信頼関係が崩れるケースが多く見られます。
経費負担の不公平
経費の負担割合が不明確だったため、一方が過剰に負担を強いられて不満が蓄積し、関係が悪化する事例があります。
特に事業に直接必要かどうかの判断基準が統一されていない場合、対立が深刻化しやすいです。
申告内容の齟齬
収益や経費の申告内容に差異が生じ、税務署から調査や指摘を受ける事例があります。同じ取引でも事業主間で金額が食い違うことで、追徴課税が発生したり、後の修正申告に追われることになります。
消費税負担の不明確さ
按分比率により、消費税の課税事業者と非課税業者に区分される恐れがあります。課税事業者に該当すると、予期せぬ高額な納税を求められて資金繰りが悪化する事例があります。申告方法の違いが原因で誤った処理を行い、追徴課税を課されるケースも見られます。
解散時の資産分配問題
解散時に資産や負債の分配方法が決まっていなかったため、現金や設備の取り扱いをめぐって激しく対立する事例があります。これがきっかけで関係が完全に決裂し、長期的なトラブルへ発展するケースもあります。
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個人事業主の共同経営における税金面の注意点5つ
個人事業主が共同経営を行う際には、税金面で特有のリスクや注意点が多く存在します。
利益や経費の配分ルール、経費処理の統一、消費税の課税事業者判定など、取り決めが曖昧なままだと後々大きなトラブルや思わぬ税負担を招く可能性があります。特に注意しておきたい以下5つのポイントを紹介します。
- 配分ルールを明確にする必要がある
- 個別に確定申告が必要
- 消費税課税事業者判定の確認
- 経費処理の一貫性
- 将来の解消・解散時の税務リスク
配分ルールを明確にする必要がある
利益や損失の配分ルールを明確に決めておきましょう。配分を文書化し明記することで、後々のトラブルを防げます。
ルールが曖昧だと、「誰がどれだけ負担するのか」、「利益は誰のものか」といった争いが起き、信頼関係が崩壊する恐れがあります。
これらは税務上の所得計算や経費按分にも大きく影響するため、契約書などで明確にしておくことが安全な共同経営の基本です。
個別に確定申告が必要
共同経営でも、各事業主がそれぞれ確定申告を行う必要があります。共同でまとめて申告できるわけではなく、所得や経費の配分に基づいて個別に申告する義務が生じるので注意しましょう。
これを理解せずに申告すると、税務署から指摘を受けるだけでなく、過少申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
申告内容の整合性を保つため、共同経営者間で事前に数字を共有し、正確な資料を準備しておきましょう。
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消費税課税事業者判定の確認
共同経営を始める前に、消費税の課税事業者に該当するかどうかを確認しておきましょう。消費税の課税事業者かどうかは全体の売上ではなく、各事業主の年間課税売上高に基づいて判定されます。
この仕組みを誤解すると、一部の事業主が課税事業者としての申告義務を怠り、多額の追徴課税を受けるリスクがあるでしょう。
課税事業者選択の有無や負担ルールを明確にしておけば、後のトラブルを避けられます。
経費処理の一貫性
経費処理は、共通のルールを定めて統一しましょう。経費の按分や必要性の判断に差が出ると、不公平感が生まれたり、申告内容に齟齬が発生する原因になります。
このズレは税務署からの指摘や追加課税に繋がる恐れがあり、共同経営全体の信頼関係に悪影響を及ぼします。事前に詳細な経費ルールを決め、全員が同じ基準で処理するようにしましょう。
将来の解消・解散時の税務リスク
共同経営の解消・解散時の税務リスクに備えて、ルールを決めておきましょう。
解散時には資産売却益が発生したり、債務整理で思わぬ税負担が生じる可能性があります。取り決めがないと、利益や資産を巡る争いが税務問題に発展し、深刻な対立を引き起こすケースがあります。
あらかじめ清算方法や資産分配のルールを契約書で明確にしておき、将来のリスクを回避しましょう。
共同経営に関するよくある質問
共同経営はメリットが多い一方で、税務や手続きに関して疑問を持つ個人事業主が多くいます。以下で、共同経営を検討する際によく寄せられる質問をご紹介します。
共同経営でも青色申告はできますか?
共同経営でも各事業主が条件を満たせば青色申告は可能です。ただし、共同でまとめて申請するのではなく、それぞれが個別に「青色申告承認申請書」を提出し、帳簿を正確に作成する必要がある点に注意しましょう。
青色申告は特別控除や赤字の繰越など多くのメリットがあるため、共同経営においても積極的に活用すべき制度です。
経費の按分方法はどうやって決めるのでしょう?
経費の按分方法は事前に割合を取り決め、契約書に明記するのが望ましいです。
これを決めずに進めると、後で「誰がどの経費を負担するか」で揉める原因になるでしょう。割合を明確にしておけば、トラブルを回避し、税務申告でも一貫性を保てます。
組合との違いは何でしょう?
共同経営は各事業主が独立した個人事業者であるのに対し、共同組合は法人格に近い扱いを受けます。
共同経営では各自が独立して税務申告を行い、利益配分も個別に管理しますが、組合は収益や費用をまとめて処理し、別の課税ルールが適用されるため、税務上の負担や手続きが異なります。
事前にこれらの違いを理解して選択しましょう。
共同経営の税金でお悩みの個人事業主の方は専門家に相談
共同経営は、個人事業主にとって事業拡大やリスク分散といった大きなメリットがありますが、その一方で税金の取り扱いや経費配分、申告方法など複雑な課題が伴います。
誤った処理をすると後から修正できず、大きなトラブルに繋がる場合もあるでしょう。そうしたリスクを防ぐためにも、早めに専門家への相談をおすすめします。
小谷野税理士法人では、個人事業主の共同経営に関する税務相談や申告サポート、契約面のアドバイスまで幅広く対応しています。共同経営でお悩みの個人事業主の方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。