低額譲渡は一見すると税務上の問題がないように見えますが、譲渡価格が時価の2分の1未満の場合は「みなし贈与」や「みなし譲渡」として課税対象になる可能性があります。特に自社株や不動産など高額資産を親族間や法人間で移転する際は、価格設定に慎重な判断が求められます。本記事では低額譲渡と判断される目安や、みなし贈与とされる代表的なケース、さらに譲渡価格を高めるための実践的な方法までを解説します。
目次
低額譲渡の判断基準となる目安
低額譲渡かどうかは「時価の2分の1未満」を基準にするのが一般的です。土地や建物を売却した場合、原則として実際の売却金額をもとに譲渡所得を計算します。
しかし売却先が法人で、かつ売却金額が時価の2分の1未満である場合は、例外的に「時価」が収入金額として扱われます。
例えば同族会社の代表者が自社に時価1億円の土地を4,000万円で売却した場合、売却金額は4,000万円ではなくなります。この場合、譲渡所得の収入金額は1億円として計算するのが通例です。
みなし贈与と判断される可能性のある財産
一見すると贈与に見えない財産の移転でも、税務上「みなし贈与」と判断されるケースがあります。該当すれば贈与税の対象となるため、事前に把握しておくことが大切です。代表的な3つの例と対策を見ていきましょう。
保険料を負担していない生命保険金
被保険者が死亡し、保険料を支払っていない人が保険金を受け取る場合、それはみなし贈与とされる可能性があります。例えば、親が保険料を負担して、子どもを契約者・受取人にしている場合などです。
このようなケースでは、子どもが実際に保険料を支払ったと証明できれば贈与とはされません。親から保険料を受け取っている場合は、その贈与の証拠(通帳の履歴など)を残しておくことが重要です。
また親が控除を受けると、保険料は親の支出とされ、贈与の扱いにならなくなる可能性があるため、控除も子ども側で行いましょう。
掛け金を払っていない個人年金
個人年金でも保険と同様、掛け金を支払っていない人が年金を受け取ると、みなし贈与とされることがあります。例えば、親が掛け金を支払い、死亡後に子が受給権を得た場合、年金が相続財産とみなされ、相続税の対象となる可能性があります。
相続対策で子どもを受取人にする場合は、掛け金の贈与についても記録を残しておきましょう。
債務免除・債務引き受け
他人の債務を免除したり、引き受けたりした場合も、みなし贈与と判断されることがあります。例えば親が経営する会社の借金が死亡を機に免除された場合、その分の資産が増えたとされ、子どもに贈与税が課されることがあります。
ただし、会社の資産が債務超過(マイナス)であれば課税されません。また返済が困難な場合に、子どもなど扶養義務者が債務を引き受けた場合も、一定の条件下では贈与税がかからないケースがあります。
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自社株の低額譲渡が危険な理由
自社株を時価よりも大幅に安く譲渡することは、結果的に売り手・買い手ともに大きな税負担を招く可能性があります。税務上「著しく低い価額での譲渡」は、実質的に贈与やみなし譲渡とみなされ、通常の取引よりも厳しい課税が行われるためです。
例えば売り手側には本来の売却益以上の金額に対して所得税が課されることがあります。さらに買い手側にも時価と実際の購入額との差額分について贈与税や法人税が課税され、知らずに申告漏れが発生すれば、延滞税や加算税などのペナルティを受ける可能性もあります。
また自社株を低額で譲渡した場合、売り手・買い手ともに、通常の数倍にのぼる税金を負担するリスクがあります。
その根拠は、低額譲渡が「時価ベース」で課税対象とされる点にあります。見かけの売買価格ではなく、時価に基づいて税金が計算されるため、思いがけない金額の納税義務が発生することもあるのです。
このように低額譲渡は一見お得に見えても、結果的には高額な納税負担につながるおそれがあるため、慎重な判断が重要です。
あえて低額譲渡を行うケース
株式の分散を解消するため、経営者と少数株主の利害が一致した場合に、あえて低額譲渡が行われることがあります。株式が複数人に分散している状態は経営の円滑さや事業承継に支障をきたし、少数株主にとっても保有のメリットが乏しいためです。
分散株式のある企業では、経営者が株式を買い集める際に、譲渡益が出れば少額でも売却を希望する少数株主と利害が一致するケースがあります。経営者側は、少数株主権の行使を回避し、議決権の集中や事業承継税制の適用を可能にできます。一方の少数株主は、配当がなく換金性も低い株式を処分でき、相続税リスクも軽減できます。
このように、経営者と少数株主の双方にとって利益となる状況下で、あえて時価よりも低額での株式譲渡が行われることがあるのです。
低額譲渡の成功事例
低額譲渡は適切に行えば、税務リスクを抑えながら円滑な資産移転が可能です。以下に代表的な成功例を紹介します。
グループ内再編に伴う低額譲渡
大手企業グループでは資産運用の効率化を目的に、グループ内での低額譲渡を実施しました。その際には事前に時価を正確に評価し、取引の目的を文書で明示するなどの対応を取りました。
さらに税務署への事前相談を行うことで、トラブルなくスムーズな再編が実現したのです。
事業承継における低額譲渡
親会社が子会社に資産を低額で譲渡した事例もあります。この場合は正確な時価評価と透明な取引内容に加え、明確な事業承継計画を立てていたことがポイントです。税務当局の理解も得られ、スムーズに事業承継を完了できました。
譲渡の価格を高めるためのコツ
株式譲渡の価格を引き上げるには、効果的な方法がいくつかあります。ここでは代表的な3つのポイントを順に解説します。
自社の価値を高く評価してくれる相手に譲渡する
企業価値は買い手の主観に左右されるため、自社をより高く評価してくれる相手先に株式を売ることが重要です。自社を低く見積もる相手よりも、高い価値を認める買い手に譲渡したほうが、結果的に高値で売れる可能性が高まります。
正確かつ具体的な情報を買い手に提供する
株式譲渡の価格は買い手の判断で決まるため、買い手に対して正確で詳細な情報を提供するのが大切です。情報が豊富だと買い手は自信を持って高い価格を提示しやすく、情報が不足していると慎重になり価格が下がる傾向にあります。
将来性や買い手とのシナジー効果、現在の課題と解決策、企業の独自価値などは、秘密保持に配慮したうえで積極的に開示することが望ましいです。こういった対応によって買い手にとっての魅力が伝わりやすくなり、交渉も円滑に進みやすくなります。
入札方式で複数の買い手を競わせる
複数の買い手に入札させることで、買い手同士に競争意識を持たせられます。買い手はできるだけ安く買いたいと思うため、1対1の交渉では価格を抑えようとする駆け引きが発生しがちです。
しかし、競合の存在を意識させて「全力で価格を提示しなければ獲得できない」と思わせることが重要です。そうすることで買い手による値引き交渉を防ぎ、高い価格を引き出せる可能性が高まります。
関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットについて
低額譲渡に関する注意点
低額譲渡には税務上のリスクが伴い、税務当局から「過度な節税」とみなされ、追徴課税を受ける可能性があります。こうしたリスクを避けるためには、取引価格の設定に合理的な根拠があることを示さなくてはいけません。
不動産であれば、鑑定評価書の取得や類似取引の事例の収集などの対策を講じ、客観的な資料を準備しておくことが重要です。価格の妥当性を証明できるかどうかが、税務調査での大きなポイントになります。
関連記事:譲渡所得がいくらから確定申告する?必要書類や書き方も解説
低額譲渡に関するよくある質問
最後に低額譲渡に関するよくある質問についてまとめたので、こちらもぜひ参考にしてください。
値引き販売とはどう違う?
値引き販売とは、商品を元の定価よりも安く販売することを指します。例えば賞味期限が近い食品や、季節の変わり目に需要が落ちた商品などで、在庫処分として行われることが一般的です。
このような値引きは、売れ残りを避けるために需要に見合った価格まで引き下げたものとみなされます。
そして値引き後の価格がその時点での市場価格時価と考えるのが一般的です。
したがって通常の値引き販売は時価での取引であるため、低額譲渡のような税務上の問題は原則として発生しません。
配偶者の低額譲渡は課税対象?
相続税法では、時価より著しく低い価格で財産を譲渡した場合、その差額は「みなし贈与」として贈与税の課税対象になります。これは原則として配偶者間であっても同様です。
ただし、夫婦間で居住用不動産を譲渡する場合には「配偶者控除の特例」が適用され、贈与税の負担を大幅に抑えられます。
この特例を使うためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること
- 贈与財産が居住用の不動産またはその購入資金であること
- 贈与を受けた人が翌年3月15日までにその不動産に実際に住んでおり、今後も住み続ける見込みがあること
配偶者間の低額譲渡であっても、要件を満たさなければ贈与税が発生します。特例を活用する際には、条件を確認し、贈与税の申告を適切に行うことが重要です。
まとめ
低額譲渡は時価より著しく安い価格で資産を譲渡した場合にみなし贈与として扱われ、想定以上の課税を受けるリスクがあります。特に税務当局の目が厳しく、申告漏れによる追徴課税や重加算税の対象となる可能性もあるため注意が必要です。
譲渡価格を高めるには、信頼できる買い手選びや具体的な情報の提供、入札方式の活用などが有効です。さらに低額譲渡を適切に進めるためには、税務リスクを正しく把握し、時価の根拠となる資料の準備や専門家のサポートが欠かせません。
判断に迷う場合は、早めに税理士へ相談し、トラブル回避と円滑な資産移転を図りましょう。低額譲渡の対応に不安がある方は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。