上場株式の株式投資で損失が出た場合でも、確定申告を行うことで他の所得と損益通算したり、損失を翌年以降に繰り越して節税することが可能です。しかし、そのためには申告書類の準備や正確な記入が必要で、仕組みを理解していないと手間取ってしまうこともあります。そこで本記事では、上場株で損失が出た場合の確定申告の具体的なやり方を4つのステップでわかりやすく解説します。
目次
株で損失した場合の確定申告のやり方
確定申告のやり方は以下の4ステップで進めていきます。
ステップ①確定申告書第一表・第二表の準備 | 所得や控除の情報を記載する基本的な書類です。特に第二表には、株式の譲渡損失の内訳を記入します。 |
ステップ②株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書の作成 | 株式売却による損益を詳細に記入し、取得費や売却費用を明確にします。 これにより、損失がどのように発生したかを税務署に説明できます。 |
ステップ③申告書第三表(分離課税用)の記入 | 株式譲渡所得は分離課税の対象となるため、この書類で分離課税に関する所得計算を行います。 譲渡損失がある場合は、ここに記入し、他の所得と損益通算が可能です。 |
ステップ④確定申告書付表の活用 | 損益通算や損失の繰越控除を行う際に使用します。 上場株式等の譲渡損失を他の所得と通算したり、翌年以降に繰り越して控除するための重要な書類です。 |
株式取引で損失が出た場合の確定申告には、いくつかの重要な書類の準備と正確な記入が必要です。まず、確定申告書の第一表と第二表で基本的な所得や控除の情報を記載します。
次に「譲渡所得等の金額の計算明細書」で損益の詳細を明らかにします。さらに、分離課税に対応する申告書第三表で所得計算を行い、損失がある場合は他の所得との通算が可能です。
加えて、損益通算や損失繰越控除を活用するために付表の作成も必要となります。これらの書類を正しく準備・記入することで、損失を適切に申告し、税金の負担軽減につなげられるでしょう。
関連記事:株の損失は確定申告でお得?節税のための損益通算・繰越控除について
株式投資で得られる利益と課税の種類
株式投資によって得られる利益は主に次の2種類に分けられます。
- キャピタルゲイン(売却益):株式を売却して得る利益
- インカムゲイン(配当益):株式を保有している間に受け取る配当金
以下では、それぞれの利益が出た場合や損失が出た場合の課税について解説します。
株式を売却して利益が出た場合(キャピタルゲイン)
株式を売って利益が出た場合、その利益は「キャピタルゲイン」として課税対象になります。課される税率は以下のとおりです。
税目 | 税率 |
所得税および復興特別所得税 | 15.315% |
住民税 | 5% |
合計 | 20.315% |
このようにキャピタルゲインは合計20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)の税率で課税されます。利益が出た場合は、この税率に基づいて納税が必要です。
株式を売却して損失が出た場合(譲渡損)
株式の売却で損失が出た場合、その取引自体に税金はかかりません。ただし、損益通算や繰越控除といった制度を活用することで、配当所得などに対する税金の負担を軽減できる可能性があります。
配当を受け取った場合(インカムゲイン)
株式の保有により受け取る配当金は、「インカムゲイン」として扱われます。配当金には源泉徴収が行われ、課税方法と税率は株式の種類によって異なります。
区分 | 所得税および復興特別所得税 | 住民税 | 合計税率 |
上場株式等 | 15.315% | 5% | 20.315% |
一般株式等 | 20.42% | – | 20.42% |
インカムゲインは源泉徴収の対象となり、上場株式等では合計20.315%、一般株式等では20.42%の税率で課税されます。株式の種類によって税率が異なる点に注意が必要です。
株における配当所得を申告・納税する方法
配当所得を申告・納税するための方法について解説します。
課税方法 | 概要・特徴 | 税率 | 確定申告 | 備考 |
確定申告不要制度 | 金融機関が源泉徴収(20.315%)で納税完了。原則すべての上場株配当に適用される | 20.315%(所得税+住民税) | 不要 | 手間なし・節税には非対応 |
申告分離課税 | 他の所得と切り離し、配当と株式譲渡損益で損益通算・繰越控除が可能 | 20.315%(同上) | 必要 | 節税効果あり。保険料計算に影響あり |
総合課税 | 配当を他の所得と合算し税額計算。配当控除の適用が可能 | 所得税5〜45%+住民税10% | 必要 | 所得増で保険料・税額が増える可能性あり |
配当所得の課税方法には、「確定申告不要制度」「申告分離課税」「総合課税」の3つがあります。それぞれ納税方法や税率、確定申告の要否が異なり、節税効果や保険料への影響も変わります。
確定申告不要制度は手間がかからず簡便ですが、節税効果は限定的です。一方で申告分離課税では損益通算が可能で節税に有利ですが、確定申告が必要です。総合課税は配当控除の適用がある一方で、所得の増加により税額や保険料負担が大きくなる可能性があります。
ご自身の収入状況や目的に応じて、最適な課税方法を選択しましょう。
関連記事:特別損失とは?該当する損失や計上するメリットについて解説
株式投資の確定申告を早く終わらせる方法
面倒な株式投資の確定申告をなるべく早く終わらせるためのコツを紹介します。
必要書類を事前に揃えておく
株式投資の確定申告では、取引報告書、年間取引報告書、源泉徴収票(給与所得者)、本人確認書類など複数の書類が必要です。申告時期になってから準備を始めると、書類の取り寄せや不備の確認で時間がかかることもあります。
早めに証券会社のマイページから必要書類をダウンロードしたり、取引履歴を整理したりすることで、スムーズに作業を進められます。あらかじめ必要なものをチェックリスト化しておくのもおすすめです。
e-Taxを活用する
国税庁の提供する電子申告システム「e-Tax」を利用すれば、紙の書類を郵送したり税務署に提出する必要がなく、申告の手間を大幅に省けます。
マイナンバーカードとICカードリーダー、またはスマートフォンを使って本人確認ができます。そのため、オンライン上ですべての申告手続きを完了させられます。
提出の待ち時間もなく、申告内容に誤りがあればその場で修正もできます。時間をかけず正確に申告を終わらせたい方には特におすすめです。
確定申告ソフトを活用する
確定申告に対応した会計ソフトやクラウド型の申告サービスを使えば、複雑な税計算も自動化されて入力ミスのリスクを軽減できます。証券会社の年間取引報告書を取り込める機能がついているソフトもあり、株式の損益計算が簡単に行えるのがメリットです。
無料で使えるものもありますが、有料ソフトのほうが機能が充実しており、税金対策も含めてサポートしてくれるものもあります。
確定申告会場で相談する
「国税庁の作成コーナーを見ても分からない」という方は、必要書類一式を持って、最寄りの確定申告会場を訪れてみましょう。会場では、申告に関する相談窓口が設けられており、職員に質問しながらその場で申告書を作成できます。
疑問点をすぐに解決できるだけでなく、実際の作業を体験することで、翌年以降の申告の手順も把握しやすくなります。初めての人には特に心強いサポートとなるでしょう。
税理士に相談する
株式取引の損益通算や繰越控除、複数口座の損益集計などが複雑な場合は、税理士に依頼することで確実かつ迅速に申告を進められます。特に、投資額が大きい人や、他の所得との兼ね合いで最適な課税方法を選びたい人にとっては大きな助けになるでしょう。
依頼費用はかかりますが、還付を受けられる金額や節税効果によっては、十分元が取れる場合もあります。
よくある質問
最後に株での損失や確定申告におけるよくある質問をまとめたので、こちらも合わせて確認しておきましょう。
NISAは確定申告がいらない?
NISA口座で得た利益は非課税のため確定申告は不要です。通常の口座では1万円の利益に約2,031円の税金がかかりますが、NISAなら全額が手元に残ります。
ただし、一般NISAの年間投資枠は360万円までで、一度使った枠は売却すると復活します。
損失が出た場合、NISAでは他の利益と損益通算ができません。そのため、売買目的の株は課税口座、配当目的の株はNISA口座と使い分けるのが効果的と言えます。
FXと通算できる?
株取引とFXの損益は通算できません。その理由は、それぞれ異なる所得区分に分類されているためです。
一方で、株の譲渡損失は配当所得や特定公社債の売買・償還による損益や利子と通算することが可能です。
FXの損益は「先物取引にかかる雑所得」に該当します。そしてCFD、バイナリーオプション、商品先物、日経平均先物、TOPIX先物などの損益とまとめて計算できます。
配当金の確定申告は必要?
上場株式の配当や投資信託の分配金を受け取った場合、税金はあらかじめ源泉徴収されますが、配当所得の申告は3つの方法から選べます。
まず、源泉徴収のみで確定申告不要の方法があります。次に、申告分離課税を選択して確定申告を行い、同年や過去3年以内の売却損と損益通算をして、源泉徴収された税金の還付を受ける方法です。
そして総合課税を選ぶと他の所得と合算して税率が決まり、配当控除が受けられる方法もあります。
申告する場合は、配当所得全体についていずれかの課税方法を選択しなければなりません。
参考:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
関連記事:NISAはなぜ損益通算も繰越控除もできないの?わかりやすく解説
まとめ
株式投資で損失が出ても確定申告をすれば他の所得と損益通算したり、損失を最大3年間繰り越して将来の節税につなげられます。確定申告は難しそうに思えますが、必要な書類や書式を理解し、早めに準備すればスムーズに対応できます。
e-Taxや申告ソフトの活用、専門家への相談も検討しながら、できるだけ負担を減らして申告を済ませましょう。申告を通じて税金を取り戻せる可能性もあるため、損失が出た年ほど積極的な対応が大切です。
不明点があれば、税理士法人などの専門家に相談するのもひとつの手段です。「株で損失を出してどう申告すればいいか分からない」という方は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。